マジックアイテム(改稿済)
「それでノア、明日はどうしようか?」
「俺たちはパーティーを組んだばかりだ。まずはお互いの戦い方を確認したほうが良いと思う」
「そうだな」
シーナは頷くと俺の前に自分の武器を置いた。
「シーナは刀を扱うんだよな。前にも見せてもらったけど、また見せてもらっても?」
「かまわない」
今度は食堂のような場所ではないので、鞘から刀を抜き放つ。鋼が部屋の明かりを反射してギラリと光った。
魔石加工はされていない。
刃は何度も研ぎ直されていて随分と使い込まれていたが、大切に手入れをされているらしく切れ味が良さそうだ。
シーナ自身が研いでいるのだろうか?
「……結構、いい品だよな」
刀のような、切れ味を出すために刃に薄く反りを持たせた武器は、手間と技術、そして素材にも上質な鉄が使用されるため剣よりも高価になりやすい。
「アルテナ」
「ん」
アルテナの手を握って視れば、刃は緑色の光を放つ。
刀に製作者の刀剣鍛冶師の名や工房銘が刻まれていないことから、まだ名を刻むことが許されない徒弟の習作のはず。それなのに緑の光を放っているということは、アルテナの言を信じれば、並よりも上質な刀として仕上げられているということだ、
新品だったら銀貨三十五枚から四十枚の値札が付きそうだ。
ちなみにうちで中古品として扱うなら、銀貨十八枚から二十枚って所かな。
「俺の武器はショートソードだな。盾を使わずに左手にはナイフを持って二刀流で戦ってる。それと弓が多少使える」
採掘者になった時にうちの店にあった手頃な武器が、この三種だったのだ。
弓は最初使えなかったけど、ナイフの使い方と一緒に、店に来る顔馴染みの猟師のおっちゃんに頼み込んで教えてもらった。
「ねえ、アルテナはどうしよう?」
俺とシーナが互いの武器を見せあっている間に、アルテナが割り込んできた。
「ノアにはナイフを渡されたけど、まだ練習しないとアルテナは上手く使いこなせないんだよ?」
そうだよな。
火が使えると聞いていたから、こいつには武器としてナイフしか渡していない。
「アルテナはノアに使ってもらわなければ、力が出せないということだったな」
「ノアは本当のマスターじゃないから、仮りそめの契約だけどね」
「前にシーナのペンダントを塵にして、必殺技とかいうのを使ってただろ? あれはいつでも使えるわけじゃないのか?」
「えっとね……」
俺の質問にアルテナは小首を傾げると、考えながら話す。
「宝石がアルテナのエネルギー源なんだよ」
「エネルギー源って……飯食ってるじゃん?」
「ごはんはエネルギー源ってわけじゃないかな。もしもそうなら、迷宮の奥底にいてとっくに餓死しちゃうよ」
そんなこともわかんないかなぁ、という呆れた顔をするアルテナにイラッ。
「だったら何で飯食ってるんだよ!」
「だってお腹が空くんだから仕方がないんだよ!」
「うーん……多分、普段アルテナが食事をしているのは、精霊として実体を保つためとかではないのか?」
「あ、そうそう。きっとそうだよ」
シーナの推測にアルテナがきっとそうだとばかりに頷く。
自分の事なのにわかってないのか。
「それで必殺技? とかいうのを使うためには、莫大なエネルギーを必要とするのだが、それを賄うのに宝石からエネルギーを引き出す。そんなところだろうか?」
おお、なるほど。
「へえ、そういうことだったんだね」
どうしてそこでお前がシーナの言うことに頷いているんだ。
本当にわかっていなかったんじゃないだろうな?
