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メイド人形はじめました  作者: 静紅
冒険者
182/251

第百七十話 その感情の名は優越感

 敵国を秘密裏に疲弊させるならどうするか。

 魔道具の情報交換が一段落して休憩していると、唐突にクリスティナがそんな話題を振ってくる。彼女らしからぬ物騒な話題に少し驚いた。


「え、どうしたんですか?」


「サペリオン王国より西にベルロモット共和国という国があるのですが」


 確か西にある小さい国で、二年ほど前に革命で王制から民主制になったんだったか。それから良い噂は聞かないが。


 クリスティナは、元々はサペリオンとは友好的だったのですが、と断って話を進める。


「ベルロモット共和国は現在は反サペリオンを表明していて、周辺国にも同調を呼びかけています」


「それ効果あります? あの辺りの小国がどれだけ集まってもサペリオンに対抗出来るとは思えませんし、遠回しな自殺にしか思えません」


「ええ。ですが先の革命はどうやら聖グランルーチェ国が糸を引いていたらしいんです。しかも最近になってベルロモットの難民が周辺国へ流入しているという情報がありまして」


 聖グランルーチェはベルロモットなどの小国家群を挟んだ位置にある、サペリオンと敵対している国だ。

 あぁ、サペリオン寄りの国を切り崩しに掛かったのか。

 ならばその難民には絶対に工作員が混じっている。賭けても良い。そう言うとクリスティナも首肯する。


「それで、私が関わる事は無いと思いますが、もし自分ならどんな工作を仕掛けるかと思いまして」


 ふむ。ベルロモットからすれば周辺諸国は自国と同程度。あまり派手な事は出来んが、グランルーチェからの支援はあると考え、仮に俺が計画するならば……


「その国のならず者の集団か、可能なら腐敗した権力者に取り入って、詐欺の手法や麻薬でも流します。国の疲弊が目的ならば金銭的利益はある程度度外視して、極力広く浅く活動し、集中的対処による解決を妨げ、治安悪化、貨幣流出、政治不信を促すなどでしょうか」


 例えばネズミ講なんかは前世の世界では明確に詐欺だったが、この世界、少なくとも俺の周辺ではまだ認知すらされていないので、もし露見しても法的罪に問われる可能性は低い。

 だからって俺はやらないけどな。


「意外に怖い事考えますね」


「そちらから聞いておいてそれはあんまりですよ」


 と、お互いに苦笑し合う。

 しかしこれは素人の考えだ。実際に上手くいく保証など無いし、実行するにあたってそれを可能にするだけのバックアップや現場での調整は必要だろう。


「思ったより時間が経ちましたね。お嬢様達は大丈夫でしょうか?」


「プラムが付いているので道に迷ったりはしないと思います」


「プラムの稼働時間は大丈夫ですか?」


「卒業式の時にナタリアさんに頂いた魔力粉を持たせていますから、魔力が足りなくなればそれを使うように言ってあります」


 なら大丈夫か。







 意気込んで何件もの店を回ったけど、トレントの木材は見付からなかった。


「今のお店が最後になります」


 無情にもプラムちゃんが告げる。元々数が少ないのは解っていたけど、まさか町中の店が全滅だとは思わなかった。私だけじゃなくクラリッサ達もがっかりしている。


「後は可能性があるとしたら、集積所でしょうか。伐採された木材は森の近くにある集積所に一度集められます。まだ店に卸されていない木材の中にトレントがあるかもしれません」


