マナの本領
「さてと・・・本当の意味で一人で戦うのって久しぶりだな」
目の前にそびえたつ竜頭ゴーレム。
巨大な角の竜の頭蓋骨が頭の部分にあるが、違和感などは感じない。
一体化してそういう生物みたいに見えてくるから不思議だ。
でも感じる威圧感は・・・いやランドワイバーンよりは上か?イフリートよりは下だと思うけど。
「まぁ試せば分かる、よなぁ!!」
手始めに動かない竜頭ゴーレムの頭を殴る。
感じる感触から、流石ドラゴンといった硬さだと分かる。
これは力づくで砕くのは難しいだろう。勁を利用したとしても無理か?
ならば狙いはやはり頭以外か。
「む、そういうのもあるのか」
一度距離を取ると竜頭ゴーレムが動き出す。
どんな攻撃が来るかと思ったが、何と竜頭の口の奥が赤く光り始めた。
間違いない。ブレスの前兆だ。
背後に誰もいないのを確認してから避ける。
地面が熱せられて赤くなる。直撃は不味いか。
「ゴゴゴゴゴ」
「がっくがくやないかい」
咆哮を上げているつもりなのか、口を大きく開き何か声?音を出している。
でも中身がゴーレムだから当然大した音が出ない。
骨とゴーレムの体が軋む音しか聞こえない。
そして改めて全身を見て気が付いた。
こいつ、全身が骨で出来てる?
「竜頭ってか、まさしく竜骨ゴーレムってわけか」
これで竜の爪とか持ってたら完璧だったんだがな。絶対に奪うという意味で。
だが手足はただ骨を尖らせた様な形をしているだけ。
あれを奪うつもりにはなれないな。取って加工出来るんなら欲しいところだが・・・
「そらぁ!」
振り下ろされた骨の刃を腕で受け止める。
パワー負けは無い為、ただ只管に打ち合いになる。
もはや何がぶつかっているのか分からない程の音が響く。
ただパワー負けはしていないが、重さの関係上徐々に俺が後ろに下げられる。
「ちっ。これだからデカブツの相手は・・・」
割と最近別のデカいのと戦ったばかりだから、ダメージを食らわないなどは問題ない。
動きが遅いわけでは無いので注意しないと直撃を貰いかねないが、注意してれば当たらない。
当たるような軌道でも俺が構えられれば防御や迎撃は可能だ。
ただやっぱりデカいせいで、こちらの攻撃が致命にならない。
しかもゴーレムだからどこを殴っても効いてる様子が無い。
「あぁぁぁ面倒なんだがこいつ!?」
「がんばれー」
「お前も頑張るんだよ!!」
「えぇ。やっぱり私じゃダメですね。日坂さーん」
「何を頼もうとしてるんだお前は!?」
マナの方は余裕があるのか。というかあいつは戦い方的に余裕しかないんだが。
こちらの独り言に対してちょっかいを掛けてくる余裕もある。
俺も余裕と言えば余裕だが、攻撃を通しにくいと言うのはやっぱりクソだ。
だが落ち着け。むかついた所でなにも意味が無い。
冷静に、相手を殺すにはどうすれば良いかを考えろ。
「ふぅー・・・」
相手の手が届かない距離まで飛び退き、呼吸を整えて体中に酸素を回す。
すると一気に思考がクリアになる。こちらに近づいてくる竜骨ゴーレムの動きが、先ほどよりはっきりと分かる。
数発殴った感じ、こちらの打撃は恐らく通用しない。
ただ効かないというより、何かしらの影響で無効化されている気がする。
そうなると爪による斬撃攻撃を狙うべきなのだが、それも怪しいような感じがする。
でも・・・それが全身には及んでいるとは考えずらいか。
走り出して一気に加速する。
再度尖った骨が振り下ろされるが、それを走り抜け、爪を地面に突き刺しブレーキとして無理矢理曲がる。
すると竜骨ゴーレムの背後に回ることが出来た。
そちらから見ると、背後には骨の翼の様な物があるのが分かる。
本来なら警戒も別にしないが、ゴーレムである事を考えるのなら稼働領域は見たまんまではないはずだ。
あれがいきなり前に向かって突き出されても驚きはしない。
