名古屋四季ダンジョン
新宿駅から電車で揺られること二時間。
無効化ダンジョンに行くのに飛行機に乗ったのと同じくらいの時間を掛けて着いたのは名古屋。
「まずは喫茶店で朝食セットを食べましょう」
「戸村君朝ごはん食べてないの?食べ物あるよ?」
「いやしっかり食べてきました」
ただ単純に食べたいだけです。小倉トーストの本場だもの。
なお帰りには手羽先を食べる予定。
まぁ別にグルメを堪能しに来たわけじゃない。
今回来たのは当然ダンジョンの為。先日ファイルにあった四季ダンジョンを探索するためだ。
それは名古屋の端っこにあるある。名古屋駅前には普通のダンジョンがある。
本当はもうちょいレベルを上げてから行くつもりだったのだが、今を逃すとちょっと忙しくなる。
その為調べてから次の日に来ることになった。
なお、学校は休んだ。
ダンジョンに行くっていう目的がある上に、俺は前にも同じ理由で公欠しているので先生にも特に止められないという。
名古屋駅からタクシーを捕まえて目的地へ。
海の方へ行くと四季ダンジョンはある。
「あれ?ここ協会無いんですか?」
「ここのは名古屋駅の方で纏めてあるんだって」
「ああ。だからあっちに最初受付行ったんですね」
そもそも一般の冒険者は入れない様になってるからな。
俺達も予め浮島さん経由で連絡してなかったら入れないし。
だから支部がいらないんだろう。
一応出入りを管理するための建物はあるが。
その建物内に入り、連絡していたから待っていた職員さんに書類を渡す。
それが終わったらようやく入れるように。
四季ダンジョンは奥多摩の食物ダンジョンと似たような感じで、階段同士の距離が近い。
モンスターが強力じゃなかったら一般公開されていただろう。
手に入る物も貴重で、宝石だからその面でも価値がある。
食べ物しか手に入らない食物ダンジョンに比べたら絶対に人気になっていただろう。
階段を下りると、そこに広がっているのは一面のピンクの絨毯。
様々な種類の桜の木々を上から眺められる、素晴らしい光景だ。
「綺麗・・・」
「これはすごいわ」
日坂さんは滅多に見れない光景に目を奪われている。
俺も景色は綺麗だとは思う。だがそれ以上に桜の魔力に注目していた。
なるほど。本当にやばいモンスターさえいなければって所だな。
「この花全部が精霊か」
「え?この綺麗なのが?」
「はい。明らかに魔力生物ですね」
闇夜の力を使うようになって、ある程度魔力を捉える感覚が磨かれてきた。
その為今みたいに魔力だけで全身が構成されている生物を見ると妙な感覚があるのだ。
今まさにその感覚がある。ありまくってる。
だからといって何かあるわけじゃないのはありがたいことだ。
「これでグリフォンとかいなかったらマジで観光地に出来ましたよ」
「そうだねぇ。勿体ないなぁ」
「まぁダンジョンに言っても意味ないんですけど・・・っ。日坂さんこっち」
「あ、来たんだね」
鼻と耳が空から来たモンスターがやって来たのを感知する。
『ホワイトグリフォン』この階層の唯一にして絶対の王者だ。
だがこのモンスター。実はやり過ごせる。
その方法は単純、桜の木に体を寄せる事だ。
明らかにこちらをめがけて飛んでいたホワイトグリフォンだが、俺達が木に体を近づけると急に俺達を見失った様にあたりを見回す。
そしてついにはそのままどこかへ飛んで行ってしまった。
「・・・ぷっは。こ、怖かった」
「息止めてたんですか?」
「い、一応ね?いるかなって」
「はっはっは。あいつら魔力でしかこっち見れてないらしいんで、大丈夫ですよ」
そもそも下に行くだけならほとんど見かける事も無いからな。
ホワイトグリフォン。
その生態は非常に変わっている。
通常のグリフォンも別のダンジョンに存在しているが、そいつらと比べても特殊。
まず奴らは基本的に目が悪い。魔力でのみ生物を確認している。
だから花全部が精霊である桜の木に近づけば勝手にこちらを見失うのだ。
その為安全にこの階層を探索したいのなら、出来るだけ常に桜の木の近くにいればいい。
それだけで大体は襲われない。
大体は、と言うのは時々ホワイトグリフォンが適当に魔法攻撃をばらまく時があるので、それで死ぬパターンだな。
「いやそれにしても参りましたね」
「え?何が?」
「いや。ワンチャン倒したいなって思ったんですけど」
「えぇ・・・」
「まぁ勝て無さそうなんでやめますけど」
「えぇ!?」
まぁ意外だろうなぁ。自分でも驚くくらいあっさり諦められたし。
だがこれにはちゃんと理由がある。
その理由は・・・
「食指がまっっったく動かないんですよね」
「へぇ。そんなこともあるんだね」
「みたいですねぇ」
「ですねぇって。自分の事だよ戸村君」
「いやいや。俺も結構俺の事分かってないですから」
この間の黒狼との戦いとかな。ただ危ないってだけじゃなかったのは俺のせいだし。
