ポリシー
奏太についての話しが終わった後、せっかく来たんだからラーメン食ってけという店主の好意(最初からその予定だったが)により奏太達一行は店主自慢のラーメンをご馳走になることになった。昔から大紀はラーメンにはうるさい奴だったのを知っている奏太はある程度期待はしている。ただこの繁盛していなさから何かしらひと足が遠のく理由があると見ている。
店の厨房からは湯がグラグラと煮立つ音と醤油ベースの何とも言えない、いい香りが漂ってくる。現在は須藤夫妻が厨房に立ち、残りは料理が出来るまで談笑し、当初の目的であった親睦を深めていた。
「驚いたよ…。奏太の話しときたいことっていうのがまさか僕の父さん母さんと同い歳、しかも同じ学校の同級生だってことだなんて」
「ほんとよね。最初は何の冗談かと思ったわよ」
彰は苦笑しつつ、恵は腕を組み眉を寄せ神妙な面持ちで言った。
「俺も流石に驚いたよ。まさか彰がマルちゃんと相坂の子供だとは…。世界は案外狭いもんだな〜」
奏太は頰を掻きながら答えた。
「いや〜、なんだか私は奏ちゃんが私達より年上っていうのがやっと実感わいて来たわ。東京冒険者学校に入学する前は直接話したことがなかったから私は今の奏ちゃんしかしらないし」
「そうですね。こうして話していると前からよく知っていた私ですら特に違和感を感じなくなってきてますしね。他の皆さんからしたら尚更でしょう」
美緒と玲奈の二人が続けて言う。
違和感なく溶け込めていたならこれからやっていくのに問題はないかと思いつつも、高校生に問題なく溶け込めてしまう35歳とは果たして問題ないと言えるのだろうかと自問自答しながら奏太が遠い目をしていると恵が話題を変え、皆に問いかけた。
「そう言えばみんなは職業何にするか聞いてもいいかしら?」
「ええ、いいわよ。確かにせっかくの機会だしそういうこと話し合いたいわね」
「はい。私も興味あります」
美緒と玲奈の二人もその話題に乗り気なようだ。奏太も彰も反対する理由もなく頷いた。
「じゃあ、まずは私からね。私はやっぱり騎士ね。 自分の正義を貫いて清く正しく行動する。私にぴったりの職業ね! それにまだるっこしいのは苦手だからやっぱり正統派の剣と盾での戦いをしたいわ」
真っ先に桐崎が胸に手を当て溌剌とした様子で答えた。
「メグは昔からそういうの好きだよね」
「ええ、騎士甲冑とかカッコイイわよね! 実際には重過ぎて着れないと思うけど。それにダンジョンでの皆んなを守りながら戦うっていう役割がまたいいわ」
彰の言葉に恵は頷き胸を張った。
「確かに騎士ってカッコいいイメージがあるわね」
「はい、ただ私はどちらかというと男の人っていう感じがしますけど女性騎士っていうのもいいですね。霧崎さんなら似合いそうですね」
自ら盾職を選ぶ女性は珍しい感じがするが美緒と玲奈も恵の希望職に肯定的なようだ。
(女性騎士か〜、まぁ確かに桐崎さんは凛々しい顔してるし、そういうの似合いそうだな〜。ただ…)
「…騎士は脳筋職じゃ務まらないと思うんだが」
「何か言った?」
ボソッと呟いた奏太へ霧崎が鋭い視線を送る。
「…いえ何も」
奏太はサッと目線を恵からそらした。美緒はその様子を見て苦笑した後、恵に続いて自分の希望の職業を告げた。
「はい、じゃあ次はあたしね! あたしは魔法系の職業かな。適性もあるんだし、せっかくなら色々な魔法が使えるようになりたいわね」
「確か…美緒は精霊魔法と回復魔法がスキルにあるんだっけ?」
奏太はこないだ聞いたことを思い出しながら話した。
「ええ」
「え? すごいな〜。最初から二つも魔法系スキルがあるんだ」
「すごいわね! 魔法系のスキルを最初から持っている人は珍しいって言うのに二つもなんて」
彰と恵の二人は感心した声を上げた。
「ほう、魔法系スキルってのは珍しいのか?」
「え? 奏太知らないのかい?」
