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一つ目の巨人

 ダンジョンの奥から出てきた3人は、男子生徒1人と女子生徒2人という組合せだった。その内、女子生徒の1名は男子生徒に背負われている。


 奏太はパーティーメンバーの前に立って手で制し、警戒しながら近づいた。姿がはっきりと見える位置まで近づき、それぞれの様子を伺う。男子生徒は茶髪のショートヘアで160cmくらいの身長、その男子生徒に背負われた女子生徒は気を失っているようで、顔の前に垂れた自分の黒い髪で顔は見えない。もう一人の女子生徒はジャージ姿がよく似合うバレーボールか何かをやっていそうな170cmを越すだろう高身長の女性だ。黒い髪をポニーテールにまとめた頭の上に、白いウサ耳があった。生徒たちのジャージは所々が破れ、血が滲んで出来たであろう黒ずんでいる箇所も見える。全員が少なくない怪我をしているのが見て取れる。

 現在ダンジョンに入っているのは、奏太達を含むFクラスのパーティー2組と、Eクラスのパーティー2組の計4パーティーだ。奏太は同じクラスの全員の顔を覚えているわけではないが、少なくとも同じタイミングで入っているもう1組のパーティーではないことはわかった。つまり、今目の前にいるのはEクラスのパーティーということだ。


「君たちは、どこのクラスのパーティーだ?」


「私たちは、Eクラスです! Eクラスのパーティーです。ユカが、ユカが頭に怪我を負って目を覚まさないんです! 助けてください!」


 確認のため奏太の問いかけに女子生徒が答えて、助けを求める。奏太は更に男子生徒に近づいて、「失礼」と言った後に気を失っている女子生徒の髪を手で避けて様子を確認する。

 女子生徒は頭から少し血を流していた。そして気を失った状態で、荒い呼吸を繰り返している。生徒達に嘘は無く、危険性はないと判断した奏太は自分のパーティーメンバーに振り返る。


「美緒、こっちに来てくれ! 背負われてる子に回復魔法を頼む」


「わかったわ!」


「玲奈と恵は通路奥側の警戒を、彰は退路側の警戒を頼む」


 戦闘力の高い玲奈と恵を危険の高そうなダンジョン奥側へ、安全の確保が優先的な出口側へ彰を配置することにする。


「「「了解です(よ)!」」」


 奏太の指示に従って、パーティーメンバーが動き始めた。玲奈と美緒と彰は奏太たちを囲むように立ち、それぞれが手に武器を構えて、警戒を強めた。

 そして、奏太の隣に来た美緒は、まず気を失っている女子生徒の患部を確認し、その後患部の前に手をかざした。


「癒しの光をここに、"ヒール”」


 そう呟くと美緒の手から、柔らかな光が患部へと降り注いだ。回復魔法にどこまで効果があるかわからないが、今は少しでも効果があることを信じるしかない。奏太は気持ちを切り替え、Eクラスの生徒に問い掛ける。


「この先で、何があったか教えて欲しいんだが話せるか?」


「ば、化け物がいたんだ! 一つ目の!」


 奏太の問いに答えたのは男子生徒だった。女子生徒は心配そうに怪我をしている女子生徒の治療を見守っている。


「この先に行ったところで突然、アイツが出て来たんだ! 最初はなんとか戦ってたんだけど、あの化け物は強すぎて全然倒せないくて、……そしたらいつの間にかダンジョンの奥から沢山の魔物が出て来てて、先生とセイジが、俺たちは先に行けって……。逃げて助けを呼べって! 俺が、……俺が調子に乗ってこんなとこ入ろうとしなければ!」


 男子生徒は気が動転しているようで、話し終えた後、涙を流し泣き始めてしまった。これ以上は会話にならなそうだ。少し迷い、美緒が治療している女子生徒を見ると進展が見えた。どうやら想像以上に回復魔法は効果があるようだ。女子生徒はまだ気を失っているようだが、荒い呼吸は落ち着きを見せ、血の流れも止まっている。

 治療を終え、ふぅと汗を拭った美緒は言う。


「ごめんなさい。私ができるのはここまでみたい。回復魔法は魔力消費量が多いみたいで、これ以上は使えないわ」


 回復魔法は怪我の規模によって、魔力の消費量が変わるんだろうか。そんな考察をし始めようとした思考を振り払い、美緒に答える。


「いや、充分だろう。見たところ容態も落ち着いている」


 ウサ耳女子に視線を移すと、怪我をしていた女子生徒の容態が落ち着いたことにホッとしたようで先ほどより、落ち着きが見えた。奏太の視線に気づき、目があったウサ耳女子に問う。


