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昼食

毎度遅筆ですみません。

更新いたします。

「もちろん! どうぞどうぞ」

「ああ、一緒に食べようか」


 彰と奏太は笑顔で玲奈と美緒を歓迎した。奏太としても知り合いがいてくれた方が気持ちが楽なので異論はない。

 昼休みということでクラスメイトも思い思いにグループを作り、中庭で食べる人たちと教室内で食べる人たちで分かれているようだ。中には一人でご飯を食べているものや早弁したのか既に机に突っ伏して寝ているものもいる。


 せっかくだからとみんなで空いている机を拝借し、机を近づけ円になる。やや周りから注目を集めている気がしないでもないが気にしていても疲れるだけなので奏太は無視を決め込んだ。


「そういえば奏太は二人と知り合いなのかい?」


 席に着いたところで彰は奏太に尋ねた。


「ん? よく行く店の顔見知りってとこかな」

「ふ〜ん? それにしては親しげな気がするけどな〜」

「まぁ…ね。彰も二人と知り合いだったのか?」


 奏太は彰に同様の質問を返す。奏太は彰と美緒達が席を並べる際にも割と気安い感じで対応しているのでイケメンのコミュ力の高さなのかそれとも知り合い同士なのかわからなかったのだ。


「ああ、柚月さんとは生徒会の活動で一緒したことがあるからその時からの知り合いだよ」

「生徒会?」

「ええ、あたしが青藍中学の生徒会長をやってた時に他校との共同のイベントで須藤君と霧崎(きりさき)さんとは知り合ったの。霧崎さんっていうのはさっきの女の子のことよ」

「へ〜」


 美緒が生徒会長か。今の学校の生徒会は女性がやることもあるんだと奏太は時代の流れを感じた。生徒会長は基本男という勝手なイメージが彼の中にはあったのだ。まぁ、奏太がそういうことに関して興味がなかっただけで彼の中学生時代にも女性の生徒会長がいたかもしれないのだが。


「御堂さんとは柚月さんのお手伝いで来た時に見かけたことはあるけど、ちゃんと顔を合わせて話すのは今日が初めてかな? でも剣道で全国大会までいった美少女って地方紙に取り上げられてたから結構有名で僕含め、知ってる人も多いと思うよ」

「ほ〜」


 彰の言葉に相槌を打ちつつ、奏太が目線を玲奈に移すと彼女は恥ずかしげに目線を下に落とした。


「いえ、あれは運よく全国に上がれたのを大げさに取り上げられただけで…」

「いや〜、運で全国は行けないよ」

「そうそう、玲奈? 謙遜ばかりしてたらよくないわよ?」


 恐縮する玲奈に彰と美緒の二人が突っ込みを入れた。


「玲奈が頑張って練習してたの親友の私も剣道部の皆んなもちゃ〜んと知ってるんだからね? もっと胸張りなさい」

「うん、ありがとう美緒」


 はにかんだ笑顔で玲奈が美緒にお礼を言った。


(うんうん、いい青春してるね〜)


「何の話をしているの?」


 とそこで登場したのは、一人前とは思えない大きなお弁当箱を持った先ほどの学級委員の霧崎恵だ。


「ちょっと、自己紹介をしてたんだよ」


 彰は霧崎に空いている席を進めながら自己紹介をするよう彼女を促した。


「私は霧崎恵。柚月さんと御堂さんは知ってると思うけど、私は明紅(めいこう)中学の生徒会長をやってたの。それと今日決まったことだけどこのクラスの学級委員をやることになったわ。よろしくね」


 そこで霧崎はチラリと奏太の方を見て、机の上にドンと大きなお弁当箱を置いた後、言葉を付け足した。


「それと、私が学級委員になったからにはこのクラスの風紀は私がしっかりと正していきますのでそこのところよろしくお願いね」


 なるほど正義感が強い系の子か。いきなり厄介な子に目を付けられてしまったかと思いつつ、奏太も自己紹介をする。


「ははは…、俺は二木奏太。今朝の件はちょっとした行き違いでね。俺も調子に乗ってた部分があったし悪かったと思ってるよ。以降気をつけるから勘弁してくれると助かるよ」


 奏太が自己紹介をするもツーンとした目で霧崎は彼を睨みつけるばかりであった。


「霧崎さん、お久しぶり。これからはクラスメイトとしてよろしくね」

「よろしくお願いしますね」

「ええ、二人と同じクラスになれて嬉しいわ。仲良くしましょう」


 女性同士で仲良く話している隙を見計らって奏太は小声で彰に尋ねた。


「なんか既に目の敵にされているみたいなんだがどうすればいい? 彰、お前彼女と仲いいんだろ? なんとかしてくれ」

「ははは…、誤解ならしばらくすれば解けるからそう心配しなくていいよ。メグは見た目は真面目そうなんだけど、中身天然でね。…昔から恵のお守りをやってるようなもんでさ。腐れ縁って奴だね」