彰の話によると魔法スキルが目覚める人が少ないことはネットやテレビでも大いに取りざたされているらしい。人の魔法に対する憧れは古くから語られるほど歴史がある。現代でもその憧れは薄れていない。それが現実ともなれば人々が取り上げるのも無理はないだろう。魔法の効力自体はダンジョンの外だと弱まるがだからと言って使えなくなるわけではない。奏太はダンジョンに関するニュースは関わりがなく、避けていたためそこまで知らなかったのだ。
美緒の次は玲奈が希望の職業を話した。
「私は戦士系の職業ですね。小さい頃から剣道を習ってきましたから、それを活かせる職業に就きたいと思ってます」
「ええ、玲奈さんの剣道の腕はこの辺でも有名ですものね。玲奈さんなら安心して肩を並べられるわ」
恵も玲奈が全国大会に出たことは知っているようだ。
「ん〜と、僕は今の所未定かな。魔法を使えるような職業に就きたいとは思ってるけどね。探索者とか研究者とかそっちの職業も気になってるんだよね。適性職を見てじっくり考えたいかな」
「そりゃそうだよな。最初からある程度決まっている方が珍しい」
彰のなりたい職業に対する答えに奏太も同意した。
「最後は俺か。俺も彰と同じく未定だな。…なりたい職業って言っても特にないんだよな。あ、でも生産職とか面白そうだよな。ドロップアイテムで武器作ったり、薬の研究したり。そっちの適性があると嬉しいな〜。でもマルちゃんと同じ調理師もいいよな」
「ふふっ、奏ちゃんらしいですね」
「え〜? せっかくステータス高いんだし戦闘職選んだらいいんじゃないの? 前衛でも後衛でもいけるステータスじゃない」
玲奈は笑みで美緒はどこか不服そうに奏太の答えに相槌を打った。
「わざわざ危なそうな戦闘職を選ぶほど子供ではないんだよ。やっぱ安全第一だな」
「ん〜、なりたい職業があるならそれを選んだ方がいいと僕は思うけど。…確かに奏太のステータスならちょっとおしいと思っちゃうよね」
「あなた、所持スキル通りの腑抜けね。見損なったわ」
彰もどこか奏太の職業選択はもったいないと思っているようだ。恵は冷たい目で決めつけるように言った。
「いやいや! 全員が全員戦闘を頑張りたいわけじゃないだろう? 偏見はよくないぞ。今日の授業でもあった通りそれぞれの役目がある。」
「む…それは…そうね。ごめんなさい。私が間違ってたみたい」
(お? 意外と素直だな)
「でも、戦える力があるのに救えるかもしれないのに自分が出来る最善を尽くさないのは間違っていると思うわ。…少なくとも私は、見て見ぬ振りすることなんてできない」
「うん、そうだね」
彰は恵の肩に手を置いて頷いた。
「あ! そうだ! 奏太にステータス見せてもらったのに自分のは見せてなかったね。どうかな? 嫌じゃなかったらみんなステータス情報を開示しない?」
彰が話題を強引に変えた。
「そうね。私は構わないわ」
「はい、私も問題無いです」
「ええ、あたしもいいと思うわ。それにみんなの希望職業聞いた感じだと本パーティになる可能性もあるしね。前衛二人に後衛二人、生産職一人? みたいな感じで」
「うん。じゃあ、今度は僕から」
そう言って彰はステータスを表示させ、奏太たちに見せた。
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名前/須藤 彰
種族/人間
年齢/15
レベル/1
職業/無職
HP : 20/20
MP : 40/40
物理攻撃力 : 20
物理防御力 : 30
魔法攻撃力 : 40
魔法防御力 : 40
敏捷 : 30
スキル 索敵 観察 方向感覚
称号 ー
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彰のスキルは戦闘系のスキルはないものの探索に役立ちそうなスキルを多く持っているようだ。ダンジョンでは方位磁石も役に立たなくなると授業で言っていたから方向感覚のスキルなんかは特に重宝されるのかもしれない。
「へ〜、なんかスキルからして探索職向きだな」
「ダンジョンでの探索は須藤君を頼りにできそうね」
「うん、頑張るよ」
奏太と美緒が彰のステータスの感想を述べる。