 可能性は低いですが、とプラムちゃんは付け加えるけど、少しでも可能性があるなら見に行ってみたい。


 暫く歩いた領都の限りなく外に近い位置に、プラムちゃんの言う集積所はあった。道からでも壁越しに積み上げられた丸太の山が見える。

 領都の木材が集まるだけあって大勢の人が働いているのか、中からノコギリの音や人の声が聞こえてくる。なんだけど、何だか声の雰囲気が違う気がする。

 そう思っていると、集積所の中で一本の木材が起き上がった。その木材には表面に三つの穴が空いていて、それが目と口の様に見える。


「オリビア様、あれがトレントです。ちょうど伐採されていたようですね」


「あー、うん、でもあれって―」


 丸太状態だったトレントはすぐに枝葉を伸ばし、その体を振り回す度に壁の中から悲鳴が聞こえる。

 門から覗き込むと、大勢の作業員がトレントから逃げ回っていた。


「誰か、領兵か警備隊を呼んで来い! 討伐してもらわねえと!」


 やっぱり襲われているみたいで、集積場内は大混乱だ。


「ボス、クラ、やる」


「!」


 クラリッサとその背中に乗ったアカネはやる気満々の様で、見上げるとエリカも頷いた。最近はみんな運動不足気味だったし、ここは任せようかな。


「あのー、私、冒険者ですけど、良かったら倒しましょうか?」


「あ、あんたが!?」


 門から飛び出そうとした人を呼び止めて声を掛ける。


「私と言うより、この子達が」


「うわああぁぁぁ! 魔物が増えたああぁぁぁ!?」


「大丈夫です! 私の従魔ですから!」


 錯乱する作業員さんを何とか宥めて、討伐の為に集積場に入る許可を貰えた。


「では私は作業員の皆様の退避誘導をしてまいります」


「うん、お願いね。それじゃあみんな、やっちゃって!」


「ワウゥ!」


「!」


「シャ――!」


 プラムちゃんと別れてすぐ、私の指示でみんなが戦闘態勢に入る。


「ガウゥッ!」


 アカネが頭上から飛び降りると、クラリッサは相手の巨体に対抗して狼形態に戻って飛び掛かり、トレントの幹に深い爪痕を刻み付ける。

 こちらに注意を向けたトレントが槍の様に鋭い枝を無数に伸ばすけれど、エリカの鎌状の触手が切り払い、口状の触手で食い千切り、その全てを防いだ。

 エリカは反撃にと溶解液の弾を撃ち出すと、直撃したトレントは倒れ、幹が白い煙と焼ける音を立てる。


「エリカ、溶かしちゃダメよ! ナタリアにプレゼントするんだから!」


「シャ、シャー!」


 あまり溶かすと、せっかくのトレントがダメになってしまう。エリカも解ってくれたのか、次に撃とうとしていた溶解液を中断する。

 倒れ込んだトレントはそのまま転がり、私達から遠ざかる。その先には集積所の人達を避難させていたプラムちゃんが居た。


「プラムちゃん!」


 振り向いたプラムちゃんが転がってくるトレントを受け止める。

 構造を簡略化しているとはいえ、プラムちゃんはナタリアを基に設計されている。そのパワーだって、ナタリア程ではないけど、子供の様な見た目からは想像もつかない程に強力だ。

 なのに、拮抗したのは一瞬だけで、プラムちゃんは崩れる様に片膝を突いた。


「魔力切れですね。今日は少々動き過ぎました」


「今行くわ!」


「問題ありません」


 駆け出そうとした私を、プラムちゃんはこんな状況でも変わらない冷静な口調で制止する。

 そしてプラムちゃんが取り出したのは小瓶。中に詰まった煌めく蒼い粉を、プラムちゃんは手早く一気に飲み干した。


「魔力補充完了。反撃します」


 力を取り戻したプラムちゃんがトレントを押し返し、力一杯の前蹴りで跳ね飛ばす。

 トレントが起き上がろうとするけど、そこにアカネが土魔法で作った石の弾丸を幾つも撃ち込んで邪魔をする。

 更に飛び掛かったクラリッサが地面に押さえ付け、トレントの幹に鋭い牙を突き立てた。一瞬口の隙間から光が漏れたかと思うと、抵抗する間も無くゼロ距離でブレスを撃ち込みトレントの体は真っ二つにへし折れた。

