企業からのスカウト
そろそろ答えを出さないといけない。
俺が冒険者になるのか。ならないのか。
いや冒険者にはなってるのか。研修も終わってるし。
これから本気で冒険者をやるのかどうかだ。
剣豪無双に勝つ為には、ここを本気でやらないと意味が無い。
一桁の階層ではあまり意味がない。
俺が欲しているのは戦いの経験値だ。
基本的に何でもいいんだが、できるなら質の高い戦いが好ましい。
数をこなすのなら、それこそアークに籠ればいい。
しかし下に行くには本気で冒険者をやる必要がある。
だが本気でやるには金がかかる。その対策は一応現在は二つある。
一つ目は浅い階層で戦って金を貯める。時間は掛かるから俺の目的に沿わない可能性がある。
二つ目は桜木さんからの提案。
冒険者協会に所属して活動を行うことだ。
これのデメリットは自由な時間が減ること。
だけど俺の今の時点での能力と、将来への期待値を考えればそれなりに良い待遇を得られるらしい。
問題はデメリットだ。これは結構大きい。
特に冒険者なのに自由にダンジョンに行けなくなる時間が生まれることがきつい。
自由な時間を自分で作れなくなるってのは心理的にも嫌だ。
でも現状だと、本気でやるにはこの二つ目の選択肢を選ばざるを得ない。
考えを整理すると、仕方ないとはいえ前向きになれる。
「んじゃ行ってくるわ」
「いってらー」
「いってら」
ちなみに家族にこの話をしたら。
「え?何で最初からそれしないの?」
「悩む時間が無駄・・・」
「ひどくない?」
とんでもない家族だぜ☆ミ
さて心も決めたのでダンジョンへ来た。
前はここで桜木さんに出会った・・・
「ああ。来ましたね」
「・・・待ち伏せ」
「今回は普通に待ってましたので」
ああよかった。前回は違うのか。そういう問題でもないか?
ダンジョンへ来たら桜木さんがいた。今回は建物の外に。
何でも俺を待っていたそうだが、何か用か?
「今お時間ありますか?」
「まぁここ来たくらいなんで。何かありました?」
「・・・まぁ纏めて歩きながら説明しますね」
そこで聞かされた内容は、とても驚きの内容だった。
「はぁ!?俺にスカウト!!??」
「はい。我々としても驚きなのですが」
桜木さんが待っていた理由。
それは冒険者協会のスポンサーのうちの一人が俺に会いたいと言ったからだ。
本来なら今日はアポだけ取って帰る話だったそうだが、桜木さんが俺に気が付いた。
そのため迎えに出てきたというわけらしい。
しかし俺にか・・・。でも変な話だな。
「俺の話って、民間にも広まってるんです?」
「いえ。それは無いです。今回はスポンサーが相手なので隠しようもないんですが」
「あ、なるほど」
じゃあ変な話でも無いのか?