「簡単に状況を説明できるか?」


 するとウサ耳女子は、「はい」と声を震わせながら返事をした。そして彼女は、今の状況を簡潔に表す一言を放った。


「スタンピードが起きたみたいです」


 その発言にその場にいる全員の空気が凍りついた。無理もないだろう。スタンピード、それはダンジョンが出来て地上にもたらした新たな災害だ。ダンジョンからモンスターが溢れ、地上を目指して行進する。そして、地上へ出たモンスター達はダンジョンの脅威を示すが如く、暴虐の限りを尽くすのだ。

 奏太は冷や汗をかきながらも、ウサ耳女子に話の続きを促す。


「ここから少し先に開けた場所があって、そこに一つ目の巨人がいました。そこで戦っていたら周りの小さな穴からモンスターが溢れて来て、私たちは囲まれてしまったんです。……モンスターはこの階層で出るキャタピラーやバグアントだけではなく、数は少ないですが獣型のモンスターもいました。そこで……こほっ」


 話すほどに声がかすれて行き、軽く咳ごんだ。おそらく、水分を取る暇もなかったのだろう、奏太は自分の持ち物からペットボトルをウサ耳女子に渡した。ウサ耳女子は躊躇いがちに、しかし続きを話すために一口ペットボトルから水を飲んで喉を潤し、続きを話す。


「そこで、モンスターに囲まれていた私たちを、助けに来てくれた高梨先生がモンスターの群れを薙ぎ払って撤退できる出口側に連れ出してくれたんです。でもモンスターは倒しても倒しても減らなくて……。私たちに逃げろって、今は私たちのパーティーメンバーの2人と私たちを引率してくれていた現国の藤野先生と高梨先生が出口側を守ってくれていますけど……」


 ウサ耳女子の言葉はそこで終わってしまった。破られるのは時間の問題、そう話が続くことが容易に想像できた。


「そうか……」


 奏太はダンジョンの奥を睨みつける。この先にいる人たちを助けたいのは山々だが、自分たちが行っても焼け石に水だ。今の話を聞く限り、迷っている暇はない。急いで脱出しよう、そう結論付けた奏太の耳にふと声が聞こえた。


「ステータス」


 それは恵の声だった。奏太が恵を見ると何やら自分のステータスを操作し始めた。嫌な予感がして声を上げようとした奏太に先んじ、こちらを向いた恵は覚悟を決めた瞳で言う。


「私がこの先で食い止めるから、みんなはこの子達を連れて逃げて!」


 言うや否や恵は、ダンジョンの奥へと駆け出した。


「メグ!」


 彰がそれを見て叫ぶ!


「ダメです! 恵さん、待ってください!」


 そして、恵のすぐ近くにいた玲奈は反射的に恵を追って走り出した。


「待て、二人共!」


 奏太が声を上げるも時すでに遅く、あっという間に二人の背中がダンジョンの奥に消えて行く。自分も追うべきか、しかし、自分が抜けた後、ここにいるメンバーは安全にダンジョンを脱出できるだろうか。美緒は先ほどの治療でほぼ魔力がない状態だ。気を失っている女子生徒はまだ目覚める様子はない。それに気が動転しているEクラスの男子生徒は戦力として見れない。そこで奏太はウサ耳女子に声をかける。


「君はまだ、戦えるか?」


 空気を察したであろうウサ耳女子は神妙に頷いた。


「はい!」


 俺は彰と美緒に目を向ける。二人は自分達も残りたいという思いはあるようだが、それが厳しいということを理解しているようで、悔しそうな顔をしていた。


「よし。なら、俺は恵と玲奈を連れ戻しに行く! 彰と美緒はこの3人と一緒に外へ出て、先生達に状況を伝えて助けを呼んでくれ!」


 彰と美緒は奏太の指示に頷いた。


「ごめんよ、奏太。僕が付いていながらメグを止められなかった。メグが無茶をするかもしれないのを、僕はわかってたのに……」


 悔しそうに唇を噛む、彰の肩を叩いて言う。


「気にするな。あの配置にしたのは俺だ。それにさっきのタイミングでは誰でも止めるのは無理だ。それより、脱出の引率は彰が主導になる。頼りにしてるぞ」


「わかったよ。こっちは任せて。だから奏太、……メグを頼むよ」


「奏ちゃん、玲奈もいざという時無茶しちゃう子だから。だから……」


 奏太は手でその先を言うのを遮った。


「ああ、心配するな。俺が必ず連れて戻る。だからお前達は、こっちの心配はしなくていい」


 そしてにっと笑った。


「任せとけ、俺は逃げ足には自信があるんだ」

読んでいただきありがとうございました。

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よろしければこちらも読んでみてください。 もふっとダンジョン
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