お互いに結婚の約束をしたのに
俺は、まどかの両親に会う約束をしていたが、中々心の中の区切りも着かないでいた。もうあれから二ヶ月が経っている。
まどかも何故か、あれ以来俺に強く、両親と会う事を迫ってこない。一時だけの盛り上がりだったんだろうか。
彼女と土曜日になった時、確かめる様に
「なあ、まどか。俺もそろそろ気持ちを決めようと思う。君の両親に会おうか」
「えっ、う、うん」
「どうしたんだ。あまり嬉しそうに見えないけど?」
「そんな事ない」
「でも。もしまどかがあまり気乗りしないなら、無理しなくて良いよ」
「そんな事ない。会って」
何かおかしい。やはりもう少し様子見るか。乗り気じゃないみたいだし。
「ねえ、先にりゅうのご両親に会えないかな?」
「えっ!俺の両親。構わないけど。でもなんで急に」
「うん、私の両親は問題ないと思うけど、りゅうの両親に嫌われたらと思うと」
「そんな事。それ全然気にしなくて良いから。俺の両親、俺のプライベートには干渉しないから。でも不安なら先に会うか?」
「うん」
俺は、その日の内に父さんに連絡を入れると
「まどか、日曜なら明日でもいいって」
「えっ、明日は。全然準備出来ていないし」
まあ、それはそうだ。
「分かった。じゃあ来週の日曜日俺の実家に行こう」
「うん」
最悪な事にその週の水曜日もあいつに抱かれた。何とかしないとこのままでは不味い。でもどうすれば。
そして翌日曜日、私はりゅうの実家に行った。もちろん、思い切り綺麗にして。渋谷で会って、それから東横線に乗った。
りゅうの言われるままに駅に降りると
「えっ、ここって」
「どうしたの?」
「ううん、何でのない」
私は驚いてしまった。テレビでは見た事の有る程度の知識しかない街。想像以上に綺麗だった。私の家の周りとは全く違う。
私達は五分程歩くと
「ここだよ。入ろうか」
目を見張ってしまった。我が家が三軒は建つ広さだ」
「どうしたの?」
「大きいなぁと思って」
「まあ、外見はね」
俺はまどかを連れて玄関に入ると
「ただいま、来て貰ったよ」
連絡を先にしておいたので直ぐに母さんが玄関に来た。
「いらっしゃい。可愛いお嬢様ね。上がって」
「はい」
とても綺麗なお母様だった。また緊張してしまう。私は自分の靴を揃えて端に置くとりゅうに付いて廊下を歩いた。お母様はどこかに行った様だ。
リビングらしい所に入ると怖そうな男の人がソファに座っていた。
「父さん、来て貰ったよ」
「先ずは座って貰いなさい」
「まどか、座ろう」
「うん」
先程玄関で会ったお母様が、紅茶のセットを入って来た。いい匂いがする。
「父さん、母さん、紹介するよ。西島まどかさん。結婚を前提にお付き合いしている」
「ほう、そうか。西島さん。私は神崎龍一だ。横にいるのが妻の真由美だ」
「西島まどかです。龍之介さんとは結婚を前提にお付き合いさせて頂いています」
「可愛いお嬢さんだ。ところで龍之介、どこで知り合ったんだ?」
「最初に入った会社。俺の一目惚れ。それから一年半お付き合いして結婚を決めた」
「一目惚れか。なるほどな」
今度は母さんが
「西島さんは龍之介のどこが良くて結婚しようと思ったの?」
「はい、優しくて、私をいつも大切にしてくれます。怖い事が有った時は私を守ってくれます。私が我儘を言っても嫌な顔しないで聞いてくれます」
「そうなの。良かったわね龍之介」
「うん」
この子大丈夫かしら。ちょっと不安。
「西島さん。紅茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
私はティーカップを持つ手がちょっと震えた。じっと私の所作を見ている。でも初めてだし仕方ない。
まるで駄目ね。親のしつけどうなっているのかしら。
「龍之介、西島さんのご両親に挨拶は?」
