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第31話 テスト前日に課題に追われると、翌朝になってから後悔する事がままあったりする。(2)

     ◇◇◇


「むぅ、ゆぅ……くん」

「んん……琴葉? ちょ、ちょっと離れろって!」

「むぅう……」


 翌朝。中間試験一日目。


 琴葉の寝相の悪さは相変わらずのようで、彼女はベットからずり落ちて、その下で眠っていた俺を羽交い絞めにしていた。


 ただ、なにも俺は琴葉にくっつかれるのが嫌で彼女を引き剥がそうとしたわけではない。


「琴葉、早く起きて! 遅刻するよ!」

「……ん? えっ⁉ 今何時?」


 その質問に俺は答えない。答えるまでもなく、体を起こせば正面には時計があるからだ。


 八時十分。登校時間の八時半まであと二十分。家から学校までは歩いてちょうど二十分である。


「制服は持ってきてる?」

「うん。全部そろってるよ」

「じゃあとりあえず着替えて、下に降りてきて。俺は先に下に行ってるから」

「了解!」


 俺は自分の着替えと荷物を持って、足早に一階へと向かう。


 制服に着替えて、外に出て、玄関を開けたまま最近使っていなかった自転車に鍵を差し込んだ。



「ちょっと、空気が少ないかな……」



 自転車を玄関前まで持っていき、空気入れで少しだけエアーを足す。


 俺の家から学校までの距離では図ったかのようにギリギリで自転車通学が認められていないので普段は使っていないが、この際そんなことは言ってられない。


 そうこうしている間に琴葉も準備が整ったようで、家の中から勢いよく飛び出してきた。


「ゆーくん、自転車で行くの?」

「そうしないと間に合わないからね」


 玄関の鍵を閉めて自転車に跨り、その後ろに乗るようにと右手の親指で琴葉に促す。


「ちゃんと掴まっててね」

「うん」


 琴葉が俺の腰をしっかりとホールドしたのを確認して、俺はゆっくりと自転車をこぎ出した。最初は少しふらつきながら、それでもスピードが上がってくると、なんとか安定して運転できるようになった。


「なんか、久しぶりだね。小学校以来?」

「そうだね。ここが田舎でよかったよ」


 昔、近くの公園で少しだけ二人乗りの練習をしたことがある。


 公園とは言っても遊具などは一切なく、あるのはベンチと近所のじいさんばあさんがゲートボールをするための空き地だけ。ゲートボールの大会だとかがない限りは誰も使うことのないような、俺と琴葉がよく行く場所だった。

 

「昔とは景色もぜんぜん違うね」

「俺たちも成長したからね」


 運よく家から学校までは緩やかな下り坂。そのおかげでたいして力を入れずともすいすいと進むことができた。


 二人乗りと言うと、後ろに乗る女の子は足を揃えて横を向いた形で座るのを想像すると思う。よく漫画の表紙になったりするやつだ。


 最初はあんな座り方は漫画の中だからできるんだと、そう思っていた。横を向いて座るとなればバランスも取りずらそうだし、素直にただ荷台に跨る方が楽なんだろうと。


 しかし、実際にやってみるとこれが存外理にかなっていた。バランス的にはどちらでもたいして変わらないのだが、女子というのは厄介なことにスカートを穿く。荷台に跨るように座ろうとするとスカートが引っかかるし、股も開かなくてはいけないし、と問題が山積みなのである。


 これらを全ていっぺんに解決する座り方こそが、よく少女漫画や恋愛ドラマで見るあの横座りだった。



 閑話休題。



 ともかくそんな横座りの琴葉と二人乗りをしているうちに、気づけば学校まで歩いて二、三分ほどのところまで来ていた。


「琴葉、止まるよ」

「はーい」


 流石に校門まで二人乗りで行って生活指導の先生に目をつけられるわけにもいかないので、琴葉に声をかけて自転車を止める。


 ちなみに、止まるときにはちゃんと声をかけないと減速するにつれてバランスが悪くなって、転びそうになるから要注意だ。小学校時代の俺たちはそんな基本的なことも知らずに、よく転んだものだ。


「余裕で間に合いそうだね」

「よかったー」


 それから歩いてほんの数分。


 急いで家を出ると、なにかを忘れているように感じることがよくあると思うのだけれど、今回も例外なく俺の頭をよぎった不安は見事に的中した。


 そう。登校時間にある程度のゆとりを持って教室へと辿り着いた俺たちだったが――。


「おはよう、二人とも。琴葉は課題ちゃんと終わらせられたの?」

「うん! いやぁ、咲ちゃんが言ってくれなかったら完全に忘れてたよ。でも昨日ゆーくんの部屋でやって……ってあれ⁉」


 忘れ物をしていたのは琴葉だった。


 登校早々、課題を忘れたことに気づいた琴葉の試験初日は、まったく試験に集中できていないようだった。




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