評価とスキル
冒険者協会待合室にて
「お久しぶりー・・・って感じもしませんね」
「そうだね。毎日電話してたし・・・えへへ」
アークでのイベントが近くなると流石にムサシに合わせる為とダンジョンはお休みしていた。
なので日坂さんに直接会うのは数日ぶり。
言った通り毎日電話はしていたので声は聴いていた。そのせいかあんまり久しぶり感が無い。
でも心なしか前より日坂さんは綺麗になったというか、健康的になったような。
「体重も増えたよ!」
「女性の体重話って結構タブーな気もするんですけど」
「まぁ私の場合もうちょっと重くなった方が健康的だし」
日坂さんの身長は138cm。
俺と出会った時の体重はなんと30キロ以下。
もはや小学生レベル。だけど日坂さん十八歳。
つまりこの人、割と最近まで発育不良だったのだ。
三児のシングルマザーで、そのうえ病弱だった日坂母。
当然食べるものにだって困る。
なので日坂さんは弟妹達に自分の食事を分けていた。
結果、お母さんが元々そこまで大きな人ではないことを差し引いても、日坂さんは成長できなかった。
でも・・・まぁここは俺のお陰と自画自賛しておくか。
お陰でかなり財政面では改善された。
ダンジョンでお金を稼ぐだけでなく、肉と言う直接的に食べられる物も手に入った。
食事面はそれで解決。お母さんの体もかなり快方に向かっている。
「お母さんは久しぶりに帰ってこれてどうでした?」
「やっぱり落ち着くって。働かなくていいから落ち着かなそうだけど」
どうも大金が纏めて手に入った段階で日坂さんはお母さんに働くのをやめさせたらしい。
療養に専念してほしいってことなんだろう。俺もそれは大賛成。
まぁ本人は日坂さんが危ない所。ダンジョンに行っている事と、自分が何もしないことに対して色々思う所はあるようだが。
「ところで背伸びました?」
「伸びたよ!」
「え!?」
「えぇ!?自分で言ったのに驚いた!!??」
いや体重増えたって言ってたしもしかしたらくらいの感覚で聞いたので・・・
「2cm伸びたよ!」
「本当に十八ですか?」
「失礼な!」
一月かそこらでそんなに伸びるもんなのか・・・?
いくら発育不良だからって、その年で一気に伸びるって考えづらいんだけど。
うーん。でもありえなくは無いのかなぁ。
でも日坂さん(140)の姿かぁ。
「お母さんってどれくらいでしたっけ?」
「156だけど」
「それくらい伸びたら良いですねぇ」
「私頑張る!今はいっぱい食べてるからね」
「泣きそうになるんでやめてもらえます??」
本当に止めていただきたい。
ただでさえちっさい日坂さんを連れまわしてるってなんか話題になってるらしいのに。
「ところで今日はなんで日坂さん呼び出されたんです?」
「うーん。何でだろう。詳しくは協会でって言われたから聞いてないんだよね」
「しかも俺も出来たら来てほしいって・・・何なんですかね?」
「七瀬スポーツさんの方からは?」
「何も来てないですね」
実は今日、冒険者協会にいるのはダンジョンに来たからではない。
先日俺がイベントであーだこーだしている間に、日坂さんが協会から呼び出しを受けたからなのだ。
しかも俺も一緒に来てくれると好ましいとか何とかで俺も呼ばれた。
でも呼び出されるようなことに心当たりがない。
鎧蜘蛛を倒したこと自体はそこまでおかしなことではないはずだし。
赫爪だって桜木さんとの取引の結果貰ったものだ。
まぁそこまで辿り着く期間が短すぎるって言われたら、正直否定は出来ないんだけど。
何せ冒険者歴二か月で十七層って何気に最短記録らしいし。
あとは・・・やっぱりあれか。
日坂さんが小さいから年齢誤魔化してー的な疑惑か?
俺がそれを強制してると思われたか・・・?
いかん。見ただけなら否定できる要素が無い。
「で、でも同意の上だし・・・」
「あ、誰か来た」
「お待たせしました」
「何だ桜木さんか」
「何だとは何ですか」
俺に何か悪い話なら桜木さんが来ることは無いだろう。
というか協会所属の桜木さんと日坂さんは普通に知り合いなんだから、俺の考えた事は普通に無いわな。
何かプライベートでも連絡取ってるみたいだし。
改めて桜木さんを見る。今日は珍しく協会の制服を着ている。
いつもは冒険者装備の簡易的な物が多いんだけど。
「では案内しますのでついてきてください」
「はい!」
いつもの部屋かなと思ったら、どうもいつもとは違う階段を上っている。
しかも道がかなり入り組んでいるというか、何か変な構造だなこの建物。
「機密の高い話をする際はそういう決まりなんですよ」
「俺、顔に出てました?」
「割とはっきりと」
マジか。
かなり面倒くさそうな顔をしていたらしい。
と言うか今、機密の高い話って言ったか?マジで何の話だ??
