お仕事
待ってくださってる方…大変遅くなってしまいすみません。
「さて…何から語ったらいいものかな。さっきも言ったけどあの世界変革の日に目が覚めたらこんな姿になってたんだよ。まあ、この姿になったってだけなら他にもエルフになって耳が伸びて尖ったり、獣人になってケモ耳や尻尾が生えてきた人もいるくらいだから特別おかしいわけじゃないように思えるんだけど…」
奏太は両手の平を肩の高さまで上げた。この姿になってからだいぶ経ったとはいえ、自分でも何から説明すべきか正直迷うところがあるのだ。何せ説明って言っても自分でもどうしてこうなったのかは正確にはわかっていないのだから。
「まずはこれを見てもらった方が早いか。“ステータス・オープン”」
論より証拠、奏太は目に見えるものから説明を始めることにし、自分のステータスを表示させ、皆に見せた。
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名前/二木奏太
種族/人間(?)
年齢/15
レベル/1
職業/無職
HP : 20/20
MP : 1000/1000
物理攻撃力 : 30
物理防御力 : 20
魔法攻撃力 : 200
魔法防御力 : 150
敏捷 : 200
スキル 空間把握 索敵 回避 逃走 隠密 危険察知
称号 ー
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奏太のステータスを見て一番最初に声を上げたのは奏太の学生時代の友人だった大紀だった。
「ぷっ…無職ってお前…」
丸山は吹き出した後、手を口にやり笑いをこらえている。その反応に彼の妻である里穂と彰の二人は頭を抱えた。美緒はクスクスと笑っている。そして奏太は予想外の反応にツッコミを入れた。
「ヲイ! そこじゃないだろ! それにその反応おかしいわ! はい、そこも笑わない!」
ステータスに記されている職業に就くには魔物を倒してレベルを上げるしかないのだ。だから大多数の人は己から戦いに行くわけも無く、奏太と同じくレベル1の人ばかりだ。つまり、無職…恥ずかしくない! …はず。
「いやだってよ〜。プフッ…いい歳して無職って…? は? 15歳? それに何だよこの能力値は!?」
ニヤニヤしながらステータスを読んでいた大紀がやっと気づいたとばかりに奏太の年齢と能力値に対して疑問の声を上げた。その反応をみてようやく本題に移れると奏太は胸をなでおろした。
「そう! そこだよ見て欲しかったのは! てかマルちゃんは無職じゃないのか?」
「おう! 当たり前だ! 冒険者にもなってるぜ! 」
太紀は胸を張って答え、それを証明するように自分のステータスを表示し奏太たちに見せた。
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名前/須藤 大紀
種族/人間
年齢/35
レベル/6
職業/調理師
HP : 45/45
MP : 50/50
物理攻撃力 : 60
物理防御力 : 60
魔法攻撃力 : 40
魔法防御力 : 40
敏捷 : 50
スキル 根性 豪腕 解体 火魔法
称号 ー
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「ほ〜、何気レベル高いんだな」
そういえば斎藤も何かあった時のために家族をそして自分の身を守ることができるようにしておけるようレベル上げをしているのを思い出した。なるほどこいつもいざという時、家族を守るためレベル上げをしているのだろうと思い至り、奏太は感心した。日本は世界から見ればダンジョンの被害規模は小さいし、その歴史から平和ボケしている人が多いように思われるなか大紀は家族の大黒柱として家族を守ろうとしているのかもしれない。
(いきなりラーメン屋を始めて自分の好き勝手にやっているようでしっかり考えているのだな…)
「まあな! 金欠の時は潜るようにしてっからな!」
「…いや、それはちょっと…威張れることじゃないと思うんだが」
