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エピローグ


 俺がUSへ行く事が決まってからが大変だった。〇〇通アメリカで商用AIビジネスを展開させる為の準備、こちらから連れて行く人の人選、向こうの受け入れ態勢等々。

 

 そしてUSと打合せするにも時差がある。十三時間差だ。基本的にはこちらに合わせてWEB会議を開くが、急な要件の時などは向こうの時間に合わせる。時間調整が大変だった。


 それに何処に住むか。一時だけホテル住まいをしてそれからアパートメントを探す事にした。優香も俺もUSへは行っているが、生活となると話が違う。



 それと優香と婚姻届け出した事により彼女は神崎優香になった。両方の親から式はどうするんだとか、披露宴はとか言われたけど、一切行わないと言ったら、両方の親から激しく言われたけど、何とかこちらの事情を言って納得して貰った。…多分。


 まあ、日本に帰国したら挙げるからと誤魔化したけど。


 俺のUSへの移動に伴って、社内の人選も大変だった。そして俺の後継者。俺には富永さんと名瀬さんという優秀な部下がいる。


二人共USに行って一緒に仕事をしたいと言って来たが、流石に二人を連れて行く訳にも行かず、富永まどかになった彼女からもこっそりと主人の事は断って下さいと言われた。

 

 そう言えば富永さんがまどかと結婚する事が社内に広まった時の富永さんに対する同僚の目が凄かった時が有った。まあそれは仕方ないけど。



 そんな事もあり、俺は独身だった名瀬さんをUSへ連れて行き、富永さんに開発部長を引き継いで貰う事にした。


 上層部も俺の言う事には異論無くすんなりと決まった。そしてUSへ行く二週間前、


「りゅう、大きな荷物は先にホテルに送る事している。何回か確認したから送り忘れはないけど…」

「どうした優香。気になる事でも有るのか?」

「なにも無いのだけど。…向こうに着任する前って少し休み取れないかな?」


 そういう事か。


「ああ、着任する前に三日程休暇を取る。ボストンとニューヨークで少し遊ぶか?」

「嬉しい。一応ハネムーンにはなるね」

「それに行きはファーストクラスだ。悪くないぞ」

「本当!やったぁ!」


 うふふっ、式も披露宴も無いのは仕方ないけど、ハネムーンは行きたかった。丁度USに行くから取れるかなと思って聞いたら、やっぱりゅうは優しい。




 俺は、日本での最終出社日に商用AI事業推進本部長に挨拶に行った。

「本部長、今までありがとうございました。商用AIの基盤部分の研究開発はこちらです。向こうに行っても日本との関係は重要なので、宜しくお願いします」

「神崎、お前が育て商用AIと言っても過言じゃない。俺からすれば、本当はこちらに残って欲しかったが、残念ながらUS内でこのビジネスで一番人間関係が広いのは君だからな。こちらこそ宜しく頼むよ。しかし、気が付いたらしっかりと先を越されたな」

「先を越された?」


「君はやはり仕事一筋だな。USの商用AIビジネスの最高責任者とは、日本本社では専務クラスになるんだぞ。君もその位は分かっていると思っていたのだが」


 まだ、三十を過ぎたばかりの俺には、あまり実感がわかないポジションだな。


「すみません」

「いや、君が謝る事は無い。だが今度日本に帰ってきたら、私は君の部下だろうな。はははっ」

「そんな」

「まあ、いい。向こうで思い切り本領を発揮してくれ。楽しみにしている」

「ありがとうございます」



 それから、俺と優香はボストンのメインストリートで一泊して楽しんだ後、ニューヨークで会社が取ってくれたホテルとは別のホテルで二泊した後、そのままホテルを異動した。



 優香の英語は流暢でなんでそんなに話せるのかと聞いたら、高校、大学時代は夏休みに結構、母親と一緒に父の出張先に遊びを行ったそうだ。俺は仕事優先の英語なので結構助かっている。



 それから半年、現地のメンバと俺が連れて来た部下達と市場開拓に奔走した。その間に会社の近くに良いアパートメントがあると現地のGA(総務)の人が教えてくれて、そこに移った。

