まどかとの再会
御手洗さんは昨日別れ際に夜連絡をくれると言っていたから眠気を我慢して午後十一時位まで起きていたけど、我慢出来なくて寝落ちしてしまった。
スマホを見ても着信履歴が無かったから、口先だけだったんだろう。
旅行に行く前は、彼女とどんな関係になっても旅行先だけの事と思っていたけど、あれだけ濃くて楽しい時間を過ごせば心も少しだけ動くというもの。
だから夜の話次第ではとも思ったんだけど、俺の勝手な思い込みだったようだ。まあこれで良いんだけど。
今日は、午前十二時まで寝ていて、起きた後、旅行に持って行った洋服を洗濯した。その間に掃除をして、洗濯物をベランダに干してブランチを外に食べに出た所だ。
アパートのある町だと何かと不都合な事と遭遇しそうなので、敢えて渋谷に出た。食事をした後、ぶらぶらして帰るつもりだ。
ミライエに入って落着いて天ぷらの食べれるお店を探したけどもう転居したのか昔あった店が無い。仕方なく油のきつくない揚げ物やでとんかつ定食を食べる事にした。
昼時の所為か、随分人がいる。でも二十分位待てば入れそうなので待っていると
えっ!
「りゅう!」
なんて事だ。別れたまどかが目の前にいる。しかもご婦人が一緒だ。まどかに似て年齢を感じさせない可愛さがある。
こっちは座ったままなので、直ぐに立とうとすると腕を掴まれた。場所をわきまえると変な事は出来ない。
「待って、りゅう」
「…………」
「まどか、こちらの方は?」
「お付き合いしている、神崎龍之介さん」
「そう、この方が。私は西島まどかの母、西島麗華です。この度は娘が大変失礼な事をして申し訳ございませんでした」
深く頭を下げられた。
「もし出来れば娘ともう一度お話をして頂けないでしょうか?」
「お母さん」
「まどか、私は先に帰っています。宜しくお願いしますね。神崎さん」
「えっ?!」
完全にリードされている。
「りゅう、お願い」
周りに人がいる状況で変な行動は取れない。
「まどか、俺まだ昼食べていないんだ」
「私達も本当は食べに来たんだけど」
「だったら、君のお母さんに申し訳ない事を…」
「りゅう、私が一緒に食べては駄目かな」
こんな状況で断れるはずがない。
「いいよ」
「ほんと。ありがとう」
周りの人達のとんだ見世物になってしまった。その時丁度店の人から順番を呼ばれた。
中に入って俺はロースかつ定食、まどかはミックスフライ定食を頼むとじっと俺を見た後、俯いてしまった。
「まどか、ここでは話辛い。食事をして外に出てからにしよう」
「うん」
顔を上げて、俺が知っている時の笑顔を見せた。裏切られて別れたのに笑顔が可愛いく見える俺が情けなかった。
一時間程そこにいた後、約束通り別の階にあるカフェテリアに行った。このビルはオープンカフェ形式が多いので話しやすい。
「りゅう、ごめんなさい。いきなりで」
「良いよ別に。それより話って」
「あいつは今拘置所にいる。弁護士の話では十年は出て来れないと言っていた」
「どういう事だ?」
「私は、あいつにされた事や脅されていた事を弁護士に相談して警察に訴えて貰った。あいつの家には私との事を撮った証拠が残っていて警察に摑まった。会社は直ぐに解雇された。慰謝料も貰った」
「まどか、会社はどうなった?」
「まだ勤めている。情報が洩れて私も陰口をたたかれたら辞めようかと思ったけど、同僚にそれとなく聞いても渡辺の周りからは、私の事は何も無いみたいだった。それより他の課の子にも手を出していてそっちが噂になっていた」
まどかは本当に渡辺から脅されて仕方なく応じていたのか。でも自分から近寄った時も会ったよな。
「りゅう、脅されていたとはいえ、一時でも気を許した私が馬鹿だった。りゅうのご両親と会う直前まで、りゅうにこの事をばらすと言われて、怖くてあいつの言うままにしてしまった。
本当にごめんなさい。どうすれば許して貰えるなんて考えない。でもあれから五か月が過ぎた。
本当に反省している。もう絶対にあんな事にはならない。どんな小さな事でもりゅうに相談する。だからもう一度お付き合いしたい。どんな時だっていつだってあなたを忘れた事はない。今日だってそう、一日たりともあなたを忘れた事はない。
お願いりゅう。私はあなたしかいないの。もう一度お付き合いしたい。お願い」
一度は結婚まで考えた女性。俺だってあんな事がなければ、もっと早く話していてくれれば別の違った世界が有っただろうに。
でもその後で優香とも御手洗さんとも関係を持ってしまった。しかしまどか程の思いは出て来ない。
もし渡辺の件は、俺とまどかが付き合う前の出来事として俺が頭に整理出来れば。
でも本当にそんな事出来るのか。まどかを抱く度にあいつの事が頭に蘇るんじゃないのか。分からない。
「まどか、気持ちは良く分かった。でも直ぐに俺が君に返事出来るほど、俺は聖人じゃない。時間をくれないか。勿論いい結果だけとは言えないけど、もう一度考えてみるよ。
でもその間に君に良い人が現れたら遠慮なくその人の傍に行ってくれ」
「無い。絶対にない。そんな人現れない。私の心の中はりゅうしかいない。過去も今もそして未来も」
「まどか…」
もう時間は午後三時を過ぎていた。もうすぐ午後四時になる。八月も最終週になると夕方暗くなる速度も速くなっている。
「まどか、いつ返事出来るかもわからない。それでもいいか」
「いい、いつまでも待っている」
「その時、断る事もあるんだぞ」
「いい、それでも待っている」
「分かった。送れないけど気を付けて帰れよ」
「うん」
思い切りの笑顔になった。この子が微笑むと本当に綺麗な花が咲いたのと見間違う。胸がドキッとする。
渋谷の埼京線のホームまで送って行くと
「じゃあな」
「うん、りゅう。待っている」
電車がホームから出て行った。
俺何やっているんだ。でもこの感情は優香にも御手洗さんにもない。でも一度は裏切った女。よく考えないと同じ目に遇いたくない。
俺はアパートに帰りながら
優香だって俺より前に男を知っている。何人か本当は知らないけど。御手洗さんだって同じだ。大学に入ってからの彼女の事は全く分からない。本当に一人なのかも分からない。
そう言う意味では、渡辺に強制されていたとは言え、まどかがあいつだけだという事は俺も分かる。
経験人数なんてくだらない事じゃなくて、少なくても女性の過去を知っているのはまどかだけだという事だ。それが今後、良い方に行くのか悪い方に行くかなんて知らないけど。
俺は、まだまどかに未練があった様だ。
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