無自覚の領域
ようやく主人公が何故強いのかの一端を出せます
驚いた。まさかモンスターがこちらの動きを真似てくるとは。
それまで雷の魔法を放つだけでしか使わなかった黒狼が、
まるで俺が闇を纏うのと同じ様に雷を纏ったではないか。
モンスターというのは、基本的に成長しない。
こちらの動きに対応することはあっても、それ以上になることが無いというのが常識だ。
例外としてあげられるのは特殊個体のモンスター。
やはり彼らは『特殊』なのだろう。
まるでモンスターではないかのように。
それでも今まで見た特殊個体達は成長することは無かった。
闇夜に関しては微妙に話が違う気もするが・・・。
文字通り雷の速度で動き始めた黒狼に対し、こちらは身体能力と闇の力で対抗する。
直線的な速度では全く勝てていない。
だがそれ以外ではこちらが上のようだ。小回りが利いていない為まだ反応できる。
そんなことを、俺はまるで人ごとの様に考えていた。
(・・・なるほど、こんな感じなのか)
常々思っていたことがある。
俺はいったいどういう状態が一番強いのだろうかと。
もちろん俺的にはノリに乗った時が一番良いと思っている。
だけど実際そうではないということもよくわかっている。
鬼、鎧蜘蛛。
まだ冒険者的に弱かった時期に戦った強いモンスターたち。
奴らとの戦闘時、明らかに俺は自分の能力を超えた動きをしていた。
鬼の腕の上を走ったり、糸に捕まりながら、足だけで鎧蜘蛛の腕を斬ったり。
それまでやったことが無い動きを、まるで慣れているかのように熟した。
後で意識すれば同じことが出来る。
でもその動きをする前に同じことを考えながら出来るかと言われると・・・流石に無理だ。
そもそもそういう動きをしようとすら思えない。
だからこそ鎧蜘蛛の糸に捕まった時には本気で死の危険を感じたのだ。
じゃああの時の俺は何か。
日坂さんに名前を呼ばれるまで自分の意識で動けなかったあの俺は。
その答えを探るべく、ここ暫く色々試していた。
一番うまくいったのはランドワイバーンの時。
奴との戦いは非常にうまくいった。最も集中出来ていた。
ゾーンと言われている超集中状態。
異常な動きが出来る時の俺。それをその状態にあると仮定して動く。
するとそれが上手くいった。ランドワイバーンの鱗を一回で斬ることは出来なかったが、それでも動き自体はかなりよく動けていた。
でも今の俺をこうして俯瞰的に考えてみると、見当違いなことをしていたと理解させられる。
雷足で振るわれる爪に対して、俺の腕が動き迎え撃つ。
牙が迫れば闇の腕がそれを受け止め。雷自体を闇で遮る。
この動き全て、俺の意思関係なく行われている。
目で見て、耳で聞いて、肌で感じるその瞬間には既に行動が始まっている。
どれだけ集中していても相手より先に動くことはあり得ないというのに。
広間の中を縦横無尽に翔ける雷と闇。
自分の体の事なのに。まるで自分じゃないみたいな感覚。
だがそれも徐々に薄れてきている。
意識が落ちそうなのだ。
それに反して俺の体はさらに動きがキレてくる。
しかし黒狼もさらに動きに勢いが増してきた。
そして理解する。
(このままだと負けるな)
俺の動きも良くなっている。何故かは理解出来ないが。
だがそれ以上に黒狼が強くなっていくのが分かる。
あいつは今まで雷を纏う何てことしたことがない。当然だ。そんな使い方はまず想像しない。
それにこの特殊個体は生まれたばかり。つまり戦闘経験も禄に無い。
それが成長しているんだ。強くなって当然で、その速度は俺のそれより早い。
時間を掛ければ掛けるほど、俺がだんだん不利になる。
どうにかしなければいけないが・・・
(マズイ・・・本当に意識が・・・)
視界が曇って来た。どうやら限界らしい。
周囲の事なんてまるで見れていなかったことに今気が付く。
そもそも見ようとも思わなかった。
そのことに気が付いて、つい笑ってしまいそうになるが相変わらず体は動かない。
ついに、限界が来た。
視界が暗くなる。
「宗次君!!」
「!!!」
声が聞こえた。
瞬間、視界が元に戻る。
目の前に迫る黒狼を闇の腕で自分を引っ張ることで回避する。
「・・・あっぶね」
今正気に戻っていなかったら体当たりが直撃していた。
あの勢いだとそのままおしまいになりかねなかったぞ。
そこでふと、体が軽いことに気が付く。
あれだけ動いたのに体力がマックスを超えた様な感じだ。
その違和感を確かめていると、雷が弾ける音が聞こえる。
ああ、後ろから来るな・・・は?
「ギャン!?」
「え」
何だ今。俺は今何をした。
相手の動きが頭の中で全て描けた。
それに対して軌道上に爪を置くだけ。今やったのはそれだけだ。
でもそういうことじゃない。何で頭の中でそんな動きが分かった?