一応確認を取ると、やっぱり変な話らしい。
「それはまたどうしてです?」
「まず先日の事件の詳細を知っているのは協会内部でもそこまで多いわけじゃないんです」
「はぁ。そうなんですか」
「事件に研修生が巻き込まれたという話は誰でも知っていますし、その研修生がモンスターを倒したのも知られてます」
「それじゃあ結構細かいところまで知られてるんじゃ」
「相手が鬼だということは知られていません」
「・・・ああ。成程」
事件に巻き込まれただけの、不運な研修生にスカウトが来るのは妙な話だな。
巻き込まれて無事に済んだ幸運に目を付けたって見方は一応できるけど・・・意味ないだろそれ。
「つきました。大丈夫だとは思いますが、失礼のないようにしてください」
「ういっす」
案内された協会の建物内。第三談話室。
ここでは主にそれこそスカウトやまだ表沙汰にしたくないような話をする場所らしい。
中に入ると、スーツをキッチリ着込んだまさにサラリーマンといった風貌の男性がいた。
「えーっと。スカウトの方で?」
「ああはい。私こういうものでございます」
「あ、これはどうも・・・え、七瀬スポーツ!?」
「ご存じでしたか」
「いや知ってるも何もって感じでして・・・」
七瀬スポーツ。
スポーツ用品の販売、製作を行っている今最も流れに乗っている大企業。
俺は運動部ではないし、特に習い事もしてないからスポーツはしていない。
だがアークオリンピアの為に体を鍛えようと決め、何か良い物はないかと悩んでいた時がある。
その時マジカル元素ことマナに七瀬スポーツの製品をお勧めされたのだ。
他にもいくつかの会社の製品を試したが、一番肌にあったのは七瀬スポーツだった。
「筋トレ用品はほぼ全部そうなんですよね」
「おお。そうだったのですね!」
その話をすると、やはり自社の製品が褒められるのは嬉しいのかスカウトさんの顔が笑顔になる。
あ、スカウトさんの名前は大町さんだそうです。もらった名刺に書いてあった。
その名刺にちょっと気になる記載もあったけど。
「いや。本来なら今日はアポを取れないかを協会に問い合わせしにきただけでしたので、実に幸運でした」
「そうらしいですね。でも、冒険者のスカウトって大体こんな感じなんですか?」
「そうですね。企業ごとで違いはあると思いますが、凡そは」
まずスカウトする本人に話を聞く前に冒険者協会に問い合わせをする。
そうすることで、冒険者という個人と企業の間に協会が入ることになる。
するとスカウトに必要な手続きやら何やらを協会が負担してくれるのだ。
だから基本まずは協会に話が行く。そのあとスカウト対象に話が回ってくる。
今回の場合、大町さんは最初は協会に問い合わせをしているのでちゃんと間に協会が入っている。
まぁその日にいきなり面談ってパターンは相当珍しいそうだが。
大町さんは今までも数名のスカウトをしてきたそうだが、ぶっちぎりで最速の面談だそうだ。
そらそうでしょうね。
「まずはそうですね・・・どこからお話をしましょうか」
「えーっと。そうですね・・・」
この部屋の中に桜木さんはいない。外で待っている。
そういう決まりなのだ。スカウトの話はあくまでも企業と個人の話。
それを第三者である人は聞いてはいけない。
なので何を聞くべきか、そういう話も自分で考える必要がある。
だけどまさかこうなるとは思ってもおらず、何にも考えてきていない。
さてどうするか。
「・・・話せる範囲でいいんですけど」
「はい」
「俺のスカウト理由を教えてください」
いきなり鬼の事は聞けない。
だからもっと全体的な事。スカウトの理由について聞いてみることにした。
これなら核心的な部分には触れられない可能性が高いし、出だしとしてはちょうどいいのではないか。
まぁその気遣いは無駄だったのだが。
「ぶっちゃけますと、戸村さんの戦闘能力を買ってのスカウトになります」
「ぶっ!?」
偶々飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
この人・・・本当にぶっちゃけたぞ!?
大町さんは俺が落ち着くのを待ち、また話し始めた。
「戸村さんは研修の際、他の冒険者が踏んだ罠によって出現した鬼と戦闘を行いましたね」
「え、ええまぁ・・・何で知ってるんです?」
「我々にも伝手はありますので」
にっこりとそういう大町さんの顔が急に胡散臭く見えてきた。
いやマジでなんなんだこの人・・・
「そしてその鬼を、ほかの研修生三名を守りながら撃破。
怪我もほぼなく。ポーションで治せる範囲で済んだと」
「そうですね一応」
「私も始めに所属員から聞いたときは驚きました。まさか研修生でそれができるとは思いませんでしたから」
「まぁ・・・でしょうね」
俺だって俺以外がそれをやったと聞いたら驚くだろう。
そもそもあの時だって、俺が勝てたのは運の要素が大きい。
あの時鬼は慢心していた。逃げるだけの獲物を甚振るだけだと思っていたのだ。
だから反撃されたことで理性を失った。そこに俺がつけこんだ。
もし相手が慢心していなかったら、投げられた斧がもっと重かったら。
何より鬼が複数存在していたら。
何か僅かでも条件が違ったのなら、負けていたのは俺だった。
「でも偶々ですよ。何かあれば俺は死んでました」
「それはどの冒険者でも同じです。それでも生き残ったからこそ、あなたをスカウトしたいのですよ」
「・・・」
ふーむ・・・変な感じはしないか。
何となくの範囲だが、俺は人と話すときその人が何か隠し事をしているかがわかる。
直感的な話なので自分でも説明は出来ないが、あまり外れたことのない信じられるものだ。
その直感が、大町さんに隠し事は無いと言っている。
なら一応は信頼できるか?今までの話で変なところがなければだけど。
「・・・契約書とかってもうあったり」
「こちらになります」
「あ、はい」
仕事が早すぎる。本当に今日アポだけで帰るつもりだったのか?
