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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
2章 救罪矛償:あなたの足が訪れる

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75 宴の前は装いを改めるべし?

 どうぞ。

 急すぎてアンナやとっこたちも配信できなかったから、記録はあんまり残っていないけど……「沈療死施(じんりょうしし)」原罪派がエーベルの街を襲撃した事件は、終結した。そもそも大事件すぎてそんなことはできなかったみたいだけど、率先して記録を残しそうなTTやミルコメレオが、いの一番にさっさと壊滅してしまったのもあるらしい。


 倉庫に向かってすぐ、迎えてくれた涼花さんは悔しそうに言った。


「あーもう、ほんま情けないわぁ。ごめんな、死んでしもて」

「いえ、私もだいぶ遅れちゃって。最初にいたら、グレリーさんにケガさせたりしなかったのに」

「仲ええ人がいはるんやね。うちも、取引先は死守したんやけどねぇ……」

「プレイヤーも混じってましたね。アンナととっこが全員シメてくれました」


 かなり強い装備を事前に配布されて、住民を殺しまくれば経験値もガッポガッポ、という美味しいクエストだったみたいだ。


「呪殺もあんましできひんかったし、インしてる頭数がおらんとあかんね」

「じゅさつ……呪い殺す? ですか」

「うち〈呪術師〉なんよ、怨霊使い。呪物に憑りついとる怨霊やら呪いを取り出して、代償をまず払わせる。そんでコストの分だけ使い倒すねん」

「そ、そんなことして大丈夫なんですか……」


 現実やったらようせんで、と苦笑した。


「そんでもって最終奥義が、呪いをぜんぶ一か所に集めることや。呪われとる人やら呪いの種類が多いほど、青天井やからねぇ」

「ドMの人が多いギルド、なんでしょうか」

「うん。うちも正直引いとるんやけど、火力出んねん」

「……じゃあウィンウィンじゃないです?」


 とっこみたいな変わり者ならいいけど、日常的に呪われていて何か問題はないんだろうか……なんて思いつつ、本題に入った。


「時計作りの進捗、どうですか?」

「だいじょうぶ、終わっとるでー。そっちそんなに忙しかったん? ちょっとも受け取りに来ぉへんから、心配しとったで」

「もうちょっと待った方がいいかなって……」

「負の信頼やね。預かっとるから出すわ」


 真鍮色の古びた懐中時計を出して、手近にあった机の上に置いた。テキストに書いてあったのもそうだけど、「時計」カテゴリの武器は筆舌に尽くしがたいくらい貴重らしくて、ぜひ下取り・解析させてほしいとのことだった。


「はい、これ。お値段はまあ、勉強さしてもろて。そうやね、二十万ディールくらいでええやろか?」

「はい。また大きめに収入あったので」


 やわらかな印象を受ける、銀とはまた違う白っぽい金属。青みの強いすみれ色の宝石があちこちに嵌まっていて、ステンドグラス風の文字盤は少しだけ歯車が透けていた。カチンと閉じて見せてくれた蓋は、銀の地金に、碧や翠の石を砕いて「朽ちた歯車」の浮き彫りが施されている。


「あの、元値もっと高かったんじゃ……?」

「太客やからええねん、心配せんといて。洞窟で取ってきた封印カードも渡してくれたやろ、あれだいぶええ値段になるんよ」

「じゃ、商談成立ですね!」

「そういうこと。うちとこ、こう見えても儲かっとるから」


 フィエルはんに心配してもらわんでも大丈夫やでぇ、と笑ってくれた。




「ほんで、参加者はどうするん。キャラ削除(デリ)?」

「ほかのゲームもあるから、半分以上は引退するみたいですよ。残った人は監視と賠償、捕まった範囲だけですけど」


 究極的には何をしようが自由なわけで、「街を滅ぼすクエスト」がゲーム内にあるなら、それに参加するのも自由なんだけど……そうすると、「報復として引退するまでキルし続ける」なんて暴挙も合法になってしまう。


 すべてのプレイヤーのスタート地点を破壊しようとした、という重大犯罪のせいで、逮捕されたプレイヤーは十人近くいる。悪いことはできないもので、〈警邏〉というジョブの住民に片っ端から逮捕されていた。


「なんか、街の地下に神のかけらがあるとかで、騙されて協力しちゃったみたいですね」

「やることやっとるし、人死にも出てるしなぁ。マイナスのクエストがあるなんて思わへんかったけど」


 偽神のかけらがあると亀裂ができて、亀裂から「外なるもの」がやってくる。だから、かけらを街に隠しているグレリーさんを倒さなくては――というストーリーだったらしい。


「あのお兄さん、そんなに重要人物やったん? 陣営のつなぎくらいにしか思っとらんかったわー」

「街ごとにトップクラスのすごい強い人がいて、ベルターはその人が落とされたから陥落した……とか。そういうことだったみたいです」

「ふーん……。これからの攻略は、そういう事情も考えとかなアカンみたいやねぇ」

「攻略っていうか、ほんとに政治的に“攻略”してるみたいですけど」


 国家間で実力者同士が交流するなんて、ほんとに入り込もうとか攻め落とそうとか考えているようで、微妙に怖い。


「はー……。商談はここまでにしとこと思ったんやけど、どーしても商売っけ出てまうもんやねぇ。配信があるたびに小売店にお客さん来はるし、フィエルはんさまさまやで」

「ふふっ、いいものが安くなりますから、私も得してますよー。あ、今日は予定あるので、これで……」

「あらら。ごめんな、引き留めてしもて」


 どっか行くん、と首をかしげる涼花さんに、ひとことだけ答えた。


「妹と買い物に」

「敵対認定」


 プレイヤーの行動によって起こるイベント。他者から確認できない「隠しステータス」のひとつ「罪科」が一定値に達したうえで、実際の犯罪被害が起こったときに発生する。それら行為を行った国で〈警邏〉に情報が共有され、確認された犯罪行為についての賠償責任・一定範囲内への拘束を受ける。脱獄や警邏の殺害は即殺モノの重罪だが、できないわけではない。


 犯罪の内容によって「神敵」「犯罪者」「厄介者」などで段階が分かれており、「厄介者」程度ならまだ軽犯罪の部類で、警邏もそこまで真剣に追跡してこない。段階が上がれば上がるほど、〈警邏〉だけでなく〈教会騎士〉や〈闇殺者〉などの絶望的な強敵が派遣されてくるようになる。そうなると、もはや逮捕された方がマシな生活になることも。

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