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ダンジョン3

(う〜わ……この芋虫鳴くの? 気持ちわる!)


 キャタピラーの不気味な鳴き声に奏太の肌がぞわぞわと泡立った。とはいえまだキャタピラーは遠くにいるので、今は無視を決め込むことにした。まずは間近に迫ったバグアントの対処が先決だ。


「俺は左の蟻を対処する!」


 そう言って奏太は一番最初にこちらへ到達したバグアントに向かって駆け寄り、木刀で足の関節へ一撃を加えて、バグアントの気を自身に引きつけ再び距離を空けた。相手の動きは速くないし、落ち着いて対処すれば問題なさそうだ。そう思いながらこちらに迫るもう2体のバグアントに意識を向けるとバグアントを無視し、複数の石がキャタピラーに飛んでいくのが見えた。なぜ? という疑問を奏太が抱いたとき玲奈の声がした。


「奏ちゃん! なにかおかしな感じがします! どうしても意識がキャタピラーに向いてしまって、バグアントに狙いが定められません!」

「ごめんなさい、こっちもよ! バグアントに上手く攻撃ができないわ!」


 恵は迫ってきた2体目のバグアントに対して盾を構え、前足での押さえつけや牙での攻撃をなんとか捌いているが攻撃がうまくできないようだ。あの特異個体のキャタピラーが何かやったということだろう。しかし、奏太は自分自身には異常がないことに疑問を疑問に思いつつ、他のメンバーにも確認する。


「他のやつも同じか⁉︎」

「ああ、僕も同じだよ」

「ええ、私もよ!」 


 彰と美緒が答えに内心唸る。バグアントはそんなに強くないとはいえ、このまま攻撃ができないのでは後から来るであろうキャタピラーの対処まで面倒になってしまう。自分がバグアント達を受け持って、他のメンバーには特異個体のキャタピラーに専念してもらった方がいいのか迷う。


「おそらく挑発に似たスキルを持っているんだろう。私も助太刀する」


 高梨先生が薙刀を構えながら前に出てきた。まだ、致命的な場面ではないとはいえ不測の事態に備えるためだろう。

 奏太は高梨先生の助力に感謝し、作戦を決めた。


「俺が蟻を相手する! お前たちは芋虫を全員で倒すんだ!」


 奏太は返事を待たず、恵が対面している2体目のバグアントに横から木刀で腹部を突き刺し、バグアントの意識をこちらへ向けさせた。


「でも…」

「大丈夫、逃げ回るのは得意だからな。時間稼ぎは問題ない。俺より早く倒してヘルプ頼む!」 


 メンバーの戸惑いを苦笑いしながら振り払い、はよ行けと促す。


「「了解!」」


 奏太はパーティーメンバーがバグアントを避けつつキャタピラーへ向かうのを見届けた後、3体のバグアントとの戦いに意識を切り替えながら高梨先生に話す。


「先生もみんなのサポートをお願いします。あの芋虫の能力がそれだけとは限らないので」

「わかった。だがこちらも念のため数は減らしておこう」


 そう言って高梨先生は遅れてやってきた3体目のバグアントに向かい中段の構えをとり、バグアントが先生を押さえつけようと振り下ろした右足をスッと体捌きで躱すと同時に左足を薙ぎ払い体勢を崩し、続けてバグアントの横を掛けながら薙刀を振り上げ首を刈り取ると、そのままの勢いでキャタピラーに向けて玲奈達の後を掛けていった。


「まじか……」


 倒されたバグアントが塵になって消えていくのを見ながら奏太は小さく呟いた。指導者という立場からある程度は強いだろうと予測していたが彼女は想定以上に戦い慣れているようだった。それも高い技術力を持った上でだ。


「まぁ、頼もしい限りだね」


 ついでに残りの2体も葬ってくれてよかったんだけどな〜と思いながらバグアントに向き直り、バグアントの周囲を駆け回る。今の自分にはあのような戦い方はできないことはわかっているのでバグアントから距離をとった際は腰に下げた袋から石を取って投げつけ、近づいた際は木刀で足の関節を狙って叩くことに専念する。ちまちま削っていく作戦だ。


 バグアントはうまく間合いをとればさほど脅威のない魔物だ。攻撃は主に2パターンで、牙での噛みつきとケツにある毒針で刺すことだ。ただし、毒針での攻撃は組みつかないとできないため、あまり役に立たない。


 奏太の持っていた石も尽き、バグアント2体も足にダメージ受け動きが鈍ってきたところで奏太は作戦を変えることにした。ちらっと確認したパーティーメンバーの様子ではキャタピラーはまだ倒せていないようだが、こちらはそろそろ行けそうなので倒していくことにする。


 バグアント一体に横から接近し、バグアントの足を躱しながら比較的柔らかい胴体に木刀を思い切り突き刺した。奏太は突き刺した手応えの気持ち悪さを無視し、「ギッ…」と呻くような声をあげたバグアントから木刀を引き抜きながら蹴り飛ばすとバグアントはひっくり返った。結構足を痛めつけたのですぐには起き上がれないだろう。


