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20 千紘姉さんとカラオケ

 ◆◇◆


 今岡駅前大通り沿いにあるカラオケ店に入る。

 

 店内に入るなり、千紘姉さんはカウンターでスマホアプリを店員に見せた。


「ふふん、アプリをインストールして、会員登録しておいたのよ」

 千紘姉さんがドヤ顔。


「スマホを使いこなしてるなんて、すごい。俺のために準備をしてくれて、ありがとう」


 千紘姉さんのおかげでスムーズに中に入っていける。

 俺は伝票を持って、言われた部屋の方へ行く。


 俺はカラオケに来るのが初めてだ。


「狭くて暗いな」

 率直な感想。


 液晶テレビで映像が流れている。

 これがカラオケか。これに向かって歌うのか……

 未知のものを目にして、ダンジョンを探検しているような気分になる。


 ソファーに座る。

 千紘姉さんが俺の左側に座って、くっついて来た。

「わー 幸斗と密着できちゃう」


 柔らかい体が触れてドキドキしてしまう。


「ええと、どうやって歌うんだろう」


「私、ちょっと調べてきたよ。これがリモコンなんだって。最初に飲み物とか注文するらしいよ」

 千紘姉さんは呟きながら、テーブルのタブレット端末を取る。


 何をするんだろうと見ていると、端末の画面には食べ物の写真が表示される。

 千紘姉さんは指でタッチして、ウーロン茶を選んだ。


「使いこなしているね」

「スマホと同じだよー」


 千紘姉さんはゲームセンターのマ〇オカートではへなちょこだったけど、カラオケで名誉挽回とばかりにやって見せる。


 千紘姉さんがタブレット端末を渡すので、僕はオレンジジュースと焼そばを洗濯する。

 さっきドーナツを食べたばかりだけど、高校生男子はすぐにお腹がすくのだ。


「お姉さんに任せて」

 千紘姉さんが手を伸ばしてきて、お手拭きや割り箸の数も設定してから、送信ボタンを押した。


「すごい。こうやってやるんだ」

 俺はさっきから千紘姉さんに驚きっぱなし。


「幸斗とせっかくのデートだからね。楽しい時間にしたいなあって思ってたから」

 千紘姉さんが調べておいてくれなかったら、ダンジョンのようなカラオケで俺たちはどうしたらいいのか途方に暮れていただろう。


 未経験なことでトラブルが起きても初々(ういうい)しくて良いと思う。でも千紘姉さんが俺とのデートを盛り上げようと努力してくれたのがうれしい。


「うう……でも俺は歌なんて知らなんだよな……」

 カラオケに入っておいて、今さらなことを言ってしまう。


「子供の頃見たアニメとか戦隊ものの歌もあるみたいだよ。映像っていうのを選ぶと……」

 千紘姉さんがタブレットを操作する。

 ピピッという音がした。


 テレビの画面が切り替わり、ポ○モンのアニメになる。

「アニメが表示されてる!?」

 俺は仰天した。カラオケって歌詞が表示されるだけだと思っていた。


 アニメ付きの方が断然いい。

 子供の頃見てたから、とても懐かしい気分になる。


「幸斗の反応がおもしろいなぁ この映像マークの付いている曲は、そのアニメが背景になるんだって」

 千紘姉さんがタブレットを見せて説明してくれる。


 マイクを二つ手に取る千紘姉さん。

「一緒に歌おうよ、幸斗」

「うん、これなら歌を知ってる」


 マイクを受け取ってスイッチを入れる。

 千紘姉さんの声がスピーカーから流れる。俺も合わせた。


「上手だね、幸斗」

「姉さんといっぱい歌ったもん」


 小学校低学年の頃、公園に千紘姉さんと遊びに行く時に歌ってた。

 記憶が蘇って、涙が滲んでくる。


 カラオケってリア充どもが流行っている曲をかっこつけて歌う、下らない空間だと思っていた。


 でも千紘姉さんとだったら、流行っている曲なんか歌う必要はない。二人の思い出の曲を歌えばいい。


 そして俺はかっこつける必要がない。

 俺が音痴でもいい。だって千紘姉さんは俺のことをもう全部知っているんだから。


 俺たちはポ〇モンを興奮して歌い終える。


 千紘姉さんが右の指先でタブレットを操作。ピピっとする。


 画面が切り替わり、次はプ○キュアだ。千紘姉さんが見ている隣で、俺も見ていたからこれも覚えている。美少女たちの主題歌を二人で熱唱する。


 トントン

「失礼しまーす」

 店員さんが、飲み物とかを置いて行ってくれる。


 焼きそばがホカホカして美味しそう。

 なんてことだ……カラオケってめちゃくちゃ楽しいところじゃないか。リア充に対する憎しみでいっぱいだったせいで、ものすごく誤解していた。

 

 懐かしい気分になれて、座っているだけで美味しいものを持って来てもらえる。

 でもこれは、千紘姉さんと来れたからこそなんだよね。


 ピピッ ピピッと千紘姉さんはどんどん曲を予約する。

 俺は歌うのを中断して、焼きそばを食べることにする。


 戦隊ヒーローやら仮面ラ○ダーやらの映像が流れる。主題歌の背景のアクションシーンがかっこいい。

 千紘姉さんが歌うのを聞いているのは快感。


 幼い頃に見たアニメは存外いっぱいある。

 歌い疲れたら、映像を見ているだけでも楽しい。




 カラオケには3時間もいてしまった。晩御飯を食べて帰ろうってことになったので、ピザやらハンバーグやらをいっぱい注文。

 お腹いっぱいになれた。ここは天国だ。


 ◆◇◆


 カラオケを出る。すっかり日が暮れている。

 また雨が振っているから、相合傘。

 俺たちは手をつないでタワマンに帰る。


「楽しかったね、幸斗」

「最高だったよ。ありがとう、姉さん」


 お互いに人生初デートを達成できて、俺も千紘姉さんもとっても幸せな気分。

 初めてが千紘姉さんで良かったよ。


「こうしていると私たち本当に恋人になったみたいね」

「もう恋人でしょ。お嫁様候補なんだから、恋人以上お嫁様未満てことで」

 俺の認識は正しいはずだ。


「そっか……私たちもう恋人なんだ」

「うんうん。恋人」


「私ね、幸斗と恋人になれたら、したいなあって思っていたことがあるんだ」

「えっ なになに!?」


「自転車でね、二人乗りして登下校するの。幸斗が()いでくれて、私は後ろに乗せてもらいたいなあ」

「いいねえ! やろうやろう」


 高校生男女で自転車二人乗りってまさに恋人。イチャラブな青春だよ。

 千紘姉さんが密かに俺とそんなことをしたいと思ってくれてたなんて。

 俺は感動。


 バトルロワイヤル開催がなかったら、俺たちの関係は進展しないまま、千紘姉さんの卒業を迎えていたかもしれない。きっかけを与えられたのは良かったね。


 千紘姉さんが卒業するまでに、いっぱい高校生の恋人らしいことをしておこう。

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