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第37話 妹弟を見ていると、いつもほっこりさせられる。(2)

     ◇◇◇


 家に帰って昼食を取ってからは、琴葉と俺の部屋でだらだらと過ごした。


 ベッドに寝転がって漫画を読んで、少し小腹が減ったら適当にお菓子を食べて。一シリーズを一周読み切るころには、外も暗くなっていた。


「そろそろ和葉たち、帰ってきたんじゃない?」

「そうだね。じゃあプレゼント渡しにいこっか」


 琴葉の言葉を聞いて立ち上がり、玄関を出て一つ隣の龍沢家へと移動する。


「ただいまー」

「お邪魔します」


 靴を脱いで家に上がり、リビングを覗く。


「あら、佑斗くん。いらっしゃい。琴葉もおかえりなさい」

「こんばんは。和葉は帰ってますか?」

「あぁ、多分唯ちゃんと一緒に部屋にいると思うわよ。ちょうどさっき帰ってきたところなの」


 夕飯の準備をしていた琴葉の母さんに確認して、二階へと上がる。


「和葉、今ちょっといいかー」

「……」


 部屋のドアをノックするが返事はない。 


「おーい、和葉―」

「入るよー」


 一向に反応しない和葉たちにしびれを切らした琴葉が、そういってドア開くと――。


「……やっぱ俺たちの妹と弟だな」

「……うん」


 ベッドの上で、二人仲良く寝息を立てていた。


「こないだは俺たちにありえないだとかいろいろ言ってたのにね」

「これは、形に残してあげるしかないね」


 琴葉が足音を殺してベッドに近づき、スマホに二人の寝顔を保存する。



「プレゼントにちょうどいいかなって。印刷すれば写真立てにも入れられるしさ」



 彼女はにこりと笑ってそれだけ言うと、忍び足で部屋を出て自分の部屋へ行ってしまった。



「良かった。前に買った写真用の印刷用紙が残ってて」



 後を追うように琴葉の部屋に入ると、ほら、と一枚の写真を手渡された。

 そこには唯と和葉のさっき取られたばかりの写真がカラーでプリントされていた。


「これ渡すの?」

「うん。二人とも照れるだろうけど、もうカップルなんだから全然いいでしょ」


 まあ確かに、前に俺と琴葉が同じような状況になったときには、付き合ってもいないのにそんなんだからおかしいと言われたんだった。


 その理屈で考えるならすでに付き合ってる二人がベッドで添い寝していたって別におかしいことではないはずだ。他人に見られて恥ずかしくないことではないとは思うけれど。



「まあ、琴葉がそういうならそれでいいんじゃない?」



 結局、俺は琴葉に任せて好きにしてもらうことにした。



「琴葉、和葉! ご飯できたわよー。佑斗くんたちも食べていくでしょ? 降りてらっしゃい」



 一階のキッチンから聞こえてきた声に、「はーい」と二人して返事をする。


「和葉と唯ちゃんも起こさないとだね」

「そうだね」


 この後、俺たちに声をかけられて寝ぼけ眼を擦る二人が、お互いの顔を見合わせてこれまでにないくらい赤面したのは言うまでもない。



     ◇◇◇



「二人とも、今日は一日お出かけしてたから疲れちゃってたのよねー」



 夕飯を食べ終わり、ふと二人の添い寝の話になったところを琴葉の母さんがフォローする。


「いやー、それにしてもラブラブって感じだったよ。ねぇ、ゆーくん」

「そ、そうだな。妹たちのあんな姿を見ることになるとは、なんともこそばゆかった」


 琴葉に続いてそうおどけた俺を、唯が無言で睨んでいた。


 やめろ、そんな目で兄をみるんじゃない……。


「(琴葉、そろそろ渡してもいいんじゃないか?)」

「(ん? あぁ、そうだね)」


 妹の視線から逃げるように提案すると、琴葉が席を立って部屋にプレゼントを取りに行く。


「姉ちゃん、どうしたの?」

「あぁ、部屋にスマホ忘れてきたから取りに行くって」

「ふーん」


 そんな会話をしている間に、紙袋を持って戻って来る琴葉。


「和葉、ちょっと遅れちゃったけど誕生日おめでとう。これ、私とゆーくんから」

「え? 姉ちゃん、ちゃんと覚えてたの?」

「あ、当たり前じゃん!」

「(三日前まではちゃんと思えてたもんね)」

「ちゃっ……ちゃんと覚えてたよ⁉」


 琴葉の反応を見てくすくすと笑う俺とは対照的に、和葉の瞳は少し湿っているようにも見える。


「ありがとう姉ちゃん、ゆう兄」

「遅れてごめんね」

「どういたしまして」


 なんとも思いのほかいい感じの雰囲気になってしまったが、しかしそんな空気もお母さんパワーの前では無力だった。


「あら。そういえば和葉、このあいだ誕生日だったのねー。私ったらすっかり忘れてたわ、ごめんなさいねー」

「……息子の誕生日を忘れる親なんてそうそういないよ」


 今、この場で息子の誕生日を思い出した琴葉の母さんに、和葉は大きく息を吐いて「まあいいけど」と付け足す。



「そういえば、これも。プレゼント、写真立てだからさ。ちょうどいいかなって」



 琴葉が思い出したように差し出した寝顔のツーショット写真を見て、二人は顔を真っ赤に染めた。



「おい姉ちゃん、盗撮だぞ! ゆう兄も止めてよ!」



 そうは言いつつも写真を受け取る和葉を見て、おばさんが「あらあら」と嬉しそうに笑う。そんな賑やかな輪の中で、和葉が近づいてきて小声で俺に言った。


「(ゆう兄、ありがとね)」

「ん? あぁ」


 きっと和葉のことだから、俺が誕生日を家族に忘れられたと愚痴っていた自分に気を回して、琴葉にそれとなくそのことを伝えたんだと察したんだろう。


 まあでも実際、三日前までは琴葉も覚えていたんだから、俺が言わなくたって琴葉の方から言い出して一緒にプレゼントを買いに行ってたのかもしれない。


「ゆう兄」

「ん?」

「……いや、やっぱなんでもない」


 何か最後に言おうとして、結局言わずに自分の席へ戻る和葉。


 そんな中、ツーショットのデータを琴葉からこっそり送ってもらおうとしていたわが妹に気づいて、俺は頬を少し緩ませた。




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