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第26話 後夜祭は大抵、夜にはない。(2)

祝日なのでたくさん更新します!

     ◇◇◇



『――えー、それではお待ちかね、桐高ベストカップル第一位の発表です! この二人は学園祭実行委員が事前におこなった独自調査では名前の出ていなかった、ダークホースです!』


 

「(ベストカップル第一位って意味かぶってるだろ……)」

「(ゆーくん、緊張してる?)」

「(いいや、おかげさまでまったく)」


 長いように感じた学園祭もいよいよ終わりが近づき、司会者がもったいぶるように舌を巻いてドラムロールっぽい音を出す。


 あまり上手とは言えないその音も息が持たなくなったのか十秒も持たずに止み、そして体育館にいる全校生徒のざわつきが一瞬、止んだ。



『今年の桐高ベストカップルは二年二組のロミオとジュリエット――立花祐斗くんと龍沢琴葉さんです!』



 俺と琴葉は司会に導かれて、鳴りやまぬ拍手の中スポットライトの当たった舞台上へとゆっくり歩く。


『おめでとうございます。どうですか、なにか一言』

「そ……そうですね、まさか自分が選ばれるとは思ってもみなかったので、まあこれも琴葉のおかげかなと」

『いやぁ、こんなときにも彼女さんを立てるなんていい彼氏さんですねー』


 急にマイクを向けられて適当に返すと、生徒たちからヒューヒューと指笛が聞こえてきた。


 なんともこそばゆい。


『二人はなんと保育園からの付き合いで家も隣同士だという話ですが』

「はい。もうほとんど家族みたいなもんですね」

『ミス桐高三位の幼馴染だなんて、なんとも羨ましいですね!』 

「まあ自分の唯一の誇れるところですかね」

 

 かなりのハイテンションで畳みかけてくる司会者に、俺は苦笑しながら答えた。琴葉が三位というのには納得がいかないが、この際突っ込まないでおいてやろう。


『龍沢さんはミス桐高に続いての入賞ですが、なにか感想をお願いします』

「やっぱり、ゆーくんと二人で一番を取れたって言うのがすごく嬉しいです!」

『いやぁ、これまた惚気てくれます。ちなみに僕は絶賛彼女募集中ですので、興味のある方はこちらの宛先まで!』   


 彼はくぅ、と高いうなり声を上げると空中をなぞるように指を動かし、会場の笑いを誘う。


 きっと彼の中では今あそこにメールアドレスのテロップが出ているんだろう。


『ところで、昨日のロミオとジュリエットは見事でしたね。聞いた話によると最後はアドリブだったとのことですが、実際どうだったんでしょう?』

「はい、ちょっと裏でトラブルが起こっていて、ラストシーンを少し変えなければならなくなってしまって……」

『なるほど。それにしてもアドリブでキスシーンを挟んでくるとは二人だからこそできたんでしょうね』


 うんうんと頷きながらひとりで納得する司会。



「……」



 俺たち、付き合ってないんですけど。


 と、俺は言いかけて呑みこんだ。


 まあ全校から付き合っていると思われるのも悪くない。むしろよい。最高。



『というわけで、桐高ベストカップルに選ばれたお二人でした! このあとは各学年の発表の優秀賞の発表となります。今しばらくお待ちください』



 ようやく四面楚歌ばりの視線から解放され、俺は琴葉と一緒に舞台袖に座り込む。


「やっと終わった……」

「ほんと、長い二日間だったねー」

「長い一か月だったよ」


 思い返せば、この一か月で本当にいろいろなことがあった。


 今までにないくらいの長い期間琴葉と口を利かなかったし、瑛太と咲の大喧嘩にも巻き込まれるし。それだけじゃ足らずに学園祭の劇の主役の代役をやることになるだなんて、思いもしなかった。


「濃かったなぁ……」

「学祭が終わったら今度はテスト期間だよ」

「ちょっとは休ませてほしいな……」


 ため息を一つ吐いて、俺は立ち上がる。


「また、勉強教えてね」

「当たり前だろ」

「えへへ」


 可愛くはにかんだ琴葉も、俺の差し出した手を掴んで腰を上げる。



「さっ、もう後夜祭も終わりだよ。席に戻ろう」



 これが終われば片づけをして、もう今年の学園祭も終わり。そう考えるとなんとも言えぬ焦燥感に襲われた。


「うん。まだぜんぜん昼過ぎだけどね」

「ほんとな」 


 目を合わせて、二人で笑い合う。


 昼過ぎとも夕方ともとれるこの時間にその名前とは、本当になんで後夜祭と名付けたのか。



『――それでは、各学年の優秀賞を発表します』



「あっ、もう発表するみたいだよ。早く戻ろ!」

「うん」



『一年、優秀賞……一年四組。二年、優秀賞――』



 結局、俺たち――二年二組の劇はぶっちぎりの得票差で優秀賞をとり、教室に戻ってからもそのことで大盛り上がりだった。



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