 トレントは分かれた上下でそれぞれのたうち回り、やがて必死の形相を浮かべたまま動かなくなった。


「すげぇな! 魔物使いか?」


「いえ、魔術師…戦士?」


 魔法学校を卒業したけど魔法主体じゃないし、接近戦をするにしても武器は使わないから戦士も少し違う気がする。


「まさか休眠中のトレントが混ざっていたなんてなぁ。何にせよ助かったよ。冒険者なんだろ? 何か礼をしねぇとな」


「それだったら…」


 集積場の責任者にトレントの素材を売ってほしいと話すと、討伐したお礼にと大半を譲ってくれた。


「細かく切らなくて大丈夫かい?」


「どういう風に使うかまだ分からないので、このままで大丈夫です。よいしょ」


 再度枝葉を落として丸太にしてもらったトレントを背負い、研究所に帰った。

 気が付けばもうすっかり夕暮れ時で、思ったより遅くなってしまった。研究所の門の前では来た時と同じ様にクリスティナが立っていて、その横にはナタリアの姿もあった。


「あ、ナタリアー、これ―」


 歩きながら、今日の成果物を見せようと手を振った瞬間、クリスティナの隣に居た筈のナタリアが目の前に居た。

 片手が私の腰を抱き寄せ、少しでも動けば触れてしまいそうな程の間近に真剣な表情がある。普段のナタリアからは想像出来ない大胆な不意打ちに胸が高鳴る。


「植物の魔物は生命力が強いので、しっかり(とど)めを刺しておかないと危険ですよ」


「え?」


 見ればナタリアの空いた片手は魔力で作った蒼い籠手に覆われ、その手は私が背負っているトレントの、いつの間にか再生していた顔を握り潰していた。


「あ、ありがとう、助かったわ」


「メイドとして当然の事をしたまでです」


 ナタリアが身を離すと、籠手を作っていた魔力が消え、その下の網状の鋼糸が解けて手首のカフスの内側に回収される。あれはミールさんに作ってもらった、魔力籠手の成形を補助する魔道具だ。

 最後にちょっと失敗したけど、プレゼントは喜んでもらえた。







 翌日、来た時と同様にクリスティナとプラムちゃんが見送りに来てくれている。


「この後はどちらに向かわれる予定なんですか?」


「このまま東の山を越えて、その後はリューカに会いにレイバナ国に行ってみようと思うわ」


「ではお会いしたらよろしくお伝えください」


 国交が回復したレイバナ国とは、今では多くの船が行き来していると聞いている。そこに乗せてもらえばリューカやルリさんにも会いに行ける筈だ。


「プラム、両手を出してくれますか?」


「はい、お姉様」


 言われた通り差し出された両手に、ナタリアは自分のものとお揃いの白いカフスを付けた。


「お嬢様達を案内してくれたお礼です。気に入ってくれると良いのですが」


「お姉様」


 プラムちゃんがナタリアに抱き着いた。


「またいらしてください」


「ええ。また来ます。こうして甘えられるのも良いものですね」


 そう言ってナタリアはプラムちゃんの頭を優しく撫でる。

 ナタリアがプラムちゃんを本当に妹として可愛がっているのがよく解る。 私が同じ事をしたらすぐに引き剥がされるのがオチだ。

 プラムちゃんの身長だったら、ちょうどナタリアの胸に顔を(うず)める形になる。ああいうのは私だけじゃなくアカネやエリカでもさせてもらえないから、二匹も私と同じで羨ましそうに見ている。


「成程」


「どうしました?」


「新たな感情を理解出来た気がします」


「そうですか。貴女の成長を喜ばしく思います」


「ありがとうございます、お姉様。次にお会いできる日を楽しみにしています」


 注意をクリスティナに戻せば、彼女は研究所の職員から何か話を聞いていた。


「先程領主様よりお伝えする様にとのご指示がありまして」


「そうですか……」


 クリスティナは一瞬私の方に目を向ける。何だろう?


「すみません、こちらの用事ですからお気になさらないでください」


 研究所の仕事の話かな?

