14話 初めての事って大体覚えているよね
「いやいやいやいや、やばいもう死にそう。異世界に来て一週間で死にそう」
青天の雲一つない空に悲鳴が響く。
走るにはとても良い天気日和だ。
暑くもなく湿気も程よくあり風も少ない。
そして大小の石は多少あるがある程度芝生が生えた草原。
足腰を鍛えるにはうってつけの道。
ジョギングコースであるならば良い環境でしかない。
運動靴での話だが。
俺は死んだ時、そんなに歩き回らない事だと思い足袋しか履いていない。
何故俺は足袋で外に出たんだと過去の俺に殴りたい気持ちを抑えて走る。
「弱音を吐かないでもっと速く走りなさいよ。食べられちゃうわ」
「やかましいねん。俺におんぶされとるお前にだけは言われたく無い。正直これでも限界や。もう少し痩せてから言ってくれ」
「ああっ。女性に言ってはいけないこと言った。レディに向かって禁句を。トキマサ最低」
「レディならレディらしく淑女らしくしてくれ。今にも下ろすぞ。ええんか?」
そう俺は大筆と大万年筆そしてお荷物であるゼアミとその楽器を背負って走る。
いや巨大な軟体動物型のモンスターであるギガントクリオネに追われながら逃げ回っている。
街より少し離れた草原地帯、障害物が少なく走り回るならうってつけ。
故に見渡しが良すぎる。
ゼアミに頬を叩かれてから一週間ぐだぐだ宿屋生活。
この街と異世界のことについて調べていたのだが金というのは消耗品。
いつか少なくなり無くなる。
今では最高神から貰ったお金が半分を切ったことは今後の生活に危惧することだと。
そこで金を少し稼ごうと思いクエストを受注したのだ。
流石に一攫千金な高難易度クエストには挑戦しない。
俺の職業は【サモナー】とはいえステータスは戦闘向き。
今になって武道を覚えていて良かったと今は亡き婆ちゃんに感謝。
そう俺は完全に戦えない訳では無いのだ。
なので一応最低限として携帯武器としてククリナイフを買っておいた。
なんでククリナイフかって?
カッコイイからだよ。
武器は見た目が大切だからな。
ゼアミにも武器を買うことを勧めたのだが。
女神が武器を持って必死に戦うのは戦神の娘だけで良いとか、女の子に戦わせるの?
とかバカ同然の事を吐露し、今では俺におぶられて文句ばっかり言っている。
マジで戦神の娘が良かったと思う。
今でも来てくれないかな戦神。
そうしたら毎日礼拝するのに。
その後でコイツは木に蓑虫のように吊るして帰ろう。
うんそれが良い。
そして今顔を墨だらけにされて激昂しているギガントクリオネに追いかけられている。
ふわふわと浮きながらまるで泳いでいるかのように追ってきている。
これほど巨大だと氷の妖精も怪物へと変貌する。
しかもなんでこんなに早いのだろう。
妖精ってなんだっけとかいうどうでも良い疑問をふわふわさせながら走りまくっている。
このクリオネは名前に騙されてはいけない。
俺も名前を見てクエストを受注したのだがまさかこれ程とは。
ギルドに帰ったらモンスターの詳細を書いていただきたい。
そしてその絵は俺に描かせてほしい。
絶対に上手く描ける自信がある。
そのギガントクリオネの体躯は小型のダンプ位の大きさ。
名前の通り全体的にまんまクリオネで透明な膜を持った見た目をしている。
軟体動物が嫌いな人でも惚れるものだ。
現実世界ではファンタジーから来た生物だと言われていたっけ。
まぁ今いるここは異世界だけど。
本当に異世界から転移したんじゃないのか。
しかしこの見た目に騙されてはいけない。
クリオネは肉食貝。
頭を裂いて触手を生やして小魚を食べるという行動をする。
人はこれを悪魔の貝と呼ぶ。
実際出てきた瞬間俺たちを見てされた時は本気でビビった。
下手すりゃ失神もの。
いや、実際ゼアミは気絶していたな。
そんなゼアミは俺におぶられて今現在ピンピンしている。
初夏の産卵期に体力を温存させるためにエサを求めて人里に出没。
農家や牧場の牛やら羊やら家畜を丸呑みにするため牧場主は泣き寝入りするしかない。
家畜はお金がかかるからね、同情するよ。
しかも、実際子供が食べられかけたという黒い噂までたつ始末。
おいおいそれが本当なら俺達も危ない。
しかもこいつらは透明な上、近くに水が有るか湿地帯であれば大体生き延びられる。
その捕食量と被害もあってか町近くの弱いモンスターとは別で危険モンスターの部類である。
だが、クリオネと言っても貝を食べる元世界の国があるほど。
この異世界でもクリオネの肉を食べるとのこと。
現実世界では食べた人いわく不味いや珍味だと言われているが。
想像とは程遠いほど美味しいらしいので帰ったら食ってみよう。
見た目で食べ物を判断してはいけない。
ゼアミ曰く貝類であるため筋肉質。
繊維が程よく付いているせいか少し硬いが油が少なくヘルシーな食材。
ダイエットしている人には大人気のお肉。
分厚い繊維状の筋肉が並の武器を通さず唯一柔らかい腹は打撃系武器を跳ね返す弾力がある。
そんなやつどうやって倒すんだよと思うかもしれないがそこは人類。
きちんと生体調査済み。
やはり弱点は判明していた。
金属などの消化に時間がかかるものや飲み込めないものを嫌う習性がある。
そのため装備をしっかりしていれば捕食されることはない。
装備が充実した冒険者達には良案件の獲物となる。
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