「これから。先に父さんと母さんに会わせてからにしようと思って」
「そうか」
「西島さんはどちらに住んでいるのかしら」
「埼玉の小宮というと事です」
「あら、ここから一本で行けるわね」
「はい」
何となく父さんと母さんが何を考えているか見えて来たので
「父さん、母さん。まどかと結婚するって事でいいよね?」
「ああ、自分の嫁は自分で見つけた人が一番だ」
「ありがとう、父さん」
「じゃあ、俺達帰るから」
「ああ、向こうのご両親に会ったら、その後の事を教えてくれ。挨拶にもいかなければ行かないからな」
「分かった」
俺とまどかはそのまま実家を後にした。
「あなた」
「ああ、分かっている」
それから一ヶ月位して、俺は父さんから連絡を受けた。
『なに父さん?』
『龍之介、向こうに実家には挨拶は行ったか?』
『まだだけど』
『そうか、明日帰ってこれるか。急ぎの話がある。西島さんの事だ。但し彼女にはお前がここに戻って来る事は教えるな』
『どういう事?』
『くれば分かる』
俺は、木曜日、仕事を早く切り上げて実家に戻った。テクノロジーラボからは近い。
「ただいま」
「龍之介、リビングにお父様が待っています」
俺は玄関を上がるとその足でリビングに行った。母さんはいない。
「父さん、帰ったよ」
父さんが厳しい顔で俺を見ている。
「龍之介、お前は西島さんの事、何処まで知っている?」
「どういう事?」
「これを見ろ。弁護士を通して興信所に調べさせたものだ。昨日の日付の写真もある」
俺は、A4の封筒に入った十枚近い写真と調査書を見て、愕然とした。
「こ、これって」
「見ての通りだ。相手は渡辺茂樹。お前の前の会社の営業だ。西島さんと同じ第二営業部にいる。この前来られた時、違和感が有ったが思った通りだったな。
私にはお前と結婚を前提にお付き合いしているとか言っておきながら一週間か二週間に一度、この男とホテルに行っている。調べだとこの男とはもう一年以上の関係の様だ。騙されたな竜之介」
母さんが入って来た。
「私もお父様と同じよ。所作とかは仕方なく思ったけど、龍之介の好きな所を聞いた時、結婚までしたいという気持ちには全く聞こえなかったわ。何か他人事の様にお母さんには聞こえていたの」
「龍之介、西島さんとは結婚とか以前の話としてお付き合いする相手じゃないな。後はお前が対応しなさい」
「分かった」
父さんと母さんの前では気高くしていたが、帰り道で足元がふらついているのが分かった。一年近い関係って。俺がまどかと初めてのした時より前に渡辺としてたって事か。
なんて事だ。俺と結婚したいなんて言いながら。俺は顔だけに惑わされていたのか。やっぱり俺に恋愛は不向きなんだ。
流石に翌日は午後出勤にさせて貰った。出社しても頭が動かない。
「りゅう、どうしたの?体調が悪いなら休んだ方が良いわよ。働かない頭で考えてもミスるだけだわ」
「御手洗さん」
きつい言われ様だが確かにその通りだ。仕方なく室長の所に行ってせっかく出て来ながら帰宅の事を言うと
「神崎、月曜までには切り替えて来い」
ここは、中途半端な気持ちや頭では勤務なんか出来ない。常に集中が必要だ。それが出来なければ周りに迷惑が掛かるだけだ。仕方なく
「済みません」
そう言って、帰らせてもらった。もうはっきりした方がいい。出ないと土日でこの事を吸収できない。俺は直ぐにまどかに連絡した。
『まどか、俺だ。今日少しでも早く会えないか。重要な話がある。俺の所に来てくれ』
『えっ、重要な話。分かった。二時間後で良いかな?直ぐには仕事切れないから』
『ああ、待っている』
本当は外で会いたいけど、あの写真を持って外で会う訳には行かない。
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