「何で宝石なんだろうな?」
「宝石と呼ばれる石には魔力や自然のエネルギーが宿ると聞くからな。ノアも呪いの宝石だとか、幸運の宝冠とかの噂は聞くだろう」
言われてみれば、そういった宝物の伝承は採掘者の噂話でよく聞く。
「しっかし宝石をダメにして必殺技を撃つとか。一発一発にえらくコストが掛かるな。たとえばそのエネルギーを賄うのに魔石を使うんじゃダメなのか?」
魔石には莫大なエネルギーが秘められていて、そのエネルギーを利用するために生み出されたのが魔法道具だ。
宝石がどの程度力を宿しているのか知らないが、魔石には確実にエネルギーがあるのに。
しかし、俺の言葉にアルテナはフルフルと首を横に振った。
「魔石ってモンスターの体内から出てくる石の事だよね? あれだとダメなんだよ。だってあれは異邦の神の瘴気の結晶だから」
「聖剣とは相性が悪いって事か」
シーナの言葉にアルテナが頷く。
「宝石を潰すならとてもじゃないけど、連発することはできないな」
そんな銭投げ攻撃、どんなセレブになれば可能なのか。
それこそ英雄と呼ばれるような人物でもなければ不可能だ。
「では、火を扱うことが得意なら、炎系の魔法道具で戦うとかどうだろう?」
「魔法道具か」
シーナの提案に俺は腕を組んで考え込む。
宝石を使い潰すよりはマシだけど、魔法道具も高いからなぁ……。
「戦える手段は幾通りもあったほうがいい。そのほうが戦術の幅も出る。パーティー全体の戦力アップを考えるなら、アルテナに魔法道具を持たせる事は理に適っていると思うぞ」
「アルテナは、前にゾンビを倒した報酬使ってないよな?」
「銀貨? うん、全然使ってないよ」
俺は店の運転資金とは別に貯めた、探索用の資金が入った袋をテーブルに置く。
所持金は銀貨二百六十一枚に銅貨と青銅貨が幾らか。
探索用の資金として貯めている金だが、何かあった時用の金でもある。全部使うわけにはいかない。
「私も多少の持ち合わせがある。明日、魔法道具を見に行ってみてはどうだろうか?」
◇◆◇◆◇
翌朝、土曜日の朝。
俺たちは魔法道具を売る店へとやって来ていた。
「せっかくメルキアからファタリアまで出て来たのに、アルテナの買い物なんかに付き合わせて悪いね」
「パーティー全体の戦力の底上げのためだ。命に関わることだからな。出来る限りの準備はしておいたほうがいいだろう?」
シーナの言う事に間違いない。
「ここが魔法道具のお店なんだ。武器なんかも置いてあるんだねぇ」
店内を見回したアルテナが感心した声を出した。
魔剣も魔法道具に含まれるので武器専門の店ほどではないが、様々な種類の刃物類なども置かれていた。どれも何がしかの魔石が嵌め込まれていて、魔法の効果を示すのだろう。
「アルテナが持つ魔法道具は、指輪か杖がいいよな」
「杖ならこっちのほうにあるようだぞ」
「ノア、ノア。この杖、火が出せるって」
アルテナが指差してみせたのは、木製の短杖。
「そいつは火が出せるって言っても『着火』だから、戦闘用じゃない」
それでも銀貨百八十二枚だから、やっぱり高価だよな魔法道具って。
火を点けるだけとは言っても、迷宮内で野営、休憩、食事を摂る際に火を簡単に熾せるので非常に使い勝手の良い人気の商品。
ちなみに俺が持っている『着火の指輪』だと銀貨百三十六枚の品物だ。
「指輪のほうが安いから、指輪を買うか?『火炎弾』あたりが込められたのを」
「そうだな。アルテナはナイフも使うつもりなんだろう? なら両手が自由に使える指輪のほうが良さそうだ」
「買ってくれるなら何でもいいんだよ」
「俺は『着火』の指輪を持っているけど、シーナは?」
「わたしはそれに『明かり(ライティング)』の指輪を持っている」
そういえば初めて会った時、『明かり(ライティング)』を持っていたな。いいな、羨ましい。
後は『水作成』の指輪も揃えると、水筒を持ち歩かなくて良くなるので、採掘者として活動がしやすくなる。
さて、火炎弾の指輪は幾らだ――って、銀貨二百九十八枚!?
高っ!
「さすがに攻撃魔法の魔法道具は高いな」
シーナも値段を見て苦笑する。
「折半でいいかな?」
「いや、折半はちょっと……、アルテナの持つ物だから俺のほうが割合を多めにでいいよ」
その俺の申し出にシーナは首を振る。
「パーティーの仲間は対等であるべきだろ? 私にも金を出させてくれ」
なるほど。確かにシーナの言うとおりだ。
「ええっと、じゃあ銀貨百四十九枚ずつで」
「うん」
「アルテナは? アルテナはお金を出さなくていいの?」
そう言って銀貨が十五枚だけ入った財布を出してくるアルテナに、俺は苦笑して首を振った。
「いいよ、お前は。無一文だったら、何かあった時に困るだろ?」
「そうだな。これは私とノアからのプレゼントだと思って受け取ってくれ」
「そっか、わかったよ」
素直に頷き、嬉しそうに指輪を嵌めるアルテナ。
宝石も何も嵌っていない銀を素材にしたシンプルな指輪だが、アルテナは嬉しそうに空にかざして見たりしている。
ちなみに幾つも展示されていた『火炎弾』の指輪の中で、最も緑色に近い色をしているものを選んでいる。
青色の指輪よりも『火炎弾』の威力が高いのか、それとも指輪が壊れにくいのか。
どちらにしても、同じ値段なら少しでも良いものを選びたい。
しっかし、俺の探索用資金が半分以上も吹っ飛んでしまった。
シーナだってどのくらい金を持っているのか知らないけど、結構な出費だったに違いない。
「じゃあ、アルテナの武器も買って装備も揃えた所で、迷宮に行ってみようか?」
俺の提案に、二人が頷いたのだった。