 日本で言うと文教地区にあたる。有名な大学や音楽院、日本の企業向けの病院などがある所だ。



 そんな中、


「りゅう、私妊娠したみたい」

「えっ?!」

 確かに心当たりはあるが…。


「病院は近くにあるから構わないけど、お腹が大きくなったら、お母さんを日本から呼んでもいいかな?」

 

 確かに俺は仕事で忙しくて、優香の事をずっと見てはいられない。今はいいかも知れないが、お腹が大きくなると大変だ。


「分かった。部屋はあるし、優香の為にはそれが良いんじゃないか」

「ありがとうりゅう」



 それから五ヶ月、妊娠して八ヶ月になった時、優香のお母さんがやって来た。仕事は導入企業も決まり、今詳細を詰めている所だ。



 そして、赤ちゃんが生まれた。可愛い女の子だ。近くにある病院は、日本企業に勤めている日本の人達が多く行く所だが、働いている人は現地の人が多く、そういう意味では、優香のお母さんも言葉に不自由無かったのが良かった。



 驚いたのは優香のお父さんが、なんとワシントンDCに着任した。本来はもう定年のはずなのだが、海外赴任が長い経験を生かしての事だそうだ。


おかげで毎週の様に会いに来る。これには、俺が参った。仕事はともかく、この状況は予想していなかったからだ。


 だが、そういう状況だから、俺は心置きなく仕事が出来た。いつもニューヨークにいる訳ではない。SFC、LA、ダラス、シカゴやワシントンDCにも行く。こんな状態だったので、優香のお母さんが来てくれたのは助かった。


 ただ…。優香のお母さんが娘が落着いてもこちらにずっといると言い始めた。無下に追い出す訳にもいかない。父親はワシントンDCにいる。


 これでは、俺は婿入りした様な感覚になってしまう。でもこれが俺の運命なのかも知れないな。開き直るしかなかった。


 


 更に二年が経ち、俺の任期が迫った時、本社から連絡が有った。交代する人間がいないから後二年いてくれというのだ。

 交代する人間がいないというのは、眉唾だろう。多分、俺が帰国した時のポストに困るからだろう。


一緒に働いて、現地の女性と結婚した名瀬さんや、日本には富永さんもいる。もっとも富永さんからはまどかは男の子の赤ちゃんを産んだと聞いているので、来るとすると単身赴任になるのだろうけど。


 しかし、三年もいると流石にこの街ニューヨークにも慣れる。生まれた子の国籍はUSになる。言葉もどうも日本語より米語が良いようだ。


 それから二年後、俺はこちらの会社の社長として正式に就任した。


 まあ、俺の人生こんなものかな。


 しかし、二度ある事は三度あるというが、四度は無かった。良かった。


―――――


 最後まで本作を読んで頂いた読者の皆様、大変ありがとうございました。


 いかがでしたでしょうか。高校、大学、そして社会人になっても振られまくった主人公神崎竜之介が、付き合った女性にはいつも裏切られるというトラウマと戦いながらも優香と結ばれ、最後はニューヨークに永住するという物語です。

現実的には現地日本法人社長までなると本社で副社長という席が用意されますが、彼は年齢的に若すぎた事、優秀過ぎる事が、現状の役員達のお気に召さなかったのかなという感じです。


エピローグどう締めようか悩みました。今回は社会人をテーマにした恋愛物語でしたが、仕事の話が多すぎたなというのも本音です。経験無いが故にそれが露見した感じです。


実際、評価もフォロワー数も、私の実力の無さが表れているなという感じです。

ですが、ご評価頂いた読者様、フォロー頂いた読者様には、感謝の気持ちで一杯です。

これからはこれを糧に社会人物語をより楽しい作品にしたいと思っています。


最後ですが、今回も連日投稿で四十二日間読んで頂いた読者の皆様、大変ありがとうございました。


また、新しい作品でお会い出来ればと思います。


 PS:不定期投稿ですが、下記の作品も投稿しています。お読み頂ければ幸いです。

「青空。事故で大切な家族を亡くし、親戚には慰謝料を全て取られ、俺を心配して近付いて来たと思った隣の子には財産目当てだと知った俺の顛末」


 


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