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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
2章 救罪矛償:あなたの足が訪れる

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74 ソード■■■■・サーペント■■■■/おおきくなあれ

 アレ誕生。


 どうぞ。

 疑似量子コンピュータが用いられるようになってから、ゲームは大きく進化した。本体機器がマップデータを読み込み、接近することで初めて存在を得るオブジェクトたちが、つねに存在し続け行動をシミュレートされ続けるようになったのだ。このシステムにより、事前に作り置きしたものをそう見せるだけの「モンスターの進化」が、世界観における現実となった。


 エーベルから東に進んで数キロ、ベルターに続く道に入る「カガロ山林」の脇道。自然の中を流れる魔力が凝結し、疑似生命となって転がり落ちた。こういった現象は、旧時代におけるモンスターの自然湧出=ポップと呼ばれるものと同等の意味を持つ。「このようなものであれば、世界観と矛盾しない」という、制作側の都合だ。


 自然発生した疑似生命は、ゆっくりと移動しながら、より強い魔力を含むものを求めていた。通常の命と同じく、かれらの体も代謝を行う。違いがあるとすれば、疑似生命のほとんどは、リソースの流出をほとんど起こさないことであろうか。


 大きなエネルギーを蓄えるがゆえに、かれらは狩られやすい。殺し喰らうことでかんたんに強くなれる、動きも遅くて狙いに気付かないものがあれば、食うのに決まっている。敵に見つかればすぐに死ぬはずだったそれは、大きな魔力に気付いた――子供がお菓子の家を見つけたかのごとく、かれはころころと転がった。


 それは、剣だった。


 創世神話に語られる「神の輝き」を絵とした、神そのものを表す記号である「正統十字」を模した鍔。「彼方より届く温情」と語られる、外なるものの視線を模した四ツ目を図案化した、宝石をはめ込んだ装飾。穏やかな闇ではなく、悪意の渦巻く物陰を思わせるドス黒い刀身。それは、「沈療死施」の原罪派が持つ「死施黎刃」であった。


 食いつく――


 刺激に満ちた味が、脳天を貫いた。それはまさに衝撃だった。本能が求めるものをそのままに与えられ、かれは夢中で刃に食いついた。いくら貪欲に食らおうと、総量が減らない。どれほどの魔力が込められていたのか……あるいは染み付いていたのか、残滓さえさらなる食欲をかき立てるスパイスであった。


 そして、かれは気付いた……これは、まだ食べられる。ドス黒い地金と巻きつけたヒモ、コーティングに嵌め込んだ宝石。きわめて特殊な生物以外は、それを食物として見ないだろう。しかし、かれの本質は「変化」であり、変化のための媒介は「摂食」である。要するにかれは、世にある総てを食うことができる。


 溶けていく、溶けていく……すさまじい量の魔力を食い、急速に成長したかれは、真っ黒い剣を飲み込んでいった。


「ぼぁあ、ぐぅ」


 転がっていた鎖や手枷足枷、首環やイバラを食らう。


 導かれるように視線を向けたその先に、もうひとつの剣があった。しかし、空中から伸びる何者かの手が、その剣を手に取ろうとしている。


「ぅむ、もぉーああ……」


 音を発するようになった口のような穴から、剣のような牙が伸びた。そしてそれは、自分の食べ物を奪おうとする手に向かう。


『なんじゃア、食い盛りか』

「ぼぉーう、ぅばあ」


 さっと振った牙は、不思議なことに届かない。現界できなかった半存在には、現実のものであるかれの攻撃が通じなかった。超常の力によって引き寄せられる剣に、かれは触手を伸ばした。奪われるくらいなら、持って行かれる前に食いついて、こちらのものにしようとしたのだ。




 空中から伸びる手は、奇妙な魔力を放つ空間から出ていた。かれは全身を口にして、そこに満ちる魔力を食っていく。


『こ、こやつ! ここまで来おった!』

「ぶぅうあああ」


 尋常ではない量の魔力を食って、かれはどんどんと巨大化していった。あちこちに並べられた刀剣も食って、さらに巨大化していく。事前に設けられた限界値をやすやすと突破し、自らの内にあった臨界点を超えて、空間の主にさえ食らいつく。


『やめっ、ああ、ぁあああーっ!!!』


 刀剣を並べるのが趣味だった狸は、あっさりと溶かされて死ぬ。空間を保つための魔力さえ食らい尽くされ、閉鎖された蔵が破裂する。蔵そのものを食い、離れを食い本堂を食い本尊を食い、寺院のあった山をすべて溶かし尽くして……かれはようやく、満腹になった。


 寝る子は育つ、という言葉通り、眠るあいだにかれは完成していく。たくさんの刀剣を食った彼の性質に「刃」が加わる。山ほどもある、むやみに膨れ上がった薄気味悪い饅頭のような外見が、どんどんと細くなっていった。


 とろりと黒い、コールタールのような質感の長いものが、三つ。ふたつは、鋼の角と牙を持つ蛇の形をしている。もうひとつはとても大きく……いくつもの剣を束ねたような、紡錘形のかたまりだった。


 現実とは時間がズレた空間の中で、かれが目覚めるまではあと少し。


 エーベルの街に、またもや――前よりも大きな脅威が、迫ろうとしていた。

 露骨にPVが下がったので連投しちゃいました。まあ書けてるからいいか……


 遺品の数からして、「ベルター最強の戦士」はそうとう粘ってから数の暴力で負けたっぽい。彼自身はなんにも遺してないってことは【賢者】か。ミルコメレオ調査班が出くわしてたら倒せてたんやろか……

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