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『できそこない』なんて



 突然、叫んだクーに太陽さんとお月さまは、目をまんまるにして驚いた。


「か、かべ? クー、壁がどうかしたのかい?」


「この間、お月さまが言ったんじゃないか。地上との間には壁があるって。壁を越えようとすると燃えてしまう、って。ボクが、小瓶を持って地上に向かえば、燃やすことができるはずさっ!」


 クーが喜んでいると、お月さまは悲壮な顔をして叫んだ。


「クーっ! なんてことをっ! そんなことをしたら、小さな君は地上につく前に燃え尽きて灰になって消えてしまうよっ!」


「危険なのは分かってる。僕だって、すぐに燃え尽きたくはないから、工夫だってするつもりさ。むざむざ死ぬつもりなんかないよ。」


「それでもっ! どんなに頑張ったって、どんなに工夫したって、危険なことに変わりはないよ。燃えつきてしまう可能性はなくならない。どうして、そんな無茶をしようとするんだい?」


 お月さまはクーを心配して、必死に止めようとしたけれど、クーの決意は固かった。


「ぼくはもう、自分を『できそこない』だ、なんて言って、卑屈なまま、時を過ごしたくないんだよ」


 クーは「無理だ」と言っている瞬間が、一番、惨めであることを、嫌と言うほど知っていた。

 輝くみんなの輪の外で、頑張れない自分が大嫌いだった。

 クーの心が軽くなったのは、ハイスのために悩んで、なんとかしようと走りだしてからだ。


「無理だ、と諦めていたときは心は重く沈んで、少し動くことさえ億劫おっくうで。まるで、生きているのに死んでいるようだった。それなのに、何も感じないどころか、心はいつも、消えてしまいたくなるほど苦しくて。」


 クーはなんとかお月さまに分かって欲しかった。クーのために心を痛め、何かと気にかけてくれる彼だから。だから、一生懸命、言葉を紡いだ。


「ここでまた、危険だから、と諦めて、足を止めてしまったら……。ボクはまた、自分が大嫌いになってしまう。大嫌いで、惨めな自分のまま、ずっと、ずっと、生き続けるぐらいなら、危険だろうが、なんだろうが、ボクは行くよっ!」


「でも……。だって、それじゃ、クーが……。」


 お月さまは口ごもり、嫌だ嫌だ、とべそをかいていた。すると、太陽さんがそっと口を開いた。


「わたしはクーがやりたいようにやれば、良いと思うよ。クーがどう生きるかは、クーが決めることさ。」


 そう言って、太陽さんは優しく微笑んでクーを見た。


「でも、クー。『できそこない』だなんて、だれかを馬鹿にするための言葉は、もう、使わないでくれないかい? そんな意地の悪い言葉は、心の優しい君には似合わないよ」


 クーは驚いて太陽さんを見た。


「輝かない君も、夜空にいないわたしも、自分で輝かないお月さまも。みんな星だし、出来損ないなんかじゃない。

自分が知っているものに当てはまらないものが、おかしい、とか、劣っている、とか。

そんなことを言う者は、自分が物を知らない、ということさえ、知らないだけさ。」


 クーは「『できそこない』なんてものがない」という言葉が嬉しくて、何度も何度もうなずいた。


「そうだ、そうだよ。ハイスは『できそこない』なんかじゃない。『できそこない』なんかじゃ、ないんだっ……!」


 ああ、早くハイスに会いに行きたい、とクーはまた、走り出した。

 もし、地上まで燃え尽きずにたどり着くことができたのなら……。クーはハイスへ伝えたいことがたくさんあるのだ。


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