再会のひと時
えっと…
だいぶ遅くなってしまいましたが更新させていただきます。
店主は落としたお玉を気にも留めず、厨房から急いで出て奏太の元へ駆け寄ってきた。
「奏太? 奏太なのか?」
そう言って店主は奏太の肩に手を伸ばすも肩に触れる直前でピタッと動きを止めた。
「ってあれ? いや、…奏太にしちゃあ若すぎるな。それに彰と同じ制服着てるってことは東京冒険者学校の生徒ってことだから…もしかして奏太の子供か?」
店主は目の前にいる奏太の容姿が自分の記憶にある奏太の容姿とあまりに変わりがないので戸惑い、伸ばした手を戻し顎に手をやり、首を傾げた。そんな自分の父親のいきなりの行動に驚いた彰が問いかける。
「どうしたんだよ父さん? それに…なんで父さんが奏太の名前を知ってるの?」
「え!? やっぱり奏太…なのか? みょ、名字はなんていうんだ?」
彰は首を傾げつつも父親の質問に律儀に回答する。
「二木…でよかったよね? 奏太? 何? 二人は知り合いだったの?」
彰は自分の父親と奏太に問いかけるように聞くが回答はなかなか返って来なかった。二人はお互いを見つめ合ったまましばらくフリーズしたままだった。
(見た目はだいぶ変わってしまったけどこいつのことはよく覚えてる。こいつが彰の父親? ていうか須藤なんて苗字じゃなかったはずだ。だってこいつは…)
「マルちゃん?」
奏太が店主に呼びかけてみると店主は再び、目を見開いて驚いた顔をした。そう、見間違うはずがない。この男は奏太と中学の同級生の丸山大紀だ。しかも良くつるんだ仲だ。高校が別になり、お互い携帯もまだ持っていなかったのでだんだんと疎遠になってしまったのだ。
「やっぱり奏太なのか!? いやでも…おかしくないか? お前…俺と同い年のはずだよな?」
「「え!?」」
この店の店主であり、彰の父親であり、そして奏太の同級生である大紀は奏太を自分の知っている人物だとわかったが、だからこその疑問をぶつけた。それに対し同じく何も知らない彰と恵の二人が驚いた声を上げ、奏太を見た。玲奈と美緒の二人は彰の父親と奏太が知り合いということには驚いているようだが奏太が学校に通うことになった経緯を大まかには聞いていたので彰と恵の二人よりは落ち着いている。
「まぁ…いろいろあったんだよ」
「はぁ…いろいろって言われてもわからねぇよ。…とりあえず席座れ! 話はそれからだ!」
先座って待ってろと言った後、大紀は再びスタスタと奥へ引っ込んで行った。
「え〜と、まぁとりあえず皆んなそこに座りなよ。僕飲み物取ってくるから先座ってて」
「私も手伝うわ」
彰に促されるまま、奏太達は6人掛けのテーブル席に座った。テーブルの右端に奏太、その隣に玲奈、美緒が続く形で座っている。そしてすぐに彰と恵は人数分のお冷やを持ってやって来た。奏太の対面の席に彰、その隣に恵が座るとグラスを差し出しながら、彰が話しかけてきた。
「はい、なんか僕状況がよくわからないけど…どういうことなのかな?」
「ありがと、まぁマルちゃんが来てからまとめて説明させてもらうよ。ってか彰がマルちゃんの息子なのか〜」
お礼を言いながら奏太がグラスを彰から受け取った。彰が疑問に思うのは当然だろう。何しろ奏太自身かなり驚いているのだから。自分自身の変化もそうだが、自分の友人の息子と何も知らずに友達になるってのはびっくりだと思いつつ、マルちゃんが戻って待っていると店の奥からマルちゃんの大きな声が聞こえてきた。
「母ちゃん! おい母ちゃん! ちょっとこっち来てみろって! 面白いもんが見れっぞ!」
「な〜に? 騒々しいわね? まったく…あんたがそんなんだからお客さんが来てくれないんじゃないの?」