「じゃあ、次は私ですね。“ステータスオープン”」
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名前/御堂 玲奈
種族/獣人(狼)
年齢/15
レベル/1
職業/無職
HP : 30/30
MP : 20/20
物理攻撃力 : 50
物理防御力 : 30
魔法攻撃力 : 20
魔法防御力 : 30
敏捷 : 70
スキル 俊足 嗅覚 見切り
称号 ー
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「うんうん、これなら前衛を任せられわね! 頼りになりそう」
「見切りとかカッコイイなぁ。それに敏捷も高い、羨ましいなぁ」
「ふふん! すごいでしょ!」
玲奈のステータスに彰と恵の二人が感嘆の声を上げると玲奈が胸を張って答えた。
「なんで美緒が自慢げなんだ?」
「それは、玲奈があたしの自慢の親友だからよ!」
美緒がない胸を張っていう。
「ありがとうございます」
そんな様子の美緒に玲奈は嬉しそうにお礼を言った。
「じゃ、次はあたしね」
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名前/柚月 美緒
種族/エルフ
年齢/15
レベル/1
職業/無職
HP : 20/20
MP : 50/50
物理攻撃力 : 20
物理防御力 : 20
魔法攻撃力 : 60
魔法防御力 : 40
敏捷 : 50
スキル 精霊魔法 直感 治癒魔法
称号 ー
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「さっき聞いてはいたけど本当に2つも魔法スキルがあるのね。羨ましいわ」
「いいな〜。ステータスも魔法スキルにあってるし」
「えへへ、まだ正直どのくらいの魔法が使えるかわかってないけどダンジョンではお役に立てると思うわよ」
「ふふん、最後は私ね!」
恵がステータスを表示させた。
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名前/霧崎 恵
種族/人間
年齢/15
レベル/1
職業/無職
HP : 40/40
MP : 20/20
物理攻撃力 : 50
物理防御力 : 45
魔法攻撃力 : 20
魔法防御力 : 20
敏捷 : 45
スキル 怪力 自然治癒向上 幸運
称号 ー
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恵のステータスは確かに前衛向きだった。怪力に自然治癒とスキルもいい。幸運という珍しそうなスキルも持っていて頼りになりそうだ。
「怪力…まぁ前衛に向いてるステータスだな。でも最初からそのスキルがある女の子って…」
「ははは…恵は昔から僕より力持ちだったよ」
奏太の感想に彰が苦笑いしながら答えた。恵は見た目は細身で身長は今の奏太と同じくらいだが見かけに寄らず力持ちらしい。
「ん〜、これは本当に本パーティー組んでもいいメンバーね。そうだ! せっかくだし、みんなもっとくだけた呼び方にしない?」
「そうだな。ダンジョンに潜っている間お互いに声かけをするのは大切だと聞いたことあるしな。あまり長い呼び名じゃ面倒になりそうだし」
美緒の言葉に奏太も同意した。他のメンバーも異論はないようだ。
そして話し合った結果取り敢えず下の名前を呼びあうことになった。お互いその方がわかりやすいと思ったのだ。
ふとメニューを見た奏太だがそのメニューの内容に奏太は愕然とした。
「…っ! メニュー少な過ぎないか!? いやどんだけラーメンに自信あるんだよ?」
メニュー表は確かにシンプルで見やすいが余りにシンプル過ぎた。食事メニューは強気に醤油ラーメン、チャーシューメン、餃子の3択しかない。これも客が来ない理由の一つではないだろうか。
「あはは…それね」
「へい、お待ち!」
「お待ちどう様〜」
