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23 つらい時、慰めてくれるのがお嫁様の仕事

 ◆◇◆


 平日の夜。

 お風呂から上がって水色のパジャマ姿の俺は、部屋のベッドで寝そべってスマホをいじって寛いでいる。


「なあ、ゆきと、ちょっと相談したいことがあるんだけどさ。入っていい?」

 桃香の声が部屋の前から聞こえる。


「いいよ、鍵開いてるぜ」

 気軽な感じに応えるけど、女の子が部屋に入ってくるのはかなり緊張する。


「へへ、ゆきとの部屋だ。お邪魔しまーす」

 桃香はピンクのパジャマ姿。湯上がりの小麦色の肌が艶かしい。


 ドアは誤解を招かないよう開けたままにしておいてもらう。


「なんだい? 相談って」

 俺は身を起こして背を壁にもたれかける。スマホをサイドテーブルに置いた。


 桃香が俺の隣に座った。シャンプーの香りが漂ってくる。真横で見る桃香の胸は立体的に膨らんでいて、相変わらずデケェ。


「お泊まりデートのことなんだ。幸斗がどこ行きたいかなって思って」


「そうだった」

 俺はますますドキドキしてしまう。


 日帰りデートの課題が終わって、お泊まりデートの課題を1人ずつやっている。次は桃香の番だ。


 お泊まりデートの行き先は、俺に相談してもいいし、当日まで内緒にしてサプライズにしてもいい。


 元々は、俺が藍の故郷の神戸三宮に行ったことでなし崩し的に始まった。なのでルールは曖昧で、俺と一泊二日でどっか行ってくるぐらいしか決まってない。日帰りデートと違って事前にデートプランを氷室さんに提出する必要もない。


「ゆきとは、藍も麿莉奈も生まれ育ったところに行ったんだろ。でも、あたしの生まれ育ったところって、今岡だからな」

 桃香は、今岡市生まれで、ずっとこの近所で育ったらしい。


 俺は藍のお父さんの法事に行った後、三宮でスイーツを食べたりデートした。俺は藍が心の傷を抱えていることを知ることができた。そして藍がお父さんの死は無駄じゃなかったとわかって、前向きに生きてくれるようになったのは大きい。


 麿莉奈とは故郷の京都のご実家を訪ねたり、京都市内を観光した。麿莉奈の生まれ育った環境がわかってとても有意義だった。


 というわけで、お泊まりデートではお嫁様候補の生まれ育ったところを訪ねられるといいなと思っている。しかし桃香の場合は普段から住んでいる。


「うーん、今岡市内は行き尽くしてるよな。さすがに新鮮味はないな」

 俺は桃香の家庭の事情をすでにだいたい把握している。難病の妹・柚子香ちゃんが生まれて、父親は蒸発しやがった。母親と桃香が、柚子香ちゃんを支えてきた。


「だよな。だからさ、ゆきとが行って楽しそうなところを柚子香と探したんだ」


「おお、柚子香ちゃんとまた考えてくれたのか」

 俺はうれしくなる。先日の桃香の日帰りデートでは柚子香ちゃんの発案で、能登島水族館に行った。

 柚子香ちゃんは大学病院でずっと入院してて、俺とデート行きたいなあって妄想を膨らませている。かわゆい柚子香ちゃんらしく、行き先はおしゃれであった。


「行き先候補を読み上げるから、良さげなところがあったらゆってよ」

 桃香がスマホを見つめる。柚子香ちゃんからのLIMEメッセージに書いてあるらしい。


「桃香は柚子香ちゃんと一心同体だよな」

 俺は微笑ましく見ている。桃香が自分で考えてないからダメとは思わない。俺を楽しませるため使えるものは何でも使うべきっていうのがバトルロワイヤルの趣旨だ。


「また水族館ってことで……大阪の海遊館、名古屋港水族館、鳥羽水族館……ゆきとが新幹線に乗って喜んでいたから、名古屋のリニア・鉄道館、京都の鉄道博物館、埼玉の鉄道博物館……」


