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獣医さんのお仕事 in 異世界  作者: 蒼空チョコ
異世界召喚編

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22/62

 番外編 異世界での医療品調達

今回のお話にオチはありません。

主に薬品製造についての説明回となるので面倒という方は飛ばしてください。

 

 


 ドニの城には使用人が大勢いる。

 


 広い庭を管理する庭師に世話係のメイド、執事、コック、馬番などなどだ。あとはお抱えの大工、商人なども頻繁に出入りしていた。

 ここに住む者といえば基本的にはドニと奥方のみ。まれにドニの一人息子が帰郷してくることがあったが、それ以外といえば来客をもてなすばかりだ。例えば隣国の使節団、他にはギルドの長や、他領からの使いなどである。

 


 最近の来客といえば件の猊下と、ハドリアの神官一人が当たる。

 執事長とメイド長は使用人の前で揃って、主と同じように敬えと言いつけた。

 当然、粗相は許されない。「何なりとご用命ください」と口癖のように言い、引き下がるのが使用人達のマニュアルとなっていた。

 


「ありがとう。何かあったら言うよ」

 


 こんな言葉の通り、風見はかなり気さくに話しかけてくる。

 その点は必要最小限しか言葉を交わそうとしないドニなどとは大違いで使用人達は戸惑った。

 


 なにせ彼はメイドが仕事の合間に同僚と話している時にも「よっ、なにしてるんだ?」と輪に入ってきたりする。

 しかしメイドにとっては「何故仕事を放棄している?」とサボり現場を指摘されたようなもので悲鳴を上げそうにもなった。

 


「な、なんでもございませんっ。どうかお許しを……!」

「へ? そんなに畏まらなくてもいいぞ?」

 


 要するに使用人達は対応に困るし、ビビるからあまり声をかけて欲しくないなぁと陰ながら思っていたのだが――風見にはその空気が読めなかった。

 むしろ接する機会が少ないからよそよそしいのかなと思って会話に精を出そうとしているくらいだ。

 


 ついでに彼はクロエに捕まって外へ出られないのでよく街への小間使いも頼み込んでいた。

 その要件といえば、

 


「あー、何度もごめん。庭師のおっちゃんは新鮮な草を残しといて。あと、街のガラス職人に頼んでた漏斗と、他の道具屋で鍼と、釣り針っぽい針と、糸と。あ、絹糸は炎症を起こしやすいからヤなんだけど……ま、いっか。あとは肉屋に注文していた腸ヒモと、酒屋に注文しておいた酒を頼む。それから旅の商人からケシと、他の麻薬もだな。それから硫黄を研究している学者のギルドから硫酸ももらってきてくれ。それと、ついでにゴブリンの骨格標本も作りたいからコックさんには使い古しの大鍋をもらいたいんだ。伝えてくれるか?」

 


 とのことだ。

 聞かされるメイドや庭師は揃って口を閉ざしていた。

 この人、何語を喋っているんだろう? と自分達の言語のはずなのに半分くらいしか判っていない。

 


「…………。あの、猊下……」

「ん、なんか聞き逃したか? 多くてゴメン」

「いえ、あの……スライム相手に何を?」

「これは観察日記をつけてます。やっぱ何をやってるか気になる?」

「い、いえ、そんなことは……」

 


 城の隅っこに作られた三つの竹の檻にはそれぞれ一匹ずつのスライムが入れられていた。

 しかし、乾燥に弱いスライムのために屋根と風よけも作られているので檻というよりはむしろ小屋だろうか。かなり手が凝っている。

 


 誰も好んだりしないスライムをこんな風に飼い、さらには羊皮紙にスケッチやメモを走り書く姿といえば変人以外の何物でもない。

 賓客には礼節で塗り固めて接しよと教え鍛えられてきた使用人達もこれにはぎこちない顔しかできなかった。

 猊下が背中で話しているばかりだったのが幸いである。賓客相手にこんな顔を見せたら折檻どころではなかった。

 


 にしても伝説に想像していた姿はどんどん打ち砕かれつつある。

 


 戦場で勇猛果敢に活躍する?

