19話 唐揚げハムスターなんてものを作ってしまった
「仲間が欲しいわ」
「うん。さよか」
「ねぇちゃんと聞いてよ。重要な話なのよ」
「大丈夫、大丈夫。お前の辞書に重要と言う文字はあらへんやろ」
「ちょっとそれどういう事よ」
フォークに唐揚げをぶっ刺しながら怒るゼアミ。
ゼアミに喰われそうになって俺に助けを求めていた面影は無く。
ただただ唐揚げを貪る子供になっていた。
浴場に入った俺たちはクリオネの粘液を洗い流してギルドの酒場にて晩ご飯を食べていた。
風呂屋でクリオネのネバネバ服を洗濯して干させてもらっている間俺の服を貸している。
あの時は番台さんに渡して貰ったんだっけな。
あの時は礼を言ったがあの銭湯の常連にならなくては。
そしてゼアミは勿論俺の服に合うわけでもなく、途中の服屋で下着を買って着ている。
ギルドは某モ○○ンの集会所と似た構造をしており討伐したモンスターの遺骸の買取。
そしてそのモンスターを食材とした料理で賄ってもらえる。
流石に机の真ん中にチーズは無いし、もちろん有料である。
ギルドの買取店に持って行き売り、その代金を貰う。
一匹の買取代金は時価によるが2000ポン。
見つけて討伐するまでの時間が大体二時間くらいだったから時給1000円くらいか。
日本の夜勤バイト同等だが昼間にできるものでは良い案件。
いや、俺が読んでいたファンタジー系で雑魚モンスターの中でも高い方だろう。
中にはゴブリンとかオークなどの人型でも数百程度しか貰えないなんてあるからな。
しかもこの世界の物価が安いからそこそこやっていける。
だが農家の方々に被害を出している肉食動物の討伐だと考えているとだな。
日本だと熊や猪、猿などの討伐の危険度とそう変わらないと思う。
やったことないけど。
兵士はタダ飯くらいが丁度良いと言われているが何ともな。
人の命を無碍にされているようで。
それにダンプぐらいのクリオネを引きずって持って帰ってきた。
そのせいでか石や砂などで透明な身体は傷だらけで減額されてしまったのが財布に痛い。
早朝に海産物の卸売りなどで傷物の魚が減額されているが。
今はその釣り人達と似たような気分だと思う。
泣きっ面に蜂とはこの事か。
まさか遺骸回収サービスなるものがあるとは知らなかったな。
サービスに頼らなくても荷車くらいは貸してくれるということも。
それが有ればどれほど楽だったか。
人間が産んだ仕事率を変えてくれる文明機器が有れば疲労具合は変わる。
お陰で足腰が痛くて痛くて、俺ももう歳かな。
それにしてもだ。
目の前にある唐揚げがとても美味い。
クリオネ独自なのかコリコリした食感で肉汁は少ないが独特の風味がして意外とイケる。
牡蠣とは違った別の貝類の食感。
珍味と言えば珍味なのだが唐揚げの調理方法があったのか本当に美味い。
食い倒れの街と呼ばれた大阪の舌でも最高と評価出来る。
しかも殻の揚げ方が絶妙であり恐らく先に来た異世界人《日本人》が教えたのだろう。
日本独自で開発、探求された粉の漬け方といい、カラッとする揚げ方。
外国の方でも人気があり今や世界的になってきている食べ物だ。
異世界の方々が好きになることは自明の理。
時間など掛からなかっただろう。
そして中には唐揚げ定食まであると言う。
これはまさに確信犯だろ。
俺の前にいる食いしん坊女神は、別味付けメニュー(タルタル)に付けていた。
このクリオネの唐揚げを貪っているが。
タルタルは子供に人気だからな。
他にもマヨネーズやらソースやらあったが。
目の前の女神は咽せながらもパクパク食っていく。
体型に合わずよく食う。
一体栄養はどこへいっているのだか。
「そのままの意味やで。まぁ俺はきちんと話を聞くけどな」
「何よ。その態度は。コホッ!コホッ!早くクエストを終わらせる気はないの?」
「ゆっくり食えや。一番足引っ張っとった女神には言われたく無い。あの時木に吊さなんだ俺が馬鹿だったな」
「ううう。何も反論出来ない。でも、やっぱり仲間は欲しくない?流石に後衛班での討伐は骨が折れるわ」
確かに二人は心細いっていうか弱いな。
魔王を倒すわけだし、数名欲しい限りだが。
「それもみたいやけどやな、レベルも装備もない俺らのパーティーに入ってきてくれる心優しい人がおると思うか?それも大筆と楽器を持った俺らを」
そう俺達はただの冒険者では無い。
側から見れば筆と楽器を持った変な兄妹である。
こんなのに誰が同じパーティーになりたいだろうか?
俺なら絶対入りたく無い。
「ふふん。この私を誰か忘れたトキマサ。私の神性とカリスマで仲間の募集なんて需要有りまくりよ。そう年末年始、人気難関校受験の倍率並みに志願者が出るわ、きっと。それにね。この私の職業を忘れたのかしら?【ホワイトヴィザード】、最高位の職業。全ての治癒魔法、補助魔法を使える謂わば後衛魔法の頂点。しかも音楽でパーティーを盛り上げる事もできる。いくら異動させられたからってね、人望と力は有り続ける音楽神ゼアミ。そう募集をかければ大量の推薦書が来るに決まっているわ。だからねトキマサ。貴方の残り唐揚げをくれません?」
俺の唐揚げを欲しがるゼアミ。
「そこはカッコよく締めろよ」
そういう所だぞ、女神っていうのは威厳が大事だからな。
やはりコイツはコイツだな。
音楽神(笑)の間違いだろ。
今のところ女神様らしい力を拝めていないのだがね。
「どんだけ腹減っとんのやねん。一個だけやで」
「ありがとう。あーん。うん美味しい」
最後の唐揚げなのか残ったタルタルをどっぷりつけて頬張る姿。
その光景はそこらの育ち盛りの子供とそう変わらないのだが。
何故だろう、この女神だけは別の者に見える。
そうゼアミを捕食していた貪欲なクリオネに。
且つ、唐揚げを食べる二人を見つめる視線を彼らは気づいていなかった。
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