なかなかに辛辣な言葉を吐きながら店主に母ちゃんと呼ばれた女性が店主と共にやって来た。この女性は状況からいって、マルちゃんの妻、そして彰の母親ということになるだろう。
(そういえば同窓会でマルちゃんはあいつと結婚したって聞いたな)
マルちゃんが奏太も知っている同級生の女性と結婚したことを思い出した。そして現れたのは髪を後ろに縛った優しげな風貌をした女性が店の奥から店主と共に現れた。なるほど彰は母親似なんだな。マルちゃんは男前ではあるがワイルドな顔立ちをしているので彰とは見た目はあまり似ていない。
「…ひでぇこと言うなよ。それよりほら! あれ見てみ!」
「何よ? …あらいらっしゃい! 彰のお友達かしら?」
彰の母親は微笑みながら奏太、玲奈、美緒の3人を見た後、再び視線を奏太に戻し止まった。そして目をパチクリとしてまじまじと奏太を見つめた。
「え? ニッキー? いやでも流石に違うわよね。あなた、この子ってもしかしてニッキーのお子さんか親戚の子なの?」
そう言ってマルちゃんの妻であろう女性は問うように夫へ顔を向けた。
奏太のことをニッキーと呼ぶこの女性もまた奏太の中学時代の同級生の一人で相坂里穂といった。中学の頃は二木という名字からニッキーとあだ名を付けられていたが某人気キャラクターをパチってるようにしか聞こえず、奏太はそのあだ名を嫌っていた。
「こら相坂、ニッキーって呼ぶのやめろっていつも言ってるだろうが」
奏太が彼女を当時の呼び方で話しかけると再び彼女は奏太に向き直り驚愕の顔をした。
「え!? 嘘!? 本当にニッキーなの?」
「だからニッキーはよしてくれって…」
里穂は奏太の言葉など聞かず奏太の近くへやって来た。
「懐かしいわねニッキー」
「だな。そういやマルちゃんと相坂は結婚したんだったな。そういや、二人は成人式にも来てなかったよな」
「ああ、…その頃は此奴が今にも生まれるんじゃないかって時期だったからな。出られなかったんだ」
大紀が彰を指差しながら言った。なるほど本当にこの二人が彰の両親なのかと奏太は改めて認識した。
「それにしても…」
里穂はそう呟きまじまじと奏太を見つめた後、無言で奏太へ歩み寄って来た。少し目のハイライトが消えているのが怖い。そして彼女は両手でガッと奏太の頰を撫でたり掴んだり引っ張ったりし始めた。
「…このハリのある肌…どうやって手に入れたの? まるで10代のお肌じゃない! 私なんて…私なんてこのバカ旦那に苦労かけられて最近じゃ目尻のシワが気になって来たって言うのに! どういうこと? ねぇ!? 教えなさい!!」
「っ!? ひゃめ…いひゃい! いひゃいきゃら!」
里穂が奏太の頰を掴む力が徐々に強くなっていき、奏太は悲鳴を上げた。奏太は正直里穂が20代と言っても疑問に思わないくらいに若く見えた。しかし、里穂本人には気になるところがあったみたいだ。
そして何よりその目が本気で怖い。奏太以外のメンバーもその迫力に圧倒され、止めることすらできずにいた。玲奈も手を出して里穂を止めようという姿勢をみせているものの里穂の迫力に負けて手は空中をさまよっている。奏太は彰と恵に目をやるも二人とも顔を青くしていた。どうやらこの二人では止めるのは無理なようだと諦め、最後に奏太は大紀にすがるような目を向けた。目を向けられた大紀も少し青い顔をしているが一つため息を吐いた後、妻に話しかけた。
「おいおい、やめてやれ、奏太マジでビビってるぞ。それに他の子達も」
「あ、あら? ごめんなさい、私ったら…おほほほ」
呆れた声で大紀が彼の妻である里穂に声をかけるとハッとしたように里穂は正気に戻った。里穂は頰に手を当て笑って誤魔化そうとするも周りの視線はなかなかに怯えの色が含まれていた。
♢