 見知らぬ知識で人々を助ける?

 ましてドラゴンさえも従える?

 


 それはなかった。

 彼は基本的にのほほんとしているのがスタンスらしいというのは判ってきた。他には誰しもに友達感覚で接する節がある。

 ここ最近は後々のために語学勉強をしていると思ったのだが、それ以外ではこんな風に奇怪な行動ばかりだ。

 


 これに伝説を期待するには無理がある。

 使用人のひそひそ話では、あの人本当に役に立つのかなぁとネタに上がるばかりでポジティブな憶測は減っていた。

 


 


 そして、今日も今日とて奇行は続く。

 彼は朝っぱらから城の端にある小屋にこもっていた。そこでまたしても妙なことを始めていたのだ。

 


 ちなみにその小屋は使用人が物置やサボり場所として使っていた場所なのだが、つい先日から猊下がどこからか大量に捕獲してきたドブネズミやハツカネズミの飼育場となってしまった。

 だから使用人はいつも以上に煙たがっていたりする。

 


「シンゴー、これは一体何を書いているんだ?」

 


 風見が複数の試験管とにらめっこしているとリズが声をかけてきた。

 


「目標は硫酸モルヒネの水和物とか、モルヒネ塩酸塩水和物って書いてる。元のケシ何グラムを使って、どういう変化をさせたらもっと純粋なモルヒネを抽出できるかなって試した表だ」

「なるほど。判らん」

「うん、俺も他人から聞かされたらそう言うよ」

 


 リズは羊皮紙を摘まみ上げていたが書いてあるのは日本語と英数字なので全く意味が判らなかったらしい。

 すぐに興味を失うと椅子に腰かけ、背もたれに上半身を乗せてだらけていた。

 


 警護としてついていた彼女は、当初外に出た時はなに、散歩? 散歩なの? と尻尾を振る犬みたいに生き生きしていたのだが小屋に入るなりこんな様子だ。

 くぁぁぁとあくびしている様はまさに犬。いかにもつまらなさそうなので放っておけば今に眠りこけるだろう。

 あのキラキラしていた顔が懐かしい。

 


「はぁ、一応目標は判っているのに途中が全く判らん。モルヒネって麻酔を作り始めた初期からあるし、明治時代でもそこらの検査室レベルでできたっていうくらいだから抽出はさほど難しくないはずなのになぁ。リズ、どうすればいいと思う?」

「私は知らんよ」

 


 モルヒネとはケシからできる麻薬のアヘンに含まれる成分で、とても良い鎮痛薬として現代でも重宝されている。

 戦争映画で「痛み止めを……!」なんて言っている兵士に与える注射は大抵これだ。

 


 始まりは使用人達に運び込んでもらったこちらの世界の麻薬の中にはケシにそっくりなものもあったことからだった。

 風見はそれからモルヒネを抽出できないものかと思い立ち、試行錯誤を繰り返している。

 無論、他の麻薬についてもどのような効果があるのか確かめるためにすり潰したり、同じように抽出を試みたりは怠っていない。

 


「薬なんて薬草をそのまま使うのがほとんどだろう? シンゴみたいに変なものを混ぜたり、煮たりするなんて聞いたこともない」

「薬草だって十割全部が有用じゃなくて使える成分が決まっているんだよ。止血に効く薬なら血管を収縮させたりする何かの成分がある。痛み止めなら痛みを感じる過程のどこかを邪魔する成分がある。炎症止めならそれ用の成分がある。そのまま使っても邪魔なものが多いし、目的の成分をどれだけ投与できるかも判らないからその成分はできるだけ不純物なく取り出したいんだ」

「難しい話だね。私にはよく判らない」

「ん~。じゃ、言い換えよう。料理に塩味をつけたいです。その塩味をつける材料として、人の汗、小石混じりの岩塩、塩の結晶があります。さて同じ塩味が作られるかもしれないけど前の二つじゃ変な味になりそうだし、濃さもマチマチで入れる量も判らない。それじゃ困るだろ?」