あと今の俺があれと戦った場合、黒狼との戦いで得た力を持て余す様な気がしているんだ。
戸村宗次 Lv56
所持スキル
【身体強化】【狼体適応】
所持魔法
【】【】
無効化ダンジョンで戦った黒狼はやはり個体的に格上の存在だったらしく、一体倒しただけ3もレベルが上がってしまった。
さらに特殊個体のレアドロップというか、レア報酬であるスキルも獲得している。
【狼体適応】
名前を見ただけでは何のことかさっぱりだったが、休みになって家で過ごしていると普通に判明した。
千尋がその日何を作るのか。買い物を終えて帰宅した瞬間に理解出来たのだ。
要するに、この【狼体適応】というスキルはあの黒狼が持っていた身体能力の一部を俺に与えるスキルだったのだ。
もちろんすべての能力が俺に来たわけではない。一部は力そのものとして闇夜が持っていった。
俺に適応した能力を体の部位で表すと、鼻、耳。そして腕だ。
特に嬉しかったのは腕の強化だ。脚とのバランスが崩れることが想定されたが、これが思いのほかいい具合にバランスを取っている。
まぁそっちは闇夜の強化あったせいなんだが・・・こっちはなぁ。
「まぁさっさと下に行きましょうか」
「ち、ちなみにシーサーペントは?」
「・・・うーん」
海の竜・・・竜?蛇?どっちでも良いけど。あんまりおもしろく無さそうなんだよなぁ。
それならまだホワイトグリフォンの方が良いよ。
泳ぎが苦手なわけじゃないが、やっぱり動きにくいよ水の中は。
ホワイトグリフォンが戻ってくる前に急いで下へと続く階段まで移動。
今度は夏の階層。階段の時点で潮の香が漂ってきている。
「そういや今年海行ってないな」
「毎年行ってるんだ。ちょっと意外かも」
「千尋が行きたがるんですよ。今年は言われませんでしたけど」
「千尋ちゃんは確かに好きそうだなぁ海。私もちっちゃいころに行ったっきりだなぁ」
「じゃあ来年は行きましょうか」
「うん!・・・うん?」
「言質は取ったので」
「ちょ、ちょっと戸村君!」
・・・さらっと言ったけど、これ結構恥ずかしいな。
気を取り直すために夏の階層についての話をしよう。
ここの階層は海が広がっている階層。
階段が二つあるそれなりに広い島以外は全て海・・・らしい。
その海の中にシーサーペントが泳いでいるわけだ。当然入ったらお陀仏。
流石の俺も海の中ではちょっと戦えないと思う。だから興味も湧かないのかもしれないな。
そして今回の俺達の目的。水の宝石もここで手に入る。
ファイルの情報によると近づけば奴らがいるはずなんだが。
「戸村くーん!?」
「日坂さん?」
後ろのちょっと離れた所で日坂さんが立ち止まっている。
恥ずかしいからって離れすぎたか。
何か焦っているようだが・・・うん?
日坂さんの足元に何かがいる。群がってる。
「・・・精霊に好かれる匂いとか?」
「そんなのないよ!助けて~」
「はいはい」
とはいっても別にこいつら危ないわけじゃないからな。
日坂さんの元にいたのは夏の精霊だった。
フラダンスの衣装パウスカートに近い衣装を纏った、少女とも少年ともとれる謎生物。
人間に対して敵意を持たない珍しいダンジョンモンスター(議論の余地あり)
そんな彼らが日坂さんに群がってるのは多分。
「魔石上げればいいじゃないですか」
「あ、そうだった」
こいつら人間が持っている魔石が分かるっぽいんだよな。
だから日坂さんに集まって来たのだろう。何せあの鞄の中には・・・
「はいどうぞ」
「「「「「「「「「「ウワー」」」」」」」」」」
ものすごい量の魔石が入っているからな!!昨日集めた。
鞄を逆さにして出てくる魔石の土砂崩れ。
精霊たちは魔石に埋もれるが、何か楽しそうな声が聞こえているので問題ないっぽい。
実際すぐに魔石の山から顔が出てきたからな。
「それ上げるから、宝石寄こせ」
「戸村君言い方。ダメだよ小さい子にそんな話し方しちゃ」
「いやこいつら精霊・・・」
ダメだ微妙に聞いてない。
一旦落ち着くとみんなちっこい子供にしか見えないからな。
幼い弟妹がいる日坂さんには何か感じる物があるんだろう。
暫く精霊たちは魔石を掲げたり、日坂さんに頬をつんつんされたりと遊んだり遊ばれたり。
それで気が済んだのか、数体の精霊が魔石を持って地面に潜り始めた。
「ああ、そうなるんだ」
「これで何か持ってくるのかな?」
「みたいですね。ちょっと時間掛かるらしいですけど」
大体三十分くらい掛かるらしい。その間は暇になる。
しかもここの階層のモンスターシーサーペントは海に近づかなければマジで来ない。
何なら砂浜に寄った程度では影も見えない。
沖に近づくとようやく危険なんだっけか?誰がそんな所行くんだ。
・・・ああ。例の不明人物はやったのか。
え、てか待って。もしかしてその人全ダンジョンの危険モンスターの生態も調べてるのか?