「もしかして」
ようやく。俺のあの状態が何なのか掴めた気がする。
なるほど、じゃあもう負けないか。
目に突き刺さった爪を引き抜くと、すぐに黒狼が距離を取ってくる。
その前に後ろ脚を闇の腕で掴んで逃がさない。
「オラァ!!」
その身の直感に従い、闇の腕ごと黒狼をぶん回す。
黒狼も雷を狙いを定めず放ってくるが、当たらないことは分かっているので特に動かずそのまま回し続ける。
勢いが完全についたら投げ飛ばしで壁にぶつける。
壁でバウンドした黒狼が体勢を戻す前に近づき殴りつけることで再度壁に叩きつける。
何度も何度も殴って壁に黒狼をぶつける。
もはや狼を殴っているのか、壁を殴っているのか分からなくなってくる。
途中で先ほどから放たれていた無差別の雷がついに俺にも当たる。
だが不思議となんとも思わない。痛みを感じないのだ。
雷を無視し、闇で黒狼を拘束する。
闇が四肢を完全に覆うと、黒狼が藻掻くだけでほとんど動けなくなる。
「終わりだ」
顔以外すべてを闇に覆われた黒狼。
とどめに巨大な爪を生み出し、その首に向かって振り下ろす。
顔事潰すように降ろされた爪は肉に毛皮を貫き、肉を斬り裂いた。
血が噴き出ると、黒狼の首は完全に胴体から離された。
「・・・勝った」
闇夜が消える。どうやら力を使いすぎたらしい。
同時に俺も体から力が抜ける。流石に疲れた。
「戸村君!!」
「ああ。日坂さん。大丈夫でした?」
「大丈夫って。こっちのセリフだよ馬鹿!!」
「え、あ・・・すみません」
駆け寄って来た日坂さんは、泣いていた。
そのまま俺の体に触れてどこを怪我したかを確かめる。
「何回か食らってたよね?痛い所どこ!?」
「あー。いや日坂さん大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃない!!」
「いやあの本当に痛くないんですよ」
「そんな・・・痛くない?」
「いやあの・・・はい。多分闇夜のお陰っすけど」
今考えると分かるんだが、雷に打たれて痛くないわけがない。
だから闇夜が鎧として俺を守ってくれたのだろう。
最初に警戒を促してくれたことからそう考える方が納得できる。
今消えているのも俺を守ることの負担が結構大きいかったんだろう。
そうは言っても日坂さんは信じてくれない・・・いや心配かけた分際で何をって話ではあるか。
ペタペタと俺の体を触って、本当にどこも怪我していないことを確認していく。
「ほ、本当にどこも痛くないの?我慢してない??」
「してませんよ。こんなことで嘘つかないですって」
「・・・後で病院ね」
「いやだから「・・・」いやあの・・・ほんとごめんなさい」
泣きそうな目で無言でこっち見ないでください本当に・・・
その時、背後で闇が動いたことに気が付く。
まだ黒狼を捕まえていた闇が消えてなかったのだ。
「あぁ」
「戸村君?」
「ちょっと待っててください。闇夜、それ『寄こせ』」
そういうと闇が解けて黒狼の体があらわになる。
切り離された首はとっくに消えているのに体はまだ残っていた。
その体に、腕を突き刺す。
「見つけた」
すぐに探し物は見つかった。
闇夜もこれを見つけて喜んでいる。
「と、戸村君それ・・・」
「心臓ですね」
「・・・食べる的な」
「流石に食べませんね」
え、待って食べると思われてたの?
でも鳥の心臓は食べられるんだよな。焼き鳥だとあったよな。
でも流石にこいつの心臓を食べようとは思わない。
俺の物にするのは間違ってないが。
僅かに残った魔力を絞りだして闇で心臓を覆う。
そのまま圧縮して手で握れるくらいのサイズにしてから握りつぶす。
次の瞬間、体から魔力が噴き出て闇夜が再展開された。
「え?」
「あーやっぱりか」
闇夜に新しい力が追加されたのが分かる。
同時に俺自身の能力が上昇しているのが実感できる。
これ余分なものは闇夜が持ってったな?
一緒に強くなるって言ったけどそういう分け方?いや俺的には良い感じなんだけどさ。
「勘でやったけどマジで出来るとは」
「うえぇ!?」
「あ、いやマジで何となくやっただけなんですよ」
「いやいやいや。確実に確信犯の顔だったよ!」
「マジっすか?」
どんな顔してたんだろう俺・・・
「そうだ日坂さん」
「な、なに?やっぱりどこか」
「体の事じゃなくて。その、ありがとうございます」
「・・・ふぇ?」
黒狼との戦いの最中。
俺の意思とは関係なしに動き出した体は確かに強力な力であった。
だがあのままでは負けていた。成長の幅が大きくある敵に対してあの状態は相性が良くなかった。
超直感状態。敢えて名付けるならそんな状態の俺。
あれは強い。恐らくは俺が今までに培った戦闘経験から相手の動きを予測して対処する無意識の行動だ。
だけどそれは欠点がある。常に受け身で戦わなければならないからだ。
高速移動をする相手にこれは相性が悪い。あと成長速度で負けてる場合にもだ。
相手の速度が俺より早い場合の対処法は知っている。
だけどそれが出来なかったのは・・・まぁ推測出来るけど、恐らくこれはどうしようもないやつだ。
明らかに現状だと何かが足りていない。それが理解できたのは収穫と言えるんだが。
そんな俺を救ったのが日坂さんだ。
名前を呼んでくれたことで、俺は正気に戻れた。
だから無意識の直感で見た相手の動きを、最高率で倒すための動きで取れた。
「だから。ありがとうございます。助けてくれて」
「あー・・・いや。うぅ///」
お礼を言うと何故か顔を赤くした日坂さん。
いつもよりこの人がかわいらしく見える。
「マジであのままだと負けてましたよ全く」
「で、でも普段からたすけてもr・・・今なんて言った?」
「あ」
やっべミスった。
「忘れてください。勝ったので」
「ねぇ戸村君?無茶しないって言ったよね?負けるなら下がるって言ったよね???」
か、体が動かなかったのでノーカンにしてください。
こんな事伝えたらもっと怒られるので言わないけど。
「俺、勝った!」
「とーむーらくんー?」
「闇夜も何か言ってって消えやがったぞあいつ!?」
闇夜が巻き込まれたくないとばかりに消えやがった!逃げたぞあいつ!!