「それなら素材の味だけで食うよ、私は」

「身も蓋もないこと言うなよ……」

 


 病院は薬を作るイメージもあるが、一から作ることはまずない。

 例えばおなじみのタミフルなどのように名前がある薬を出したり、苦い薬なら飲みやすくするための甘い粉を足したり、元から錠剤だったものを砕いて計り取ったりといったところだ。

 インフルエンザなどの検査でも検査用のキットを買い、そのキットに患者から取った鼻水などをつけて調べるのだ。あとはウイルスとキットが反応すれば色が変わるので判るという小学生でも使える道具が多い。

 


 酵素や生理食塩水、その他の医療品だって大概は既製品を買って使うのである。

 だから医者は薬の詳しい製法は知らない。というかそれは企業秘密に分類されるくらいの知識だ。

 


「難問だよなぁ、ホント。俺は製剤士でも薬剤師でもないのに」

 


 風見ははぁと大きく息を吐く。

 ここでは文明の利器には頼れないのだ。

 


 便利な薬は何一つないし、薬を抽出するための薬品すらもなかった。

 だから何かを分離・抽出させたいならまず、それに必要な薬品から分離・抽出しないといけないわけで風見は途方に暮れている。

 


 ゴールは一体どこにあるのだろうか。

 


「ふーん。で、どうやってその薬とやらを作る気なんだ?」

「普通、何かの抽出っていったら揮発させたり、有機溶媒とかアルコールに溶かしたり、圧力を変化させたり、pHを変化させたり、あとは水に溶けやすいものになるように塩化○○とか硫酸○○とかっていう風に化学変化させてから乾かしたりするな。というか俺はそれ以上思い付かないから誰かの知恵を借りるしかない。こっちの学者にヒントだけ伝えてやってもらおうかな……」

「一人でできることには限りがあるだろうから賢明な判断だね」

 


 と、言いつつもリズは全く手伝おうとするそぶりは見せない。あくまで自分の仕事は警備のみだと言っているかのようだ。

 忠犬には程遠いウェアウルフである。

 


「ところでどうしてこんなにネズミを集めた? 薬のにおいもあるが、いくら換気したってくさいぞ。さっさと切り上げて部屋へ戻れ」

「この自由人め。知恵でしか勝負できない俺はそうもいかないんだよ。できるものは今のうちにでも用意しておかないと何にもできそうにないんだ。……さて、試作品モルヒネの第一号が完成っと」

 


 元のケシを四キロから作り、でき上がったのは八百グラムほどの液だ。

 モルヒネは本来一割程度しか含まれない成分のはずなのでまだまだ改良の余地がありそうだが、とりあえず及第点だと風見はいろいろな濃さに希釈する。

 


「それをネズミに使うのか?」

「かわいそうだけどそうする。動物実験なんて俺も嫌いだけど本番ぶっつけで使えるものでもないんだよ。麻酔ってさ、痛みとか感覚も麻痺させられるから凄く便利だけど適正量の二倍くらい注射したらもう致死量だったりする。だから何十匹も実験に使うことになるだろうな」

「それでも医者を名乗るなんて面白いね。くくっ。ああ、大量殺人者も英雄と呼ばれたりするし、それと同じなのかな」

 


 いかにも皮肉な物言いだ。

 振り向けばそこには嗜虐の顔があった。彼女にとっては眠気をそっちのけにするくらいには意味のあることらしい。

 急所を狙うのは狩猟本能なのだろうか。随分と痛いところをついてくれる。

 こうやって相手を荒くいじって人となりを見るのが彼女のやり方なのだろうか。

 


「ま、どういう言い訳をしたって変わりない。リズの言ってることは間違っちゃいない。俺はこのネズミより人とか、自分や他人の身近にいる動物の方が生かしたい。だからこいつらに代わりをしてもらう。もちろん恨まれても仕方ないことだし、化けて出てくるなら今度は俺が殺される番かもしれない。俺にできるのは苦しまないように、最低限で済むようにって努力だけだよ」

