80 源黒端濁泥土に喘ぐ、千彩鈍の帳を晴らせ(2)
天上ロック!! 開幕!!!
どうぞ。
「募集要項流れてきた。おっ、いけますぜ旦那ぁ!」
「旦那じゃなくて女の子だよ!」
「奥方ぁ! の方がよかったかー。それはそうと!」
「行けるね、メリちゃん!」
最先端を行くBPBが放出した戦利品を仕入れ、メリルとセリューは強くなっていた。もともとが〈騎士〉ながら、やや扱いづらい「撃盾」というキワモノを使っていたメリルは、〈シールドゴーレム〉というジョブを得て〈装備枠増加〉のスキルを得た……合体できるふたつワンセットの盾を両手に持つというスタイルから、「両手両足に盾を“持つ”」という――さらなるキワモノと化した。
「いよぉーし、乗って!」
「試してみたかったやつだね!」
ひとつだけでも一メートル近い大きさの盾が、ジャキン、ガキャンと合体する……大きめのサーフボードのようなものが完成し、二人は飛び乗った。そして、そのまま発進する。
「ひゃっほぉおおおい!!!!」
「最っっ高に!! たのしーぜー!!」
セリューの方も、メイスを腰に提げてハープを取り出す……ポロン、とかき鳴らした弦から、音符を変形させた妖精のようなものが飛び出し、管楽器や打楽器のような形を描いていった。
「聞けぃ! ソロオケじゃああああーー!!」
「えっなにそれ……??」
近くで困惑しているフィエルにも、メリルは「帽子のやつ、お願いします!」と頼んだ。ひとことで仔細を把握したのか、水平に立つ道化の帽子から、ギターやシンバルや太鼓を持った悪魔が次々に飛び出す。
「セッション、してあげて!」
「よっしゃァい、デュオオケ! いっくぞー!!」
テンションを上げすぎてショートしたらしいセリューは、ブチ上げまくった勢いのままに、メロディアスなロックを奏で始める。音楽系スキルは、直接攻撃力を持つ破壊音波やバフ・デバフなど、さまざまな種類がある――中級モンスタージョブ〈エコー・ハープ〉は、味方の音楽系スキルの効力を30%も上昇させる、バカげた強ジョブである。
その狂った高倍率の代償として、〈エコー・ハープ〉のステータスは非常に低く、〈ハイ・サラウンド〉以外のスキルを覚えない。武器あるいはほかのジョブ、あるいは味方の力がなければ、習得するだけ無駄だ。
それゆえに、セリューは有り金すべてをはたいて〈マーメイド〉の魂の魔石を購入し、それを〈マーメイド・ディーヴァ〉まで成長させた。ふたつのジョブと楽器、みっつの“音を操る”という特性を重ね合わせ、音そのものから精霊を呼び出し、かれら自身に音を奏でさせるところまで昇華させたのである。
「あははっ、音楽ありがと! 合わせるよー」
「いっしょに! ブチ上げよーぜぇー!!」
「いぇーっ!!」
「ノってけェぇえええーーィい!!!」
音楽系スキルは、とくに攻撃に関しては効果が表れにくい。だからこそ。
(走り回って! 剣をばんばか突き出させてぇ!)
魔道具のリングを手当たり次第に放り投げて、そこらじゅうに突き立った剣にセットしていく。事前に用意した二十個を使い切ったところで、フィエルの言葉が届いた。
「やっぱり、液体から剣に変換してる……!」
「じゃ、剣を壊せばいいんですね!!」
より激しく鳴らすハープから、さらに音の妖精が出現する。そして、ロックミュージックがより激しくなっていく。ちょうどスライム本体を見上げながら一周したところで、メリルは魔道具のスイッチを高く掲げた。
「全方位サラウンドで!! 行くぜぇえええ!!」
アンプを起動した。
数が多ければ多いほど、ほかと重複する範囲の威力は10%下がる。しかし、そうでなければ効果量は百パーセントで固定になる。中心にいるスライムは、本来の90%の威力まで落ちた破壊音波を――二十回連続で、受けた。
「シュゥウゥ、ォオオオ……!!」
ばらばらに砕けた剣がザラザラと地面に崩れて、固形のまま沼に戻らず浮いていた。攻撃力の代わりに、再生力を失っているのだろう。
「これはお手柄ですぞー!」
「やった、めっちゃ効いてるよセリュー!」
「よっしゃあこのまま行くぜぇえええ!!」
「お願いしましたぞ!」
音楽の中に混じった、雑音があった。
(心音……?)
赤い脈流が、巨大なつぼみに流れ込んでいた。どこから吸い込んでいるのか、と地面を見るが、エネルギーの奔流はあくまで内部で起こっているようだ。
「咲く!」
セリューの声は、アンプに乗って全域に届いた。
花がふわりと開き、妨害しようとした魔法の掃射も、鉄の蛇がすべて防ぐ。ジャラリと開いていく花蕾は、剣や刃を組み合わせて構成されていた。ギラギラと剣呑な光を放つ花弁たちは、切り紙細工のようにざわりと広がっていく……真っ赤なエネルギー体が、空に花の魔法陣を描いていった。
「これ、スライムなの……?」
「彼らの成長性は無限大なのです。このゲームのスライムはとくにとんでもなくて、それこそ何でもできるまでに成長するのですなー」
砕けた剣の断面に立つ少女は、戦慄しているようだった。そして、魔法陣の赤が激しく燃える……ゆっくりと、魔法陣を構成する剣が降ってくる。
「においますなー……ギミックの匂いがぷんぷんと。どなたか、あれに攻撃を!」
「やぁったらーィ!」
いくつものアンプから、破壊音波が一点に集中する。うまく当たれば、生き残れるプレイヤーはなかろうというほどの威力だが……剣は傷ひとつつかない。
「フィエルさん。死ぬ前提で行ってくるので、こちらに残ってください」
「とっこ!? い、いってらっしゃい!」
伸ばした鎖で剣を捉え、とっこは高く高く飛び上がり――魔法陣に着地した。安全を確認したのか、手と鎖を大きく振っている。
「メリちゃん行こう! 天上ロックで雲ぶった切ってイナズマすんの!」
「ッしぇェエエエぃいい!!」
いい感じに降りてきた剣へ向かって、ホバー状態の合体撃盾をジャンプさせる。急に天地が反転する気持ち悪い感覚、一瞬で消えたそれを置き去りにして、ゆっくりと動いてくる剣の上を電磁ホバー八艘跳びする。
「ミュぅーージック!!!」
「スタァーーーーっっ!!!」
理解と風を置き去りにして、妖精ロックが始まった。
Q:どうしてこうなったの?
A:亜空間しすぎた(私にもわからん)
ミスって投稿しちゃったよ! 明日更新なかったら「亜空間しすぎだろ……」とでも考えておいてください。