期待を裏切られた答えに思わずズルッと滑った奏太が突っ込みを入れた。大紀の妻とその子供は顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。
「そこは奏太に僕も同意だよ。お願いだから本職で稼げるようになってよ」
「もう…恥ずかしいからやめなさいよね」
大紀は自分の分が悪くなったのを感じ、弁解した。
「そ…それだけじゃないぞ? 店には出してないけどよ。魔物の肉とか骨も手に入るからそれで料理研究してるんだぜ?」
「「へ〜」」
玲奈と美緒の二人が感心した声を上げるが奏太は大紀のことを懐疑的な目で見た。ダンジョンで魔物がドロップする食材のことは少しは聞いている。一般にはまだあまり出回ってはいないが冒険者協会で食しても問題なしと判断されたものが少しづつ、食材として
「で? 本音は?」
「いや…本当だって…」
「で?」
「いや…だからさ…」
「で?」
「だってよ。魔物の肉だぜ? やっぱ男なら食べてみたいだろ?」
「なるほど自分で食べたいからか」
奏太は太紀らしい答えにやっと納得がいった。大紀が料理の研究なんて殊勝な考えで魔物の肉を調理するとは思えなかったのだ。
「ほう…成果はあったのか? てか魔物の肉って美味いのか?」
なんだかんだ言いつつも奏太も魔物の肉という新たなグルメに対して並々ならぬ興味があった。怖いもの見たさといったらいいのだろうか? 奏太が通っていた大学の文化祭でカエルの肉やら猪の肉を串焼きにして売っていたのをつい買ってしまうくらいのチャレンジャー精神は持っている。玲奈と美緒の二人も興味津々な顔をしている。
「それは…なんというか…まだ研究中でな」
「食べれなくはないけど美味しくはないわね。そんなことしてる暇あったら店の経営についてもっと真剣に取り組んで欲しいくらいよ」
「ウッ…」
歯切れの悪い答えを大紀が返した。それに対して里穂はズバッと答えた。
「癖が強いんだよね。僕もあまり好きじゃないなぁ」
「ん〜、そうね。魔物のお肉あんまり美味しくないから、ラーメン作った方がいいと私も思うわ」
「グッ…メグちゃんまで…」
親しいものたち全員に否定され落ち込む太紀を無視して奏太は里穂に話しかける。
「相坂もレベル上げてたりするのか?」
「私? そうね、私もそこのバカ亭主と同じ6レベルよ。そいつだけダンジョンに潜らすと不安だから仕方なく一緒に付き合ってるの」
「そうだよ。こいつも職業にちゃんとついてるんだぜ。ほら、ステータス見せてやれよ」
「嫌よ! 恥ずかしいじゃない! 年齢とかも書かれてるのよ?」
「ん? 何を恥ずかしがることがあるんだ? 年齢つったってマルちゃんと同じ35歳だろ?」
「そうだぜ! 何を恥ずかしがることがある皆んなお前が三十ゴハッ…」
大紀が話している途中に里穂のボディーブローが鳩尾にしっかりと決まった。太紀を拳で沈めた後、まだ何か? という目で奏太の目を見てくる里穂に両手で口を塞ぎ必死になって首を振り何もないと否定する。知った仲とはいえ、女性に年齢の話は禁句であると身に沁みて感じさせられる奏太であった。
「ねぇニッキー? 同い年のはずなのに私たちはどこで道を間違ったのかしら?」
「さ…さあ?」
里穂がゆらりと立ち上がり、奏太に話しかけながら近づいてくる。前髪が目にかかり不吉な印象を与えた。
「そういえば…最近ダンジョンで若返りの薬が見つかったらしいわね?」
「へぇ。ちょ…何? その目怖いんだけど?」
里穂が首元にチリチリと焼け付くような熱い視線を送ってきているのを感じた奏太は震える声で里穂に尋ねた。
「血…」
里穂が返す言葉はたった1文字。ギラリと光る眼光から発せられたその言葉に奏太は冷や汗をかいた。
「…いや血を吸ってもたぶん若返らないぞ? お前吸血鬼とかじゃないんだから」
里穂の言葉に大紀が冷静にツッコミを入れる。種族吸血鬼とかいるのだろうか? いたところで血を吸えば若返るとか流石にないだろうと思うのだが…。
「肉…」
「こら! 俺は人魚じゃないぞ! 怖いこと言うな!」
「「「ぷっ」」」
