87 人がたくさんいると顔がたくさん売れる
どうぞ。
パレヱドが終わると、灯りを消して山林に入り、神輿そのものを解体してアイテムボックスに収納していく片付けに入った。
「上出来でしたよ。皆が喜ぶとは限りませんが、あなたなりのやり方を見せていただきました。「ランブル・タンブラー」にも注目されるだけのことはある」
「えっと、……何でしたっけ」
「我々【愚者】の誇るもうひとつの陣営です。私は、あちらでは下っ端でね。ちょっと食材を調達するくらいしかできません」
「あっ、だからいっぱい買ってくれるんですね!」
そして料理ももらって来られるんです、と自慢げに笑う。
「帰りましょう、僕らの居どころに。フィエルさん、あなたも打ち上げに来てもらえませんか? 功労者ですから、それなり以上のおもてなしは約束しますよ」
こういうときは、断る方が失礼になる。相手の顔も立てたいし、それに……この世界での飲食は、これが初めてになるような気がする。
「えっと……ぜひ、参加させてください!」
「ふふ、言葉は拙くてもいいんですよ。酒場でやる打ち上げです、お貴族さまのパーティーではありませんから」
ひょいっと投げ上げたハットがぐわっと巨大化し、パレヱドの参加者全員を吞み込んだ――そして、気付くと酒場にいた。マップでの現在地はエーベルみたいだけど、どこにあるのか、地図はぼやけてただの紙みたいになっていた。
「よう! グレリーの直弟子ができたんだって?」
「そうですとも! この子はフィエル、道化の六ツ道具をすべて使いこなす、旅人最強の一角です。「沈療死施」をも恐れないのですから、大したものですよ」
「へぇ、それで杯を渡したのか」
「ええ。何より、“ハットを使う”ことをためらわない。好きでしょう、そういう人は」
だはははっ、と酒場の主人は大笑いした。
「うーんいい、いいぞ。賢いやつらは楽しむために損をする。だが、俺たちは損をして楽しむ! 損得ってのはね、モノがあるかないかだ」
不思議な剃り込みを入れた主人は、「だがどうだ」と続ける。
「楽しいも美味しいも、倉庫にゃ入らないだろう。愉悦に興奮、享楽、夢酔。財産があれば手に入るか? 違うだろう! いつか手に入る日のために一生を灰と泥で塗りたくれるか? イヤだろう! 積み上げて失くすものより、いま手に入るもので笑うのさ」
「そ、そうですか……」
アスリートとは真逆の精神性だ。けれど、毎日をいつかの演技のために、その日が終わったら次の演技のために、と捧げられるほどストイックでもなかった。放蕩者の戯言と流してしまうには、少し惜しい。
「さ、オヤジのたわごとは聞き流して……料理をいただきましょう。旅人は酔いませんし、悪い酔い方をする人も呼んでいませんのでね。存分に」
「はい、いただきます!」
ガヤガヤとにぎわう中を通って、ビュッフェ形式の料理をお皿に取る。
肉料理を中心に、洋風の炊き込みご飯みたいなものや、ドライフルーツが入ったパウンドケーキ、不思議な盛り方をしたサラダもある。やっぱりベジファーストしなきゃかな、と思いつつも、気が付くと美味しそうな……脂っこそうなお肉ばっかり取ってしまっていた。
気付くと、オヤジさん(仮)が微笑ましげに見ていた。何を考えているかバレたのか、ふっと笑って言う。
「いい、いい。小娘にしても細っこいくらいだ、まだ背も伸びるんだろ?」
「いえ、もう十九で……」
「まあいい、太るほど大人しかぁねえだろう」
「……ですね!」
色の薄いサラミとマーブル模様のチーズが載ったピザ。厚めにスライスした野菜とお刺身を重ね合わせた、変わったカルパッチョ。干した海産物と野菜を炒め煮にしたものに、いくつもの食材を重ねて焼いて、色移りを見た目に楽しく飾った料理。
勧められるままカウンターに座って、一人でちょっとずつ食べていると、和装ドレスの少女が横に座った。
「楽しんでる、ね」
「ルイカさん。どれもすっごく美味しいです」
「オヤジは、ここ以外でも修行してきた本物。よその技術や考えも、入ってる」
「だから、生魚があるんですね……」
よく「西洋は生魚を食べない」と言われるし、ゲームでもヨーロッパ風の街だと生魚を出さないところが多いらしい。近くに海がないと聞いていたから、海だろうと川だろうと、魚の調理技術なんてなさそうだけど……オヤジさんはよそで修業したことがあるからのようだった。
「これは、湖にいるオロチモドキのお肉。次は、フィエルの取ってきたお刺身、食べたい」
「そ、そんなにお肉ばっかりは採れませんけど」
「じゃあ丸ごと、カードに封印して持ってきて。こっちで〆たらいい」
「なるほど! そういう使い方あるんですね……」
丸ごと持ってきたらお肉が取りやすい、言われてみればすごく分かりやすい理屈だ。
「また海に行ったら教えて。酒場が儲かったぶん、受け取れるお金も増えるから」
「お金……あ」
そういえば、〈アクアクラフト〉に入れていた宝石のことを忘れていた。あれもけっこう価値があるはずだけど、と水の玉を取り出すと、急に周りがざわめき出す。
「おい、そりゃ〈アクアクラフト〉か!?」
「え、はい。洞窟の奥でボスを倒して、スキルを手に入れて」
「おっとぉ。ボクのお眼鏡に適う宝石が、やっと手に入りそうだね」
「ああ、ああ……来ちまったなぁ、〈千年狂い〉が」
クジャク色をしたスパンコールまみれのジャケットに、メタリックブルーのシャツ、サファイアのような深い蒼のハーフパンツ。私と同じように、腰にステンドグラスのようなドミノマスクを引っかけたその人物は、小さく笑った。右目に眼帯を着けていて、杖をついている――いまひとつ、年齢が分からない。
「ボクはジェロゥ、宝石が大好きな【愚者】だよ。お仕事を頼みたいんだけど、どうかな」
三章のタイトルが「最強だいすき! お姉ちゃんバトル!!」に決定しました。一話から亜空間すっトバしていくんで、備えておいてください。
二章はあとテロとラスボス戦の後始末で終わるので、「ブレイブ・チャレンジャー」は3章のたぶん4話以降になります。なんで4話以降かっていうとその……トバすからですね。脳みそを準備段階にしておかないとダメなものを書くのもアレですけども、うん……私はやりたいようにやるんで、よろしくお願いします。




