変な噂
私、御手洗千賀子は営業のセクレタリの仲間と一緒に七階のカフェテリアで昼食を食べていた。この時三課を担当している子が
「ねえ、聞いた。神崎開発部長、金剛谷執行役の姪と結婚するかも知れないって」
えっ?!
「どこからの情報なの?」
「何でも金剛谷執行役が外で部下と一緒に夕食を摂っている時に話したらしいのよ。それが流れて来て」
まさか、りゅうが金剛谷執行役の姪と結婚するなんて。でもおかしな話じゃない。りゅうは今注目されている。執行役達が自分の将来の為に有望な社員を手の内にしておくのは常識。やはりもっと早くりゅうと仲を回復しておけば…。遅かったのか。
私、西島まどか。営業のセクレタリの人達と一緒に昼食を摂っている。三課の子がりゅうの話をしている。彼女の言っている事は本当なのだろうか。
彼とは友達まで戻す事が出来た。りゅうはそれ以上の関係には戻らないと言っていたけど、時間は人の心も変えてくれる。だから待てば、また彼と元の関係に戻れると思っていたのに。もう駄目なんだろうか。
俺は、自席で仕事をしていると竹内先輩から社内コールが有った。
「神崎部長、営業の竹内さんからです」
「繋いでくれ」
「竹内先輩、神崎です」
「社内でその言い方は止めろと言っただろう。ところで変な噂を聞いたんだが」
「変な噂?」
「神崎部長、午後五時に七階のカフェテリアに来れるか?」
「行けますけど」
会議の合間だ。行けるだろう。
「じゃあ、その時に話す」
午後五時になり、俺は直ぐにカフェテリアに行った。
「こっちだ」
竹内先輩が手を上げて待っている。
「神崎、お前、金剛谷執行役の姪と結婚するのか?」
「はぁ?そんな事する訳ないじゃないですか。何処からですそんないい加減な情報?」
「やはりな。いやな、今営業仲間でこの噂が広がっているんだ。どうも出元は執行役らしい。あの人は今会社の中でも居心地がよくない立場にいる。今期はまだ執行役の椅子はあるだろうが、来期は分からない。だからか。お前との関係を社内で吹聴して少しでも自分の椅子を安定させる魂胆だろう」
佳織さんとはもう終わらせたつもりだ。一時頭が沸騰してお花畑になっていたが、その後は連絡が来ないので、熱が下がったのかと思っていたが。まさかこんなうわさを執行役が流すとは。
「竹内先輩、とにかくその噂は事実ではありません」
「だが、どうしてそんな噂が流れたんだ?」
俺は仕方なしに金剛谷執行役から誘われた事から話した。
「そういう事か。でもその佳織さんとやらは、今はお前にお熱なんだろう。だから執行役が噂を流したんじゃないか。いずれ事実になると思って」
「それは無いです。俺には何年も前から付き合っている人がいます。とても佳織さんと結婚する気なってありません」
「ならば早く打ち消した方がいいな。下手に役員会やひいては株主会で変な形で持ち出されたら、お前にも飛び火するぞ」
「分かりました」
「もう時間だ。戻るか」
「はい、ありがとうございました」
「ああ、いいって事」
俺は自席に戻りながら、佳織さんとの事はどうにでもなると思っていたが、甘かったようだ。はっきりと言うしかない。執行役に言うには筋違いだ、面倒だが、もう一度佳織さんに会ってはっきりと断ろう。
私、金剛谷佳織。龍之介さんにお付き合いしている人がいると言われたけど、本当は居ないのかもしれない。でも本当かも知れない。
叔父様に龍之介さんとの事、話を進めて欲しいと言ったら喜んでいたけど、付き合っている人もいるらしいと言ったら、そんな人、私の魅力で何とかしろと言われた。
叔父様が何故龍之介さんにこだわるのかは分からないけど、私は彼に寄り添って生きていきたい。
今まであんな人見た事ない。物言いに歯に詰まったものが無く、はっきりと言う。それが叔父様で有っても。
そして優しさと強さが兼ね備えられ、頭も良く仕事も出来る、こんな人居ない。顔は今では素敵にしか見えない。彼を絶対に他の人には譲らない。例えお付き合いしている人がいたとしても。
だから、私は彼のアパートを訪ねる事にした。日曜日ならいるはず。もっと彼と一杯話して私の魅力を分かって貰うんだ。場合によっては、私の初めてをあげてもいい。いずれ彼に上げるんだから。
私の家は、横浜にある。渋谷まで一本で行ける。そして田園都市線に乗り換えればいいんだ。
住所は叔父様から聞いている。本当はいけないのかもしれないけど、私の思いを伝えたら教えてくれた。
駅に着いてスマホのマップで探しながらやっと見つけた。普通のアパートだ。もっと豪華なマンションに住んでいると思ったのに。でも良いわ。郵便ポスト見て神崎の名前の有る部屋番号を見つけた。
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話が長くなるので明日に続きます。
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