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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
2章 救罪矛償:あなたの足が訪れる

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90 正気アンカー/わたしたちはにている

 二章終わり。


 どうぞ。

 ちょっと雲多めの空みたいな気持ちで帰ってきた家から、テンション高めの若者の声が聞こえた。間違いなく、あの二人だ。


「ただいまー」


 家に入るなり、しばらくぶりの二人がいた。メタルフレームの眼鏡をかけた長身の青年に、ふわふわした茶髪の薄着ギャル……見慣れた身内をよそ行きの言葉で表すと、と思ってみたけど、頭の中ですら変だなとしか思えなかった。


「おっかえりぃ! 元気してたかアカネ?」

「よっすーアカネっちー、まいしすたー」

「二人とも、久しぶり。でもまだゴールデンウィークじゃないよ?」


 それより一大事だろ、と兄――揺城丈一が笑う。


「アカネが最近楽しそうにしてるって聞いてみたら……な」


 何かを抱きかかえるようなポーズを取った兄に、どこか見覚えがあった。そして、はっと気付く。


「ファイバーさん!」

「安心したよ、楽しくやってるみたいで。常時白バニーは正気なのかなと思ったけど」

「そんなに変かな、あれ?」

「街中にいないのがふぁいならんさーだぞ、アカネっち」


 義姉――揺城緋魚璃(ひおり)も、どうやら『ストーミング・アイズ』を遊んでいるようだった。


「私はあれ気に入ってるんだけどなー」

「わかってる、わかってる。初期装備からわざわざ似たやつにアップグレードしてるんだから、あれが着たいんだろうなってことは」

「次の配信何やるの、アンナっち?」

「今夜発表だよぉ。「魔王チャレンジ」の続編」


 へぇ、と二人はうなずき合い、お互いにふっと微笑んだ。


「今度は俺たちも参戦しようかなと思ってね。前座くらいにはなれるかな?」

「ふふふ。私たち、強いよー?」

「きょうだい対決って明かしてもいいなら、いくらでもいいよぅ」

「やっちゃおうか、撮れ高に貢献できるなら」


 そういえば、ゲーム内の兄=ファイバーさんが何をしているのかは、ちっとも知らない。何度か遭遇したけど、いつもぬいぐるみを抱っこしてよしよしして、という平常運転(?)だった。


「夫婦コンビ、久しぶりにごーおん! しちゃうね」

「それなりに集まりそうだから、期待しとくねぇ」


 アンナはにやりと笑って、しゅるりと私に巻き付いた。


「ほかのギルドは、防衛線やってもぜんぜん数字取れてないけど……うちは別だからねぇ」

「そりゃそうだろ。たてわきサフォレ&とっこのコンビ、持ち込み人材の強さと、千人相手取って見事に勝った実績。これに比べたら、どこも霞む」

「さすがはお義兄ちゃん、わかってるぅ」

「これの二番煎じができると思う方がバカだろー。じゃ、出るってことで」




 話はとんとん拍子にまとまって、私はいったん部屋に戻ることにした。アンナはお母さんと一緒に料理、兄と義姉はリビングでくつろいでいるようで、一階はにぎやかだった。ふと思い立って端末を起動し、『ストーミング・アイズ』の配信動画を検索してみる。


「わ、多い……有名人、多いんだ」


 再生数だけ数えてみると、『【SIs】魔王チャレンジ ハイライト切り抜き【水銀同盟】』の三十六万再生より多いものは、ちょこちょこあった。解説動画もあるし、風景にBGMをつけたもの、ダンス動画もある。


「のうち、戦ってるのは……?」


 戦っている動画は、セリフを挟みづらいのか面白くないのか、どれも再生数が低かった。二ケタからギリギリ三ケタが基本で、四ケタ以降は編集済みで字幕・セリフ付きだ。誰がやってくるかは分からないけど、片っ端から「あとで見る」リストに入れておく。今夜からは対策祭りにして、誰が来ても倒せる方法を考えておきたい。


 いくつかの動画を早送りで見終わったところで、階下から呼ばれる。


『ごはんよー』

「はーい!」


 部屋を出た瞬間に、すごくいい匂いがした。階段を下りながら、兄のテンションが上がっていた理由をなんとなく察した。


「いぇーい、天ぷらァ!」

「お兄ちゃんってば、変わんないねー……」

「二人じゃあんまりやらないんだよ。後始末すごいから」

「こんなに種類揃えるのも、けっこう大変なんだよ? 二人で食べるぼりゅーむじゃないのだ」


 いつものラインナップに春野菜と白身魚を多めに追加した、親戚の集まりかと思うくらいの量があった。二人が買ってきたのか、お寿司まである。


「手土産だぜ。大丈夫、和牛炙りとか白身にもみじおろしとかもあるから」

「やったー!!」

「お前も変わってないなあ」

「ふへへー」


 油脂分も糖質も、部活をやっていたころより敏感にならないとすぐ太るんだろうけど……さすがに、好物のビッグウェーブには勝てなかった。野菜の天ぷらって、トータルでは肥満と健康のどっちに天秤が傾くんだろう、とすごくバカなことを考えつつ、食べに食べる。両親は二人とも美味しいもの大好きだから、いつも美味しいものを食べさせてもらっている。お肉はともかく、魚と野菜の美味しさが分かる舌でよかったな、と改めて思った。


「はー、食った食った……! ごちそうさまでした」

「おそまつさま。ジョーはほんと、よく食べるわね」

「大学にもアルバイトにも本気出してるから、消費カロリーがね。若い男だし?」

「かろりーたくさん使ってるもんね、あたしのために」


 ほんのり微笑む頬が赤い。いっぱい食べてあったまったのもあるだろうけど、惚れた男の人に向ける、絡みつくリボンみたいに思えた。


「アンナ、今日何観る? 『スペクトラB』か『カメン・ナイトランナー』?」

「みんないるんだし、『イチバンファイブ!!』観ようよ! 話数はお義兄ちゃんセレクトで」


 特撮好きな兄は、ときどきこうして推し作品を見せてくれる。リビングにある大きなテレビを手元の端末でささっと操作して、「んじゃあ」と宣言する。


「観ようぜ、『キラ星選隊イチバンファイブ!!』三十三話……「しろくろ中心グルリンだ!?」俺的ベスト神回だ!」


 キラリン、とシリーズタイトルのロゴが出る音がした。

 というわけで次回から三章「最強だいすき! お姉ちゃんバトル!!」をお送りします。

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