人の心とは経験で変わるもの
正月も明け、優香も嬉しそうな顔をして過ごした年明けも終わり、また忙しい日常が戻った。
あっという間に一月が過ぎ、二月になった初めに佳織さんから連絡が有った。あの人から連絡なんて来るはずも無いと思っていたが、
「神崎さん、今度の日曜日お会い出来ませんか?」
「行き成りですね。申し訳ないですが今度の日曜日は先約があります」
「そうですか。では来週の日曜日は?」
「その日であれば構いませんが、何か?」
「会った時に話すわ。何処で待ち合わせするの?」
なんて我儘な!
「渋谷のハチ公前交番の前ではどうでしょう?」
「そんな所に私を行かせるの。せめてセルリアンの二階にあるレストランにしません?」
なんて人だ。この人の夫は苦労しそうだな。
「分かりました。テラスのデッキで待っています」
「では午前十一時で」
一方的に切られた。こんな人に合せられる人って会って見たいものだな。
その週の日曜日は、優香が冬物バーゲンに付き合ってくれと言われている。はっきりって、あの人の我儘より優香の買い物の方が大切だ。
仕事も忙しい中あっという間に次の日曜日が来た。俺はセルリアンの二階のレストランのデッキで十五分前に来て待っているとしっかりと二十分遅れて来た。だけど
「ごめんなさい。目覚ましが鳴らなくて」
なんかどっかで聞いたような。
「そうですか。それは仕方ないですね」
「ごめんなさい。あの、ここで食事しませんか?」
おい、遅れて来てそれかよ。
「いいですけど」
ここはイタリアンレストランで有名な店だ。窓際の席に案内され注文をした後、俺は前からの疑問を彼女に投げた。
「佳織さん、いきなりの質問ですけど西島まどかという人をご存じですか?」
「えっ?なんでまどかの事を?」
「実を言うと金剛谷執行役からあなたを紹介された時、西島さんのお知り合いだと聞いたものですから」
「そういう事ですか。まどかとは高校時代からの友人です。それも私にとって大切な。詳しい事は言いませんが、彼女が居なければ私はここにいない位大切な友人です。でも何故まどかの事を?」
聞くしかないか。
「他言無用でお願いしたいのですが、前職の時に西島さんとお付き合いしていました」
「えーっ!あの時のまどかの恋人って神崎さんだったの?」
「知っていたんですか?」
「知っているも何も彼女からは事の顛末を聞いています。だから余分な事とは言え、叔父様にお願いしてまどかの会社の上層部に彼女の件については一切の事を伏せる様にお願いしたんです」
だから彼女の事は前職では話題にならなかったのか。竹内先輩の言う通りだな。
「そうでしたか。この事は聞かなかった事にして下さい」
この男が、まどかの相手だったとは。分かる気もするけど。あの子、イケメン主義だったはずなんだけど。まあ、私もこの人を選ぶ事はないな。
「ところで今日俺に声掛けたのは?」
「叔父様が五月蠅いのよ。あなたとの事どこまで進んでいるんだとか」
「そうですか。言えばいいんじゃないですか。俺なんか顔を見るのも嫌だって」
「神崎さんって自信家?それとも私の様な女は大嫌い?」
「俺は佳織さんに何も感じていません。好きにして下さい」
なんて男なの。こんな扱い受けるなんて。男なんて私の容姿と家柄で寄り付いて来たのに。まあいいわ。益々この男嫌いになった。
「今日はお会い出来て良かったわ。もう帰りましょう」
「ええ、そうしましょう」
この男殴りたくなったわ。この私になんて言い様なの。
俺達はエスカレータで一階まで降りて地下通路に行こうとした時、前から金髪でサングラスを掛け鼻にピアスを着け、金具の付いた革ジャンを着た二人組の男が前から歩いて来た。
俺は右に避ける様に歩いたが、佳織さんの肩がその男の一人にぶつかった。
「痛ってえなぁ。姉ちゃん」
「ふん、あんた達が悪いんでしょ。ぶつかって来たのはそっちよ」
おいおい、この人静かな池に石を投げる人か?周りの人も何かと思って見ている。
「威勢がいいな。人にぶつかっておいてその言い草か」
「ふん、目障りな下等生物は消えて」
「おい聞いたか。俺達は目障りな下等生物だと」
「そうか。それでは俺達下等生物に少し付き合って貰おうか」
呆れた。ここまで世間知らずとは。一人の男が佳織さんの胸にいきなり手を伸ばした。全く。
仕方なく、手刀で男の手首を落とすと
「兄ちゃん、出る幕じゃないんじゃないか?」
いきなり俺の顔めがけて殴って来た。でもその辺のガキの喧嘩レベルだ。簡単に受け流すとともに右ひじを思い切り相手の顔に打ち込んだ。
ぐえっ!
それから足払いした後、右頬に思い切り拳を打ち込んだ。男はそのまま崩れ落ちると動かなくなった。
「お前もやるか」
「い、いえ。お、おい行くぞ」
俺の前で崩れた男を引き摺りながら二人の男が消えると
-かっこいい。
-彼にするならあんな人よね。
-俺じゃ駄目か?
-あんた、この前犬に追いかけられたでしょ。
-……。
「佳織さん、帰りますか?」
「…………」
え、え、ええーっ。なにこの人。あの下等生物が私の体に触ろうとした時、目にも見えない速さで撃ち落とした後、殴られそうになった腕を簡単に避けて相手の顔面に肘打ちをした。それから足払いして更に顔面に拳を打ち込むなんて。一秒も掛かっていないじゃない。単純な仕事人間じゃないの?
「佳織さん?」
「は、はい♡」
今まで私に近付いて来た男なんて家柄や容姿だけだったのに。何なのこの人。
「佳織さん、それではこれでもう会う事も無いですね。さよなら」
「ちょ、ちょっと待って」
「何ですか?」
「あの、もう一度会って頂けません?」
「先程の話の流れでもうお会いする事も無いかと思ったんですけど?」
「な、何言っているのよ。もっと嫌いな所見つけないといけないんでしょ。次も会ってよ」
「はあ?」
「とにかく、来週の日曜日も会って!」
「来週は駄目です。用事が有ります」
「次の日曜日は?」
しつこい人だな。もうこれが最後だろう。
「では、最後に一回だけ会いますか。では」
行っちゃった。駅まで送りないさいよ。何なのよ。なんで私がこんな気持ちにならないといけないの。みんなあの男が悪いんだわ。責任取らせてやる。
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