いにしえの魔法
「お月さま、お月さまっ!」
クーは5つの小瓶を抱え、お月さまの元へと急いだ。
「やったよ、星のきらめきと熱、笑い声と涙、歌声を集めてきたよ」
「やったね、クー。すごいじゃないか」
お月さまはもう、満月ではなくなっていた。その輝きはまるで爪跡のように細い。だけど、今日はまだ、それほど落ち込んではいないようで、クーはホッとした。
「ありがとう、お月さま。お月さまが教えてくれたおかげだよ」
クーが満面の笑みでそう言うと、お月さまが突然泣き出した。
「お、お月さま。いったい、どうしたんだい? なんで泣いてるの?」
「ぼ、ぼくは自分が情けないよ。クーが心配している男の子のために、ぼくは何もできないでいる。それなのに、自分で頑張って夜空を駆け回っていたクーに、お礼を言わせてしまうなんて……。」
どうやら、輝きが細くなったお月さまは、涙もろくなってしまっているようだった。
「お月さまはまた、泣き虫になっちゃったのか。今はそんなことより、早くこの小瓶を燃やそう。どうやって燃やせばいいかな?」
クーはお月さまが涙もろくなるのはいつものことなのであまり気にしない。
お月さまの方も慣れた様子で、涙を拭いつつ、どうしたものかと考えた。
「そうだね、太陽さんにお願いしたらどうだい? 太陽さんに燃やせないものなんて、ないからね。しかも、『誰かのため』という理由なら、きっと快く手伝ってくれるんじゃないかな」
そう言ったお月さまの声はか細くて、その笑みは今にも消えてしまいそう。クーはお月さまが太陽に声をかける姿を心配そうに見つめていた。
「たいよーさん、ちょっと、いいかい? 手伝ってほしいことがあるんだ」
太陽は、満面の笑みでこちらへやってきた。
「わたしにできることなら、喜んで手伝わせてもらうよ。いったい、どうしたんだい?」
「実は、クーが地上の子供を助けるため、願いを叶えるためのおまじないをしようと思うんだ、だけど、そのためには、この5個の小瓶をもやさなければいけなくて……。太陽さん、この小瓶を燃やしてくれないかい?」
小瓶を見た太陽さんは、なるほど、とつぶやいた。
「これはおまじないなんかじゃない。力ある、古の魔法だよ。そうか、クーはこの魔法でハイスを助けようと思ったんだね」
太陽さんの言葉に、クーとお月さまは驚き、喜んだ。
「そうか、魔法だったのかっ!」
「良かったねクー。本当に良かったっ!」
だけど、太陽さんは沈んだ顔だ。そして、申し訳無さそうに言った。
「……ごめんね、クー。わたしにはその魔法のお手伝いはできないんだ」
「えっ!」
「なんだって?!」
信じられない、とクーとお月さまは太陽さんを見つめた。
「その魔法は同時に二つの願いを叶えることはできないんだよ。わたしはすでに、その魔法を今も、はるか昔からずっと使っているんだ」
そう言って、太陽さんは自分の中で燃えている5つの小瓶を見せてくれた。
「わたしが、沢山の人を、世界を照らせているのはずっと小瓶を燃やし続けて、古の魔法を使い続けているからなんだ。だから、ごめんね、クー。わたしさにはクーの小瓶を燃やすことはできないんだ」
「……」
クーは当てにしていた太陽さんに断られてしまって、なにも言葉がでなかった。
「う、ううーっ」
突然、お月さまが泣き出し、クーは慌てた。
「お、お月さま?!」
「クー、ごめん、ごめんね。ぼくの明かりは、太陽の明かりを地上に送っているだけで、ぼく自身が燃えているわけじゃないんだ。ぼ、ぼくは、なんて役立たずなんだろうっ……」
ぼろぼろと大粒の涙をこぼし、お月さまは泣いている。クーもつられるように泣き出した。
当てにしていたおまじない、古の魔法が使えない。クーはがっかりして、悔しくて、情けなくて、たまらなかった。
「謝らないで、お月さま。お月さまはなんにも悪くない。ボクが星のくせに輝けない、ちっぽけな黒い星だからいけないんだ」
クーは他の星に頼めないか考えた。
ベテルギウスは生涯最後の輝きだ。彼の最後の総仕上げを邪魔しちゃいけない。
ポラリスにも彼の信念、願いがある。
きっと、だれだって、そうだ。
誰かに自分の願いを叶えてもらおうなんて、きっと、クーのほうが間違っているのだ。
でも、それじゃぁ、ハイスは……。
「クー、あきらめないで。まだ、ムリかどうかなんて分からない。可能性があることは全部、試してみようよ」
「太陽さん……」
「壁に一度ぶち当たったからと、あきらめないで。君はあきらめちゃダメだ。ハイスのために動けるのは君だけなんだから」
そうだ。ハイスのことを大事に思っているのはクーだ。だから、クーが頑張らなくては。
クーはそう思ったものの、どうしたら良いのか分からない。でも、あきらめたくない。ぜったいに、あきらめられない。
壁なんて、乗り越えなくては……。
「壁……、かべ……?」
クーははっとした。
「そうだ、地上との間の壁だよっ!」




