アークにおける鍛冶師
まだ未定ですが明日忙しくなりそうなので三回行動します
狂会で起きた突発的な大規模イベント(笑)は結局一日中戦い続けて終わった。
俺が色々学べた事、対戦した連中の多くも学びを得られた事。
中には試したことがあまり良い感じでは無くてがっかりしている奴もいたが、そういう連中もまた次の時には強くなっているだろう。
まぁ後は途中で仕事だとかでミホがルミに強制的に連れてかれたくらいかな。
そんな楽しい戦いがあった次の日。
再びアークの街の中で繰り出す。今日は戦うのが目的ではない。
戦ってて気が付いたある事を解消すべく、とある人物の元へ向かっているのだ。
まぁ当然の様にアポなしだが・・・どうせいるだろう。あの鍛冶師は。
場所は街の東の外れ。
ここだけ妙に建物の煙突から常に煙が出ている。
誰が呼び出したか、ここは『メイクエリア』と呼ばれている。
その中でもちょっと奥まった所にある家が目的地だ。
外から中に人がいるのを確認する。
窓からはペンを口にくわえながら天井を眺めているプレイヤーがいる。
「はいるぞー」
「・・・」
「・・・はぁ。相変わらず聞いてねぇか」
家に入ると分かるが、中にいたプレイヤーは小さい。
そういうアバターだからといえばそうなのだが、残念なことにこいつはリアルでも小さい。
日坂さんみたいに発育不全とかそういうのじゃなくて、単純に幼いだけだが。
こいつは家に誰か入っただけでは反応しない。
なので肩を叩いたり物理的な刺激が必要になるんだが・・・その前に俺以外の奴が家に入って来た。
「おいーっす!生きてるっすかーぁぁ?」
「何だよお前か」
「師匠じゃないっすか。ここで会うのは珍しいっすね」
「まぁそうだな」
俺あんまりここ来ないからな。
入って来たのはロメだった。
その手には前回のアップデートで追加された甘味アイテムである新作クレープが。
「毎回思うんだが、ここでそれ食ってこいつに意味あるのか?」
「こうでもしないと食の楽しみ忘れそうなんすよ」
「筋金入り過ぎんか」
この家の主はロメと同い年なのだ。
しかも幼馴染と来た。家も隣同士らしい。
ゲーム内でも現実でもこうして面倒を見ている。
そこを考えると、何か俺とリアみたいな関係にも思えてくる。
「それで?今日は装備変更っすか?」
「ああ。鎧の調整」
「なるほど。マチナー。師匠が来たっすよー」
ロメが肩を叩くと漸く少女は反応を示す。
その顔はマナにも負けず劣らずの無表情。
だけどこいつの場合、表情が変わらないんじゃない。
多分今新しいアイディアが浮かばなくて仏頂面になってるだけだ。
「・・・」
「ほらマチナ。お客の師匠っすよ」
「その言い方も変だな」
間違っては無いんだけど。
「・・・?」
「ああ。ちょっと武器が変わってな。あと鎧全体も変えて欲しい」
「・・・」
「あー。写真ならあるがそれでいいか?」
「・・・」
「む。そうなるとここだと狭いな」
「じゃあ裏庭出るっすよ」
「ん?追加したのか?」
「いい加減不便なんで追加したっす・・・自分が」
「なるほど」
相変わらずご苦労なことだ。
さて、ここまで来たらこのマチナという少女プレイヤーがどういうプレイヤーか分かるだろう。
こいつは俺達プレイヤーが使う武器や防具のデザイン変更を代理で行う、アーク内での鍛冶師としてプレイをしている。
まぁ実際には鍛冶作業なんてしないし、やってることはイラストレーターというのがただしい。
アークオリンピアは、基本的に武器や防具はクエストなどをこなして手に入れるのがほとんど。
プレイヤー自身が作る。MMMOで良くあるところの生産職みたいなものは存在しない。
だけど既存の装備の見た目何かを変更は出来る。その為のアイテムが『変更券』だ。
自分達でデザインしたものを運営に提出。そこからAIがそれをゲーム内で使っても問題ないか判断したのちに実装される。
でもすべてのプレイヤーがそうしたデザインが出来るわけではない。
そこでこのマチナみたいなプレイヤーの需要が生まれるのだ。
そしてこれは彼女の将来の夢にも大きく関係している。
彼女の夢は、そのまんまの通りイラストレーター。
だから今のうちに知名度をあげたり、絵描きとしての腕を磨くのにアークを利用している。
ちなみに何で俺がこいつのリアルの姿を知っているかと言うと、普通にオフ会した事があるからだ。
俺ともう一人、今はもうイラストレーターとして活躍している女性とのオフ会だ。
本当はマチナとその人だけだったのだが、ロメ経由でヘルプを求められたので急遽行ったという事情がある。
裏庭に出た俺達。
まずは彼女の要望通り、俺が装備を付けた状態を見せる。
「今はこうなってる」
「お?足まで変えたんすか。ん?足?」
「・・・」
「足は腕のおまけだよ。頼みたいのは、この腕と足の爪の形状変化。あと鎧のデザイン変更だ」
「・・・?」
「鎧はまぁ最低限腕と脚に合う様に、可能なら関節部の可動範囲を広げたい」
「お?運動性を上げるんすか?重さじゃなくて」
「要所を厚くして、他の部分は露出してても構わない」
