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第21話 学園祭では当然のようにトラブルが起こる。(2)

     ◇◇◇


 そういえば、俺は関係ないと思ってよく聞いていなかったが、今日の朝八時から劇のキャストのみでセリフの最終確認を教室でやろうと、そんなようなことを昨日の夕方言っていた。


 委員長が今さっき八時に少し遅れて登校して来たところ、教室をのぞいたらキャストでは瑛太と咲だけがまだ来ていなかった。それで彼は職員室に二人から連絡が入ってないか確認へ行き、先生から帰ってきた返事が二人仲良く熱を出したというものだったと、そういうことらしい。


「おいおい。主役がいないんじゃ、いくら何でも劇できないぞ?」

「どうすんだよもう。なんで本番当日に休むかなあ! もう!」

「あたしたちのクラスの発表、どうなっちゃうの?」


 二人の欠席を知って口々に話し始めた他のキャストたち。  


「二人だって休みたくて休んだわけじゃないだろ。それよりも、劇を中止にしないためには……」

「代役を立てるしかないでしょうね」  


 彼らを黙らせたのは、委員長と鮫島だった。


「代役と言ったって、そんなすぐにできる奴なんていないだろ。台詞だって、主役の二人は結構な量だし」


 俺はすぐに現実的な問題を指摘してやったが、委員長はにやりと笑ってメガネのふちを中指でくいっと上げた。



 まずい。なんだか嫌な予感がする。



「ああ、そうだな。でも立花、お前は日向の練習に付き合ってたよな。龍沢は真島の練習に。二人とも、台詞はだいたい頭に入っているんじゃないか?」

「……いやいや。台詞はまあ、なんとなく覚えてはいるけど、練習に付き合わされて台詞を読むのと舞台で役を演じるのじゃまったく違うだろ。それに琴葉は台詞覚えてないかもしれないし」 

「私、ぜんぶ覚えてるよ!」

「だ、そうだが?」


 琴葉の言葉を聞いて、より一層口角を釣り上げた委員長。


 しかし、今まで黙っていたキャストの何人かが口を開く。


「そいつらに本当にできるのかよ」

「目も当てられないような失敗するくらいだったら、仕方ないけど中止にした方がいいと俺は思うけど」


 いいぞモブキャラたち。もっと言ってやれ!


 始業式の自己紹介の件以来、一定の距離を置いてきていたクラスメイトたちがこんなところで役に立つとは。あまりいい気はしないけれど。


「ほら。皆も今日まで一生懸命練習してきただろうし、そんな中に俺らが急に入っていっても場違いだろ?」

「皆がここまで頑張ってきたからこそ、なかったことにはしたくないんじゃないか」

「そもそも俺はこういう劇なんかに出るようなキャラじゃないんだよ。正直言って向いてないし、出たら大失敗するかもしれないぞ?」

「――ねぇ、ゆーくん」


 俺も委員長も譲らず押し問答を続けていると、琴葉が俺の名前を小さく呼んだ。 


「なんだよ、琴葉」

「私、やってもいい……というか、ちょっとやってみたいかなぁ、なんて」


 遠慮がちにへへっと笑う琴葉に、俺は少しどきっとする。


「ほら、龍沢もこう言ってるし」

「ゆーくん、だめ?」


 琴葉が上目遣いでじっと俺を見つめてくる。


 ずるい。それはずるい。


「よし。じゃあ、いまからキャスト全員で通し稽古をやってみて、その様子を見てどうするか決めるってことでどうだ? それで二人の演技が良ければ、皆も文句ないだろ?」 

「あ、ああ」

「まあ、それなら別に……」


 おい皆、言いくるめられるんじゃない。


「ってことでどうだ立花、引き受けてくれないか?」

「……」 

「ゆーくん、やってみようよ」

「ま、まあそういうことなら……」


 おい! 言いくるめられるな俺!


「じゃあそういうことで。皆、最初のシーンからやるぞ。立花と龍沢は台本で台詞と立ち位置を確認しながらでいいから、なんとか頑張ってくれ」

「あ、ああ」

「うん。分かった!」


 嬉しそうに笑う琴葉を見て、俺は大きく息を吐く。


 確かに俺だって、急な代役に抜擢されて活躍する、なんてことに憧れたこともある。でもいざその舞台に立ってみれば緊張で動きは固くなるし、なにがなんだか分からなくなるし。自分にはきっとそういうことは向いていないんだと思い知らされることになるんだ。


「よし。ナレーション、冒頭から読み始めてくれ」

「ヴェローナという美しい町には、気品のある名家が二つあった。両家は古くから不仲で敵対しており、不運にもそんな宿命に隔たれて生まれたのがロミオとジュリエットであった――」


 半ば強引に押し切られた俺をよそに、ナレーターは冒頭を読み始めた。





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