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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
2章 救罪矛償:あなたの足が訪れる

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89 愚者の夢歩:クピドは矢筒を揺さぶるか

 どうぞ。

 んー、と服を選んでいると、アンナは「アカネってクラゲ系なやつばっかりだよねぇ」と、ベッドで足をぱたぱたさせていた。


「かわいいし」

「うん、たしかにかわいい」


 ふわっと下がり気味、アシンメトリーだったりパステルカラーだったり、縦方向のラインが目立つコーディネートの女子が「クラゲ女子」だ。三十年くらい前からあって、流行になったり廃れたりしている。とはいっても、大学生にもなれば自分に似合う服も分かってくるから、流行に乗る藻くずみたいな人はけっこう少ない。


 当時はこれに乗ろうとしたのか、ブルー系のマニッシュを「マグロ系」とか読んだり、他にもいろいろあったみたいだけど……夜の方のマグロと重ねたくなかったのか、クラゲ系だけ残った。今でもギリギリ使われているのは、グラデーション強めのセーターとパネルスカートを合わせた「サンゴ系」くらいだろうか。無理やりそうしている感が強くて、ファッションとしてはちょっと微妙になりがちだ。


「足、いいよねぇ……」

「男だったら蹴ってるからねー」


 すーりすーりと撫でている動きは、全力で味わっている感じがして、ちょっと苦笑してしまう。タイツを穿くときのアレを見てるし知ってるしやってる側の女子がこうやっていると、なんというか本物っぽさがすごい。クラゲ系はけっこう足を出すし太ももまで見えるから、かなり自信がないと着られない。運動部より文化部の方が向いていると思うけど、私はけっこう気に入っていた。


「アカネってこんなにえっちなのに、男子から声かけられないの?」

「うーん。雰囲気的にすでにカレシいそう、とか言われてるのは聞いたよー」

「そっちなんだぁ。確かに色気あるけど」

「男子も別に、あんまり近寄ってこないし」


 大学には、高校のときクラスメイトだった人が三人くらいいる。同じ新体操部にいた子は、学科が違うからかぜんぜん合わない。ほかの二人も、移動中に歩いているときすれ違ったくらいで、とくにあいさつもしなかった。所詮はそういうものだと思っているし、負い目があるから声をかけづらいのだろう――別に、気にするようなことでもない。


「でも、お兄ちゃんがカノジョできたって言ってきたときはびっくりしたなー。しかも、めっちゃギャルだったし!」

「うんうん。オタク友達なんて思うわけないよぅ」


 死語だと「蓮っ葉」とかいう言葉を使うらしいけど、今は「ギャル」でだいたい通じる。かるーい感じの言動に明け透けな態度、それでいて気遣いも熱心なオタっぷりもある、面白い人だった。


「私たちって義姉妹、ぜったい出会わないタイプだったよね……」

「人の縁って不思議だよね。いきなりお義兄ちゃんが「俺ってば! ハイポァーモテキィ!!」とか言い出して、何かと思ったよぅ」

「何がパッカーンなのか分かんなかったけどね」

「それはほら、元ネタそのまんまっていうか……」


 とりあえず、飛び跳ねて大喜びしていたのは覚えている。


 身内びいきだけど、両親はけっこう顔がいい。それをそのまま受け継いで、兄と私は両方、それなり以上の容姿だった。小学校で何かあったようで、「二次元しか勝たん」とぼそぼそ言っていた兄だけど、大学デビューでふつうにモテだして、そのままカノジョができて流れのまま結婚した。


 正直、こんなに急ぐものなのかなと思ったけど……楽しそうだし上手く行っているようで、正直何がなんだか分からない。


「あ、そろそろ時間。行ってきますだね」

「いってらっしゃい。アカネも、そういう人できたら紹介してね」

「どうかなー。私、そういうのまだ分かんないし」

「初恋とか、ないの?」


 ぜんぜん、と言い捨てる形で部屋を出て、そのまま大学に向かった。




 顔で売り出している俳優さんはカッコいいと思う、けれど。


(それ真顔で説明できちゃうし、お兄ちゃんみたいに早口にならないし。ふつうの女子には、恋愛なんて縁ないんですよーっと……)


 小さく小さく、つぶやく。音にもならないそれは、春のまだ暖かくない風に吹かれて消えていった。気持ち早めに歩いて駅に向かい、今日は席に座って電車に揺られ、乗り換えをして最寄り駅に着いて降りて、校門をくぐる。


「よっ、アカネ! 今日も微妙な顔してんねえ」

「あはは……いつも微妙な顔なの、私って?」

「そーだねぇ、都会の大人って感じ。その人の事情がガッチリ固まってて、声かけても流されそう感?」

「なるほどー……」


 声をかけづらいなら、空気を読まない男子くらいしか来ないだろう。偏差値がそこそこあるこの大学には、あんまりいないタイプだ。


「そろそろ、最初のレポートとか書く時期なんだよねー。大学生っぽくなるね」

「アカネは大丈夫でしょお、こっちは練習あるんだぜ? まー、一年から単位落とすつもりないけどさ」


 何が始まりになるんだろう、と……二人の男子に挟まれている女子を見ながら、そんなことを思った。

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