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メイド人形はじめました  作者: 静紅
再革命
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第二百二十四話 黒甲冑蹂躙

 細身の黒い甲冑。背中から伸びる一対の翼は青い燐光を撒き散らしている。

 右手にはこの世界には存在しない筈の狙撃銃。左手には圧縮した魔力で形成した魔力刃。

 その魔力刃で、フレッドが両腕で握り込んだ剣を軽々と受け止めている。


「何なんだお前は! 連合軍か!?」


 叫ぶフレッドに、黒甲冑は興味無さげに息を吐き、右腕に握る狙撃銃を上げた。慌てて身を捻ったフレッドの脇を、銃弾が突き抜ける。躱すのがあと一瞬遅ければ、彼の腹に風穴が空いていただろう。


 距離を取ったフレッドが剣を構え直している間に、黒甲冑は狙撃銃を収納空間に納めた。代わりに手元に光が収束し、一丁の拳銃を形成した。

 銃口がフレッドに向けられ、圧縮した魔力の弾丸を放つ。


「やっぱり! お前、転生者だろ! だったら敵対する意味は無いだろ!」


 フレッドは銃弾を躱しながら叫ぶ。さっきの狙撃から予感はあったが、銃というこの世界に無い物を使う事から、黒甲冑が自分と同じ異世界から転生した者だと確信した。

 そして黒甲冑もまた、フレッドの言葉の意味を正しく理解していた。


「転生者だが、お前に味方する理由も無い」


 黒甲冑はフレッドの言葉に動じず、攻撃の手を緩めなかった。

 逆にフレッドは思いもしなかった返答に気勢を削がれる。しかしそれでも銃撃を防ぎつつ、尚も声を上げて訴える。


「俺はこの世界を発展させたいんだ! 文明は遅れているし、国はまだ王や貴族が支配して平民は苦しんでる! 危険な魔物も居る! だったら民主主義の平和な世界にするのが俺達転生者の役目じゃないか!」


 フレッドの言う通り、彼が前世で過ごした国に比べればこの世界は未熟だろう。

 魔法技術はあるが、文明は数百年遅れている。

 支配層と被支配層の格差は大きく、それが生まれながらに決まっている。

 そして人々の生活は魔物と言う脅威と隣り合わせにある。

 だから平和で発展した世界を知る転生者はこの世界に平和と発展をもたらすべきだと、フレッドは考えていた。


 だがそれも黒甲冑には響かない。


「馬鹿馬鹿しい。お前みたいな傲慢な奴と一緒にするな」


 フレッドの志を、黒甲冑は傲慢と一蹴した。


 黒い翼が青い粒子を撒き散らしながら羽搏き、距離を取りつつも正確な狙いで銃弾を放つ。


「くっ!」


 フレッドが迫り来る銃弾を薙ぎ払い、直後に突進して空けられた距離を詰める。

 剣に雷が宿り、火花が爆ぜる。


「ヴォルトレイ!」


 雷光を纏った剣が振われ、黒甲冑に迫る。

 だが黒甲冑は左手の魔力刃でフレッドの剣先を逸らした。


「!?」


 渾身の一撃を容易くいなされ驚愕するフレッド。その隙を黒甲冑が見過ごす筈も無く、銃口を突き付けた。


「お前、弱いな」


 引き金を引く黒甲冑。突き抜ける弾丸。


「っ、ああぁぁぁぁ!」


 一瞬遅れて、血飛沫と悲鳴が上がる。

 胸と腹を撃ち抜かれて落ちていくフレッドに、黒甲冑は追撃を加えようと狙撃銃を取り出した。

 だが引き金を引く直前、黒甲冑の傍を燃え盛る炎の球が駆け抜けた。

 火球が飛んできた方向へと黒甲冑が視線を向けると、そこは共和国軍の陣営の中だった。


「狙いが甘いな。素人か」


 フレッドとの戦闘中には援護は無く、制止した瞬間ですら外し、今のを基準とした第二射も来る気配は無い。少なくとも狙撃に関しては、大した技量ではないだろう。


 ともあれ、当初の予定通り、グランルーチェ軍を壊滅させる事に変更は無い。


 翼を大きく羽搏かせ、グランルーチェ軍の只中へ向かう。







 ウルベントは歯噛みしていた。

 光魔法による遠視と併用した長距離攻撃は、グランルーチェでも研究されていた。複数人の魔術師が協力すれば可能だが、あまりにも非効率的なので実用には至ってないのが現状だ。

