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仕事より難しい事が有る


 俺は、室長と別れたその足で地元のスナックに立ち寄った。ドアを開けると


「いらっしゃーい。あっ!」

「久しぶりだね。武石さん」


「ママ、ちょっといい」

「分かったわ」



 私は、カウンタでお客様の相手をしていたが、神崎さんが久々に来たので、直ぐにカウンタを離れて、彼をシート席の方に誘った。


「神崎さん、いつUSから帰国したんですか。予定より長かったですよね?」

「ああ、先週の金曜だよ」


 この言葉に隣のシートの人がちらりとこちらに視線を寄こした。無視したけど。


「じゃあ、三ヶ月近く行っていたの?」

「そういう事になる。ちょっと時間空いたから来たんだ」

「そうかぁ、嬉しいな。ねえ、今日は十一時半まで居れる?」

「うーん、疲れているから、顔だけ出したって感じ。二杯くらい飲んだら帰ろうと思っている」

「えーっ、じゃあ、明日は?明日朝から行って良い?」

「昼からなら」

「ふふっ、分かった。じゃあ二杯だけね」

「ああ」


 スナックには一時間程居て帰った。俺がいる間、向こうの事を色々聞いて来たけど、適当に誤魔かした。誰が聞いているか分からない。地域や場所の名前で推測されるのも困るからだ。




 翌朝、俺は起きてからシャワーを浴びてゆっくりとした後、コーヒーを淹れた。豆は先週の日曜日に買いに行っている。

 やはり、こうして自分で淹れたコーヒーを飲みながら新聞を読んでいるのんびり感が良い。その後テレビをつける。


 向こうでは、日本の事は全く流れて来ないから、三ヶ月というのは、ちょっと世間離れをしてしまう。



 パンとバターにつぶつぶコーンスープ。ゆっくりと朝食を摂りながらテレビを見ていると日本に帰って来たんだなとつくづく感じる。


 朝食も摂り、コーヒーも最後の一口を飲み終わると、テレビを消して、簡単に掃除をした。武石さんが午後から来るからだ。


 あの子とはおかしな縁で関係を持ち、なし崩しに彼女、彼氏になってしまった。まあ、害がある訳でもないので、そのままにしている。




 もう、七月に入ってしまった。帰国して、皆に説明会を開いている内に七月一日になり、その日の内に新しい名刺が渡され、社内の閲覧権限も一挙に広がった。

 机の位置も俺が説明会で席を不在の間に室長の前になっていた。なんと御手洗さんの向かい側でもある。



 あの人は元カノだが、何とか復活したいらしい。でも俺にその気はさらさらない。一方的に振られた感じだから。


 偶々勤め先が同じだからといって、よりを戻す理由にはならない。西島まどかとも一度は結婚まで考えたけど、結局浮気され、いやあの場合は俺が浮気相手だったのか、終了してしまった。恋愛に運の無い人間が、また恋愛に巻き込まれるのはごめんだ。

 


