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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
2章 救罪矛償:あなたの足が訪れる

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82 源黒端濁泥土に喘ぐ、千彩鈍の帳を晴らせ(4)

 どうぞ。

 仕立てのいい白い服に、色褪せた金のような色の簡易鎧。骨質のハルバートを担ぎ、水色の髪をポニーテールにまとめた少女は、間違いなくアンナだった。


「ちょっとずつ育ててたんだぁ。声が聞こえないのはデメリットだって、よーくわかっちゃったから」

「なるほどね。シュリが言ってた本命って、アンナのこと?」

「そう。私は「たてわきサフォレ」その人だよぉ。アバターには似てないけど」


 ふわっとした小麦色のおさげは、面影もない。けれど、その自信に満ちた表情は、いつものあの子のものだった。


「直接火力が効かないなら、カウンター多めにしない?」

「なるほど……? 私はそのままやるね」

「受けの技術ですか。わたしにもインプットされてはいますが」

『こちらは順調ですぞー。レーネも荒ぶっておりますし』


 要するに、とサフォレは言う。


 敵は外側から来る力には強いけど、内側から生じる力には弱い。無数の剣が噛み合った蛇は、動きのたびにHPが減っていて、急激な制動には弱い……噛み付く動きを逸らして、ガグンッと動いた首は、確かに痛そうだった。


「こういうことだよぉ。やってみて、針金ちゃん」

「フィーネです」


 フィーネが叩きつける動きをくるりと巻き込むと、蛇の首がゴリンッとねじれる。さすがに死ぬのでは、と思えるほどの角度だったけど、敵は首をぎゅるっと元に戻した。ザラザラとこぼれる砂は、もとに戻っていかない。スライムだったときに砕けた剣がそのまま消えたように、破片が消えることイコールHPが減った証拠、のようだった。


「減ってるけど、減り方はやっぱり……」

「穏やかだねぇ」


 このままだと間に合わない、と焦りが出てきたタイミングで、上空にあった魔法陣が粉々に砕け散った。


『こちらは終わりましたぞー!』

「ありがとう、そのまま合流して!」


 サフォレが弾いた首が、そのままちぎれた。


「え、ちぎれ――」

「魔力が集まっています。次に移るものかと」


 魔法陣のかけらが空中にそのまま浮き、バラバラと分解していく蛇は剣に戻っていく。次はいったい何になるんだろう、と思っていると、大昔のスーパーロボットみたいなものが出来上がっていった。胸と肩には蛇の顔、剣で構成された黒い体に赤い脈流。ガキャン! とポーズを決めてみせるあたりは、そういうものが大好きな人が作ったのかな、としか思えないくらいだった。


「これスライムなの……?」

「なんにでもなるのがスライムだからねぇ……」


 剣のミサイルと赤いビームが戦場を薙ぎ払い、大爆発を起こす。絶対にヤバい、と被害状況を見回して、おそらくみんなが同じ疑問を浮かべた。


「威力が低すぎますね」

「ギミック系なら、私が!」


 サフォレは踏みつけをぐるりと巻き込み、盛大に転ばせた。空間全体が揺らぐほどの激震が巻き起こったのに――


「ノーダメージ!?」

「無傷だなんて、そんな……!」


 さっきはあれほど効いたのに、今はまったく効かない。何かのギミックだろうとは思ったけど、あと三十分を切ってしまった。


 やたら弱い攻撃を迫力たっぷりに繰り出し、けれど完全無敵を保った化け物は、ときおりじわじわとダメージを受けている。しかしすぐに回復してしまって、まったく倒せる目途が立たない。


「二人とも、これどうするの!? レーネの刀が通じなかったら、もうムリだよ!」

「ギミックの正体は……うーむ。賭けになりますな」

「とっこさぁん!! これオレの出番っスね!」

「そうですぞー。逝ってきてください」


 とっこの指示通り全員がささっと一か所に集まり、解やデバフも解除する。やがて一対一の戦いになったそれは、ステータスの恐ろしさを思い知るいい機会だった。どれだけの巨体があっても、ステータスが同じなら殴り合えてしまう。赤ん坊が岩塊を投げ飛ばせてしまうし、大男が針金すら曲げられないこともある。


 剣のロボットとなんか怪しい男は、とくに問題なく殴り合って――


「あれ? なんか、傷が増えてる……」

「戦っている相手と、HPが同じになる……のだと、思いますぞ」

「それだと死なない?」

「あの「ケツァーゴ」は、一度斃れる必要がありますからなー」


 格闘戦だけで渡り合っているから、すごいような気もするけど……孤立無援でただ戦うだけの様子は、なんだかもの悲しかった。HPを使って放つ特技も多用して、どんどんとお互いが傷ついていく。


「賭けですが……どうなるでしょうか」

「足抜けェ! 一丁ッ!」


 絶叫するようなふざけた言葉が聞こえて、大人が積み木を崩すような、意地の悪い蹴りが見えた。対するケツァーゴは、真っ赤な血のエフェクトを帯びたパンチを繰り出す。


 黒い粒子がざあっと散って、天に昇っていく。天に届く前に消えるそれは、スライムの死を告げていた。



[ソードガーデン・サーペントスライム(一等級) に勝利しました]



「終わりましたな」


 空間が崩壊して、風景は山に戻った。

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