そこで奏太、大紀、里穂の3人は一斉に笑い出した。
「ふふっ、冗談よ。何かしらね? 昔に戻ったような気分になっちゃうわ」
「ははっ、だな。懐かしいな。…まぁぜんぜん冗談に聞こえなかったけどな」
「まったくだ。本当に奏太に噛みつくんじゃないかとヒヤヒヤしたぜ」
「あら? 嫉妬かしら?」
「そ、そんなんじゃねぇよ!」
「はいはい、二人とも話が進まないからそういうのは後にしてくれ」
彰と恵は呆気にとられた顔をしている。彰は特に自分の両親がここまではしゃぐ様子を見たことがなかったのだろう。大人というのは案外見栄っ張りだから普段はここまで羽目を外して子供の前で話さないのだろう。
「とまあステータスがこんなんになっちゃたからさ。ステータス登録ってあったろ」
「ああ、あったなそんなの」
「あれでなステータス通り15で登録されちまってよ」
「は? いや…まぁそうかあれステータスの内容をただ登録するだけってやつだったか」
「そうなんだよ。まぁ…だから確かに正しいっちゃ正しいんだが戸籍とかあるから後から修正が効くと思ってたんだけどこれがその結果ってわけだ」
奏太は自分が着ている学生服を指差し言った。
「で、だ。彰、ここに入る前に言ってたよな。推薦状がどうとかって」
「え? うん、そうだよ。入学推薦状が届いた後、面接試験をして入学が決まったんだ。他の人たちも同じようにして冒険者学校に入ったって聞いてるし、別に変じゃないと思うんだけど」
やはり店に入る前に聞こえた言葉は聞き間違いではなかったらしい。
「俺にはいきなり入学通知がきたんだが?」
「あれ? 奏ちゃん知らなかったの? 割と有名だったんだけど…」
「私もてっきり知ってるものだと…。この間お店でお話聞かせてもらったときすでに知ってるものだと思って聞いてたんですけど違ったんですか?」
(まじか…)
奏太はその言葉に頭を押さえた。話をしてみると玲奈も美緒もこの間話した時にそこで理不尽さを感じていたらしい。そして奏太もそこに理不尽さを感じているものだと思っていたとのことだ。
「てっきり種族やステータスの高さから入学を避けられなかったんだろうと思ってました」
「そうだね。人間(?)っていうのも気になるけどこのステータスなら野離しにしておけないよね」
(確かにそういう考えもあるか)
玲奈と彰の言葉に奏太は少し納得させられた。年齢だけでなく、不必要に能力値やスキルを多く所持していたため目をつけられてしまったということかと奏太はため息をついた。一度確認するために東京冒険者学校の校長にでも質問してみるかと考えるも、今も昔も変わらず校長・教頭といった存在には自分から話しかけるのは抵抗がある。いくら自分が歳をとったからといってああいう存在に何の抵抗なく話しかけられるようになるかというとどうやらそうではなかったらしい。
「しっかしお前、スキルも結構あるな。俺よりレベル低いくせにこの数は卑怯くせぇ」
「逃走、隠密…男らしくないわね」
「ほっとけ」
スキルなんて自分で選んで決めたわけではないのでそれでどうこう言われても困るのだ。どういう理屈で所持スキルが決まるのかは知りたいところだが逃走に適性があると言われて素直には喜べないのもまた事実だ。
「敏捷がやけに高いな。それに回避スキルか…そういや球技大会のドッジボールで最後の一人まで粘ってたよな」
「あ〜思い出したわ! 確かに野球部相手に避けて避けて避けまくってたわね」
「最後はスタミナ切れで倒れたところを当てられて終わったんだったけな。体力なかったよなお前…」
「ふんっ、そんな昔のことは忘れたね」
よく覚えてるなと奏太は感心したもののやっぱり話が脱線してしまうことにため息をつくのであった。
読んでいただきありがとうございました。
すみません、ただいま絶賛スランプ中です…
話の大筋は決まっているはずなのに全然書けないという…
まだダンジョンに潜ってすらいないというのに…
(レベル1の主人公のステータスを三度登場させてしまった…)
今回の話も大筋は変わりませんが後で微修正させてもらうことになるかもしれないです




