理解不能な彼
2024/06/20 改稿が終わりました。内容の展開は変わってませんがテイストを変えてみました。主に主人公のイカレ具合を強調する形です。
日坂巡にとって、戸村宗次は未知の存在だ。
今まであまり絡んでこなかった男の人というのもある。
だがそれ以上に・・・戦いが好きだという、その趣向と性格だ。
はっきりいって、あまりにもおかしい。
普通じゃない。
あんなのが同じ町にいたのかと驚いた。
戦いに恐怖を覚えず、むしろ自分から受け止めて、勝利する。
普通なら回避するであろう危機を、避けず、受け止め・・・突破する。
そのリスクすら楽しいと感じている化け物だ。
対して、自分は弱い。
だから一生かけても理解出来ない存在だと・・・最初は、そう思っていた。
だけど話せば話す程案外そうでもないかなと思えるようになった。
能力はやはり恐ろしい程に高い。
頭だって悪いわけじゃなくて、むしろ良い方だろう。
だがそれを活かそうとしないのだ。面倒だからと。
これが巡にとって幸運だった。
彼はダンジョンについて学ぼうとしなかったのだ。
先ほども言ったが、面倒だから。
それは明確な、彼の弱点で、欠点だ。
学び、備え、彼に活かす。
自分だって冒険者になって大して経っていないが、そうして頑張る事で満足も出来た。
常に戦い、ダンジョンで稼ぐ相手に対して貢献が出来たのだ。
出来たと・・・思い込んでいた。
「クッハッハッハ!!!」
「グギギャ!?」
「どうしたどうしたぁ!!」
「なに、あれ・・・?」
視界の先、煙の切れ目の隙間ら見える一人と一体の戦い。
煙を発生させ相手の視界を遮った彼はその状態で瞬時にゴブリンを全滅させる。
そしてそのまま、オーガとの戦いへ。
オーガは二体いる。
普通なら、片方のオーガをまた煙に巻くかどうかして、一対一の状況を作るべきだろう。
戦う事が出来ない巡でも、それくらいは分かった。
だが彼が選んだのは正面からのぶつかり合いだった。
そしてそれが、彼にとっての正解だった。
彼の武器が振るわれる度にオーガの肉が削がれ、血が噴き出る。
逆にオーガの棍棒は一切彼には当たらない。かすりもしない。
二対一。自分より大きい相手。
そんな状況で、押していたのだ。
「・・・もし。もしか・・・して」
それを見て、巡にある疑問が浮かんだ。
あの一撃は、恐らく彼だってまともに受けたら不味いのだろう。
動きはそこまで速くないから、見てから彼は避けられる。
だがだからといって、そんなことができるのか。
見て避けるなんて言う芸当が、本当に?
いや。実際出来ているのだ。
心に浮かんだ疑念が、どんどん大きくなってくる。
そんな巡の心を置き去りに、戦いは終わりに向かっていく。
「死ねよ」
「ゲバァ!?」
棍棒が振り下ろされるのと同タイミングで、彼が斧を振るい腕を斬り飛ばす。
そのまま流れるように回転し、胴体に斧で一撃。
瞬時に剣鉈で斧を叩き、さらなる衝撃を加えてオーガの高い皮膚を一瞬で貫いた。
代わりに、剣鉈が折れた。
「はっ?クソが」
彼はその折れた剣鉈を無防備に眺め始めた。
それは流石に危険すぎる。
「あぶっ」
だが巡が警告するより早く、彼は反応していた。
折れた剣鉈を振るう事で棍棒を弾く。
「ジャマダ」
彼の動きに対して、あまりに小さな動作。
にも関わらずオーガの棍棒は大きく弾かれた。
攻撃が弾かれた。
これは彼にとって、あまりにも大きな好機であった。
「はい、おしまい」
両手で構えた斧を全力で振るう。
そうすることで、斧でオーガの首を斬り飛ばすことに成功した。
「・・・やっぱり」
そして、巡は確信した。
オーガは・・・いや。ボスという存在は冒険者が一人で挑んで良い相手ではない。
複数人でチームを組み、事前に情報を調べ、対策をしてから挑む。
それでようやく突破できるかどうかの強敵。
それを彼は、一人で、無対策で勝利した。
オーガ相手になら、長年冒険者をしている人間なら出来るだろう。適正レベル以下の敵ならば。
だが明らかに適正範囲内か、それより位上のモンスター相手に。
一人で圧倒して勝利する化け物がいるのか?
