もう一度、貴方と
その後、価格の話に入る前に一旦日を改めることとなった。
鞄に影響したスキルが一体いつまで続くのかが分からなかったからだ。
これが永続的に効果が付与され、それがデフォルトになったのならすぐに話が決まったのだが。
それじゃあ次の話し合いまでまた自由に探索しよう。
この時は俺も日坂さんもそう考えていた。
だが帰り際に言われた一言。それが俺達の在り方を大きく変えることになる。
「ああそうだ。すまないが暫くダンジョンに行くのは控えてほしい」
「・・・え?」
「は?」
俺から僅かに漏れた殺意に桜木さんが反応する。
すぐに俺の背後に立ち、いつでも抑え込めるように備える位置取り。
だが協会長も俺の方に気が付いたのか、きちんと説明はしてくれた。
単純な話だ。
見た目以上の大容量の鞄を量産できる日坂さんが失われるようなことがあってはならない。そういうことらしい。
「一応言っておくが、これは強制ではない。それに強制するとしても少しの間だけの話だ」
「へぇ・・・ほぉ。それはそれは・・・随分と配慮してもらってるようで?」
「これが彼女だけの問題ならばこちらも素直に強制するのだがな」
「あぁ?」
「戸村君落ち着いて」
先ほどより桜木さんの警戒が強くなっている。
どうも俺は分からないが、それだけの状態になっているらしい。
しかし頭は冷静。まだ思考を止めないだけの余地がある。
俺が関わることで、何でそれが強制じゃなくなるんだ?
「君はその。他国の冒険者協会の有力者と親交があるようだが」
「は・・・ん?アーサー?」
「その方です。本名は・・・」
「ああいや。知ってるんで大丈夫ですよ」
ただあいつをアーサー以外の名前で呼ぶのが違和感あるだけで。
あいつも俺からそれ以外の名前で呼ばれても反応しづらいとか言ってたし。
しかしそうか。ここでアーサーが出てくるのか。
「君レベルの冒険者ならば、正直言えば協会にはそれなりにいるというのがこちらの認識だ」
「他の部分が問題と?」
「その通り。我々は君の成長率に関しては世界でも有数だと判断している。そしてそれは、わが国だけの評価ではない」
成程読めてきたぞ。
協会は日坂さんに何かあっても困るが、俺に何かあっても不味いのか。
特に他国に引き抜きされようものなら、それはとてつもない損失になると。
アーサーが前に言っていた。本気で引き抜くって話。
あの野郎多分だけど前もってそれを匂わせるくらいはしてたな?
「正直に言えば、日坂君のスキルは確かに貴重だが替えが利く可能性が大いにある」
「ですが戸村さんは無理でしょう。正直貴方みたいなのが今後一切現れなくても不思議に思えません」
「あー。随分な評価で」
「過大評価ではないと考えているよ。研修時で鬼の討伐。二か月で十七層を歩き回る。
はっきり言って、今の時点でもこれまでの冒険者とは比べ物にならない成果を上げている」
ここまで褒められると完全に殺意も収まってしまう。むしろ逆に居心地が悪いくらいだ。
でもまぁ俺個人の評価で、日坂さんと離れなくてよくなったのならそれも良いか。
「とにかく。本当に頼むので少しの間は探索を自重してほしい。最低でも到達階層を更新しないでほしい」
「まぁそれくらいなら」
「私も大丈夫です」
「ありがたい。効果が確認され次第、恐らく大量にスキルを使ってもらうことになると思うので、それも理解しておいてほしい」
「はい!」
こうして一回目の話し合いが終わった。
正確にはまだ話し合うことはあるみたいだが、俺達が関わるのはここまでだ。
後はスキルの効果時間を確かめてからになる。
協会から出ると、日がちょうど真上にあった。
まだお昼の時間なのか。
「あー・・・今日は帰りましょっか」
「え?いいの?」
「まぁ何となく?そんな気分と言うか」
ダンジョンに行って暴れるって気分じゃない。
何というか、のどに引っ掛かる物がある感じだ。こんなの初めてだ。
駅から離れる様に歩くと、休日の時間でも人が少なくなってくる。
そんな中で無言で二人で並んでいる。
すぐ隣にいるのに、何故か日坂さんが遠くにいる気がする。
「戸村君は」
「・・・あ、はい」
「む。一回しゃがんで」
「はい?」
とりあえずしゃがんで視線を合わせる。
すると頬を手で挟まれた。
「な、なにを」
「戸村君は、私にどうしてほしい?」
「・・・え?」
「ダンジョンに一緒に行ってほしいか、そうじゃないのか」
「それは・・・」
日坂さんがダンジョンに潜る理由。それは家族の為にお金を稼ぐためだった。
その為に冒険者になり、戦えないながらも必死にどうにかしようとしていた。
そんな中で俺と出会って、色々あって問題を解決した。
でもまだまだ足りない。何があってもいい様にがんばる。今ダンジョンに行くとしたらそれが理由だろう。
でもそれも恐らく今回の件で解決する。
もし『鞄拡大付与』の効果に時間制限が付いていても、数時間ほど保てばそれだけで十分なのだ。
協会所属になって、ダンジョンに行く前の冒険者の鞄に触れるだけでも大きな利益をもたらすだろう。
だからこの人は、もうダンジョンに潜る理由がない。潜る意味もない。
それなのに・・・
「それは、自分で決めることじゃ」
「それはそうだけど。私は、戸村君に決めてほしいの」
「なんで」
「うーん・・・言葉にするのは難しいんだけど」
「・・・」
「お母さんが倒れて、私を支えてくれたのは貴方だった・・・からかな?」
「・・・なんすか、それ」
「恩を返したいのはそうなんだけど、それだけじゃなくってね。
私の我儘もあると言いますか」
理由にはなってない。だけど、きっとそれはこの人にとっては大事なことなのだろう。
「確かに私にはもう、あそこに行く理由は無いよ?」
「そうですよね」
「だからね?理由が欲しいの」
「は・・・」
「その方が、きっと戸村君も納得出来るかなーって」
「・・・あー」
「あとそうした方が、今度こそ対等だからね!」
ああだめだ。いつのまにか、この人に勝てなくなってしまった。
もしこれで、日坂さんが何も言わずにダンジョンについてきてくれたとして。
そうなったら俺はずっとあることを考えるだろう。
この人は、きっと俺に気を使ってくれたのだと。
危ないことを承知で、俺を放っておけないからって理由だけで。
戸村宗次が、日坂巡の重荷になったのだと判断するだろう。
それは前に彼女が悩んだことと同じだ。
「良いんですかね。俺が我儘言って」
「当然だよ。だって私の方がお姉ちゃんだもん」
「その割にはちっさいし、俺がいないと大変だったじゃないですか」
「うっ。それはそうだけど・・・って、小さいは余計だよ。すぐに大きくなるもん」
「へへっ。それは楽しみですけど」
対等になるなんて、きっと俺を少しでも安心させるための言い訳なんだろう。
でも俺はそちらの方がしっくりと来た。
今度こそ、俺から始めることが大事なのだ。
「日坂さん。日坂巡さん」
「はい」
「俺と一緒に。ダンジョンに来てください。俺が、終わりを迎えるその時まで」
「・・・はい!」
そのとき見た。日坂さんの笑顔を、俺はきっと忘れない。
短めですけどここだけは他と分離させたかったんです