 クリスティナも大変ね。

 そして別れの挨拶を充分に済ませた私達はバーナード領都を出発した。







 扉を叩く音に入室を促すと、入ってきたのは見慣れた幼馴染だった。


「マティアス様、お加減はいかがですか?」


「クリスティナか。ぐっ。大した怪我ではない、と言いたいが、この()()では強がっても無意味だろう」


 ここはフーヤード領にある病院の一室であり、マティアスはベッドの上で横になっている。全身に巻かれた包帯やギブスが重傷さを痛々しくも雄弁に語っている。

 具体的に言えば左腕と右脚の骨折に全身の打撲、加えて内臓の損傷。文句無しの大怪我である。

 魔法先進国であるサペリオン王国では当然回復魔法の研究もされているが、打撲と内臓の損傷はともかく、骨折は回復魔法で急速に治すと骨の変形が残る可能性があるので、基本的に自然治癒に任せるのが最良とされている。


「驚きましたよ。急に遣いが来てマティアス様が大怪我をして入院したと言うのですから」


「ふん、どうせ父上の差し金だ。私が見合いを断っているから、君との仲を取り持とうとしているのだろう。君もそんな思惑に乗る必要など無いのだぞ」


「寂しい事を仰らないでください。恋愛感情こそありませんが、入院したと聞けばこうして馳せ参じる程度の気持ちはあります」


 かつてのクリスティナならば、この様なはっきりとした反論など口に出来はしなかっただろう。そして彼女をそのように変えた友人達の一人の顔を思い出し、マティアスは不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「そう言えば、先日オリビアさんが私の研究所に遊びに来ていましたよ」


 軍属になったマティアスは任務に守秘義務があるので、怪我の理由などは話せない。クリスティナはそれを気遣って話題を振ったのだ。実際、彼の怪我は任務中に負ったものなので、クリスティナの判断は正しかったのだが、当のマティアスにしてみればまるで心の中を読まれているかの様で、思わず眉間にしわを寄せる。


「冒険者としてかなり活躍なさってるみたいですよ。それに新しく二体の魔物を従魔にしていました」


「そうか。元気そうなら何よりだ」


 マティアスは言葉に反してそっけない声音で返しながら顔を背ける。


「オリビアさんはバーナード領を出た後、東に向かってレイバナ国を目指すと言っていました」


「そう…か…待て、今何と言った!?」


 聞き捨てならない声に、マティアスは声を荒げる。


「れ、レイバナ国を目指すと―」


「違う、その前だ! 東だと!? ロンシャン領、竜人自治区を通るつもりか!」


「え、ええ、山を越えると言っていましたから、おそらくは」


 クリスティナの言葉に、マティアスは血の気が引くのを感じた。

 しかしそれどころではない。もし本当にオリビアがロンシャン領に向かったのなら、何としてでも止めなければいけない。

 身を起そうと手を突き、激痛に崩れ落ちる。骨折している腕を支えにしようとしてしまったのだから当然だ。


「マティアス様!」


 咄嗟にクリスティナが支えるが、マティアスは顔に滝の様な汗を浮かべながらも、起き上がろうとする。


「ぐぅっ…いくらオリビアでも危険過ぎる!」


 先に述べた通り、マティアスがこれ程の怪我を負ったのは、ある任務中の事だ。そして彼だけでなく軍の仲間数人が彼と同等の怪我を負い、この病院に入院している。全員が選りすぐりの実力者だったが、たった一人の竜人相手に誰一人として手も足も出ず、そして誰一人として()()()()()()()

 もしオリビアと竜人が戦う事になればどうなるか。自分達と同様に大怪我を負うか、それならばまだ良い方だ。

 最悪、殺さざるを得なくなるかもしれない。

 オリビアへの恋心はまだ完全に吹っ切れていなくとも、胸に秘めたままにしようと決めている。だがそれでもやはり、起こり得る窮地を黙って見過ごすなど、マティアスには出来なかった。

そのパワーだって、ナタリア程ではないけど、子供の様な見た目からは想像もつかないほど強力だ。


おまいう





ナタリアの新装備の詳細は次回以降で触れます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] オリビア!丸太は持ったな! [一言] 竜人が実力至上主義だったらオリビアさんが頂点に立ちそう(゜ω゜)
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