巡は、真実を見た。
戸村宗次は、知識が足らないのではない。
学ぶ必要が無いのだ。最初から必要としていない。
知識が【要らない】のだ。
何故なら・・・そんなもの無くても、問題ないから。
どれだけ強大な敵が相手であっても。
どれだけ過酷な環境が待ち構えていても。
備えなくても・・・一人で全てを踏み潰し、乗り越えていくから。
「ふぅー。まぁ七十点くらい?中々だったかな!・・・ん?日坂さん、どうかしました?」
「・・・へ?う、うん?どうかしましたか?」
「どうかって・・・まぁ良いんですけど。そろそろ箱出ますよ?」
「あ、ああ!そうですね!!」
「・・・うーん?」
違和感。まず感じたのはそれ。
日坂さんが俺を見る目が、何か変わった気がする。
ただ恐れられているとかそう言う事ではない感じだ。
そういう目には、覚えがある。
というかそもそも、そんなことがあるならもっと前からなっているだろう。
そんなことを考えていたら、部屋の中央に木の箱が二つ出て来た。
あれがボスの討伐報酬。
人数分出てくるから二つなのだ。まぁ中身はランダムだけど。
「んじゃ開けましょうか」
「そうですね」
そう言う日坂さんの様子は元に戻っている。
顔色がちと悪いかな?まぁ結構血とか飛び出したからな。
だがこれ以上眺めてるとキモがられる気がするからやめておこう。
俺も箱を開ける。
中には本が一冊と、袋が入っていた。
「当たり?外れ??」
さっぱり分からん。どうでも良すぎる。
「えぇ!?」
「うおっ、ど、どうかしました?」
「い、いえ。中にこれが」
「ん?・・・あらまぁ」
日坂さんの方に入っていたのは、魔法の力で動く道具。
つまりは【魔道具】と呼ばれる貴重な道具だった。
「へぇ。初めて見た。何の道具何ですかこれ」
「うーん・・・見たこと無いやつです。何でしょうね」
ぱっと見ではただの砥石に見える。
魔道具であるかどうかの判断は、嵌め込まれた魔石で分かるから間違いようがない。
しかしどうやって使うかが、何ができるかがさっぱり分からん。
魔道具ももちろん、協会や企業で買い取りをしている。価格はものによって様々。
使用法が分かっていて、非常に便利な物の場合はとんでもない額で買い取ってもらえる。
使用法が分からずとも、鑑定後にそれが有用であると認められた場合でも高額になる。
まぁ前はここら関係で色々問題があったそうだけど。
「じゃあまずは預ける形ですかね」
「そうですね。便利だったらそのまま使えちゃいますし」
「あ、そういやこっちはスキルブックありましたよ」
「えぇ!?」
魔道具とスキルブックが、箱違いとは言えいっぺんに出てくる事なんてあるんだね。
でもちょっと面倒な事もある。
これ、分配どうしたらいんだよ。
「いります?」
「受け取れるわけないじゃない!?」
「えっ」
「・・・って、ご、ごごご、ごめんなさい!」
「あ、ああ。いや。大丈夫ですけど」
・・・何だ今の。
一瞬、日坂さんの顔が割れた?
何故そう見えたかは分からないけど・・・嫌な予感がする。
何だこの感じ。
日坂さんが・・・離れる?