彰の両親である大紀と里穂も他のテーブルから持ってきた椅子に座ったところで改めて話し始めた。
「正直まだ信じられんが…お前はやっぱり奏太ってことで間違いないんだよな?」
「ああ、そうだよ。こんな成りになった理由は正直俺もまだよくわかっていないが変革の日の影響みたいなんだよな」
大紀が奏太に再度確認し、奏太が答えた。
「…種族がエルフになって多少肌にツヤが出たとか言ってたやつがいたからないわけじゃない…のか?」
「多少ってレベルじゃない気がするけどね」
その答えに大紀は少しは納得したようにするも里穂はまだ納得がいかない顔をしている。というより肌の若返りの方法がないのかまだ疑っているようだ。奏太は隠しているわけではないのだが女性にとっては重大な問題らしい。
「で、お前はマルちゃん…と。でも彰は丸山じゃないし、相沢は相沢だし須藤ってのはどっから来たんだ?」
「お袋の旧姓だ。俺が高校生になった頃に両親が離婚してよ。俺は母方に引き取られたから母親の旧姓の須藤になったんだ」
「なるほど」
お互いに疑問が解消され、一息ついたところで恵が声を上げた。
「ちょっとちょっと! どういうことなの? そしたら何? こいつはおじさん達と同級生ってこと?」
「ああ、まぁそういうことだ。俺たちは柳北中学、てか小学・中学は同じ学校だったな」
「だからか…柳北中学ってどこかで聞いたと思ったら前に聞いた父さん達の母校だったんだ」
恵の疑問に大紀が答えると彰がやっと腑に落ちたという感じで発言した。そして彰は続いて玲奈と美緒の二人に尋ねた。
「そういえばあんまり驚いてないようだけど二人は知ってたの? 奏太がこの姿に変わったこと?」
「ええ、私の実家が小料理屋さんをやってるんですけど、奏ちゃんがこの姿になる前からウチの常連さんでしたので」
「あたしも前はそんなに話したことはなかったけれど奏ちゃんとはお店で何度か顔を合わせていたから以前から知ってたわ」
玲奈と美緒の二人の答えに彰は頷いた後、奏太に尋ねた。
「なるほど…そうだったのか。世界変革の日に奏太はその姿になった。で、美緒さんと玲奈さんの二人とその姿であったのは入学式の日が初めてだったと。だから、奏太が玲奈さんをナンパしたとかそんな話になったってことかい?」
「鋭いな。その通りだよ彰。玲奈ちゃんを見てどっかで見たことあるな〜って考え込んじゃってな」
「へ〜、入学式の後ナンパした上に登校初日から喧嘩するような奴ってことで注意してたけどそれなら少し話が変わるわね」
どうやら恵の誤解を少し解くことができたようで奏太は安堵の息を漏らした。
「何? ニッキー喧嘩なんかしたの?」
「いや…あれはちょっとした誤解が生んだ結果で…」
しかし里穂に聞かれ奏太は気まずそうに頰をかいてお茶を濁す。とそこで助けに入るようなタイミングで彰が奏太に聞いた。
「あれ? 年齢自体は父さんや母さんと同い年ってことだよね。だとしたら呼び捨ては良くないかな?」
「ん? 別に構わないさ。今じゃこんな形だし。同じクラスに通ってる仲だしな」
それにせっかく仲良くなった相手に気を使われたらクラスから浮いてしまう気がしたので今まで通りでいいと奏太は苦笑しながら言った。とそこで大紀が声を上げた。
「いや、ちょっと待った! それだよそれ! なんでまたお前が学校に通ってるんだ? お前確かどこだかは知らんが大学まで行ったって話を人伝に聞いたぞ?」
「ああ、そうだな。それも含めて話すことは色々あるんだ…」
「それ、僕たちも聞いて大丈夫かい?」
「ああ。臨時とはいえパーティーを組むことになった二人にも俺の事情を説明しておこうとは思ってたんだ」
奏太は彰と恵に目をやって頷いた後、ここまでの経緯を話し始めた。
読んでいただきありがとうございました。




