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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
2章 救罪矛償:あなたの足が訪れる

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78 吹いた風が連れていく、薄紫の花びら

 えーっと……サブタイがちょっと。


 どうぞ。

 先に家に戻ったアンナは、昼食を終えたところらしい義母に「見てこれ!」とエコバッグを掲げた。美しい箱に入れてもらったとはいえ、それをそのまま持つわけにもいかない。大学には興味がなかった彼女は、さっさと戻ってきた。


「大学は? 見てきてもよかったのに」

「勉強したい人が行くんでしょ? 私はいいよぅ」


 アカネが通っている大学には、家具や内装に関する学科はない。図書館にも学科に関する書籍が多い、という言から推察するに、アンナが興味を持つようなものはないのだろう。聴講という手もなくはなかったが、スポーツ科学がどうたらと話し始めたアカネについていけなくなったアンナは「やっぱりいいや」の一言で逃げてきた。


「二人大学に行かせるお金はないけど……。行っても良かったのよ? どっちか学資保険なり借りて」

「うーん。でもさぁ、図書館の本読んで、書いてあるものそのまま作れて……それをそのままお金にできるんだから、今のままでいいって思ってる」

「そうね。それはその通りよね」

「だよね!」


 結局のところ「収入を得て日々を暮らす」ことが学生のゴールであり、社会人が送る一生だ。そこへ先にたどり着いているのなら、アンナが歩むべきステップはもうない。


「箱……あら、あのお店。アカネってば、ずいぶん気に入ったのね」

「デザインライン似てるの、いっぱいあったよぉ」

「あの子、冒険するタイプじゃないもの。だから「ハジケてみたら?」って言ったの」

「それで私に言ってきたのかぁ。冒険、たしかにしてない」


 義母が送ってきた人生は、ごくごく普通のものだ。特筆すべきことのない、大したドラマも起伏もない……だからこそこれでいい、と微笑むほどに穏やかな。


「でもね? ときどき思うことがあるのよ。あのとき何かできたんじゃないか、あの先に何があったのか――私の人生は、寄り道をしなかった。分かってるの、誰より大好きな人と結婚できて、二人の可愛い娘に恵まれて。二人とも、私たちの自慢の娘よ」

「ふえっへへぇ、そうでしょ」

「ええ、とっても。友達がダンス教室とか新体操のコーチとか、ちょっと顔が広かったしお金もあったし……あの子がやりたいって言ったこと、好きにやらせてあげた」

「それが、……かぁ」


 遠くへ羽ばたける才能がなかったとしても、見守るつもりだったのだろう。それが急に途切れたとき、どれほどの心労があったか。学校に問い合わせても「よく分からない」の一点張りだ、あの子は何も言わない、と……分厚い壁の向こうを見通せずにいた。


(配信でも言われるんだよねぇ、「白バニーさん呼べないの?」って)


 アカネは、素直で流されやすいようで強固な芯のある人間である。言うなればジャックナイフだ――誰が使っても便利に扱えて、上手い人が使えばもっと先の性能を見せるが、刃物であるという本質は変わらない。刃物として使うことはできるが、刃物以外の形にはならず、それ以上に何か求めることもできない――使えるが、変えられない。


 何か別の部活動や趣味を勧めれば、それを始めて真面目にこなすだろう。けれど、それ以上に何かを起こすことはない。ゲームや配信という劇薬を投下して爆撃して、ようやく「積み上げたものを活かして洗練する」という先が見えた。


「私もアカネにお世話になりまくってるから……がんばるよぅ」

「ふふふ、お願いね。それ、洗うの?」

「んぇーっと……すぐ着られるかなぁ、これ」

「アンナはタグ切らなくてもよかったわね。大丈夫だと思うけど」


 彼女が大学から帰ってくるのを待ちながら、アンナは現実で本を読んだ。インテリアに合わせるための、観葉植物や盆栽、鉢植えもデザインしてほしいという依頼があったからである。


(アカネは、……笑ってくれはするよねぇ)


 ギルドホームにある自分の部屋に、美しく整った植物があればどうするか。誰が置いてくれたのかを聞き、その人に感謝する。お世話をして、変化があれば報告して喜び合う。“人間らしいこと”を通り一遍こなして、それで終わりだろう。


 それでいいが、それではいけない。


 義母が「あ、お昼何にする?」と立ち上がったところに思考の半分を持って行かれながらも、アンナは考え続けていた。


(ちゃんと、だ)




 帰ってきたアカネは、外に揉まれていてもなお美しかった。彼女が意図したスタイリングは風で少し乱れているが、その崩れ具合こそが最後のピースとなって、カッチリと嵌まっている。もともと動き回るタイプだからこそ、静の中に入り込んだ動がくっきりと際立っているのだろう。


「そのまま帰ったの? なんか買った?」

「帰っちゃった。一人メシもなんかヤだったし」

「そっかー」

「じゃ、今日もお風呂いっしょに入ろう」


 ふんわり微笑むアカネを追いかけて、アンナも部屋に戻る。扉を開けたまま待ち、タンスからふわっとした服を出すアカネを見守った。そして、くるっとまとめた着替えを持つアカネを迎えて、階下に降りる。


 洗濯が面倒そうなスカートをネットに入れ、しゅるりと脱いだ服をぽいぽいと洗濯機に放り込んでいくアカネを見た。細くて筋肉の方が強く見えた体は、ふっくらと愛らしくなっている。自分の、怠惰からできあがった丸っこさとは大違いだ。


 洗い合いっこをして、湯船に浸かる――今日は、後ろから抱きつくことにした。


「およ、今日はこっち? いいけど」

「乗っちゃってよぅ、いつも抱き枕にしてるんだから」


 胸に伝わるしなやかさと強靭さ。飛んで跳ねてとゲーム内で道化を演じる彼女の動きを下支えする、部活動で鍛えられた上半身だ。太ももに載るしっかりしたお尻も、ただ柔らかいだけではなく、しっかりした芯を感じる。


(あ、やば……)


 じんわりした甘いしびれが、奥から湯船にあふれ出ていた。湯気よりも熱くなった吐息をごまかすように、アンナはお腹に回していた手をすこし上げて、「えいっ」とアカネを手に収める。


「どしたのー、今日はそういう気分の日?」

「Eカップ……なんだよね。めっちゃ谷間人気あるよ」

「そういう目で配信見てる人もいるよね。Gカップの方はー?」

「モデレーターさん入れてるから、表に見えるのはそこそこかなぁ」


 派手めの容姿、圧倒的強さ、圧巻の演技。アカネにも人気になれる要素は整っている。下世話なコメントもないではないが、アンナ自身に向けられるものよりはまだ上品だった。むにむにと揉む手つきに苦笑するアカネに、風の残り香を感じた。


(あ、……そっかぁ)


 シャワーヘッドから落ちた水滴の音が、微笑みを突き破って聞こえた。

 えー、ここで告れなかったのでガチ百合ルートに入れなくなりました(告知)。ごめん。

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