だが同時におかしな部分も見つけた。
翼の付け根の中心部。妙に盛り上がっている部位がある。
「そこかぁ?」
更に加速して距離を詰める。まだ竜骨ゴーレムはこちらに振り返っていない。
背中に取り付きその部分を殴ると露骨に反応を示す。
痛がっているのだ。どうも当たりだったらしい。
だがそこを連続で攻撃はさせてくれないようだ。
先ほど懸念した通り、骨の翼が異常な角度に変わって俺を突き刺さんと迫る。
それを逆に骨に取り付くことで躱し、そこからさらに頭に乗って離脱。
最後まで骨の翼は先端で俺を追ってくるが速度的に追いつくことは無い。
「これなら闇夜要らなかったかな?」
硬くて攻撃が通らないが、弱点があるなら問題ない。
あとはそこを執拗に狙えばいいだけだ。
動きがワンパターンかどうかはこれから確認が必要だが・・・まぁどっちにしろ後は消化試合かな。
「さて、あいつらはどうなってのやら」
マナ達も気になるし、さっさとぶちのめすか。
宗次が他の二組を気にしている時、マナもまた宗次を見ていた。
「うわっ。もう弱点見つけてますよ」
マナは初めからゴーレムには弱点がある事を知っていた。
そもそもゴーレムは体のどこかに不思議な文字が書かれており、それを潰されると消えるという伝承がある。
それと似たようなモノが、モンスターのゴーレムにも存在しているのだ。
当然マナが生み出しているゴーレムにはそれは存在しない。
そもそもあれは厳密にいればゴーレムではなく、傀儡という人形に過ぎないからだ。
「まぁこっちはこっちでチャチャっと倒しますか」
マナが相手にしているのはミスリル製ゴーレム。
魔法に対する絶対ともいえる耐性を持つその体は魔法使いにとっては悪夢の様な存在だろう。
「まぁ風魔法が効かない時点でやることは決まってるんですけど」
そういうとマナは五体の騎士の形をしたゴーレムを生み出す。
それぞれのサイズは2mを越えている。
それでもミスリルゴーレムには及ばないが、マナはこれで十分だと判断した。
「ほら行った行った」
マナが指示を出すとゴーレムたちはそれぞれの武器を構えて突撃する。
当然ミスリルゴーレムはそれに対して反応し、拳を振り上げる。
とてつもない勢いで振るわれる拳を、騎士ゴーレム達は手にした大楯で受け止める。
その衝撃で二体潰れる。だが三体はしっかりと受けきることに成功した。
「あら。意外と残りましたね」
だがそれはマナの想定外の出来事だった。
全部砕けて、明らかに隙になると考えていたからだ。
「まぁ構いませんけど」
しかしマナにとってはまだ問題のない範囲。
その程度で崩れるのなら初めから勝ち目などない。
マナが得意とするのは、例えるのならば詰将棋だ。
与えられた手札、状況から相手を倒すための手順を導き出す。
宗次がその場で思いつくそれを、マナは予め考えた上で実行に移す。
その差こそが彼と彼女の速度の違いにもなっている。
だがこの戦い方は嵌った時には恐ろしい程の力を発揮する。
完全に読み切れば、ムサシや蒼ですら抜け出せない死への一方通行。
逆を言えば、マナはこれを外すと途端に弱くなる。
だからこそかつて蒼に当たりはずれの幅がデカいと評されていた。
しかし。それでもマナはアークオリンピアというある種の人外の巣窟内で全プレイヤー八位のレートを誇る強者。
故に彼女は、その外れの場合でも勝ちを狙うことが出来る。
「ほら、後方注意ですよ」
空気を裂く音に反応してミスリルゴーレムが腕を背後向けてに振り回す。
しかし何かを捉えることは無く、そのまま音が鳴り続ける。
いや。正確にいれば腕は音の発生源を捉えてはいた。
ただ当たったはずの指が斬り落とされていただけだ。
それに気が付いたミスリルゴーレムがさらに周囲を警戒するが、それを嘲笑うかの如くそれはミスリルゴーレムの体を切り刻む。
あのミスリルの体を、意図も簡単に。
