騎士との初邂逅(オフ会)
十時間以上のフライトを経て、ニューカッスル国際空港へ。
「飛行機って体か硬くなるって聞いてたけど、意外と大丈夫なんですね」
「・・・それは席が高い席だからですよ日坂さん」
「そうなんですか?」
「えぇ。前に協会の予算で行ったときはそれはもう・・・」
「あー。あの時はその日動く気が無くなりましたねー」
「うーん・・・ねぇねぇ戸村君」
「何ですか?」
「今回の飛行機ってどれくらい掛かったの?」
「あ、あの日坂さん。聞かない方が・・・」
そういえば今回も俺が席とか取ったから日坂さんたちは知らないんだったな。
協会が用意してくれる席とか狭いだろうから絶対に嫌だったし。
海外に行くなら、金持ってるなら高くても払った方が良いと俺は思っている。
長時間のフライトをエコノミーはキッツいぞー
それはともかくフライト代だと・・・
「まぁ大体百万くらい?」
「ひゃく!?」
「ああやっぱり」
「やっぱりそれくらいですよねぇ」
言ってもただファーストクラスだから最高額ってわけじゃないんだけどなぁ。
あと今回はホテル代が掛からんからその分も考えればビックリするほど高いわけじゃないし。
「え?ホテル取ってないんですか?」
「取ってないというか、まぁ自由に使える家がやってきたというか」
「???」
「まぁ荷物とって外出たらわかりますよ」
今回桜木さんたちはどこに泊まるのかすら知らない。
相手方の事情と、協会(立浪さん)のサプライズ精神が相まったせいだ。
ちなみにだけど、泊まる家の持ち主は何かもう近くまで来てるっぽい。
荷物を受け取り、空港の出口まで行くと何やら人だかりがあった。
「どうかしたんですかね?」
「・・・いや。これ多分俺達のせいっすね」
「え?」
周りの人たちの話に聞き耳を立ててみると、どうも有名人が来ているって感じだった。
このタイミングで、空港のこの場所に来る有名人。明らかに奴だ。
聞いた内容を軽く説明すると日坂さんたちも理解したようで。
「成程。確かにあの方ならこうなるでしょう」
「本当にすっごい人なんだね」
「まぁ協会の実質トップらしいですから」
あとさっきから微妙にこっちに圧飛ばすの辞めろあのバカ。
俺だけに飛ばすとかいう器用なことしやがって。
はぁ。正直この人ごみの中に突っ込んでいくのは面倒で仕方ないんだがなぁ。
あっちでどかしてくれんものだろうか・・・ああいや。どいてくれれば一緒か。
「桜木さん。ちょっと荷物もっててください」
「え?まぁ良いですけど・・・」
キャリーケースを渡して両手をフリーにしておく。
肩の力を抜き、実際には出さないが闇夜の力を使うイメージをする。
そこからイメージを進ませて、力を外部に放出する形にすれば。
「ちょ」
「うっ」
「戸村君?」
先ほどあいつがやったのとは違い、対象を選ばない無差別威圧。
圧倒的強者の気配は、いくら人間が野生を失ったとしても恐怖を掻き立てる。
それを背後からいきなり受けるとどうなるか。
俺の目の前にいる人達が全員びくっと体を震わせてこちらを見る。
彼らは今、何もしていない俺から目が離せなくなっている。
俺が一歩進むと、それに合わせて人混みが俺を避けるように動いた。
「はい。出来たんで行きましょうか」
「・・・まっじでこの人は」
「あははは・・・」
「戸村君何かしたの?」
「何もしてないですよ」
日坂さんにだけは当てない様にしたので日坂さんは気がつかない。
だけどもろに俺の圧を食らった桜木さんと浮島さんの二人は冷や汗を流している。
レベル帯的には俺と近いんだろうが、こういうことでは遥かに俺の方が上だな。
桜木さんから荷物を受け取り、ようやくあいつと合流出来る。
そうおもって振り返った時。どうもあっちが待てなくなったらしい。
「全く。君は相変わらず豪快だね」
「ん?だったらその面隠して来いよ有名人」
「あー。それはそうだね。ちょっと浮かれてたみたいだ」
「珍しい事もあるもんだなぁ・・・アーサー」
「それだけこの時を待っていたんだよ。蒼セカンド・・・いや。宗次の方が良いかな?」
「あー。マナとかも蒼って呼ぶからそっちで良いよ。お前も変わらんし」
「僕は本名でもあるんだけどね」
それもそうだったか。
まだインターネットリテラシーが欠片も無い時期に始めたゲームだから仕方ないが。
さて、このまま思い出話に花を咲かれるのも良さそうなんだけども。
流石にここでやるのはな。あと日坂さんたち置いてきぼりだし。
アーサーも同じことを考えたのか、後ろで控えていた老人に車を回してくるように指示を出す。
「爺やってやつ?初めて見たな」
「ハハハ。別に僕に仕えてるってわけじゃないよ」
「あん?じゃあ誰よ」
「世話役って意味では、僕のお付きだね」
「じゃあ一緒じゃねぇか」
「ん?日本語だとそうなのかい?難しいね」
あー。仕事として別の人にやとわれてアーサー担当になってるってことか?