「あー。竜騎士の人達的な感じっすかね」
「そうそう。そんな感じ」
「・・・」
これは昨日戦ってて気が付いた。
俺の動きなんだが、鎧で制限されてね?と。
闇夜が見た目の割に動ける分違和感は元々あったんだが、この間の暴走を経験したせいかその違和感が前よりひどくなっていた。
だからそれの解消のために鎧のデザインを変えるわけだ。
「???」
「ああそうだ。脚は纏ってても良いけど手のところだけは何も付けないでくれ」
「握れなくなりそうっすね。大丈夫なんすか?」
「握るっても基本相手の武器を使うことはあんまり無いからな」
今までかぎ爪を纏っていた分鎧など無くても腕で攻撃を受け止めるのが結構有利な面もあった。
だけどそれが『モンスターアーム』に変わると事情が変わる。
腕自体が武器ではあるが、それは同時に俺の腕なのだ。
だから当然、ダメージ判定としては生身と同じ扱いになっている。
もちろん装備の補正である程度はダメージ軽減が別に入るが、それでも今までに比べると防御面で劣る。
考えた解決策は、一部分に鎧を纏うことで防御力を補うと同時に重さを補強するのだ。
全体に覆うのではなく、一部分の装甲を厚くすればちと扱いは難しくなるが防御力はむしろ増す。
「受ける事が難しくなりそうっすねぇ」
「・・・」
「まぁそこは腕でカバーだな」
「流石師匠っす。マチナもそれで描けそうっすか?」
「・・・!」
「そうか。受けてくれるか」
良かった。まぁ断られるとは思ってなかったけど。
「それで報酬なんだけど・・・何が欲しい?」
「ああ。でもやっぱりそのシステムなんすね・・・」
俺とマチナの交渉はこれしかない。基本、言ったもん勝ち。
これにはちゃんと訳がある。
まずもう分かってると思うが、マチナは人と話すのがとんでもなく苦手だ。
コミュニケーションを取るのは問題ない。ただ話すのが苦手だ。
だから交渉術とかそういうのは存在しない。
そして俺も面倒だから交渉とかしたくない。なので欲しい物言えといった形に落ち着いた。
なおその時にマチナに欲しい物が無い場合は俺が適当にイベントの報酬とかを送ってたりする。
なのでマチナのアイテムボックスの中は大会に出てないのに妙に豪華だ。多分ロメより。
「あんまり甘やかしちゃダメっすよ師匠」
「食い物持ってくお前が言うか」
「うっ。それを言われるとなんも言えないっすけど」
まぁ幼馴染だから、放っておけないんだろうな。
俺の場合は俺も面倒だから色々好都合なだけだ。特に深い意味は無い。
というかこういうタイプの世話はリアがいればいい。
「んで?欲しい物は?」
「!!」
「ほう」
「お、珍しいっすね」
「そうだな」
今回は珍しく欲しいものがあるらしい。
さて、この鍛冶師が欲しがるものは一体何なのか。
「は?ペンタブ?」
「・・・マチ?リアルのだったら今から頭ぐりぐりしに行くっすけど」
「まぁその程度なら構わんけど」
「甘やかすなっす!」
「はいはい」
ここは大人しく保護者の言い分に従っておこう。ぶっちゃけペンタブくらいなら買ってやってもいいんだが。
でもマチナも別にそういうことを言いたいわけでは無かったようだ。
欲しいのは、ゲーム内で使える新しい画材の事らしい。
それが現実の会社とコラボして、実際に発売されているペンタブと同じ形ので実装されているんだとか。
「それならヨシッす!」
「じゃあ保護者の許可が出た所で、とはいっても、どうやって手に入れるんだ?」
「それはそうっすね。コラボアイテムだとワンチャン課金?」
「それはマチナも言わんだろうよ」
「言ったらぐりぐりっす」
頭を押さえてぷるぷる震えるマチナ。どうやらかなり頻繁にやられているご様子。
とりあえずアーク内の掲示板で情報収集。
するとあっさり分かった。
「あー。これか」
「・・・何で槍限定?」
「正確には特殊武器限定だな」
『大筆』という、完全なネタ武器がある。それを使った大会に参加してポイントを貯めると交換できるようになるらしい。
普段こういうアイテムはロメに頼んでるから珍しいとは思ったが、そういう事なら納得だ。
「お前槍使えないもんな」
「いやいくつも武器使える師匠たちがおかしいんすよ・・・」
まぁ俺も人様に自慢できる程使えるわけではないがな。
ロメは今使っている武器以外の武器種はあまり得意じゃない。なので頼もうにも頼めない。
ワンチャンそこらのプレイヤーに負けるからな。
「んじゃ取り行ってくるわ」
「あれ?そんなすぐ行けるものっすか?」
「毎日やってるみたいだし、二回優勝でいけるらしいからいけるだろ」
「・・・それで行けるのは師匠だけっすね。まぁ暇なんで付いてくっすけど」
「そうか。マチナは・・・ああうん。聞いてないな」
「その切り替えの早さと集中力は誉めても良いんですけどねぇ」
遠い目になるロメ。苦労がしのばれる。
「ところで師匠って、よくマチナが何言いたいか分かるっすね。大体の人分からないんすけど」
「ん?いや顔見てれば大体わかるだろ」
「いやぁ。規格外っすねぇ師匠。流石師匠」
何故か尊敬がより深まった気がする。




