81 源黒端濁泥土に喘ぐ、千彩鈍の帳を晴らせ(3)
焦っていないということは、余裕があるということです(3:51)
どうぞ。
地上に残されたのは、鉄の蛇だった。
「シャ・アア……」
ノイズ交じりのラジオみたいな鳴き声が、小さく聞こえるロックにほとんどかき消されている。けっこうな人数が、剣にやられたりロック組に参加したりしていた。地上にはほとんど人がいなくて、こつぶちゃんや鎧兜の人などなど、見覚えのある人しかいない。
『前はありがとう。私もアマルガムに入れた』
「あ、魔王チャレンジのときの。さっそく力借りていい?」
『もちろん。あなたはどうするの』
「頭ひとつ引き受けるから、もひとつはみんなでお願い」
鎧兜の人は『私はシュリ』とひとことだけ名乗った。
『本命が来るまで、耐えてね』
「もちろん!」
ウロボロスという蛇は全体では円形らしいけど、この蛇は綱引き状態だ。どっちが主導権を握っているのかは分からないけど、〈は図み軽魔ジック〉の勢いに乗って跳ねた私は、シュリとこつぶちゃんたちが相手をしている頭とは真逆に立った。
「こんばんはー。じゃあまずは、解だよね」
キュゥウィッと鳴った仮面から、夜空と夕暮れの入り混じった色彩が噴き出した。いちごミルク色の銀河が流れ、微笑む月と空を泳ぐ魚のいる奇景が顕現する。【群喰み】状態になった蛇は、絵筆を洗った水のような、地味なのに毒々しい色の古代魚に食いつかれていた。魔法陣の方にも、いろいろ起きている。
まずは〈ターミナル・ベル〉、次に〈アクセルハート〉、〈スクリーンフェイス〉に〈朧演刃賜〉を重ねて〈爪曜活花〉と〈魘々逃血〉を続ける。これでいつもの私、みんなが良く言う「分身がボールでトランポリンする人」の完成だ。
噛みつく動きをさっと避けて、あごに着地してからカードをのどに叩きつける。地面と挟んで叩き潰そうとしたところで、横合いから飛んできたボールが私をかっさらっていった。〈ギガントスケール〉で巨大化させたボールは、攻撃に使ってももちろん強いけど、移動手段や回避手段として強すぎる。こっちに威嚇した蛇の顔に、手で押さえていたボールを投げつけてダメージを稼いだ。
「固ったいなー……」
ダメージはあるようだけど、目に見える傷はひとつもない。いつもの〈ホット・アラーム〉と〈熔充送戯〉のコンボを叩き込んだけど、いつも以上に効果を感じなかった。もともとが剣だからか、強度はずば抜けている。
『そちらはどうですか、フィエルさん』
『めっちゃくちゃ固い。ノックバックもしないし、すごいね』
『みなさん生存はしていますかな?』
『こつぶちゃんいるから、大丈夫だよ』
そうでしたな、ととっこは感心したような声を出した。
こつぶちゃんの〈夢魔〉というジョブは、ごく短時間、自分を対象にしたものに限るけど、相手の攻撃をすごく弱いところまで緩和できる。一瞬だけでも、バフ役から壁役になれるのはとてもありがたい。ときどきシュリと交代して、強い攻撃を的確に弾いているようだった。
ここで、ようやく気付く。
『フィーネ? なんで出てこないの?』
『あの破壊音波の人がいないなら出ます』
『……効くんだ』
『相性最悪です』
剣を一撃で壊していたから、強いんだろうなとは思っていたけど……ひとまず「味方だし届かないから大丈夫」と諭して呼び出した。
「なるほど、わたしを呼び出すのも納得です」
「完成に役立つかはわかんないけど、ちょっとお願い」
「いいでしょう」
頭そのものを鈍器みたいに振るった蛇に、フィーネは蒼い焔の宝石の抜き手をぶつける。大きさも太さも迫力も何もかも違うのに、蛇は弾かれて止まった。
「シュウオ・オ」
「硬いですね、とても」
大きいぶんだけ、カードはどれだけ投げても当たる。何度も〈ランダマイズ・スロー〉を使ってみても、ちっとも外れない。エフェクトからして、頑張ってもフィーネの一撃には負けているみたいだけど、とにかく攻撃し続けた。
玉華苑の発生させるダメージは、〈爪曜活花〉で引き上げている……けど、実を言うと、数字はけっこう小さい。攻撃力やHP、消費MPや「本来ダメージ」なんかの、元から数字が大きくないものを参照しているから、たくさん発生しても二割ちょっと増えたくらいにしかならない。
前衛をフィーネに任せて、とにかくたくさん攻撃する。とっこにも連絡しつつ、強い攻撃を撃つときは〈ホット・アラーム〉を使って、全員が最強の攻撃を連発できるようにした。
『うーむ。防御無視や属性攻撃も撃っているのですがー……おそらく、アタッカーからのダメージが減るタイプなのですな』
『なにそれ!? ダメじゃない?』
『あれは使えますか? 手持ちはどうでしょう』
「ごめん、今はダメなんだ……」
今持っている封印カードは、あとで売ろうと思っているものばかりだった。ジョブとして登録されているものもあるけど、称号までもらうくらいお金は使いまくっているし、今さら〈スライム〉になっても仕方がない。
「時間、あとどのくらい?」
『半分を切ってしまっております。よろしくありませんなー』
第一形態は突破できたけど、第二形態は長引いているし、第三形態があったら確実に時間切れだ。
「やばいね……」
「ごめん、遅れちゃったよぅ」
エフェクトのかかっていない声と、ドスンという着地の音が聞こえた。
VRゲームもの、というかMMO作品だと絶対あるはずなのになぜか出てこない「サブキャラ」。めっちゃ気になるんだよね……「倉庫枠足りねー!」とか「このジョブ・武器使いたい」「気分変えたいなー」みたいな、まあいろいろ理由があってサブキャラ・倉庫キャラ・ネタキャラと3~5人は作るもんです。ちなみに私はボンデージおねーさんがメイン、アイスバー背負った水着のお姉さんとかふしぎ幼女とかがサブ、軍服お兄さんが倉庫キャラだった……かなぁ。十キャラくらい作っててぜんぶは覚えてない。