もしや予想以上にとんでもない怪物なのでは。
「どうします?砂浜くらいなら行けますけど」
「・・・もうちょっとここで良い?」
「・・・いや良いんですけど」
そいつら魔石上げちゃってるんですぐいなくなると思いますよ。まぁ言わないけど。
でも想定通り精霊たちはみんな行ってしまった。
「ああ!」
「そらそうでしょうよ」
話は聞いてたでしょうに。。
しかしこうなると暇になるのは確かだ。
流石にここで何かやることは・・・うん?
「んだ?こいつ」
「どうしたのって・・・イルカ?」
いつの間にか俺の背後にイルカがいた。
いや別にふざけてるとかそういうわけじゃなくって、なんかイルカがいた。
何か俺を見ている。じっと見ている。
「・・・」
「・・・」
「・・・どうも」
「・・・キュ」
「喋った・・・」
何だこいつ・・・ん?もしかしてこいつ。
ゆっくりと手を伸ばしてイルカの体に触れる。やっぱりそうか。
「お前精霊なのか」
「え?この子も?」
「キュ!」
キュ!で何を伝えないのかは分からないが、首が縦に動いていたので多分そうだ!と言っていると思う。
だが妙だな。ここの精霊は全部人型のはずだ。
でもこいつは目の前にしっかりといて、間違いなく精霊なわけで。
「もしかしてこの子、特殊個体?」
「え」
「いや精霊ちゃんだってそういうのあるのかなぁって」
「あー」
無くは無い・・・のか?でも確かに無いとは言い切れないか。
よくよく観察すると、確かにさっきまで日坂さんに群がっていた精霊より全然魔力が強い。
濃いというべきか?それだけ実力もあるんだろう。
だけどこいつは何をしたいんだ?魔石はまだあるけど。
「あ、違うの?」
「違う見たいっすね」
「キュッキュ!」
魔石を渡してみてもいらないーと動作で断られる。
んー?本当にどういうことだ??
色々考えていると、イルカ精霊は俺の周囲を回り始める。
ついでに鼻を俺に・・・正確には俺が纏っている闇夜にくっ付ける。
「何してるんだマジで」
「鎧に興味があるのかな?見たこと無いからとか」
「精霊の考えてることはわから・・・闇夜?」
何度も鼻を押し付けられて鬱陶しいのか。闇夜から闇が勝手に漏れていた。
それでも精霊は押し付けるのを止めない。
するとどんどん闇が増えてきて・・・あ、待て闇y
「日坂さん一応離れて!!」
「は、はい?」
「念のため!!」
「う、うん・・・?」
日坂さんが何が何だかと言った感じで離れる。
それを確認したのかは分からない。だがそのタイミングで魔力がごっそりと持ってかれた。
次の瞬間、闇夜が光り輝いて・・・
「ってえぇぇぇぇぇ!!??」
「ぉぉ・・・てめぇもうちょい遠慮ってもんを」
「ブルル」
「キュー!」
「!!!」
いきなり今までにないくらい魔力を持ってかれたことで体から力が抜けて地面に倒れる。
意識はまだしっかりしてるから魔力はあるんだが、ちょっと一回で持ってかれ過ぎた。
そんな俺の魔力を大量に持っていき、まさかの馬の状態で具現化した闇夜。
イルカの精霊はそれを見て喜んで闇夜に向けて突進する。
それを嫌がっているのか、闇夜はすさまじい勢いでその場から逃げ出した。
「キュー!!」
「ヒヒーン!!」
待ってよー
来るなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!????
みたいな感じだと思う。
「あ、日坂さん魔石ください」
「え、あ・・・大丈夫なの?」
「割と」
まぁちょっと脱力しちゃっただけなんで