 


 よく動物実験の批判に残虐だとか、何をしてもいいかという言葉がある。これは正しくもあり、間違いでもある。

 まず、何でも無制限にやっているわけではない。

 


 動物実験には国際的な規範がある。

 使用する動物数の削減、苦痛を伴う手法の改善、動物実験からシミュレーションや細胞培養への置換の三つだ。

 


 薬の投与量の基準や、採血量の基準、苦痛のランクや分類など動物実験については事細かに決められ、それを行う場合にも監督者に複数枚の申請書を出したりする。

 もちろん、それがちゃんと守られていなければ担当者がクビにされたりと処分もある。

 またペットを動物実験に払い下げるという噂もあるがあったとしてごく一部だ。倫理的に問題があるし、ペットとして飼った動物だと育成にばらつきがあってデータにならないという内側の事情もある。

 


 薬として使う以上は何かで試さなければいけない。

 なら何で試すかと行き詰まれば動物か、自分か――はたまたアウシュビッツ収容所での人体実験みたいな方法しかなくなる。

 より多くのものを救うためと言えば聞こえはいいが、ジレンマだ。実際、日本だけでも実験動物は年に二千万頭ほどいると言われている。

 


 これが正しい、正しくないと断罪できるのは神様くらいだろう。

 どちらとも言い切れない。

 だから最低限、動物実験をするなら規範を守って苦しみも極力なくそうということになっている。

 


 風見もそれ以上の言い訳はないと背で語るとリズは口を閉ざした。

 彼女はそのまま静かに背を見つめ、口の端を歪ませる。満足そうではあるが

 


「なるほど。そんじゃそこらの兵士より見据えてるね」

「まあ、そんじゃそこらの兵隊よりも殺しているだろうし、生かしてもいるだろうからな。そこんとこは人の医者よりシビアだと思う」

 


 ちゅうちゅうと鳴くドブネズミ――いわゆるラットのカゴをテーブルにいくつか並べていく。

 テーブルには他に鍼、釣り針の縫い針、糸、スピリタス級の度数の酒、ガラスのピペットやろうそくが置いてあった。

 


 風見は用具を酒で消毒するとピペットを手に取る。

 このピペットにはゴム部分がないが、代わりに似たようなものを革で作って代用していた。

 


 本来なら様々な太さの注射針で使い分けをしたいところだが、今は針がないのでこちらで代用することにしたらしい。

 これは漏斗も作るガラス職人に作ってもらったものだ。先は次第に細くなっており、穴は開いていない。

 


 彼はその先端を僅かにを折ることで太さ調節をした。

 先は尖って危険だがろうそくで炙ることである程度滑らかにさせる。

 こういう使い方はピペットの太さを調節したいときに使われることもあるのだ。

 


「さて。痛いだろうが我慢してくれよ」

 


 ラットの一匹を猫つまみのように持ち、腹を向けさせる。

 鍼でぷつりと腹膜を貫通するように穴を開け、試作薬を吸わせたピペットをそこに通して投与という具合だ。

 注射針には負けるがそれでも尖らせた鉛筆より細いくらいなので血は出ない。

 


 注射はこの他に皮内、皮下、静脈、筋肉注射などがある。

 皮内・皮下からはまず毛細血管へ滲みる。腹腔なら毛細血管に接しているのでそこから大きな血管へ。静脈なら流れに乗ってすぐに薬が効く部位へと到達できる。

 なので投与場所によって薬が回る速度が違い、皮内投与ならじわりじわりと効くし、静脈投与ならほんの十秒やそこらで効いてしまう。

 


「そういえばそれはどんな薬なんだ?」

「モルヒネは鎮痛剤だよ。大怪我してもこれがあれば痛くないようにできる。ちなみに五割の確率で凄い吐き気が出るとかって話だ。直接注射しても効くし、ドリンクみたいに飲んでも効く」