 ピンポーン。


 時計を見ると午前十二時ちょっと過ぎた所だった。そろそろ武石さんが来ると言っていたな。

 覗き穴で確認した後、玄関を開けた。


「お邪魔しまーす」

「いらっしゃい」


 俺はソファに座って貰うと横に置いてある。USのお土産を渡した。

「これ、USのお土産」

「わーっ、ありがとう」


 買って来たのは、ブランド品の可愛いポシェット。それにこれもブランド品のルージュのセットだ。

「どうかな。よくわからないから、ルージュはセットで買った。ポシェットは似合うと思うんだけど」

「うん、ぜんぜーん問題ない。むしろこんな高い物、ありがとう」

「喜んでくれると嬉しいよ」

 ポシェットは向こうでは日本の半額だ。ルージュは免税店で買った。



「ねえ、来ていきなりだけど」

 そそと俺の傍に寄って来た。抱き着くと顔を近付けて目を閉じた。


 そういえば三ヶ月のお預けだったものな。キスをすると強く吸い付いて来た。一度離れると

「あっちが良いんだけど」

 そう言って、寝室を指さした。



 ふふっ、久しぶり。龍之介は結構上手。優しくてとても気持ち良くさせてくれる。

合コンで会った男より全然上手。龍之介の過去の女性なんか関係ない。私が彼にとって最後の人で有ればいいんだ。


 あっ、また。だめーっ。



 午後三時を過ぎていた。何回いかされたか分からない。私が気絶寸前の所で彼が行ってくれた。


「久しぶりだね。武石さん」

「うん、ねえ、名前で呼んで。こういう関係なのに苗字呼びは何かおかしいよ。私も龍之介って呼びたい」

「分かった。優香ちゃんで良いかな」

「ちゃん、いらないけど」

「じゃあ、優香」

「うん、龍之介」


 少し話をしている内に、二回戦が始まってしまった。



 もう午後五時を過ぎてしまった。

「龍之介、夕飯一緒で良い?」

「いいけど、ここでは食べれないよ。簡単な食器しかないし」

「そうだね。じゃあ外に行く?」


「渋谷に出ようか?それとも地元にする」

「うーん、地元だとお店のお客様もいるし、渋谷にしようか」


 俺達は簡単にシャワーを浴びた後、出かけた。居酒屋形式の所で定食に一、二品付けて食べた。

 ほとんどビールかハイボール。流石にお腹一杯になる。


「ねえ、龍之介、私の部屋に来る?お酒あるよ」

「えっ、でも」

 女性の部屋に行くのは抵抗がある。


「俺の部屋にしようか。途中のコンビニでお酒買えば良いし」

「私の部屋、来たくないの?」

「そう言う訳じゃないんだけど、ちょっと抵抗がある」

「そっか。じゃあ、ちょっとだけアパートに寄らせて。その…着替え持って行きたい」

 そういう事。


「分かった」

 意図的に自分のアパートの位置を教えようって訳?


 言うと通りに彼女のアパートに寄った。なんと、俺のアパートから五分と掛からない。

「簡単に済むけど、外で待って貰うのも悪いから、部屋に入って」

「でも」

「いいから」



 彼女のアパートは、どちらかと言うとマンション形式でしっかりとした作りをしている。アパートと言うより戸数の少ないマンションってところだ。


 言われた通りに部屋に入ると

「どうかな。私の部屋」


 彼女のと言うより女性の匂いが一杯の部屋だ。ちょっと頭がくらくらする感じ。

「そこに座ってちょっと待っていて」


 彼女は寝室だろう部屋に入って行くと直ぐに出て来た。簡単なバッグを持っている。

「さっ、龍之介の部屋に行こうか」


 思い切り泊るつもりらしい。



 途中コンビニに寄って缶酎ハイやビール、それに白ワインとおつまみを買った。結構な量だ。これ二人で飲むのかな。


「冷蔵庫に入れておけばまた後で一緒に飲めるし」

 俺の心を見透かしたように優香が言って来た。なるほど。


 俺の部屋に入って、二人で飲み始めると

「ねえ龍之介。お願いがあるの」

「なに?」

「今度、私のお母さんに会ってくれない?」

「えっ?!」


「難しく考えないで。最近実家に帰る毎にお見合いの写真見せられて。龍之介がUSに行っている間もそんな事が有って。だからお付き合いしている人がいるって言って君の名前を出してしまったの」

「それって…」


「安心して、母へのカモフラージュだから。信じて貰えればもうお見合いの話無いだろうし」

「あの優香の家族って?」

「ああ、お母さんは専業主婦。お父さんは商社マンなんだけどイギリスのウェールズにもう三年滞在している。また一年伸びたって言っていた。

お母さんも行けばいいんだけど、私が生まれる前はUSとかには付いて行ったらしいんだ。でも私が生まれてからお父さんの単身赴任になって。

 私はもう大人なんだからついて行けばって言ったらウェールズは寒くて独特の訛りが有るから嫌いだとか言って行かないの。

 あっ、ごめんなさい。関係ない事まで話してしまって」


 なんか凄い家庭だな。優香って結構お嬢様?


「優香、そう言えば大学は?」

「青百合、小さい頃からずっとあそこ。家の近くでもあったし。最後は文学部」


 青百合って!うわっ、完全なお嬢様じゃないか。


「そうなんだ。じゃあ、英語は大丈夫なんだ?」

「一応英語とフランス語は生活に困らない。遊びでドイツ語かな」


 俺より凄いじゃないか。


「それよりさ、酔っちゃったけどさ、お泊りセットも持って来たし」

 この子、体力あるな。俺、大丈夫かな。あれはさっき補充したから数はあるはずだけど。



 やっぱり一回戦終わったら寝てしまった。


 翌日は正午近くまで二人で寝て、目が覚めてから三時位までして起きた。流石に彼女も色々あるらしく、その後素直に帰って行った。


 素直で良い子だけど、昨日の話はちょっと重そう。仕事と違って理論立てては解決出来ないみたいだ。困ったな。

 

―――――


投稿意欲につながるので少しでも面白そうだな思いましたら、★★★★★頂けると嬉しいです。それ無理と思いましたらせめて★か★★でも良いです。ご評価頂けると嬉しいです。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

 



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