第二百三十五話 エルフの反乱⑤
オリビアが里に戻ると、議事堂の前で反乱派のエルフ達が縛られていた。
「はい、捕まえてきたよ」
引き摺ってきたアリューゼを投げ捨てる様に転がすと、集まっていたエルフの議員達が怯え混じりにオリビアを見る。
エルフ随一の実力者であるアリューゼをただの人間が特に負傷した様子も無く無力化してきたのだから、無理もないだろう。
「ほら、あんたら早く縛ってよ」
シャーリーに言われ、エルフ達は慌ててアリューゼを拘束した。
「それでオリビアちゃん、ちょっとヤバい事になったよ」
そう告げるシャーリーの顔からは、これまでの余裕そうな笑みが消えていた。
「何かあったんですか?」
「こいつら、サペリオンが派兵してるベルロモット共和国に介入する気だったんだって」
「ベルロモットって、今更エルフが行ったって……」
その噂はオリビア達もエルフの里に来るまでに何度か耳にしており、勝敗は既に決しているらしい。
「うん、大勢はもうサペリオンを含む連合軍に傾き切ってる。でも状況が変わったわ。どうやったかは解らないけど、連合軍が無視してた砦に突然ベルロモットの大軍が現れて、この里に向けて進軍し始めたの」
「え!? じゃあ連合軍は急いで対応しなきゃいけないんじゃ……」
「それが大半の戦力は王都制圧に割いてるから確実に間に合わない。この里の反乱はほぼ制圧したけど、逃げた奴や周辺の村にも反乱派が居るかもしれないし、今からじゃ国内の正規軍も間に合わない」
「う、うーん……シャーリーさん、それで私達が動く理由はあるんですよね?」
最初に反乱の話を聞いた時と同じだ。国同士の戦争なら冒険者のオリビア達は要請があるまで動く必要は無いが、議会がプラティボロス商会と繋がりがあるかもしれないから反乱の制圧に協力した。
シャーリーはこの後もオリビア達が動くだけの理由を見付けているんだろう。
「うん。そもそも連合軍によるベルロモット制圧はもっと長期になる計画だったけど、その戦況を連合側に大きく傾けた存在があるの。それは黒甲冑と呼ばれ、魔力の弾を撃ち出す魔道具を使うらしい」
「ナタリアだ!」
「あやつがその気になれば……まぁ、凡百の軍程度を潰すなど容易いじゃろうな」
オリビアが思わず声を上げると范焱も頷いた。
魔力を撃ち出す魔道具を使うのは、ナタリアくらいしかいない。
「そうだろうね。オリビアちゃんとこの魔導人形だと、私も思うよ。それで、こっちに進軍してるベルロモット軍の中にはプラティボロス商会の会長が居るんだよ」
「じゃあ行こう!」
「うむ、こうしてはおれんの」
ドミニクが居るなら、ナタリアもそこに行く筈。もしかしたら既に動いているかもしれない。
オリビア達は里の外で待っているクラリッサ達と合流するべく、踵を返した。
「じゃ、そう言うわけで、私らはもう行くから、残りはそっちで何とかしてね」
「あ、はい。本当にありがとうございました」
シャーリーの言葉にエルフの議員達は深く頭を下げたが、それを最後まで聞いてる暇は無く、シャーリーも興味が無さそうに背を向けた。
巨大な金狼が足早に車を牽き、森の中の道を駆ける。
御者台で范焱が手綱を握り、その隣に座るシャーリーが案内する。
「この先を真っ直ぐ行って森を抜ける。そうすればベルロモットまで後は道なりだよ」
「だそうじゃ、クラリッサ」
「わう!」
クラリッサが意気込んで速度を上げようとした瞬間、シャーリーは身を翻す様に跳び上がり、狼車の後方に軽やかに着地した。
クラリッサが慌てて足を止め、狼車の窓からオリビアが顔を出す。
「シャーリーさん!?」
「私が案内するのは此処まで。また縁があったら会いましょ」
唐突に告げられた別れに戸惑うオリビア。
「オリビアちゃんは早く行かなきゃいけないでしょ? ほら、急いで」
そう言われれば、オリビアに躊躇う理由は無い。
「判りました。シャーリーさん、またどこかで!」
クラリッサは走り出し、狼車の後ろ姿が遠退いていく。
それを見計らってか、茂みから無数のエルフが姿を現す。
「里で取り逃した奴か、他の村の奴か。どちらにせよ反乱派よね」
さして興味も無さげなシャーリーに、エルフ達は魔法や弓を構える。
「サペリオンに与し、エルフの誇りも失くしたか」
「裏切り者め」
「エルフの恥晒しが」
「お前は一人、誰にも顧みられる事も無く死ぬのだ」
口々に罵るエルフ達に、シャーリーは堪えきれないとばかりに噴き出す。
「アリューゼと同じ様な事しか言わないのね。年食ってる割にボキャブラリーが貧困だわ。それに、顧みられないのはいいんだけどさ」
シャーリーがリュートの弦に指を走らせる。
「一人じゃないんだなぁ、これが」
すると周囲の木々の陰や地中から夥しい数の蟲達が這い出てきて、エルフ達を取り囲んだ。
ミスリル製の甲冑をも貫く鋭い角を持つバレットビートル、長く巨大な体をくねらせる鬼蜈蚣、尾の針に強力な麻痺毒を持つルビーアナホリバチ、体より大きな顎で鋼鉄さえ両断するギロチンスタッグ、二つの頭と四本の鎌を持つ両面蟷螂、即効性の致死毒を持つ棺桶売蠍、超高速で飛翔し強靭な顎で獲物を喰い千切る蛟竜蜻蜓、脅威的な再生力で負傷をものともせず獲物に襲い掛かるグールコクローチ、等々。
その光景に、エルフ達はたじろいだ。現れた蟲の悉くが、上位の冒険者パーティー或いは正規軍が慎重に対処すべき、非常に危険な魔物だったのだ。
そして何より恐ろしいのが、生息地も違い、互いに殺し合う事すらある蟲達が、完全にシャーリーの制御下にある事だった
「私の本当の戦い方は、オリビアちゃんには見せたくないからね」
シャーリーの奏でる音に従い、蟲達はエルフを標的に定めた。
「お爺さん達、虫と戯れるのはお好き?」
オリビアちゃんは気付いたかな?
今回の件は私が仕組んだものだって事に。
里の反乱はかなり前から疑っていたけど、サペリオン軍が動きづらいタイミングで起きそうだから、雇い主であるヴァイテュス家の権力で冒険者ギルドの郵便を改竄してエルフの里に誘導した。
期待通り、反乱派を鎮圧してくれたね。
利用してゴメン。
まぁ、ベルロモットの方も蟲達に見張らせてた情報を教えてあげたし、これで許してくれないかな?