いまいちその辺のニュアンスは面倒かもな。
「あのー。戸村君?」
「あ、忘れてた」
「むっ」
「冗談ですよ冗談」
「ほんとにー?」
俺の方が背が高いから、日坂さんは服の袖を引っ張るような形になるんだが、
その様子が可愛くてちょっと意地悪したくなってしまった。
「紹介しますね。いや、自分でやった方が良いか?」
「うーん。そちらの二人は直接の方が良いだろうけど、彼女は君からが良いかな?」
「なるほど。じゃあそうするか」
何でそうするのかは知らん。
「こちら日坂巡さん。俺の唯一のチームメンバーだ。お前も知ってるだろうけど、例のスキルの持ち主」
「成程、その鞄もそうかい?」
「そうそう。んで、日坂さん。こいつがアーサーです」
「あ、は・・・初めまして??」
「ん?・・・言われてみれば二人はアークで会ってるな?」
「あれ?・・・あ、確かにそうだね」
そうだよ。前に品評会の時にアーサーとは会ってるじゃんか。
何で今更初対面みたいな挨拶してんだ。
いや流石に俺達みたいな軽いノリでやれるとは思わんけど。流石に硬すぎだわ。
俺も緊張してるか?実際にこうしてアーサーと会うのは初めてだし。
アーサーも忘れてたみたいだしな。どんだけ今日が楽しみだったんだか。
グダグダだったが日坂さんの紹介は出来た。
次は桜木さんたち。
「日本冒険者協会、特殊探索チームの桜木春美です」
「同じく協会所属の浮島洋子です。今回はお世話になります」
「ご丁寧にどうも。イギリス冒険者協会で、冒険者の纏め役をしてますアーサー・K・コーエンです」
先ほど俺達に見せたとっつきやすい笑顔とは違い、丁寧な外向き用の笑顔を二人に向けるアーサー。
あの笑顔で一体何人の女を泣かせてきたのか・・・
「君ほどじゃないよ」
「心を読むでない」
「いや現実でも変わらない君の方が問題じゃないかい・・・?」
「戸村君顔に出るから・・・」
なんでどいつもこいつも俺の表情から考えてることがわかるんだ全く。
人がさらに集まって来たので、挨拶もほどほどに済ませて一旦移動。
先ほど指示した車が着いたようなのでそれに乗り込む。
「り、リムジン・・・!?」
「久しぶりに見たなこいつ」
「おや?そうなのかい?」
「車に乗る経験自体あんまり無いからあれだけどな」
あんまり車で移動することが無かったんじゃなくて、そもそも車で出かけるような所に行った経験がほとんどない。
それこそ飛行機乗る為に空港まで行くとかそういう時くらいか?
「と、戸村君!何か車の中に冷蔵庫が!?何で!!??」
「適当に飲めばいいんじゃないですかね」
「えぇ!?」
飛行機のファーストクラスはまぁ言っちゃなんだがただ広いだけ。
だけどリムジンと言う圧倒的な金持ちステータスの車に乗ったことで日坂さんが若干混乱してらっしゃる。
それを見ていると俺もアーサーもお互い顔を見合わせて笑ってしまう。
「好きに飲んでも大丈夫ですよ。その為の物ですから」
「あ、これイギリスのたっかいリンゴジュースじゃん。日坂さんこれ飲みましょう」
「ど、どれくらいのお値段が・・・」
「あー・・・これって王室御用達とかいうやつだよな?」
「お、詳しいね」
「うちには食にうるさい妹がいるからなぁ」
「なるほどね。どうせなら連れてきても良かったのに」
「あいつら揃いも揃って嫌がったからな」
実は今回イギリスに行くって話があった段階で、ご家族もよろしければとは言われていた。
でもリアはやることがあるって話で、千尋は普通に面倒だって言って嫌がった。
なので今回は戸村家できたのは俺だけなのだ。
「まぁとりあえずこれで・・・日坂さん」
「オウゾク」
「おや?」
何か見たこと無い固まり方してるなぁ。
いや理由は分かってるんだけども。
「いやあの。所詮ジュース何でそこまでしないっすよ?」
「日本円だと最低額で6000円くらいかな?」
「最高で万は越えるっていう・・・あー待って日坂さん。距離取らないで」
最初から巻き込まれない様に距離取ってた桜木さんたちの方行かないで。
というか貴方も収入とか貯金とか考えたらこれくらい軽く買えるでしょうに。
「この間一括でマンション買ったでしょうよ!?」
「マンションとジュースは全然違うんだよ戸村君!?というか前に千尋ちゃんに聞いてた話と違う!」
「え?どんな話っすか?」
「お兄ちゃんは変なところで貧乏性だって」
ああその話か。
「単純に経験あるんで慣れてるってだけですよ」
「リムジンも?」
「いやこんなのただの車ですよ。そっちじゃなくてジュースのほうっす」
「戸村君の価値観がバグってるよぉ・・・」
それは否定しない。