 だがウルベントには自分なら出来るというだろうという自信があった。事実、光魔法で観測しつつ、時間を掛けて高めた炎魔法の威力をこの距離に届かせた事は驚嘆に値する。

 しかし当たらなかった。すぐに第二射の用意に掛ったが、その間にも黒甲冑は迫って来る。


 幸いにもフレッドが黒甲冑の狙撃を中断させていた事で、グランルーチェ軍は連合軍を凌ぎながらも、どうにか体勢を立て直す事が出来た。

 飛来する黒甲冑に対しても、グランルーチェ軍は即座に敵と判断し、陣形を整える。いくら得体が知れない黒甲冑でも、単独なら組織の力で勝てるだろうと踏んでいた。


 しかし黒甲冑もまた冷静に攻撃を開始した。

 左手の魔力刃を消し、魔銃を形成する。そしてグランルーチェ軍の上を飛び回り、一般兵士の鎧程度なら容易く貫通する魔力の銃弾を魔銃から放つ。


 重装歩兵の大盾と魔術師の結界が銃弾を阻もうとするが、黒甲冑はその隙間を縫って撃ち込んでくる。

 またエルフの弓兵や魔術師が放つ矢も魔法も、高速で飛翔する黒甲冑を捕らえるには至らない。


 そんな中、黒甲冑は高い魔力の収束を感じ取り即座に身を捻ると、先程まで居た場所に氷の塊が現れて爆ぜた。

 炸裂する氷の礫を背中に受けながら、地面に伏せる様に着地する。咄嗟に距離を取ったお陰で、掠り傷程度にしかならなかった。


「うおおおぉぉ!」


 だがこの瞬間を好機と見たのか、屈強なドワーフの兵が斧で斬り掛かった。

 黒甲冑は翼を消しつつ転がり、振り下ろされた斧を躱す。

 空振った斧が叩き付けられ、地面に大きな亀裂が走った。もし当たっていたら、黒甲冑とて両断していただろうと兵達は確信した。


「ふん!」


 即座に刃を返し、横振りに薙ぎ払う。その軌道は今度こそ確実に黒甲冑を捕らえていた。


 甲高い音が響き、黒甲冑によって蹴り上げられた斧が宙を舞う。


「おのれえぇぇぇ!」


 ドワーフ兵は武器を失っても怯む事無く、その丸太の如き剛腕を振り上げた。

 ドワーフの膂力は数ある人類種族の中でも上位にある。鍛えられた怪力は鉄すらも捻じ曲げる。素手の拳でもただの鎧程度で防げる威力ではない。


 だが標的を打ち砕くと思われた拳は、黒甲冑の細い片手で受け止められていた。


「生憎と、腕力には俺も自信がある」


 そう言うと黒甲冑はドワーフの拳を掴んだ手に力を籠め、そのまま握り潰した。骨が砕け、指が(ひしゃ)げ、夥しい血が噴き出す。


「ぎああぁぁぁぁ、ぶっ―」


 拳を潰された痛みに悲鳴を上げるドワーフ兵を、黒甲冑は顔面を殴り飛ばして黙らせた。

 黒甲冑の拳を正面から受けたドワーフ兵の顔は陥没し、最早個人の判別など不可能だろう。


 黒甲冑が次の標的に向かおうとしたその一瞬に、四方八方から一斉に光の鎖が迫り、その四肢に絡み付いた。

 周囲に散った魔術師が行使した拘束魔法だった。

 だが黒甲冑が力を籠めれば光の楔は軋み、ヒビが入った。


「至高にして偉大なる光の神よ、ここに祈りを奉らん。怨敵に天よりの裁きの光をもたらし給え」


 この僅かな好機を逃すまいと、ウルベントは急いで詠唱する


虹の落光(カスカータ・イーリス)!」


 詠唱が完了し、魔法が起動する。

 天上より虹色の光が降り注ぎ、黒甲冑を呑み込んだ。高熱により爆風が起こり、砂塵を巻き上げる。


「く、何者かは判らないが、これで!」


 ウルベントは自身を含む兵達を結界で余波から守りつつ、勝利を確信していた。

 光が徐々に細くなり、そして消えた。

 そこには拘束魔法を破壊した黒甲冑が無傷で居た。


「馬鹿な! 上級魔法の直撃を受けて無傷など、有り得ない!」


「今のが上級? あの程度の威力で?」


 驚愕するウルベントに、黒甲冑は冷ややかに言い放った。

 しかしグランルーチェ軍は依然として健在だ。そして優秀な回復魔法の使い手がいる限り、崩し切るのは難しいだろう。現にこれまでの戦いで負傷していた兵の多くが戦線に復帰している。

 そこで黒甲冑は詠唱を始めた。


「深紅の凶器を胸に埋め、亡霊の群は遊戯を繰り返す。

蛇の様に笑い、蠍の様に泣き、(ゆめ)を撃つ。

蜈蚣(ムカデ)の様に愛し、蜂の様に憎み、痛みを分け合おう」


 詠唱と共に魔法の構築が進み、その(おぞ)ましい呪文と溢れ出る膨大な魔力に、誰もが慄いた。

 グランルーチェ兵はこの魔法を起動させてはいけないと直感し、詠唱を阻もうと攻撃を加える。


「脱け殻の身と(ひび)割れた心で願う。まだここにある命を」


 だがウルベントの上級魔法に耐える相手には悪足搔きでしかなかった。


戦慄を産む邪竜(アジ・ダハーカ)


 詠唱が完了し、黒甲冑の背後の空間に黒い大穴が開いた。

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