第18話 自称進学校の学園祭は、大抵夏前にある。(4)
◇◇◇
「えぇ、学園祭もいよいよ今週末となりました。皆で成功できるように、今日もしっかり頑張りましょう」
「おっしゃー」
「いよいよだな!」
「やばいよ。まだラストシーンで使う背景画、半分もできてないよ……」
「暇な奴いたら、こっち手伝ってくれー」
学園祭までもあと四日となり、クラスにも日に日に熱気が増してきたのが肌で感じられる。
委員長の言葉に皆が次々と反応し、各々もう準備万端な者、とにかく自分の仕事に打ち込む者、暇そうに駄弁っている者と様々だった。
「委員長、これ俺が担当してた短剣。あんまり出来は良くないかもしれないけど、大丈夫そう?」
「あぁ、十分な出来だよ。ありがとう。それより立花、もしやることがないようだったら買い出しに行ってきてほしいんだけど」
「あぁ、全然いいよ。なにを買ってくればいいんだ?」
「このメモに全部書いてあるからそれを買ってきてくれ。あ、持ち合わせはあるか? あるならレシートを取っておいてもらって、あとで返すけど」
「分かった。じゃあお金は帰ってきてからで」
委員長に渡されたメモを持って、俺は教室を出る。
琴葉とは相変わらず、ほとんど話していない。こんなに話さない期間が長いと、元通りに仲直りできるのか、心配になってくる。
「祐斗、私も一緒に行くわ」
「一人で十分だよ」
「ついてってやってくれって委員長に頼まれたのよ」
むしろ最近は、鮫島とよく話すようになったと思う。
俺から話しかけているわけではないが、下校が一緒になったりすることもあって、まあ琴葉よりも絡んでいる。
「えっと、普通のガムテープと透明なテープを五個ずつ、あと油性のカラーペンも三セットくらいだって。段ボールは言えばタダでもらえるらしいから、それでいいわね」
「そうだな」
学校から歩いて十五分くらいの場所にあるホームセンターに着き、メモを見ながら目当てのものをかごに入れる。
「ねぇ、祐斗。あなた、まだ龍沢さんと仲直りしてないの?」
「あ、あぁ。原因も分からないし……」
俺が鮫島に弱音を吐くなんて、少し前までだったら考えられなかっただろう。
「じゃあもういっそのこと、本人に直接聞いてみたらいいじゃない」
「いや、最近は俺が話しかけようとするとあいつ逃げるんだよ」
「家に押しかければいいじゃない」
「あ……」
そうか、その手があったか。
「家が隣なんだから、その地の利を使わない手はないでしょうが」
「確かに部屋まで行っちゃえば逃げられる心配もないな」
「ちょっと。犯罪臭がするわよ」
「いやぁ、盲点だった。まさか鮫島に感謝する時が来るとはな!」
「感謝してるんだったら、ちょっと私のことも名前で呼んでみなさいよ」
「ありがとう、鮫島!」
「……」
流石ぶれない俺! 琴葉一筋だぜ。
そんなに呼び方なんてこだわるものでもないと思うんだけど。
一通りの買い物を終えてからもジト目でずっとこちらを見つめ続けてくる鮫島。そんな彼女をいなすように、俺は駐車場の脇ににあった屋台で中華まんを奢ってやった。
「肉まんとあんまん、どっちがいい?」
「肉まん!」
「はいよ」
鮫島に肉まんを渡して、残ったほうを一口かじる。
「あっま……」
「んんー美味しいー」
くそ、琴葉が甘いもの好きだから、いつもの癖であんまんも一つ買ってしまった。
女子だから鮫島も甘い方を選ぶだろうと思ったのに、大誤算だ。俺は肉まんが食べたかったのに。
「……やっぱりあんまんも食べたくなったわ。半分ずつ交換しましょ」
「お……おぉ、仕方ないな」
鮫島は俺が手に持っているまだひと齧りしかしていないあんまんを見つめると、それを取り上げて代わりにきっちり半分に割った肉まんを渡してくる。
「うわ、これ甘いわね」
「あんまんだからな」
「甘すぎでしょ……」
「こ、この肉まんはもう俺のもんだからな!」
「……」
すっごい冷たい目で見つめられた。やだ、やめて。
「ごみ貸して。捨ててくるから」
「おぉ、悪い」
結構ゆっくりなペースであんまんを食べ終わった鮫島に、肉まんが入っていた袋を渡す。
いや、俺だって相手が琴葉だったら自分がごみを捨てに行くよ? 別に気が利かないわけじゃないからね?
すぐ近くにあったゴミ箱から戻ってきた彼女と、また学校へと歩き出す。
「ねえ」
「なんだよ」
「最近の龍沢さん、すごく寂しそうに見えるわ。だからちゃんと、思っていること全部話してみてね」
「……言われなくてもそうするさ」
「そう」
そこからは終始無言。
沈黙の流れる帰り道だったが、俺の心からは少しばかり雲が晴れていた。
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