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12 没落令嬢

「いやそれ、おかしいですって……」

 俺は呆れまくり。この美少女の意思を無視しまくっているじゃないか。


「上流階級ではようあることやわ。ウチは親の決めた家に(とつ)ぐよう言い聞かされてきました。もっとも最近は落ちぶれてきたから、元上流階級。ウチは没落令嬢ということやわ」


 麿莉奈は関西弁のイントネーションで話す。大阪弁というよりは京都弁のはんなりした感じだ。

 自虐ネタをさりげなく披露。


「おじい様はとても疑り深い人でした。それがビジネスで成功の源だったと言えるくらいですね。御池電機が裏切らないように麿莉奈様を人質として取っておくとおっしゃっておられました」

 氷室さんが付け加える。


 じいちゃんは結構エグい……

 ばあちゃんとの純愛に生きただけじゃないんだ……


「で、でも、麿莉奈さんはお嫁様候補の一人でしょ。俺と結婚するって決まってないんでしょ?」

 俺は冷静さを欠いて、下の名前で呼んでいた。


 麿莉奈がコクリと頷く。


「ウチは他の4人と競って、勝たないといけません。負けたら、六文銭ホールディングスは救済を取りやめますわ。父さんの御池電機は倒産。ウチは御池電機3万人の従業員の生活を背負ってます」

 麿莉奈はシャレを言っているつもりらしいが、笑えない。


「んん? ずっと救済してあげたらいいじゃん? でもって、麿莉奈さんにはお引き取りいただいたら……じいちゃんはもう死んだんだから、無茶苦茶なじいちゃんの言うことなんか聞く必要ないでしょ」


 俺は故人を悪く言いたくないが、口を挟ませてもらう。俺のじいちゃんだったら、身内なんだし、悪いことは悪いと言っていいだろう。


 女子高生の麿莉奈に背負わせていい運命じゃない。美少女と会ってばかりで別れるのはつらいが、俺は涙を呑んで諦める。

 

「おじい様の遺言は絶対です。私は法律に(のっと)って、執行する責務があります」

 氷室さんがきっぱりと俺を撥ねつける。

  

「そ、そんなあ~ 取りつく島なしですか? 氷室さんには人間の情ってものがないんですかあ?」


「フッそんなものはとうに捨てています」

 鼻で笑われた。


 うわぁ――「金は命より重い」って言いそうな人だよ。


「はあ……」

 ため息して、ソファーにもたれる。


 なんだこれ……

 俺は住み慣れた世界の常識が通用しない、別の因果律が支配する世界に連れて行かれるような感覚がしてきてるんだけど。


 5人の女子高生から1人を選んで、18才で結婚。

 それが俺の絶対の宿命だという。

 

「ウチは高校2年生です。先ほど幸斗さんの高校に転校する手続きを済ませて来ました。同じクラスにしてもらえることになったから、幸先がいいわあ。ふふ」

 麿莉奈は口に手を当ててうれしそうにする。仕草がかわゆくてドキっとしてしまう。


「そっそれでイマイチの制服を着ているんですか――」

 俺は心臓が跳ね続けている。


 最愛の女性は千紘姉さんだが、教室は違う。


「はい、ふつつかな同級生やけど、よろしゅうお願いいたします」

 麿莉奈は同じクラスになってグイグイ来ようとしている。


 いや、ふつつかって同級生に使う言葉じゃない気がするんだけど。


 これは、やはり英霊の人生をかけたバトルロワイヤル――


「ま、待って。選ばなかった4人はどうなるんですか?」

 俺はハッとして氷室さんに確認する。


「別に……どうもなりませんよ。デスゲームじゃないので、負けたからって殺されたり、地下世界で強制労働をさせられたりはしません」

 氷室さんが首を傾げている。


「1年間、俺なんかと同棲するんでしょ。負けたらその時間が無駄になっちゃうんじゃ?」


「そんなことを気にされているんですか……」

 氷室さんが(あき)れている。


「待って下さい。ウチに言わせて欲しいわー」

 麿莉奈が氷室さんを遮る。


「ウチは無駄にはならないと思います、好きな人と1年間一緒にいられるのは。たとえ最後が失恋に終わるとしても」

 麿莉奈がまるでもう俺を好きであるかのようだけど……出会ってばかりなので非常に違和感がするんだが……


「ウ、ウチが幸斗さんを好きになるのはこれからですが、他の4人はもうあなたに少なからず好意をお持ちやろうと想像で言わせてもらってます」


 麿莉奈は、かああっと顔を真っ赤にさせて、まだ俺に好意を持っていないと強調する。

 そりゃそうなんだろうけどさ。これから好きになるって宣言しているところが新種のツンデレっぽいキャラだな。

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