彰が何か説明しようとしたところでそれを遮るかのように須藤夫妻が料理を持ってやってきた。そしてラーメンと餃子をテーブルに並べた。
「ほれ、召し上がれ」
期待に満ちた目で大紀が食べるよう促すので各々目を見合わせ頷いた。
『いただきます』
「おう!」
奏太は大紀の期待通り最初はラーメンから手をつけることにし、割り箸を割り、レンゲを手にした。見た目は昔ながらのラーメンという感じで、琥珀色の美しいスープに中太の縮れ麺、トッピングはチャーシューと海苔、煮卵とベーシックながら食欲をそそる。まずはスープからいただく、レンゲでスープを掬い口に運ぶと鶏ガラベースのあっさりとした、しかし後を引く美味しさのあるスープで思わずもう一口飲んでしまうくらい美味しかった。
これは…と思い麺をすすると縮れ麺に絶妙に絡んだスープが口の中を幸福に満たす。どうやら期待以上に美味しいラーメンを大紀は作れるようだ。これで客が来ないのは少々不思議な感じもする。
「どうよ?」
不敵な笑顔で奏太たちに大紀は味の感想を聞いた。
「ああ、美味いよ。スープも麺も文句ないな」
「はい。とっても美味しいです!」
「うん! 美味しいわ」
「へへへ! だろ〜? ありがとよ!」
奏太たちはラーメンの味を褒めた。確かにとても美味しかったのだ。
大紀は自信満々に胸を張った
「ああ、でもなんで客がこんなに来ないんだろうな?」
「おう…本当にな」
その言葉に大紀はガクッと肩を落とした。
「店内は清潔なんだが…。なんか若い子が来る感じじゃないよな? あとはメニューが流石に少なすぎる」
「う〜ん、そうなのよね。バカ店主の趣味でね。なかなか変えてくれないのよ」
「今自信を持って出せるラーメンがこれだけなんだよ。他の味はまだ研究中だ」
どうやら大紀はラーメンに妥協ができず、自分が自信を持って提供できる醤油ラーメン以外をまだ出す気は無いらしい。
「気持ちはわかるけどよ。なんか対応策を考えないとずっとこのままだぜ?」
「うっ…わかってる。わかってるんだけどよ」
「そうだ! ニッキーも一緒に考えてくれないかしら?」
「俺?」
里穂に言われ奏太は自分を指差して聞き返した。
「ニッキー食べるの好きだったでしょ? それにニッキーの意見なら旦那も聞くだろうし」
「む…確かに。奏太…暇なときでいい。ちょっと相談に乗ってくれないか?」
「…はぁ。わかった。俺でできることならな」
「ああ、恩に着る!」
「ありがとうニッキー! やっぱり頼りにしてるわ!」
食事をしながらしばらく店のことや学校についての話をした後、帰宅することにした。
その際、奏太は厨房へ食器を運んで行った大紀にちょいちょいと手招きされ、大紀の元に近づいた。
「奏太…うちの息子のこと頼むぜ」
「恵ちゃんのこともね。ちょっと無理するところあるからねあの子は」
大紀と里穂に彰と恵の二人のことを託された奏太は頷いた。
「おう、任せとけ。安全第一で行動するからよ」
そう言って奏太は出口へと向かって行った。
「奏太、また来いよ! 嬢ちゃん達も気に入ってくれたら是非またきてくれな」
「おう、また来るわ」
「「はい! ご馳走様でした」」
奏太たちが店を出ると彰と恵も見送りに外に出てきた。
彰が3人に向かって話しかけた。
「3人とも今日はきてくれてありがとうね」
「こちらこそ、招いてくれてありがとうな。ラーメンも美味しかったし」
「本当! とっても美味しかったわ」
「はい! きっと繁盛すると思います」
照れ臭そうに頰を掻きながら彰は答えた。
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ。じゃあまた学校で」
「また明日ね。気をつけて帰ってね二人とも。特にその男には」
「どういう意味だ…。じゃあ、またな」
「うん。恵、彰、また明日ね」
「二人ともまた明日」
そういって別れの挨拶を交わした後、奏太たちは駅へ向かって歩き出した。
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