いや俺がいつ来るかわからないって前提で来るなら、もしかしたらを考えて鞄の中に入れておくくらいはして当然か。
渡された契約書の内容を纏めるとこんな感じ。
1、俺は七瀬スポーツから提供された物を使用、装備してダンジョンに挑む
2、ダンジョン内で入手した物品は会社と俺で別ける。割合は2:8
3、提供した物の広告塔として活動してもらうことがある。
4、七瀬スポーツ所属の他の冒険者とチームを組む必要はない。状況によって所属員同士で話し合うことは可能。
これだけだ。
え、これだけ?
「なんか・・・少ないですね」
「ハハハハ。これはうちの社風でもありますので」
「しかもドロップ品の分配割合も・・・」
「あ、そこについてはちゃんとした理由があります」
「ほう」
基本的に冒険者のスポンサーになるという企業の目的はダンジョンからのドロップ品だ。
手に入れた物を冒険者が企業に渡し、それを自社の利益の為に使う。
だから割合は基本企業の方が多くなる。特定のドロップ品は全部企業側の物になるってこともある。
あと多いのは魔石は別にいらないって企業があることか。
あれは特定の企業しか欲しがらないからなぁ。魔石は協会が買い取りをしてるから色々面倒だってのもあるのかもしれない。
そのためこの契約書の内容はおかしい。これではドロップ品は目的じゃないと言っている様なものじゃないか。
でもちゃんと理由はあるという。その理由とは。
「まず当社でもダンジョンのドロップ品を使用した商品開発はしております」
「まぁ今はどこでもそうですよね」
「はい。例えば・・・この靴がそのうちの一つですね」
「靴ですか?」
「はい。ダンジョンでの活動にも耐えられる運動靴と言えばいいでしょうか」
鞄の隣に置いてあった紙袋から靴の入った箱を取り出して見せてくれた。
デザインはまだこれからなのかシンプルなものだ。
手に取ってみると非常に軽い。ちょっと引っ張ってみると伸びた。
「え、伸びた」
「すごいですよね。十六層にいるカエルのモンスターの皮から作られているんです」
そのカエルの皮は伸縮性に優れ、耐熱性能が高い。
また防刃性能もある。まさにダンジョンを歩くための道具だ。
「すごいですねこれ」
「そちらは戸村さんへの贈り物になりますので、よろしければこちらの箱ごとお持ちになってください」
「え、いいんですか?」
「はい。スカウトの際に自社の製品を渡すことでアピールするのはよくあることですから」
あー。なるほど。
その会社の製品が気に入れば、スカウトを受けて提供を受けようという気になる。
確かに納得だ。俺もちょっとこれだけで心惹かれるものがある。
「提供される装備の一覧みたいなのってあります?」
「自社製品の提供品がこちら、その他の企業の物はこちらのファイルになります」
「自社製品だけって、全身分あるんじゃ?」
「わが社では靴、防具の下に着込むインナー類だけですので」
残りの装備や道具に関しては提携企業の物を選ぶらしい。
確かに一つの企業で全身の装備を用意するのは難しい。
道具に関してもそうだ。この点ではアウトドア製品を作ってる会社なんかは有利らしい。
でも企業の金銭的な問題で直接冒険者を雇えない企業は多い。
そこで七瀬スポーツはそういった企業に声を掛けて、ダンジョンと冒険者に関する事業限定で業務連携をすることにしたそうだ。
結果、複数の企業の製品の取捨選択をする余裕が生まれた。
これは冒険者側にとっては大きなメリットだ。
「事実、我が社の所属している冒険者の方からは好評ですので」
