22 お嫁にいけない体に
ヤバい。助けなくちゃ。
でも俺がどうやって?
そうだ――
すうっと息を吸い込む。
「お巡りさーん。助けてくださーい。女の子が襲われてまーす」
最大限のボリュームで絶叫した。
男たちがハッとして、俺の方を見る。
「警察!?」
「マジで!?」
良かった。カス高生でも警察を気にするんだ。
「こっちです。早く早く」
俺は腕を振り回す。
警官は本当はいない。だが全力でいるふりをする。
俺がカス高生に無双できたら、かっこいい。でも全然無理。
「くそっ」
「今度パクられたらムショ行きだっつーの」
男達が口々に罵りながら、出入口である俺のいる方に走って来る。
「こっちこっち」
俺は手招きの動作をし続けている。
「どけっ」
「おらっ」
「てめームカつくんだよ」
男たちは俺の横を走り抜けざま、俺の右頬と腹に拳を叩き込む。加えて、ローキックも。
ぐはっ――
痛って――
俺は地面に昏倒した。
ちょっとの間、意識を失っていた気がした。
ほっぺをツンツンされる。
「あのー大丈夫ですか?」
耳元で女の子の声。
跳ね起きた。
「奴らは!?」
周囲を見回す。
他に人影はない。
「逃げて行きましたよ」
「よかったー」
俺はホッとしてへたり込む。
「ありがとうございます、助けていただいて。お嫁にいけない体にされるところでした」
女の子は土の付いたセーラー服をパタパタする。
「そうね……」
それどころか、カス高生に凌辱されているところを動画に撮られて、性奴隷にされていたよ。わかってんのかね。
「道場だと投げ飛ばせるんですが……なぜか上手くいきませんでした」
女の子は首を傾げる。
「実戦は違うだろ」
練習だと相手が投げられてやってるんだよ、きっと。この子は頭のネジが外れてるんじゃ、と心配になる。
「御礼はどうすればいいですか?」
女の子が真顔で尋ねてくる。
「いや、いいから。早く立ち去ろうぜ。奴らが戻ってくるかもしれないよ」
俺は周囲をきょろきょろして警戒を怠らない。
「あ、そうですね」
女の子が思い出したかのように言う。
「君の家はどっちなの?」
「あっちです」
女の子は駅と反対方向を指し示す。
児童養護施設とほぼ同じ方向だ。
「家まで送るよ。でも俺じゃあ、奴らを防げない。また奴らと遭遇したら、なんとか時間を稼ぐから、君は逃げてくれ」
「あ、はい」
俺は女の子と並んで歩き出す。
蹴られた右足の脛が痛い。
頼むからカス高生と遭遇しませんように、と祈っている。
「本当に御礼はいいんですか? 体で払えって言うものなんじゃ?」
「人聞きの悪いことを言わないでよ」
さっきから「お嫁に行けない体」とか微妙な言葉をさらりと口にする、ちょっと変わった子だ。
「先輩、ですよね? イマイチ高の」
女の子が話しかけて来る。
「2年生だよ」
「自分は1年です」
「だろうね。カス高の怖さを知らないんだから。あれ、でも駅裏に住んでたら、カス高の近くじゃん?」
カス高周辺は暴力が支配する世紀末な世界ってのを当然知っているものじゃないかと不思議。
「自分は4月に引っ越してきたばかりなので」
「そうなんだ」
「先輩、これは自作自演じゃないですよね?」
「……」
俺は女の子の言っていることの意味がわからなかった。
「不良に自分を襲わせているところを先輩が助けて、フラグを立てようとしたんじゃないですか?」
女の子がニヤリとする。
「ち、が、う、わ」
「偶然にしてはできすぎ」
女の子は警戒の目になる。