「ふむ、だが他にも作っていたろう。あっちはなんだ?」

「エーテルだな。ジエチルエーテルっていって人を気絶させる効果のある麻酔っていうものだ。例えば大怪我した人にそれを嗅がせて静かになってもらって傷を縫って止血して、後になって痛がったらモルヒネで痛みをなくしてやれる。消毒用のアルコールもあるし、なんとか手術ができるかもって感じだ」

 


 エーテル自体は作るのはさほど難しくない。材料は高純度の酒と硫酸の二つだ。

 この近くには火山地帯があるそうで硫黄が良く取れた。そのおかげで硫酸はいくらか作られていたようなのだ。

 


 となればあとは比較的簡単。高校化学の教科書に載っているようにエタノールに濃硫酸を混ぜて脱水すればジエチルエーテルのできあがりだ。

 こちらは吸入麻酔として一昔前までは使われていた代物である。

 


「あとは肉屋でもらった腸ヒモでカットグットっていう生き物が吸収できる縫合糸も上手く作れれば腹切り状態でも治せるかもな」

「糸なんて何でも同じだろう?」

「同じじゃない。絹糸は人じゃ吸収できないからあとで抜糸しなきゃいけないんだ。そんな糸で内臓を縫ったら後々に異物として拒否反応が出て大変なことになるかも知れないだろ?」

「だろ? と言われても腹を切られれば出血多量でみんな死ぬさ。処置するだのというレベルを通り越してる」

「あー……、そうか。確かにそっちが普通だ。輸血もできるようにならないとかなり大変だろうな」

 


 こちらでは注射針がないのでまだ血は調べていない。

 だがそこには大問題があるだろう。なにせ異世界の住人だ。地球の人のようにABOの血液型とは限らない。

 こちらの亜人は様々な見かけをしているがその全てが犬や猫のようにそれぞれの血液型を持っていたとしたら輸血なんてほぼ不可能である。それに血液を保存するための薬品もなければ冷蔵庫もないのだ。

 


「うーん。輸血は絶望的かもな……」

「ふむ、どうでもいい」

「……お前ってばさっきから自分で聞いておいてそれなのかよ」

「興味ないからね。結局、怪我しなければいい話だろう? それに白服がいるじゃないか。あれを頼れば小さな傷くらいすぐに治る」

「うわっ、ファンタジーおなじみの回復魔法か!? 死ななきゃいくらでも治るのはチートだろ。……いや、あってくれてもいいんだけど物理法則を超越し過ぎてないか?」

「さてね。けれど限度はあるらしいよ。大怪我なら傷を繋げることはできるが治された輩は死ぬとかなんとか」

「なんだよ、それ?」

 


 問いかけてみると彼女は「さあ?」と首を傾げた。

 らしいと言うからには聞いた話で詳しく知らないのかもしれない。

 となるとその白服であるクロエに聞くのが近道だろうか――と、彼が考えていると、

 


「ここですか、風見さまっ!?」

「んー? おはよう、クロエ。ちょうどお前の話をしていたところなんだ」

「私の話は嬉しいですが逃げ出されては困りますし、心配しました。さあ、勉強に参りましょう。もうあと少しなんですから」

「うあっ、ちょっと待ってくれ! まだいろいろと途中で……!」

「ダメです」

 


 こうなったクロエは頑固だ。

 朝から晩までは勉強と決まっているので譲る気はないらしい。「oh……」と諦めかけた風見の手を握ると城へと急ぎ足で向かうのだった。

 


「ぐ、ぐあっ。すまん、リズっ。三時間くらい様子を見といてくれ! ラットに何かがあったら知らせてくれればいいから!」

「はいはい、りょーかいした」

 


 やれやれとため息をついたリズは椅子の背にどっぷりともたれかかる。

 


「さて、寝るか」

 


 しかしやはりこんな様子だ。

 彼女は忠犬には程遠いのであった。

 


 

 


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