「どれも楽しそうだな」

 俺の行きたいところに行かせてもらえるのはいいね。ギャルゲーみたいに女の子の悩みを解決するっていうのは達成感があるけど、ちょっとしんどい。桃香の悩みはおおむね解決済みだから、気楽に行けそうだ。


「あと、男の子って恐竜が好きだろ。福井の恐竜博物館……」

 桃香からその言葉が聞こえてから、俺は意識が飛んでしまい、何も耳に入って来なくなった。


 福井恐竜博物館は、俺の死んだ母さんが唯一連れて行ってくれた場所だ。他にもどこか連れていってくれてたのかもしれないが、4才で生き別れた俺が覚えているのはそこだけだ。


「……」


「ん、どうした、ゆきと。全然ダメだったか?」

 桃香が怪訝そうに覗き込んでくる。


「い、いや、大丈夫だ」

「どこも行きたいところがなかったか。恐竜とかちょっと子供向け過ぎたよな。もっと探すよ」


「……福井恐竜博物館」

「えっ!? そこに行きたいの!?」


「俺の思い出の場所だ。でも、もう一度行きたいかというと迷う」

 行けば忘れている母さんの記憶が蘇るかもしれない。蘇ったら蘇ったで、悲しくなる気もする。


「行ったことがあるんだ。じゃあ、行かなくてもいいよな」

「どうしようか……」


「ゆきとは誰と行ったの?」

「母さんだよ。もう亡くなってる」


「ごっごめん。ゆきとにつらいこと思い出させちゃった」

 桃香がハッとして申し訳なさそうにする。


「いや、桃香は何も悪くない。むしろ思い出させてくれてうれしいんだ。ほとんど忘れかけてるからたまに思い出さないと」


「でもさ、ゆきとがお母さんと行ったところをあたしなんかと行くのは良くないよ。ゆきとの思い出を汚しちゃいそう。やっぱ別のとこに行こうよ」


「俺は行ってみたくなっている。俺1人じゃ怖くていけない。桃香と一緒なら行ける気がする」

「まじで?」


「ああ。俺は母さんを思い出して、桃香の前で大泣きしてしまうかもしれないけどね」

 俺は気恥ずかしくて、頬を右指で掻く。


 桃香が、ぱあっとうれしそうな顔になる。


「あたしの胸で、いくらでも泣いてよ」

「胸では泣かないと思うが……」


 桃香のおっぱいはデケェからな。高校生男子がギャルの胸に顔を埋めて泣いてたらやっぱり恥ずかしいよ。


「よし、ゆきと、今週末に恐竜博物館に旅行しよ」

「ええと、桃香は恐竜に興味ないだろ。桃香が楽しくないかもだけど、いいのか」


「いいよ。あたしはゆきとと一緒なら何でもいいんだ。大好きだから♡」

「んな適当な……」

 俺は苦笑してしまう。お泊まりデートはバトルロワイヤルで勝ち抜ぬくための重要なイベントだというのに、行き先をよく考えずに決めていいのかと思う。まあ桃香らしいけどね。それに観光をがっつりやらなくていいっていうのは気楽でいいと思った。


「泊まるところはさ、博物館の近くの温泉旅館を予約しておくのでいいかな?」

「おお! 頼むよ」


 お泊まりデートは、女の子が手配してくれて楽ちんである。

 桃香と温泉旅館でラブラブするのも魅力的。


 これまでの藍と麿莉奈のお泊まりデートとはパターンが違う。女の子たちの問題を解決しにいくんじゃない。

 奇しくも俺の過去に向き合うことになった。母さんとの別れを思い出して、つらい思いをしそう。きっと桃香に慰めてもらうことになる。


 男として情けないような……

 いや、情けないことはないか。今どき男だって泣きたい時は泣けばいい。


 夫がつらい時は、妻が助けてくれるものだろう。桃香は俺のお嫁様候補だし。

 桃香に慰めてもらって、桃香の包容力を試しちゃうことになりそうだ。

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