「へえ~」
確認を取ってネットの情報を確認してみると確かに評判がいいと書いてある。
所属している冒険者へのインタビュー記事なのだが、契約後からも結構融通が利くらしい。
これは場合によってはあるはずの契約を反故にされる可能性があるということでもあるのだが、そういったことは今のところ無いようだ。
というかそんなことしたら世間から袋叩きにあうだろう。
今やダンジョンに関する情報。特にドロップ品に関する情報は世界中の注目の的だ。
さらに、ダンジョンから得られるドロップ品はどこからも求められている。
それらを人々に提供している冒険者がどこかの企業により理不尽な不利益を被ったとなれば大変だ。
それが優秀な冒険者だったらさらに大変。ドロップ品を得られる機会を失った人々は大暴れするだろう。
まぁ何だかんだ言ったが、騙されたーみたいなことにはなりにくい環境が今はあるというわけだ。
完全にそうだとは言い切れないのが悲しいところだが。
しかし俺も製品を愛用している七瀬スポーツ。
それもかなりの好待遇ときた。
まさにコストの面で悩んでいた俺にとって、これは福音ともいえる。
正直もう契約で良くね?とか思っている。
「ああ!」
「え!?どうしました?」
「忘れてました。こちら報酬についての書類になります」
「ああ・・・あん?」
おかしくね?俺さっき契約書貰ったよな?
改めて確認する。ドロップ品の事は書かれている。提供されるものについても書かれてる。
じゃあなんだこの紙。そう思いながら内容を読むと。
「・・・え、月給制」
「はい。所属した冒険者の方には、こちらから給金という形で現金のお支払いをしております」
「んんん???ドロップ品はこちらが八割ですよね?」
「そうですね」
「・・・何故?」
冒険者の収入は、何度も言うがダンジョンから手に入ったドロップ品を売った際の利益分。
この額は非常に大きい。一流といかずとも、それなりの冒険者ならば簡単に平均的な社会人の年収を超えてくる。
それだけ儲かる仕事なのだ。冒険者というのは。
そんな冒険者に。しかもドロップ品を全回収とかしてないのに給料を払う。
これがどれだけおかしなことかわかっただろう。
だが当然。これにもちゃんとした理由がある。
「こちらは元々、怪我などでダンジョンに行けなくなってしまった方向けの保険だったのですよ」
「確かにそれはあったら嬉しいですね」
冒険者一本で食べてますみたいな人には良いんだろうな。
ある種雇用保険みたいなものなのだろう。いや違うか?
それで、この保険みたいなものが何故普通の給料になったかというと。
どうも七瀬スポーツの社長さんが言い出したことらしい。
「わが社の広報活動をしているのなら、それは社員と言ってもいいだろう・・・すごいこと言ってますね」
「ええ全く。我々もこれはっと思う時はあります」
冒険者を自分のところの社員と同じ扱いにするとは。なんともチャレンジャーな社長だ。
こんなこと他の企業じゃ聞いたこともないぞ。
報酬関連の書類には、ほかにもいろいろ福利厚生の事も書かれていた。
ここまでくると本当に社員と変わらんなって感じだ。
流石に給料自体の金額はそこまで高くないけど。ここは流石に自重したのだろう。
「・・・止めるの大変でした?」
「・・・ノーコメントでお願いします」
よしこれ以上聞くのはやめておこうか。
「う゛う゛ん・・・他にも何か質問はございますか」
「いえ。もう大丈夫です」
「それでは」
「ええ、俺は・・・」




