りゅうと旅行から帰った後
俺は、御手洗さんとの二泊三日の旅行が終わって、彼女と中目黒の駅まで戻って来た時、
「りゅう、まだ休みあるでしょ。もっと会いたい」
「うーん、後四日しかないから自分の時間も欲しいんだ」
「そうだよね。ねえ、今日電話してもいい?」
「それは良いけど」
それだけ言うと彼女は駅に向かって行った。
私は、今回の旅行で色々な成果が有ったと思っているけど、夢の中に行かされ過ぎて肝心な事を彼に話すのを忘れてしまった。
せっかくここまで持って来たのに、このまま時間が経ってしまえば、二人での旅行の効果が薄れてしまう。
余韻が頭に残っている内にしっかりと彼の恋人に戻る様にしないと何のために行ったのか意味がなくなってしまう。
だから今日の夜、電話する事にした。
家に着くと
「ただいま」
「お帰りなさい。千賀子」
「お母さん、ただいま。お父さんは?」
「ゴルフよ」
「そう」
私は自分の部屋に旅行バッグを持って行き床に置くとベッドに腰かけた。
りゅうとは高校二年からの付き合い。どちらからともなく近付いて付き合い始めた。高校二年の秋に付き合い始めたのにキスもしないで高校を卒業した。
もっと積極的に来るのかなと思ったけど。でも私に魅力がないんじゃなくて彼が奥手だという事は日頃の行動で良く分かっていたから私からも積極的にいかなかった。
始めは同じ大学に行こうと思っていた。彼は成績も良かったから。でも彼は中堅私立大それもいわゆるお金のかかる大学に行った。
その頃の私の家は生活には困らなかったけど裕福では無かった。子供も私一人。だから選択肢は国公立しかなかった。
彼はあまり勉強しなくても楽に推薦で行けた。私は必死に勉強した。そんな事も有って三年の時は、お昼や放課後少し会う程度の関係になってしまったけど、彼は他に彼女も作らず私を大切にしてくれた。
そういう状況の私だから彼は余計私に手を出してこなかったんだと思う。
そして大学が別になって、入学してから直ぐに近寄って来た人は、りゅうとは正反対の性格の人だった。高校で出来なかった事をその人は直ぐに要求して来た。
優しいけど奥手なりゅうを良いとは思いながら、私自身が早く一度はしてみたいという気持ちも有ったのかもしれない。
そしてりゅうから何度か連絡が有ったけど、りゅうよりその人を優先していた。そしてりゅうからは連絡が来なくなった。その頃は、もう新しく付き合い始めたその人に夢中になっていた。
最初は夢中だったその人も一度した後は、デートも何もしないでするだけだった。私は容姿に自信がある。だからかもしれないけど、半年も同じだと流石に冷めて来る。
別れを言い出すともっと気持ち良くさせてあげるからとか馬鹿な事を言い始めたので、もうそれが目的で私に近付いたのかと思うと後は気持ちが冷めて行くだけだった。
そいつと別れた時は、りゅうの事は頭に残っていなかった、いえ片隅には会ったのかも知れないけど。
その後も何人かの男子学生が声を掛けて来た。でもお付き合いしていく中で体の関係を求められる度に何故かりゅうの事を思い出し始めた。
多分安易に求めて来なかったりゅうの優しさが恋しくなったのかもしれない。何回かした後は拒否してしまい、そこで関係が終わるパターンが何回かあった。
最初の人の後から付き合った人達は、何かとりゅうと比較するようになっていた。理由は分からない。
でももう四年生になっていた。流石にあれだけの人だったら、当然彼女はいるだろうと思うと自分から連絡してみじめな思いをする気にならなかった。
どうせ連絡先もブロックしているのだろうと思うと余計りゅうに連絡する番号を押す事が出来なかった。
そして突然の会社での再会。また高校卒業した後、大学で出来なかった関係を再度出来ないかと思い彼に近付いた。そして冷たくされればされる程、心は彼に引き寄せられた。
やっと出来た二人だけの旅行。そして彼はしてくれた。女性との付き合いは少ないと言っていたのにも関わらず、私を夢の中に何度も連れて行ってくれた。りゅうの本来の優しさがあれに出ているのかも知れない。
今私の心の中はりゅうだけ。私も今年で二十七才になった。彼も同じ年。今お付き合いしている人がいる様な気がするけど、最後に私が彼の傍にいればいい。今の流れを途切らせたくない。
私はシャワーを浴びた後、お母さんと一緒に食事をした。そしてとんでもない事を言われた。
「ねえ、千賀子。お見合いする気ない?」
「何を言っているの。する訳ないでしょう」
「でもあなたも年頃よね。今いないのなら一度会ってみてはどうかな?」
今回の旅行は同僚の女性と行くと言ってあった。いきなり男性と二人で旅行に行くなんていったら、絶対に反対されるから。それが裏目に出たようだ。
「お母さん、私の夫は自分で見つけます」
「でも、あなたは一人娘よ。お婿さんに入って貰わなくてもいいけど、いずれ一緒に暮らして欲しいわ。だからそういう方と一緒になって欲しいの」
「お母さんは私の夫を将来面倒みてもらう人位にしか見て無いの?私の人生よ。冗談じゃないわ」
「でも、我家が苦しい時でもあなたを大学に上げたのはお父さんと私よ」
「…………」
それは確かにそうだけど。それが理由で自分達の老後を面倒見ろなんてふざけている。
「お母さん、私は嫁いだら家には戻りません。老後はお父さんと考えて下さい」
「千賀子…」
私はそれだけ言うと自分の部屋に戻った。ちょっと言い過ぎた所も有るが、あんな考えで結婚してくれる人なんて今は居ない。
こんな頭ではりゅうに電話かける事なんか出来ない。どうしよう。
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