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決意を胸に

 スタンピード、その単語を聞いた時、霧崎恵はいても居ても立っても居られなくなった。もちろん恵にだって、恐怖心はある。しかし、それ以上に使命感が湧いたのだ。


 現在、恵は今までにないスピードで、モンスターが大量発生しているという現場を目指して駆けている。それは、新たに取得したスキルの恩恵だ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 名前/霧崎 恵

 種族/人間

 年齢/15

 レベル/2

 職業/騎士


 HP : 45/45

 MP : 18/22


 物理攻撃力 : 55

 物理防御力 : 60

 魔法攻撃力 : 21

 魔法防御力 : 25

 敏捷    : 48


 スキル  怪力 自然治癒向上 幸運 盾術 疾駆

 称号   ー


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 職業を騎士に選択したことで、恵は盾術と疾駆という新たに2つのスキルを獲得することができたのだ。疾駆はMPを消費することによって、一時的に高い走力を得ることができるスキルで、今発動しているのがこのスキルだ。職業を選択した瞬間、朧げながら自分の持つスキルの使い方がわかったお陰で発動できている。


 スキルについて理解を得たことで、恵はまるで何でもできるような全能感を感じた。しかし、恵は自分がたったレベル2の騎士でしかないこともわかっている。自分に出来ることは限られているだろう。この先に自分一人が行ったところで、ほんの少しだけ地上にモンスターが出るのを遅らせることしかできないかもしれない。それでも……


「私も立ち向かうんだ」


 恵は自分を奮い立たせるように呟いた。


 恵の父親は正義感の強い人だった。警察官という職に就いており、その大きな背中はとても頼もしい人だったのを今でも覚えている。

 仕事熱心だが不器用で、年頃の娘である恵に対しても気の利いたことはできなかった。あまり家におらず、遊園地や動物園、旅行や誕生日のお祝いといったイベントに父がいたのは、片手で数えられる程度だろう。それを不満に思ったこともある。

 それでも、恵が小学校の頃、自分より年上で体の大きな男の子が同じ小学校の子を虐めているのを見過ごせず、喧嘩をして怪我を負った時、学校の先生から電話をもらった父は真っ先に駆けつけてくれた。そして、恵と真剣に向き合って状況を聞き、情報を集めて先生と男の子、そしてその子の両親と真剣に話し合い、解決に導いてくれた。

 その時、父は恵に何かあった時は必ず助けに来てくれる人なのだと心強く思ったのを覚えている。


 そんな父は、ダンジョンでスタンピードが起きた時も、真っ先に立ち上がった。日本で起きてしまったスタンピード。ダンジョンから溢れ出てくるモンスター達から、逃げ惑う人々を助けるために立ち向かい、最後まで前線で戦ったと父親の同僚から聞いた。そう、最後まで。

 父に助けられたという人の感謝の言葉を聞いた。父がモンスターに立ち向かう姿を見て、自分も立ち上がったのだと言う人がいた。父に庇われて、父の命の代わりに生き延びたという人の懺悔の言葉を聞いた。


『誰かを助けられる、優しい人になりなさい』


 恵が小さな頃、父親が恵の頭をゴツゴツとした硬い手で撫でながらよく言っていた言葉だ。今でもまだその言葉を、その感触を覚えている。


 自分がだんだんと喧騒に近づいているのがわかる。あと少しで目的地に辿り着くのだろう。


「ごめんなさい」


 そんな時、恵の口から漏れたのは、謝罪だった。


 父が亡くなってからも、母は気丈に振る舞っていた。母は会社勤めで忙しい中、今まで以上に恵との時間を作ってくれた。


 恵が冒険者を目指すと言った時、母には最初反対された。それでも自分の意思を曲げない恵をみて、最後には折れてくれた。


『まったく、頑固なところはあの人にそっくりね』


 そう言って母は少し悲しそうに笑った。


 そして、彰の両親。父親を亡くした恵に寄り添ってくれた。そもそも父親が亡くなる前から、共働きの両親に代わって何かと気にかけてくれ、遊園地や動物園、博物館などおおよそ家族で行くであろう場所に行く際は、恵も一緒に連れて行ってくれた。もっとも、行き先に歴史博物館が多かったことには、恵とアキラのおばさんとでうんざりしていたのだけれど。


 そして、彰。何かあったら絶対相談すると約束した(させられた)のに、今こうしてそれを破ってしまった。いつも自分のことを気にしてくれる幼馴染。こんな優しい幼馴染は自分には勿体ないだろう。しかし、その幼馴染を自分は裏切ってしまったのだ。


 (私が馬鹿で無謀なことをしているとはわかっている。でも、ここで引いたら私はお父さんに胸を張れない!)


 例えこれが最後になろうと、大好きな父が胸を張れる娘でいるために。震える手をギュッと握りしめた。


 そして広間に到達した恵が見たのは、高梨先生が3mはあるであろう一つ目の巨人と対峙し、2人の生徒と1人の先生が他の多くのモンスターを必死に食い止めている姿だった。押し寄せるモンスターの波に、1人の生徒がバランスを崩したところへ、恵は全力で駆け寄った。そしてその勢いのまま盾術のスキルを発動させ、手にした盾でモンスターへ突撃し、押し返した。


「助けに来たわ!」


 恵は自分を奮い立たせるように大きな声でそう言った。

読んでいただきありがとうがざいました。

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