案内されたのは恐らく協会長の部屋の近くだと思う。
色々登ったり下ったりで分からなくなってしまったが、感覚的には間違いないはず。
「冒険者日坂巡と戸村宗次の二名をお連れしました」
『入ってくれ』
「失礼します。お二人からどうぞ」
「あ、はい。しつれいしま・・・す」
「失礼しまーす」
中に入って日坂さんが一瞬固まった。
続いて中に入るが、中には偉そうな人たちが並んで座っていた。
中にはテレビで見たことのある顔もいる。
というか、七瀬スポーツの社長さんもいるな?
「そちらにおかけください」
「し、ししし失礼します!!」
うーむ。本当に何の話をされるんだ?
ヒントになりそうなものは・・・あるな。あの鞄。
あれって確か、日坂さんが使ってる鞄だよな??
席につくと、桜木さんが背後からお茶を渡してくれ、そのまま後ろで待機してくれた。
恐らく落ち着けということなのだろう。主に日坂さん。
それを察したのか、少しだけお茶の水面を見つめてからグイっと一気飲みした。
「良い呑みっぷりですね」
「あじがわからない・・・」
「あ、美味しい」
「戸村君は落ち着きすぎでは?」
そういう桜木さんも欠片も緊張してないっすね。とは言わないけど。
でもお茶を飲んだことと、俺が隣でいつも通りなのを見て日坂さんも少しは落ち着いたらしい。
部屋に入ってから無意識に震えていた手の震えが止まっていた。
それを見計らったのか、協会長が話を始めた。
「まずは二人とも、今日は急な呼び出しにも関わらずに来てくれたことに感謝する」
「いや!いつもお世話になってますので」
「そういってもらえるとありがたい。まぁ戸村君にはこちらが苦労させられてる気もするが」
「これからもよろしくお願いします」
「ひどい皮肉に聞こえるなぁ」
部屋の中が笑いで包まれる。
ここにいる全員が、協会長が苦労している事を知っているようだ。
ん?何でかって?いやだなぁ。世界最速で強くなってる俺が話題にならないわけないでしょ。
それに初めの事故から二か月くらいでここまで来ちゃったし。
他の国からの引き抜きとか、俺を手元に置きたい有力者とかの問い合わせとかで大変だって・・・桜木さんから聞きました。
「桜木?」
「何のことかさっぱり」
再び笑いに包まれる。どうも今回は堅苦しい話ではないらしい。
「さて、緊張も解れた所で早速本題に入ろう」
「その鞄についてですか?」
「その通りだ。これは君達・・・というか、君が持っていた物で間違いないね?」
「は、はい!アクセサリーが付いているので」
日坂さんの鞄は横に犬の小物が付いている。
それは普段家にあっても邪魔とのことで協会に預かってもらっている。
俺の装備もそうだ。今は赫爪の手と足しか預けてないけど。
しかしその鞄に何かあったのだろうか。
別に変なことはしてないと思うが。
「君達はこれが今どういう状態か知っているかね?」
「は?」
「い、いえ。中は空にしたので、何もないと思いますけど・・・」
日坂さんの持つスキル『鞄拡大』
これは日坂さんが身に着けている鞄の要領を拡大するためのスキルだ。
身に着けている間だけ効果を発揮するスキルで、体から離れると元のサイズに戻る。
そのとき中身があると、容量を超えた物に関しては飛び出してくるので地味に危険。
なので預ける際には絶対中身を空にするか、入ってても問題ない量だけにしている。
もしかして飛び出たか?・・・いや無いか。預けた時点では問題は無かったわけだし。
「すまないが戸村君。これの中を見てもらえるか?」
「はい?まぁいいですけど」
桜木さんに渡された鞄を俺が受け取って中身を見る。
まぁ普通の空の鞄が・・・
「・・・????」
「理解してくれたかな?」
「日坂さん何かした?」
「えっ私!?」
「ほら」
「うん・・・うん???」
部屋の中は明るいでの、当然空の鞄の底が見えるはずだった。
だが見えたのは暗闇。どこまで奥が続いているのか分からない空間しかなかった。
これには見覚えがある。『鞄拡大』が発動している状態の鞄の中身だ。
「え、えぇ!?どうして??」
今鞄は俺が持っているので日坂さんは触っていない。
本来ならスキルが発動しているわけがないのだ。
その前も協会長、その後も桜木さんが持っていた為日坂さんが触れる機会は無かった。
これは・・・まさか・・・!!