 奏太は自分に真っ直ぐに向かってくるもう一体のバグアントの周りを全力で駆けて背後をとり、後ろから飛び乗っると同時に木刀で背中を突き刺した。その後、引き抜いた木刀で数回頭を叩くとバグアントは塵になって消えた。


「おっ……とと」


 消滅したことによって足場をなくした奏太は何とか地面に着地する。まだ、油断はできない。すぐさま立ち上がってさっきひっくり返したバグアントを見るとまだひっくり返ったまま、足をもがくようにワシャワシャ動かしているバグアントが目に入った。


「ふぅ、よかった。思ったより何とかなるもんだ」


 少し上がった息を整えながら倒れたままのバグアントに近寄り、頭めがけて木刀を思いっきり振り下ろすと最後のバグアントも塵となって消えていった。何とか魔物を倒したがこれは結構疲れる。倒せば塵になって消えてしまうためまるでゲームみたいに感じなくもないが木刀で魔物を攻撃した感触はしばらく慣れそうにない。

そんなことを考えながらバグアントを倒した後に残った10cmくらいの大きさの白く濁った半透明な石を奏太は拾ってみる。


「これが魔石か」


 魔石は今の所使い道がないものだが、そのうち何かしらの役に立つだろうということで安い値段だがギルドで買い取ってくれることになっているらしい。キャタピラーの方をみるとまだ戦っているようだが、先生は後ろから見守っている。そして先生はこちらの視線に気づいたようでこちらを向いて頷いた。どうやら問題ない相手だったようだ。


「てかよくこっちに気づいたな…」


先生も気配察知的なスキルを持っているのだろうか? 向こうには頼もしい先生がいるので、奏太は安心して他のバグアントが落とした魔石を拾ってから向こうに向かうことにした。


 魔石を拾い終わり、奏太がパーティーのいるところに駆け寄ってみるとメンバーに囲まれたキャタピラーはもう既に倒れる寸前だった。最後に恵が振り下ろした木刀を食らい、弱々しい鳴き声を上げて消えていくキャタピラーをみると少し同情をしてしまう。しかし、気を取り直して声をかけた。


「お疲れさん」

「そちらも片付いたんですね」

「ああ、問題なかったよ」


最初に奏太に気づいた玲奈が奏太の顔を見て安心した顔で答え、その後パーティーメンバーみんなとお疲れ様と言い合い、お互いの状況を確認する。


「そっちはどうだったんだ?」

「特異個体のキャタピラーは注意を引きつける力はあったみたいだけど、その他は耐久力が高いだけみたいだったよ。ごめんね、バグアント全部奏太に任せちゃって」


彰の言葉に対して奏太は首を振り、苦笑して答えた。


「いいや、というか先生が行きがけに一体倒してくれたから、こっちはそんなに大変じゃなかったよ」

「え? 先生すぐにこっちに来てくれてたはずだけど…」

「ああ、一体瞬殺してすぐにそっちに行ってたよ」

「それはすごいね……」


 彰と話していると恵が何かを手に持って近づいてきた。どうやら魔石ではないものがドロップしたようだ。


「さっきはありがとう。助かったわ」

「いや、何とかなってよかったよ。で、それは?」

「黒い角みたいね。さっきのキャタピラーの特徴的な部分ね。価値あるのかしら?」


 キャタピラーから生えているにしては変な角ではあるが価値のあるものなのかは全く見当つかない。小さいし脆そうだし、あまり価値のあるものには見えなかった。

 珍しいドロップ品は一度ギルドに提出して鑑定してもらう必要がある。これはまだダンジョンのドロップ品に対するデータが集まっていないのでギルド内の情報を充実させるためにも必要なこととして、冒険者に義務付けられている。特殊な素材であれば高値で買い取ってもらうことができるので冒険者としても悪いことではない。

とりあえず、恵に持っておいてもらうようにした。恵は腰につけたポーチにそれをしまうと思い出したように奏太をみて質問してきた。


「それにしても不思議ね。あなたは何ともなかったの?」

「ん? キャタピラーの鳴き声は気持ち悪かったけどそれだけだったなぁ」


 奏太もそれに関しては疑問に思っており、なぜだろうと考えていると美緒の声が上がった。


「ねぇ、あれって通路じゃない? でも、さっき地図見せてもらった時ここに道はなかったと思うんだけど……」


 美緒が指差す方をみると確かに大人二人が並んで通れるくらいの道がそこにはあった。そこに彰が近寄って確認する。


「あれ? 本当だ。確かにこんなところ地図には載ってなかったよ。……床にペイントがある」


 キャタピラーを倒した付近に地図にない小さな通路があった。そしてその入り口の下にはペイントでバツ印がつけられていた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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