「ふ〜ん、そうか。幼馴染ってやつか。じゃあ学級委員に立候補したのもそれが理由か?」

「はは…。実はそうなんだよ。誰かあいつのフォローをやってやらないとあとあと大変だからね。悪い奴じゃないんだ。ただちょっとね」


 そんな風に奏太と彰がヒソヒソ話をしているとそれに気づいた霧崎が二人にツッコミを入れた。


「ちょっとそこの二人、何こそこそ話してるのよ?」

「いや、なんでもないよ。ね? 奏太」

「ああ、なんでもないなんでもない。ちょっとした雑談だ」


 霧崎は訝しげな表情で二人を睨み付ける。


「怪しいわね」

「いや、彰と霧崎さんが仲よさそうだったからさ。ちょっと関係を聞いてたんだよ。幼馴染なんだってな」


 奏太は追求を逃れるための発言をした。ただし嘘は言っていない。すると霧崎はやや納得した顔をして答えた。


「そうよ。アキラは男のくせしてだらしないから昔から私が面倒見てきてあげたのよ」


 霧崎は胸を張って言う。彰は乾いた笑みを浮かべていた。


(…苦労してんだなコイツも)


 思わず同情の目で彰を見てしまう奏太であった。


「アキラのおじさんはあんなにも豪快な人なのにね。おじさんを見習いなさい」

「いや、…僕はああいう風にはなりたくないかな〜」


 彰はすごく嫌そうな顔をしている。彰のお父さんはどんな人なのだろうか。


 “グ〜”


 音がなった方を見ると美緒が顔を赤らめていた。


「ヲホン! まぁ、とりあえずお昼にしましょうよ」

「ああ、そうだな。俺もいい加減お腹減ったよ」

「ですね」

「む、そうね」

「うん、食べようか」


 各自用意したお昼ご飯を机の上に出していく。奏太は今朝自分で用意した大きめの弁当箱を広げる。メインは唐揚げ、そこに朝作った卵焼きとポテトサラダにミニトマト、コロッケとボリューム満点なお弁当だ。それに対して玲奈は小さめのお弁当箱を美緒はコンビニ袋からサラダとサンドウィッチを、二人とも本当にそれだけで足りるのだろうかという量で少し心配になる。彰と霧崎はお弁当のサイズは違うものの中身は同じような品が並んでいた。サイズは彰のお弁当箱のサイズが奏太と同じくらいで霧崎のお弁当箱はその彰のお弁当箱の2倍くらいのサイズがあるのではないだろうか。


「二人のお弁当は中身がなんだか似てるな」


 奏太が思わずそう言ってしまうと霧崎がそれに反応した。


「ええ、私のお母さん料理苦手なの。だからいつも彰のお母さんが彰のお弁当と一緒に私の分も用意してくれてるんだ。彰のお母さんはとっても料理上手なのよ!」


 なぜか霧崎が誇らしげに言った。そんな様子を苦笑しながら見ていた彰が奏太のお弁当箱の中身を見て言う。


「奏太のお弁当も美味しそうだね。お母さん、料理上手なんだ?」

「ん? ああ、これは俺が作ったものだよ」

「え? 奏太料理できるんだ?」

「まぁ、一人暮らししてたらこれくらいはできるようになるさ」

「へ〜、一人暮らししてるんだ。じゃあここの寮に住んでるんだ?」

「いや、ここの学校の寮はキッチンがなくてね。もともと住んでるアパートで一人暮らししてるんだ」

「え? じゃあ中学から一人暮らししてたってこと?」

「…えっとな。まぁ色々事情があってね」


 手っ取り早いのは奏太が実年齢を明かして一端の社会人であったことを告げることなのだが、流石に知り合って間もない人に伝える気にはならなかった。念のため、奏太は玲奈と美緒の二人に言わないよう目配せした。二人は察しよく気づいたようで軽く頷いて言わない意思を奏太に伝えた。


「ふ〜ん」


 彰はそんな様子を不思議に思いつつも深くは突っ込まない方がいいと判断したのか話を変えた。


「じゃあさ、今度奏太の家に行ってもいい? 一人暮らしってどんなものか見てみたいな」

「ん? あまり面白いもんでもないと思うけど…別に構わないぞ」


 男の一人暮らしの部屋など見てもつまらないだろうにと思いつつ、奏太は承諾した。


「あ! なら私も見にいきたいです!」

「あたしも見てみたいな〜。奏ちゃん部屋綺麗にしてるのかな?」


 彰に便乗するように玲奈と美緒の二人が続けて意思表明する。


「ふむ、そうね。私もクラスメイトがちゃんとした生活を送っているか監督する義務があるわ」

「いや、そんな義務ないでしょうが」


 ウンウンと頷きながら好き勝手言う霧崎に彰が突っ込むもすでに諦めた雰囲気が漂っている。


(もっと頑張ってくれよ幼馴染君! そんな申し訳なさそうな顔でこっち見ないでくれ!)