「あの、日坂さん」
「さぁ!今日はもう帰りましょうね!ボス相手は疲れてますよね流石に!」
「え、割と全然」
「良いから帰りますよ!」
そう言うと強引に鞄の中に物を詰めて部屋を出て行ってしまう日坂さん。
その背中は、何かに追いかけられているように見えた。
結局日坂さんに対して話は出来ず、そのまま今日は解散することになった。
道中でオークを見つけては倒しているので、稼ぎは結局いつもより少し低い程度になった。
でもいざ解散と言う時に、日坂さんがこんなことを言い出した。
「はい?スキルブック売らないんですか?」
「はい。その方が戸村君の為になりますし」
「ええー?俺、あんまりスキルとかいらないんですけど」
「とんでもない我儘言わないでください」
なんと、スキルブックをいらないというのだ。
スキルブックは読んだだけでスキルが手に入る魔法の道具だ。
実は今回は表紙すら読んでないので何のスキルか知らないのだが。
当然、このスキルブックも高く売れる。
魔道具との違いは、何のスキルでも高額買い取りになるのだ。
だから今回はこれを絶対売ると思っていた。
確かに日坂さんの言う通り、これを使えば後々ダンジョン内で便利になるか、有利になるのだろう。
けどすぐお金にならない。
日坂さんって結構稼ぎたがってたし、売った方が良いと思ったんだけど・・・。
俺の考えを伝えると、日坂さんの顔がまた【割れた】
「・・・そんな風に、見えました?」
「え?いやまぁ・・・元々そういう話でしたし」
「そうでしたっけ。色々衝撃的でよく覚えてないんですよね」
「それはそうですね」
「・・・本当に、そう思ってるの?」
最後の言葉は聞こえなかった。聞こうとしなかったから。
だからこそ・・・俺はミスをした。
「とにかく!これは売らないで使ってくださいね!」
「はぁ」
「私はちょっと急用を思い出したので、これで失礼しますね」
「あれ?もう??」
まだお昼くらい。
いつもは戻ってきてももう一周潜ってたのに。
でも急用なら、仕方ない・・・か。
「では、さようなら戸村君」
「ええ。また明日。日坂さん」
「・・・はい」
「いらない、んだ・・・私なんて・・・」
家に帰ってきて巡はトイレで吐いた。
彼の事実があまりにも衝撃的過ぎた。
知識、経験、準備を必要としない強大な力と適応力。
究極的に、他人を必要としない。
それは彼を支えられていると思っていた巡の心に罅を入れるのには十分な事実だった。
元々家族のためにお金を必要としていた。
だが残念なことに、自分はダンジョンでは荷物持ち程度しか出来なかった。
だから別の何かで役に立とうとした。努力していた。
ただその努力が、一切彼には必要なかっただけの話。
今回の話は、本当にそれだけの話なのだ。
彼は悪くない。そして彼女もまた同じく。
宗次が気にしておらず、むしろ必要としていると言っている状態なのだ。
だから気にすることではない・・・はずだった。
だがそう思うには、あまりにも巡は普通過ぎた。
他人の年下の少年が自分から望んでいるとは言え命のやり取りをして稼いだお金を、
彼が大して必要としていない方面で手助けして、貰う。
その行為が、彼女には卑怯に思えてしまったのだ。
それを良しとする自分が醜いと思った。
けどそれを辞めるわけにもいかない。
「大丈夫・・・大丈夫だから・・・皆の、為に」
少なくとも今はまだ。
自分が我慢すれば、家族が救われる。
だから構わない。我慢できる。
自分がこの事実を隠せば・・・大丈夫だ。
言い聞かせるように、心の中で何度も呟いた。
だが・・・世界は残酷だった。
家の固定電話が鳴った。今までも何度かあったことだ。
この時点で、巡は嫌な予感がしていた。
「はい、もしもし・・・えっ?」
世界が、彼女を嘲笑っているようだった。