「それを確かめる為に呼んだのだよ。こちらを持ってくれ」
「は、はい」
改めて渡された鞄。今回は新品のようで袋から開封している。
その後集まった人達に中身を見せ、普通の鞄であることを確認させる。
そしてついに日坂さんが鞄に触れ『鞄拡大』が発動する。
「もう大丈夫だ」
「はい・・・」
そーっと日坂さんが鞄から手を離す。
本来ならばこの時点で鞄の容量は小さくなるはず。
だがいつまでたっても中は元通りにはならない。
試しに桜木さんが持ってきた大きな石をいくつか入れてみるが、それが飛び出てくる様子もない。
「スキルが変わった・・・?」
「いや。これはスキルが進化したのだ」
「進化?するもんなんですか?」
「はい。まぁ一般的には非公開なんですが」
桜木さんが説明してくれた。
俺達がダンジョンで手に入れたスキル。初めから持っていたスキルは条件を満たすと【進化】という現象を起こすらしい。
進化したスキルは、前より強力な効果を発揮し、また新しい能力が目覚める場合もあるんだとか。
「恐らく日坂君のスキルが『鞄拡大』から『鞄拡大付与』になったのだろう」
「だから体から離れても鞄は大きいままと・・・チートっすね」
「まさしくその通りだ」
これはやばい。やばいというかマズイ。
このスキルがバレたら世界中から日坂さんが狙われる可能性がある。
「ここにいる人たちは」
「彼らは皆信頼のおける者達だ。そこは安心してほしい」
今日の集まりは、このスキルの効果を確認がメイン。
その後これに対して協会はどう動くかを話し合う。
ここは俺達には関係ないが、その次は普通に関係がある。
「えぇ!?鞄を売るんですか!!??」
「どの冒険者でも欲しがりますよ。喉から手が出るほどに」
「そもそも戸村君の時点でかなり色々言われていたがな」
「その割に日坂さん俺と出会うまでパーティ組めてなかったんですけど」
「あの時はまだ彼女の価値が良く分かってなかったからな」
まぁそれはそうなんだけど。
出会ってすぐは確かに大して鞄も大きくならなかったし。
何より日坂さんが戦えないってのが大きすぎた。そのせいで断られたって理由が大きかったみたいだし。
そして鞄を売る話なのだが。
「一個おいくらで?」
「正直今すぐに決められる話ではないな」
他の大人たちも全員頷くか、隣の人と話し合っている。
まぁ無理もないか。これは価値をつけることすら難しい。
何せ有用性が半端じゃない。
冒険者一人一人が必ず持ってないといけない。そんなレベルの必須の品になることは間違いない。
「一応まだ本当にこれが永続するのかは分からないが、そうだな。最低でもこれだけは覚悟していてくれ」
「・・・とむらくん」
「はい?」
「これ」
「はい・・・orz」
ついおっふという声が出てしまうほどの額だった。
え、これで暫定?しかも最低額??
一個で俺の数日分の稼ぎが・・・ん?そう考えると大したことないか??
「それはそれでおかしいのを自覚してくださいね戸村君」
「心を読まないでください桜木さん」
「これくらいなら買えるなって顔してましたよ」
「マジっすか?」
「まぁ実際そこまで高くするわけにいかないだろうというのがこちらの予想なのでな」
「はい?そらまたどうしてですか?」
「手の届かない額にしたところで意味がないというのと、量産するのにそこまで時間が掛からないからだな」
「「あー」」
確かにそらそうだ。
必須の品なのにバカみたいに高かったら意味ないわな。
それにスキルの効果を付与するだけなら本当に触れるだけで良いわけだし。
日本の冒険者の数が確か四万から五万人。
そのうち全員がこの鞄が必要になることは無いだろう。
浅い階層や、メインで活動していない者達にはすぐには必要にはならない。
なので急いで供給するとしても、必要なのは実際には一万以下かな?
でもどちらかというと、日本に関してはあまり考えなくても良いのかもしれない。
「もしかして、ほかの国に売るとかってのも」
「それは他国の条件次第だな」
「やったね日坂さん。お金が増えるね」
「必要以上にあってもなぁ」
うーんこの。