 女子3人に見つめられ、奏太は仕方なく折れた。まぁ見られて困るものは…あるな。直前に隠すか処分しておいた方がいいだろう。


「はぁ、別にいいけどさ」



「それにしても奏ちゃんのお弁当、本当に美味しそうね。ね? おかず一個もらっていい?」

「ん? 別にいいぞ。ほれ」


 そう言って奏太は弁当箱を美緒の方へ差し出す。美緒はありがとうと言いつつ、サラダを食べるのに使っていたフォークで唐揚げを刺し、口へと運んだ。


「んっ、美味しい! シンプルな味付けだけど生姜が効いてて美味しいわね」

「シンプルな味付けにしておくと合わせるタレを変えるだけでリメイクできるから、唐揚げは作り置きにいいんだよ。今度はピリ辛のネギダレとあえて油淋鶏(ユーリンチー)風にするつもりだ」

「へ〜、それも美味しそうね!」


 チラチラと玲奈の目線が奏太の弁当箱に向けられているのに奏太は気づき、玲奈にも自分の弁当箱を差し出す。


「玲奈ちゃんも何か食べてみるかい?」


 玲奈は少し迷ったようにしたが、決意したように言った。


「えっと、はい、では玉子焼きをいただきますね」


 綺麗な箸づかいで玲奈は奏太の弁当箱から玉子焼きを摘み上げ、自分の弁当箱へ移した。


「お返しに私の玉子焼きをどうぞ」


 そう言って玲奈は奏太の方へ自分のお弁当箱を差し出した。


「おっ、ありがとう。じゃあいただこうかな」


 奏太は玲奈の弁当箱から一つ玉子焼きを箸で摘み、自分の口へと運んだ。玲奈はその様子を固唾を飲んで見守っている。


(おっ、だし巻き卵か〜。ん〜、美味しいな!)


「どっ、どうですか? お味の方は?」

「うん、とっても美味しいよ。卵がふわっとしてていい焼き加減で、何より出汁が効いてて美味しい」


 満面の笑みで奏太は玲奈に味の感想を言う。玲奈はそれにホッとした顔をしたあと笑顔になった。


「そのだし巻き卵、実は私が作ったんです。…出汁はお父さんが取ったものを使ってるんですけど」

「へ〜、すごいな〜。うん、玲奈ちゃんはいいお嫁さんになりそうだね」

「あ、ありがとうございます」


 玲奈は頰を赤く染め奏太にお礼を言った。


「奏太ってばさらっとそんなこと言えちゃうんだね〜」

「見かけによらずって言うか、いや? 見かけ通りなのかなこれは?」


 彰と美緒の二人が何か言っているが奏太の耳には入らなかった。それより奏太は玲奈と美緒の二人に聞きたいことがあったので質問してみた。


「というか…美緒も玲奈ちゃんもそんな量で足りるのかい?」


 この間、葵屋でチキン南蛮定食を食べた時は二人とも普通に食べていたし少食ってわけでもないだろうと奏太は考えていた。


「う〜ん、まぁね。お菓子とかも食べたいし、いつもお昼は大体これくらいかな?」

「私もいつもはもう少し食べるんですけど部活がないのでちょっと少なめにしてます」


 なるほど、女子高校生は色々と気を使っているんだな〜と奏太が思っていると別の声が上がった。


「これからはダンジョンに潜ることが多くなるんだから、二人ともしっかり食べた方がいいわよ」


 そう言いながら霧崎はハグハグモグモグと大きな弁当を食べ進めている。なるほどダンジョンは言わば戦場のようなものだ。しっかり食べて体力をつけることは必要だろう。


(しかし…しかしだ)


「いや〜でも流石にそれは食べすぎなんじゃないかな? そんな量よく食べれるね」


 正直その大きなお弁当にぎっしりと詰まったご飯とおかずがその細い体のどこに消えていくのか疑問だ。そして豪快な食べっぷりで気持ちがいいのだが、ずっと見ていると流石に胸焼けしてくるのだ。


「む、仕方ないじゃない。お腹が空くんだもの。それに彰のお母さんの料理が美味しすぎるのがいけないのよ」


 そう言って霧崎はご飯をかっこんだ。元のお堅い雰囲気は何処へやら、今は腹ペコのお子ちゃまみたいに見える。不思議な子だなと奏太が思っていると彰の声が聞こえた。


「ああ、ほらメグ。ちょっとこっち向いて。ご飯粒が口元についてるよ」


 どうやら勢いよく食べていたことでご飯が口元についてしまったようだ。そしてそれを見かねた彰が霧崎の口元からご飯粒を取ってやっていた。


(本当に彰が保護者みたいな感じなんだな〜)


 そんなことを奏太が思っていると彰はごく自然に霧崎の口元から取ったご飯粒を口にし、霧崎に注意する。爽やかイケメンである彰がやると嫌味なく、ごく普通の動作に見えてしまった。


「メグ、もうちょっとゆっくり食べなよ? あとよく噛むんだよ」

「うん」


 それでも先ほどとは別の意味で胸焼けしそうだと奏太は思うのであった。

読んでいただきありがとうございます。


明日は台風とのことですね。

もしかしたら明日も更新できるかもしれません。



今回の話…ダンジョンという単語すら出なかったような…


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よろしければこちらも読んでみてください。 もふっとダンジョン
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