「では早速解説をしましょう」
「え、え?マナさん?」
「はい、みんなのアイドルマナさんです。いえいいえい」
そしてそんな様子のミスリルゴーレムをしり目にマナは巡の近くにまで移動していた。
「た、戦いを見なくていいんですか?」
「ああいや。もう終わるので」
「え?」
「詰将棋って、最初の動きで全部決まるんですよ」
「ど、どういう」
マナが指さす先には、未だ何かに翻弄されるミスリルゴーレムの姿がある。
よく目を凝らすと、ミスリルゴーレムの周囲に何かが複数飛んでいる。
「あ、何か飛んでる・・・」
「あれもゴーレムなんですよ。私の」
「え?あれもですか?というかどうやって飛んで・・・」
「風のエンチャントの応用ですよ」
マナはかつて宗次に見せたエンチャントを、攻撃ではなく飛行の為に使うことが出来るようになっていた。
そして『傀儡魔法』の特徴を生かし、その全身を特殊な鉱物で形成。
ミスリルゴーレムの体に滑らかな断面を残すほどの刃とすることにも成功していた。
「私自慢の、飛剣ゴーレムです」
「飛剣ゴーレム・・・あれってもしかして」
「お、分かります?」
「えっと。重力鉄ですよね?」
「おおー。一発で見破ってくれる人初めて見ましたよ。マナちゃんポイントを進呈しましょう」
「あ、ありがとうございます?」
重力鉄。少し前に宗次が特殊冒険者になる為に行ったダンジョンの一つ。無効化ダンジョンで採掘できる特殊金属だ。
魔力を帯びることで重量と硬度を増す性質を持つ金属は、非常に『傀儡魔法』との相性が良かった。
何せ何に使ってもその性質が確実に出るのだから、マナにしては扱いやすい金属になっていたのだ。
それを利用し、さらに日本各地にある名刀と呼ばれるものを参考に刃を作る。
それを風のエンチャントで飛ばせば、高機動で動く名刀という凶器が完成。
「まぁちょっと重いんで、運用するには囮が必要なんですけど」
「じゃあ最初の騎士のゴーレムって」
「そうです。あれが囮です」
だから最初に全部潰れなかったことに驚いたのだ。
本来の想定ならば完全に拳を振り切った姿勢にするはずだった。
だが意外と耐えたので、微妙に相手に反応を許してしまったというのが今回の流れである。
本来ならば一撃のもとに沈めるはずだったが、それが長引いている。
人によっては動揺するか、先の手立てを考えておらず動けなくなる者もいるだろう。
でもマナは問題ない。そもそも予想が外れる事なんて、強い相手と戦えば当然の事だ。
「これでも、一応ムサシも蒼にも勝ったことあるんですよ?私」
「す、すごい・・・」
これがレートランキング八位。マジカル元素のマナ。
アーサーとは違うタイプの、頭脳プレイでトップクラスに君臨するプレイヤー。
その本当の戦闘スタイルである。
ミスリルゴーレムの頭が、飛剣ゴーレムによって斬り飛ばされる。
「あ、あの」
「はい、何ですか日坂さん」
「マナさんって・・・もしかして、ゲームより現実の方が強いんじゃ」
「あら・・・まぁそうですね。気が付きましたか」
「何となくですけど」
「ふーむ。となると、あれにもバレてそうですね。そのうち挑まれるかな?」
マナの本領は、予め何手もの動きを想定する力と、その精度にある。
故に相手の動きを止める拘束ではなく、誘導するような戦い方の方が強い。
故に、ゲーム内の様な相手を止めて一発巨大な魔法より、
現実の様に相手をジワリジワリと、己の手の上で転がし殺す方が得意なのだ。
「まぁ単純に相性の問題もあるんですよ。あのゲームだとこういう戦い方はあまり強く無いんで」
「え、えぇ・・・」
「あ、これは内緒ですよ」
この時巡は内心で、多分バレてるんじゃないかなぁと思っていた。
そして当然の様に、宗次はその事を知っていた。
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